フクロウ喫茶の暗黙のルール

軽見 歩

店の流儀

 とある山奥にある喫茶店、そこには暗黙のルールが有る


”ルール1・この店の場所を無暗に人に教えない事”


「いらっしゃいませ」


「ごろすけさん、また来ちゃいました」


 以前来たこのブロガーはごろすけの喫茶店に度々足を踏み入れている。今や常連客の1人である


「何になさいますか?」


「何時ものコーヒーを」


「かしこまりました」


「いつも一人で大変でしょう・・・。フクロウなのに」


 ”ルール2・主人についてはあまり深く考えない事”


「いいえ、今はたまたま知り合ったバイトのが入ったので楽になりましたよ」


「バイトの娘?」


「コト・・・」


 ブロガーの目の前に物音と共にコーヒーが現れた


「あれ、いつの置いたんだ?」


「バイトの娘ですよ。気づきませんでした?」


「いえ全く・・・」


 ブロガーは辺りを見渡すが、そのバイトの娘は見えない


「・・・・どこに居るんだ?」


「今、あちらのテーブルに行きましたよ」


「え、どこです・・・・」


 主人の言う方向に目をやると、宙に浮かぶコーヒーがブロガーの目に入った


「ん!?」


 だがとっさに瞬きしてしまった隙にコーヒーはテーブルに置かれている


「超精密な投擲で投げ渡したのか? いや、どう見ても浮いていたよな・・・」


「どうかなされましたか? コーヒーが冷めてしまいますよ」


「あ、すみません」


 ブロガーは主人に言わるがままコーヒーを啜り、新たなルールを心に刻んだ


”ルール2改め・主人とバイトの事についてはについてはあまり深く考えない事”


「いや・・・・気になるだろ。しゃべるフクロウの他に一体何が住み着いたんだ」


 ブロガーが悩んでいると、新たな客が入って来たので、黙って見守る事にした


「いらしゃいませ」


「茶を」


「かしこまりました」


 新しく来た客は日本茶を飲みながらくつろいでいる


「道着姿に日本刀・・・、侍かな、若いけど」


「なにか?」


「いえ、なんでもありません」


 その客に睨まれ、ブロガーは謝って視線を外す


”ルール3・店に来る客達の事は詮索しない事”


「客・・・なら詮索はNGなんだけど」


 店の窓の外には侍風の客を覗き見ている少女が張り付いていた


「アレは客にカウントしていいのか? まさか俺にしか見えてない幽霊とかじゃ…、ッんん?」


 ブロガーは誰かに顔を覗かれた気がして振り返ったが、そこには誰も居なかった


「な、なんだ? 今誰か居たような・・・・」


「ぬしも気づいたか。俺も何度も感じたがこのただならぬ気配、人外の者に違いない」


「人外!?」


 侍風の客の話にブロガーは狼狽える


「たしかに目に見えない何かが居る感じはするが・・・、まさか本当に幽霊が?」


 喋るフクロウが居るくらいならあり得ると、本気で怯えるブロガーだったが、次に入って来た客によってその恐怖は吹き飛んだ


「いらっしゃま・・・ホゥア!」


「じゃまするぜ」


 いかにも殺し屋と言った風貌の4人組の男達が入って来た。主人はその4人組を知っているようだが、穏やかな感じではない


「なんにしやがりますか、裏切り者共」


「そう殺気立つな」


「日本を発つ前にちょっと寄ってみただけだ」


「今日は争う気は無いぞ、ゴッロ・ナイトストーカー」


「つか、本当に喋るんだなお前」


 ブロガーはその様子を見ていたが


「あの人達は何者なんだ・・・、いつも優しいごろすけさんがあんな態度とるなんて・・・。でも」


 ”ルール3・店に来る客達の事は詮索しない事”


 主人は渋々と接待をしていると、急に男達の態度が豹変した


「むっ!この気配は!?」


「まさかボス!」


「ここにいらっしゃるのか!」


「廃屋から出て来たのかボス!」


 なぜか殺し屋4人は訳に分からない何かに見えない何かに平伏しだす


「ちょっと、ウチのバイトの子を困らせないでもらえますか」


 主人は暗殺者達を見下ろしながら話した言葉に暗殺者達は


「バイトだと!?」


「うちらのボスをこき使ってるのか!」


「貴様!オリハルコンを敵に回す気か!」


「バイトって・・・・。お前ら! 俺達大事なこと忘れてねえか?」


 最後のツッコミ役らしき暗殺者の男の言葉に、他の暗殺者はハッとして


「そうか!」


「申し訳ありませんボス!」


「少ないですがこれをお受け取り下さい、のこりのブツは後ほどお届けに上がります」


 そう言って暗殺者達はアタッシュケースを取り出し、大量の現金を見えない何かに差し出した。それを見た主人は・・・


「注文が先でしょう!」


・・・と言い出し、ブロガーはそっち!?と混乱したが、暗殺者は気にする様子もなく注文を伝えた


「コーヒーを砂糖増しで。日本のコーヒーは砂糖が少なすぎる」


「紅茶、銘柄は適当で」


「この抹茶と団子とやらを」


「ダメもとで聞くが酒は・・・」


 最後の注文に他の3人からそうツッコミが入った


「ここは喫茶店だ!」「ここは喫茶店だろ!」「ここは喫茶店!」


「わかってるよ! だからダメもとでって言ったんじゃねえか! 俺もコーヒー、砂糖は無し」


「かしこまりました」


 主人は注文を聞いて準備を始めた。恐らく見えない何かも


「一体、何なんだよあの人達。てかここのバイトも!」


”ルール2改め・主人とバイトの事についてはについてはあまり深く考えない事”

”ルール3・店に来る客達の事は詮索しない事”


「そうは言っても気になるだろう・・・。試されてるのか?試されてるのか俺は!?」


 1人勝手に苦悩するブロガーをよそに、暗殺者4人は注文した物を一気に飲み干して席を立った


「ごちそうさん」


「美味かったな」


「これが噂のショッキンググリーンティーか、悪くなかったな」


「また来るぜ」


 そう言って暗殺者達は帰って行った


またのおこしを!地獄で会おう 霊ちゃん!塩撒いといて!」


 主人は恐らくバイトの娘の名前らしき名を呼んでそう言うと、塩がひとりでに浮いて玄関の方にまき散らされた


「幽霊が塩撒いても大丈夫なのか?」


 ブロガーはその光景を見てそう思ったが


”幽霊が塩を撒いてはいけないと言うルールは無い”

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フクロウ喫茶の暗黙のルール 軽見 歩 @karumi

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