小さなルールも守れなかった私へ
未来告 夜衣香ーーみくつ やいかーー
小さなルールも守れなかった私へ
我が家にはいくつかのルールがある
昭和の親父という言葉がこれほどまでに似合う父親は他には居ないと思えるほどに私の父は頑固ものだった。
短く切りそろえた髪に太い眉、鋭い目つきに、いつもへの字に曲がった口。
私は一度も父の笑顔を見たことが無かった。
いや、もしかしたら何度かは見せたのかもしれないが私の記憶にはない。
我が家には私が幼い頃から様々な決め事があり、破れば厳しい説教が待っていた。
長い説教に足の感覚が無くなって、吐き出される怒声に怒りを覚える事も少なく無かった。
それこそ今となれば虐待などと言われて通報されるのではないかと言うくらい泣き叫んだ事もあった。
寒い夜だったのを覚えている。
当時はどうして私にここまで厳しくするのか、どうしてこんなにも厳しいルールで私を縛るのがわからなくて、辛くて逃げ出したい気持ちがいっぱいだった。
そして結局今でもわからないまま。
友達とお泊りに行くって言った日
まだ中学生の私が泊まることにすごく反対したよね
私の友達を貶したこと、許せなかった。
その日は結局泊りには行かなかった。
怒りに声が震えて友達に心配されたな
悔しくて、つらくて、父に対しての恨みや憎しみが唸り声となって出ていた
いろんなものが濡れた、
その時の赤黒いシミは今も残っているのだろうか
それから私は意地になって、父と話さなくなった。
話すことができなくなった
朝顔合わせても無視をする、初めはその態度に怒鳴っていたけれど、いずれ諦めてしまった。
あれだけ厳しくしていたのに、もう声をかけてくることはなかった。
静かになった家はすごく居心地が悪くて、私は次第に家に帰らなくなった。
私が居ないと家に明かりがつくことはない。
父の決めたルールから解放された私はやること全てが楽しくて、その全部が正しいことだと思ってしまった。
実際楽しかった
私の手は汚れてしまった
私の手はずっと前から真っ暗だった
深夜の呼び出しにも関わらず、私を迎えに来た。
その表情は威厳があって、不服そうに怒っていた顔ではなく
悲しそうにそして力なさそうにする
…見たことのない人の顔だった。
どことなく父に似ている気がした
今までで一度も父は手をあげることはなかった。
それでも心には深く傷が付いていた
知らない人が平手が頰を打つ。
叩かれた部分に強い熱が帯びる
力なく見えたはずの平手は、今まで怒られ心を締め付けたどんな辛さよりも痛かった。
父に似ているその面影に父を重ねるが、重ならない
溜め込んでいたわけでもないのに、止め処なく涙が流れ落ちた。
どうして泣いているのか…わかっていたのに理解できなかった。
「暴力は振るわない、それがあいつの自分に課していたルールだった」
父にも自身を縛るルールがあったと知った
あれだけ縛られて逃げ出したくて、
逃げ出して後悔するくらい好き放題して、
そして本当に父から捨てられた。
いや、捨てたのは私の方だ
小さな世界のルールという名の鎖に縛られて苦しんだ私は、
一度その鎖を自ら外し、
世間という闇の中で見えぬ糸のように張り巡らされていたルールを破ってしまった。
自ら外した鎖は足元からも消えていた。
今の私はあの頃よりも窮屈な縄に縛られています。
鎖の方がマシだったと思うほどに
誰か私の名前を呼んでください
大きなルールを破ってしまった私より
小さなルールも守れなかった私へ 未来告 夜衣香ーーみくつ やいかーー @mikutu-yaika
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