第3話
王女は王子の手を掴んで廊下に出ると、真っ暗な明かりのない方に向かって走り始めた。
「そっちじゃないんじゃない?」と王子が言うと
「大丈夫こっちじゃないとダメなのよ」
でも、全然見えないよと言おうとして、急に暗い廊下の中がはっきりと見え始めた。
すごい!みえる!と言ってる自分が4本足で走っているのに気がついた。
「うわっ!!ネズミになっちゃったよー?!」
逃げ出した部屋から魔女が出て来るのが、目の端に写った。
「食べちゃいな!!キャラ!!」魔女が叫ぶ。
黄色猫がすごい速さで追って来る。
「ほんとに!!ほんとに!!あいつったら腹が立つったらありゃしない!!なんで私が野ネズミで、王子がハツカネズミなのよ!!最低な奴だわ!!」
「そこ?!」と王子は思った。
逃げているうちに真正面が板で打ち付けられた大きな扉ということがわかり始めた、行き止まりだと、焦る王子に向かって王女はいった。
「こっち!」ドアの横にあった大きな飾棚の下にスルリと2匹のちっちゃなネズミは駆け込んだ。
飾り棚の奥の方の壁に小さな穴が空いてて、王女はさっさとその穴を通って行った。
急いでついていくと、板で打ち付けて行き詰まりの部屋の中に入っていた。
部屋はカーテンを閉めてなく、高い大きな窓から月の光が煌々と差し込んでいる。そこにたくさんの小さな影があるのに気がついた、目が赤く光っている。
「ネズミだ!ネズミがたくさんいる!!」と叫ぶ王子に向かって王女は言った。
「私たちもネズミじゃない」あっそうだったとおもって見回すと、何百匹ものネズミが静かに二人におじぎをした。
よたよたと年老いたネズミが支えられながらやって来て王女を抱きしめた。
「すまなかった、ファナ」
「父様、大丈夫よ」
その時、扉の外から声がした。
「うまく逃げたようですね。全く、私とした事が王子のアホ面に騙されて、油断をしてしまいましたわ。私のお気に入りのドレスを破いてしまって、許しませんよ王子」アホ面?!やっぱりムカつく!
「でも、もうこの城には飽きが来たので、私は出ていくわ。その前にたっぷりと火をつけて、火事を起こそうと思ってるの」楽しそうに笑った。
「その部屋が持つかどうか楽しみだわ。まぁ今宵は最後の夜だから、みんなで別れを惜しんでおくといいでしょう」
魔女の気配が無くなると、王子はたずねた。
「ここには魔女ははいれない?」
「ここは王妃の間なの、お母様の部屋だったんだけど、彼女がここにきて、この王妃の間を使おうとするとなぜか入れなかったの。母様が何か魔法をかけていたみたいなのよ。どんな呪文でも母様の魔法は解けなかったので、彼女は怒って、この部屋は誰にも使わせないように、あんな板を打ち付けていたの。だから、私たちはネズミにされて逃げる時は、この部屋に逃げこむことにしてた」
「そんなことより、どうしよう、どこにも彼女の心臓が見つからないの」
「探したのかい?」
「ええ.私は魔女ではないけれど一つだけ使える魔法があるの、探し物の魔法。でも、城中を探しても見つからなかったわ。多分、城の外に隠してあると思うんだけど」と窓から外を眺める。広大な庭園が城の周りには広がっている、このどこを探せばいいのかと王女はため息をついた。
王子はあることに気がついて王女に尋ねた。
「ファナ、君が自分の心臓を隠すとしたら、どこに隠す?」
「私だったらこの母様のお部屋に隠すわ」
「で、かくしたらそのままずっとほっとく?」
「いいえ、心配だから毎日毎日部屋に様子を見に来る…わかった!」あそこだわあそこにあると、窓からみえる、庭園の真ん中の小さな東屋を指差した。
いつもいつも、あいつはそこに座って嬉しそうにお茶を飲んでた。
「私に対しての嫌味かと思ってたけど、きっとあそこにあるんだわ行きましょう!カイ」
「行くと言ったって.まだ猫が見張ってると思うよ」
「そこから行くんじゃないわ、ネズミだったらどこへでも行くことができるんだから」
私が案内しましょうと1匹のネズミが現れ.2人を別の穴から連れ出し.壁と壁の隙間や家具の間やあちこちをすり抜け、最後に下水管があるところから、城の庭へと出ることができた。
王女は案内をしたネズミに言った。
「もう部屋に戻っておいてね、あんまり動くとあいつが怪しむから.私とカイで探してくるわ」
月の光の下、広大な芝生の庭が2人の目の前に広がっている。急いで行こうとする王子を捕まえて、王女は隅から隅に小さく動きながら隠れて動き始めた、茂みの中を通ったり、雑草の中に潜り込んだり、木々の下の小さな落ち葉の中を歩いていったりとかなり時間をかけて東屋の後にたどり着き、そこから、そっと東屋の階段の上に立つと、王女は呪文を唱え始めた。
「蜘蛛の糸.蜘蛛の糸.捜し物の蜘蛛の糸、緑の魔女の娘、ファナが命じる、探せ!」
彼女の指先から細い細い蜘蛛の糸が四方八方にふわりと浮かんだと思うと、その糸がまっすぐ1本の糸になり方向を示した、それは東屋の正面においてある大きな水盤の上だった。
2人は急いで水盤の淵まで登り、王女は待っていてと言って、躊躇なく水の中にぽちゃんと入っていった。
水の中にはいろんな色の宝石がたくさん入れてあり、下から湧き上がる水に遊ばれて、きらきらきらきらと月の光を受けて輝いていた。
王女は見つけた、その中に一つだけ動かない石がある。一番底にある真っ赤な石だ。
間違いない、ネズミが持つには一抱えもある大きなルビーだった。
必死で水盤の縁まで持ち上げて、王子に渡した。
「カイ、これが魔女の心臓だと思う、これを持ってなんとか逃げて!!」
「でもファナ!君は…」
その時、城の方から恐怖の叫び声が起こった、魔女だ。気付かれた!途端に一つの窓が大きく壊れ、そこから真っ黒い大ガラスが飛び出してきた。
王子は慌てた、2本脚でこの宝石を抱えたまま逃げるなんて、とてもできない。
あたふたしてる間に大ガラスは近づいて来る。
もうダメだと思った瞬間、ふわりと 空中を飛んでいる自分に気がついた。
すごい飛んでる、いや、飛んでるんじゃない、よく見れば自分はフクロウに捕まってしまったていた!
「ハツカネズミは目立つからなー」などと言ってる場合ではない、大ガラスはフクロウの方に向けて急旋回をして一直線にやってくる。
魔女に殺されるかフクロウに食われるか?
フクロウも追ってくるものに気がついた。
急いで獲物を取られてなるものかと、力いっぱいつかみ直した。
「いたたたたた」グサリとフクロウの鉤爪が体に刺さってる。魔女に捕まると思った瞬間、フクロウの翼は城の城壁を軽々と超えた。
その途端に赤いルビーがピシッという音と共に割れ魔女の大きな心臓が現れた。
心臓はドクンと脈を打ち、勢いで王子ははじき飛ばされ落ちていった。
フクロウは考えたネズミを取ろうか、それとも今ここにある肉の塊を取ろうか、当然大きな肉の塊の方だと心臓を2本の足でがっしりと捕まえ、深々と爪を突きたてた。
夜空いっぱいに、恐ろしい悲鳴が長く長く続いて、やがて小さくなり消えていくと共に、大ガラスの形は少しずつ崩れていき、夜風に吹かれ煙のように消えてしまった。
ほっとしたのも束の間、フクロウは自分が捕まえていたはずの肉も見事になくなっていることに気がついた。なんて夜なんだろうと思った。もう二度とこの城の付近に獲物を取りに来ることはないだろう。
さっさと森に向かってフクロウは帰っていった
その頃、落ちていったハツカネズミの王子は城の外の干し草の山の上に長々と横たわって、去って行くフクロウを見ていた。
ハツカネズミのまま落ちて、枯れ草の上でポンと跳ねた瞬間に人間に戻り、あまりの変化の激しさに息つく暇もなく王子はしばらく横たわっていたが、王女を思い出し飛び起き、背中にすごい痛みを感じてまた座り込んだ。
「鎖帷子を着ていて良かった!着けてなかったら魔女とおなじようにボクも死んでた…」今度はゆっくりと起き上がり、そのまま城壁に沿って、城門の方に歩いていった。
背中の傷はまだ完全には血が止まっていなく、とても疲れてよろよろとしか進めない。でも王女のことが本当に心配でしょうがなかった。
城門の前まで行くと魔法師のグレンが駆け寄ってきた。
「王子、見事に魔女を退治されたのですね」
王子は答えた、
「うん、退治したと言えばしたのだけどね」力ない答えにグレンは心配して王子を見回した。
「どうしたのですかその背中は、魔女にやられたんですね!ひどい傷です。王子すぐに手当てをしなければ」王子はとぼとぼと歩きながら答えた
「魔女じゃなくてフクロウにやられたんだ」
グレン魔法師は話が全く理解できなかった。とにかく、城の中へというグレンの手を払って王子は言った「ボクを庭園の東屋に連れて行ってくれないか、そこにファナ王女がいるはずなんだ…」
魔法師に支えられて、庭園の方に行くと月明かりの中で、東屋は見事に壊れていた。
水盤もまっぷたつに割れ、あたり一面吹き上がる水で水浸しになっている。
その中にファナ王女が倒れていた。
「ファナ大丈夫?」声をかけると王女は呻きながら答えた。
「お願い、この服を脱がして、これが水を吸って重くて重くて、私起き上がれないのよ」
「王女様、侍女をお連れしましょう。私ではこの服を脱がすことはできませんから」と答える魔法師に王女は言った。
「背中から、この服を破いてくれない?大嫌いな服だから全然構わない、お願い」それならばと、魔法師はさっさと剣を抜いて、王女の重そうな服の背中の部分を裂いて、まるで豆を向くようにつるりと王女をドレスから取り出した。
ずぶ濡れの王女に魔法師は自分のマントを被せ、2人を乾いた芝生の方に連れて行き座らせた。
「ここでお待ちください私が医師とお付きの者達を連れて参りましょう」それで王女は思い出した。
「みんなあの部屋から出ることができないんだわ!」王子も気が付いた、そうだった、大変だみんなぎゅうずめになってるだろう!
「グレン魔法師、ここから板を打ち付けた部屋のことがわかる?分かればその板を全部取り外してほしいんだけれど」
グレン魔法師は静かに城を見て頷いた。
「分かります。外しましょう」
彼が手を払っただけで城の方からバーンと大きな音がした。
では、医師とお付きの者達を連れてまいりますと足早に城に向かって行った。
「グレン魔法師はすごい魔法使いなのね!」
「ボクの国一番の魔法使いなんだよ、でもあの魔女には太刀打ち出来なかった」
「カイ王子、本当に感謝します。きっとあなたは黒魔女殺しのカイ王子とよばれるわ」王女は頭を下げながら言った。
「それは分からないよ」と王子は言って、王女から石を手渡された時からの顛末を話しだした。
王女はあまりの事に、ただ目を丸くするばかりだった。最後に王子は続けた。
「だから魔女を殺したのはフクロウで、ボクはただフクロウに捕まえられていたハツカネズミに過ぎないんだ」自分が情けなかった。
うなだれている王子を見て、王女はそっと王子の手を取った。
「カイ王子、あなたは逃げないで私のところまで来てくれた、そして誰も傷をつけることができなかった魔女に剣を突き刺した。私たちはネズミになったけど、あなたが魔女の心臓の隠し場所のヒントをくれなかったら、私たちはずっとネズミのままだったと思う。だから王子、魔女を殺したのはあなたなの。フクロウはその手伝いに過ぎないだけなのだから、自信を持って!誰がなんと言おうとあなたは、 黒魔女殺しのカイ王子 なのよ」
「ホントに?!いいのかなぁ」少し頭が上がってきた。
「見て!」城を王女は指さした。
城の窓のあちこちに灯りがともり、忙しく動く人影がみえる、城が再び息を吹き返した。
「あそこに居る人達とわたしを救ったのはカイ王子あなたなの!」一生懸命に話す王女の髪は濡れて崩れ、化粧も全部おちてしまっていた。
昔のファナ王女だと王子は思った、緑の瞳が優しく輝いている。やっぱりカワイイ。
「今はヘロヘロのヒョロヒョロだけど、ボクは父上のように強い王になって見せるよ、ファナ」
なにをボクは言ってるんだ!こんな時に!
「私も痩せて母様みたいに綺麗な王妃になるわよ!」二人は顔を見合わせて笑った。
「知ってたカイ、この城の紋章はフクロウなのスゴい偶然」
「そうなんだ。でももうフクロウはごめんだなぁ…」城からグレン魔法師を先頭にたくさんの人々がかけて来る。
「ファナ、とりあえず今はヘロヘロなんで…」
カイ王子と呼ぶ声が遠くなり、王子は気を失った。
後にカイ王子は 黒魔女殺しのカイ王子 とよばれ、両国の臣民から深く尊敬と信頼を得た。
そして城の紋章であるフクロウの横には、小さなハツカネズミが短剣をかかげる姿が足されていた。
黒魔女殺しのカイ王子 @makuai
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