第2話
夕闇の微かな明るさが、開いた扉からホールに射し込んだ。中は暗くはるか先にポツンと、小さな灯りが見えるだけだ。
王子はホットした、入った瞬間に魔女に出くわさなくて良かった!
灯りは階段の灯りだった、巨大な大理石の階段でとちゅうから左右に別れ、優雅な曲線で上の階へと繋がっていた。
灯りはポツンポツンと王子を導くように続いていた。いやでも灯りのある方に行かないと、あとは真っ暗闇で進みようがない。
やがて灯りがこの先にはないところまでやってきた、多分この明かりの扉の中に誰かいるのだろう、思わずノックして、王子は焦った。
助けに来てノックをするなんて、冷や汗ものかもしれない。
焦ってる最中に扉の向こうから返事が来た、
「お入りください。カイ王子」かわいい声だった。
ドアを恐る恐る半分ぐらい開け、
「ファナ王女、お助けにま……けばっ!!」思わず口に出てしまった。
すごい部屋だった。あたり一面、飾り付き花柄、金の縁取り、ありとあらゆる飾りがついた家具に覆われ、広い部屋が息苦しいほどだった。
ひとつひとつのものを見ると、それはとても高価な品々だろうが、いかんせんあまりにみんな主張が激しくて、部屋の中がとんでもない状態になっている。
おまけに四つの壁には金の縁どりの大きな鏡が飾ってあったが、その全ての鏡にヒビが入っている。
極めつけは、部屋の中心にある、てんこ盛りのお菓子を乗せたティーテーブルの横に佇んでいる
王女…?!
髪は間違いなく赤毛だ、でもすごく変な格好に結い上げてある。化粧がとても同い年とは見えない厚化粧だ。
ドレスは、真紅のドレスで、金のぬい撮りと宝石が数え切れなく縫い付けてあって、豪華なものだったが残念なことに全く似合ってなかった。そしておまけに…
「とんでもないブスでオマケに太ってる と思ってるでしょう?」
「なんでわかるの!心が読める?」図星で王子はあわてた。
「顔を見てれば分かるわよ!!あなたわかりやすすぎ」緑の瞳が睨みつける。
しまった!余計なことまで口走った。
「いまごろ、あいつは大喜びしてるわ、思い通りに事が運んで」
「えっ、どこにいるの、それは魔女のこと?」
王子は思わず辺りを見回した。
「大丈夫よ、ここにはいないわ、父の部屋で鏡を通して私たちを、全部見たり聞いたりして大笑いしてるの」
「やっぱり最初から魔女は僕らが来ることを知ってたんだ!」いまごろ、気がつくのもバカな話しだ。
「そのとうり、あなたが私を助けに来るという話が届いたとき、大喜びして私に話に来たわ。
それからは、毎日毎日あなたの国に行ってはどうだこうだと私に情報を集めてきては、楽しそうに話してくれたわよ。おかげで、私のいじめはやめたけどね」
「いじめられてるの?」ふっくらしていて、とてもいじめられてるとは思えない。
「分からない?この部屋、このドレス、この髪に厚化粧!みんな私が大嫌いなものばかり!
毎日ここに来てはネチネチと私が腹を立てることばかり、言い立ててお菓子を山ほど置いていくの!!」
「お菓子はいじめに入らないと思うけど…」
「本当にあなたってなんにもわかってないのよね、ちょっとこのお菓子を食べてごらんなさい」と勧められ一口、口にして王子は叫んだ、
「うまい!!」もう止まらなかった、次から次にお菓子を口の中に押し込んだ。そしてそれをじっと見ている王女に気が付いて、赤くなって断りを言った。
「ごめん、二三日食事をしてなかったんだ」
王女はお茶を入れながら言った
「その話もちゃんと分かってるわ、あいつが楽しそうに話してたから」本当に何から何までお見通しだったんだ、お茶を飲みながらため息をついた。
「わかる?散々悪口を言われてムカムカしている後にこのたくさんのお菓子を見てたら、ついついやけ食いしてしまうじゃないのよ!!おかげで私はこんな状態よ。それをまた太った太ったと散々いじめられて、ああ!!もう頭にくる!!」
「なぜファナ王女だけが?あとの城の人達はどこにいる?」
「ファナでいいわよ。あとはみんなネズミにされてしまったの」
「ネズミに?!」王子は共の者達がネズミに変えられなくて良かったと思った。
「私は母様に似てるから、代わりにいじめてるのよ。母様も魔女だつたの、昔アイツ母様にさんざんに負けて、その復讐にこの城を乗っ取ったの」
「あら?人聞きの悪い。乗っ取っただなんて…」
入口の扉の前に、いつの間にか女が佇んでいる。
とてもいい香りが漂ってきた、髪は黒髪でまっすぐ長く、瞳は濡れたような黒、細いシルエットの黒いドレスをまとい、レースの指なし手袋は腕のつけ根まであり、首から肩、胸までは雪のように白い肌がむき出しで、黒と白の美しいコントラストだった。
頭には真珠を編み込んだ飾り物をのせ、全身優雅なシルエットを見せている、思わず王子は見つめずにはいられなかった。
と、その時強烈な肘鉄を脇腹に食らった。
「何ほうけてんのよ!」あまりの痛さに呻いた。
「ファナ王女、殿方は美しい者に目を奪われるのは詮無いことです。そのように、せめては王子が可哀想ではありませんか」声さえ美しい、全身からなんとも言えない色気が溢れ、王子を包み込む。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私がこの城の王妃ミラベルです。よくいらっしゃったわカイ王子」
魔女はにこやかに笑って話を続ける、ファナ王女は緑の瞳で、彼女を睨みつけて微動だにしない。
「せっかく王子がお見えになるので、王女に磨きをかけてみたんだけど、この程度で申し訳ないわ。
まぁ、もっとも王子も御髪は藁みたいだし、身体つきはヘロヘロのヒョロヒョロだし、お洋服は埃と汗でとても側には寄れないから、お似合いかもしれないわね」なるほど、王女が菓子のやけ食いする気持ちがわかる。
「さて、あとはどうしようかしら?もう飽きちゃったから2人とも、ネズミに変えてこのキャラに丸かじりさせてみようかしらねぇ、どう思われます、王女」魔女のドレスの後から、黄色い大きな意地の悪い目つきの猫がのそっと出てきた。
ずっと黙って睨み付けていたファナ王女は、ぼそっと一言口にした。
「くそババア」
その瞬間に魔女の雰囲気がガラリと変わった。
今までぼーっとしていた王子の頭が急に冴え冴えとした。魔法にかかってたんだ!
フワフワとした何とも言えない色気が、全て抜け落ちて寒々とした恐怖が王子を襲ってきた。
「王女様がそんな汚い言葉を使ってはダメだと申しましたでしょう」
あっという間に魔女は王女と王子のすぐそばまで来ていて、王女の顎をぐいっとつかんで自分の方に向けた。
王女は口をへの字にぐっと結んで、睨みつている。魔女の爪が王女の頬に刺さり血が滲んでいる。
「お口を石鹸で洗って差し上げましょうか?」
王女はさらに口をへの字に結んだ。やられたことあるんだと王子を思った。魔女の注意は完全に王女に向いている。
王子の頭の中に今だ!!という声が響いた。瞬間、王子は何のためらいもなく腰の細い短剣をすらりと抜いて深々と魔女の心臓を突き刺した、すごい悲鳴が起こった。
王子の剣術指南役は、老獪な戦士だった、彼は王子に言った
「どのような強い戦士も彼女には勝てなかったのです。だから、あなたは戦うというよりも、隙を見つけて魔女を倒すしかありませんな、魔女を殺すには心臓を一刺しで突き刺さないとダメなんです。ですから、私はあなたにその瞬間の為の鍛錬をしましょう」しかも、彼はこの鍛錬を王子の寝室で行ない、誰にも見せなかった。
窓さえも厚いカーテンで覆ってしまっていた。
「見慣れないカラスが最近、城の付近を飛び回っておりましてな、まぁ念には念を入れて隠しておこうということです」指南役は正しかったと思う。
完全に魔女は王子を見くびっていた。
倒れた魔女を見下ろしていると、急に王女が腕を引っ張っていった。
「逃げましょう!!」
「なんで?魔女はもう倒したんだよ」
「残念ながら彼女の心臓はそこにはないの。どこかに隠してあってね、だから、せっかくあなたが頑張ってくれたんだけど魔女は死んではいないのよ」
確かに血は一滴も飛び散っていなかった。
ゆっくりと魔女は苦しそうに呻きながら、起き上がりはじめている。
アア…あの鍛錬はなんだったのだろう?!
王女は重いドレスの裾を思いっきりたくし上げて、王子の手を引っ張って走り始めた。
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