黒魔女殺しのカイ王子

@makuai

第1話

やっとたどり着いた、エレンベルグの城は沈む夕日を受けて堂々と美しく輝いていた。

たった一人で、城の大きな扉の前に佇むカイ王子はため息をついた、「たった一人だ」


来るべきではなかったのだ。父親亡き後、叔父のバラン伯爵の強引な提案だった。

誰もが反対したのに、10歳でこのエレンベルグの王女ファラと婚約しているとのことで、

当然、助けに行くべきだと言われ、この世界最悪最強の魔女ミラベルが支配している、城に来る羽目になってしまった。

分かりきった話だ、叔父は王座が欲しいのだ。

だが、14歳で王位についたへろへろの自分がいるかぎり王にはなれない。


エレンベルグの新しい后が魔女と分かり、その城を全て支配してしまったという話が届いた時、叔父は喜んだことだろう。

さっさと婚約者を助けに行くべきだと送り出されてしまった。

当然一人ではなく、五百人の兵士と三十人以上の魔法師を連れて進軍してきたのだが、王子にとっては彼らがきのどくでしようがなかった。

自分が魔女に勝つはずもなく、彼らはさっさと死にに行けとばかりに、自分のための捨て駒にされたのだ、いやおうなく。


エレンベルグ領内に入ると、馬も人も次々と皆倒れ、そのまま眠ってしまった。

カイ王子は魔法師のグレンに言った。

「よかったグレン、彼らは眠ってしまったから魔女にひどい目に遭わなくて済むんだ、なんとか魔法が解けるといいんだけど」

グレンは知っていた、このまま眠り続ければ当然食べることも、水を飲むことさえできなくなって、ゆっくりとした衰弱死が待っているということを。

ただ気の優しい王子にこの事実を言うことはやめた。

今から先、酷い目にあうのは彼らよりも王子の方なのだから。

なんとか魔女と相討ちにしたいのだが、今の状態を見れば力の差は歴然としている。

二人は飲まず食わずで進んでいた。供の者が全滅したからだ、王子は文句ひとつ言わずに歩いている。

金髪に青い瞳、絵に書いたような王子様だが、成長期で背ばかりが伸び、ヒョロヒョロとしてバランスが悪い。もう二日も歩いているのでホコリだらけになっている。

こんな子供を魔女退治に出すとは!伯爵は魔女よりも悪質だとグレン魔法師は思った。


最後の最後まで頑張ってくれたグレンも城の手前で倒れてしまい、僕は丸裸で魔女と対決しなければならないようだ。


逃げたいと思ったけれど、戻れば笑い者となりいづれは叔父に殺されるだろう。

それなら魔女と対戦した方が、父王の息子としての名誉は守られる。

第一、王女が無事かどうかさえ分かっていない。

せめて王女にひと目でも逢って、無事を確かめたい。


10年前、この城に来た時は雪の城と言われるほどの真っ白い石を使った城に圧倒された。

大きな扉を通って入った、広いホールは輝くシャンデリアが何百となく天井から下がってホール照らしていた。

床は色違いの大理石の組み合わせで、なんとも言えない綺麗な花模様を描いている。

ホールの一番奥にある大きな階段の前でここの王とその小さな王女とが出迎えてくれた。赤毛で緑の瞳の王女を、僕はとても可愛いと思った。

父上がわらいながら「お前が尻に敷かれるな」と言われたのを懐かしく思いだす。


あれからたった四年しか立っていないのに…

城は静けさに覆われ人の気配どころか、生き物の気配さえない、なのにヒリヒリと刺すような恐怖が溢れている。

いつまでも扉の前に立っているわけにはいかない。

意を決して扉を押すと軽々と開き、ひんやりとした空気が王子を包みこんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る