々
エリー.ファー
々
僕は道を歩いていた。
僕以外の多くの人が醜く死んでいる。
僕はこの地球上で一番美しい人間だと思う。
一番尊くて。一番まともで。一番冷静で。一番賢い。一番美しい。一番大切で。一番かわいくて。一番貴重。一番繊細で。一番大胆。一番最高で。一番高尚。一番粋で。一番極めている。
だから、このマンションで死ぬのは、他の人だ。
僕じゃない。
このマンションのルールは簡単だ、先に進むためには、誰かが犠牲にならなければならない。
最初は七千人以上いた参加者も、気が付けばもう八十八人になっていた。誰かが犠牲にならなければならないのは分かっているのに、次から次へと、いやだいやだ、とうるさい。最初は誰が犠牲になったのかなんて覚えていない。
八つ前くらいに犠牲になった人間は、こんなにも醜く争うなら、ここで俺が犠牲になると手を挙げた。確か、保育園の先生だったか、小売店の店員だったか。それともどこかのIT会社の社畜プログラマーだったか。最早どうでもいい。
その感じで死ぬのは、もう百人以上やったパターンだったのに、どうにかみんな、死ぬ前に英雄になりたがる。
僕はそういうのをしり目に、鼻で笑って。とりあえず、潰された時に飛び散る体液が服にかからないよう距離を取る。
残り十二人。
僕は醜く言い争う、他の十一人の参加者を見つめていた。
必ずといっていいほど、僕はこういう議論には参加しなくて済むのだ。これがありがたいし、それ故に余計にこの状況を冷静に見ることができる。狡猾なのは女、と思いきや、自分を賢いと勘違いして複数の男に一致団結され、犠牲者に回ることの方が多い。
大切なのは、立ち回りもそうだが、むしろ立ち回らずに、標的にされた時は無表情で黙っておくことだったりする。
というか。
生じっか、賢いことがばれると最後まで生き残らせておいたらまずいかもしれない、とみんなが思い始める。
そのため。
意外と残ったのは馬鹿が多かった。
残り、四人。
子供が二人いるシングルマザーが泣き出す。
子供のためにも、ここを抜けなければいけないそうだ。
他の二人が、足と腕を持って押さえつけて一気に投げ、壁に磨り潰される。
残り、三人。
僕は、公平に僕以外の二人がジャンケンをして、負けた一人が犠牲になるべきだ、と提案する。
二人は了承。
負けた方が壁に磨り潰される。
顔も覚えていない。
さようなら、ジャンケンで負けた人。
残り、二人。
僕はその残ったもう一人を見つめた。唇が青く、冷や汗をかいていた。中性的な見た目をしていて、おそらく犬でも飼っているのか、長いコートに犬の毛が付いていた。
「犬を飼っているんですか。」
「そ、そうなんですよね。」
「じゃあ、死んだ方が良いんじゃないですかね。」
「え、なんで。」
「だって、犬、飼ってるんですよね。もう、死んでもいい頃合いっていうか。」
「いや、いやいや、犬がお嫌いなんですか。」
「いえ、別に。」
「じゃあ。」
「でも、ほら、猫とかイグアナとかだったらまだしも、犬飼ってるならここで死んだ方が貴方のためですよ。」
「え。その、なんで。」
「ごめんなさい、ここは、犬飼ってる方が、アウトっていうルールにしませんか。」
「え、え。どうして、どうして。」
「知らない知らない。いいじゃないですか、それで、もう早く死んでくださいよ。」
「いや、いやいや。」
「いや、いやいやとかじゃなくて、その感じもう、十分やったんで。はい。早くしてくださいよ。」
「だって。」
「早く、ほら早くしてよ。早く。じゃあ、僕が死んで貴方が生き残るんですか。もう少し大人になってくれませんかね。ほんとに。」
壁に磨り潰される。
残りは僕だけ。
かくして最後に、一番一生懸命生き抜くことを考えた、僕だけが誰よりも先に進むことができた。
すると、その部屋にはまた大勢の人たちがおり、あたりを見回していた。
一人に話しかけようと思い、肩を叩いて振り返ってもらう。
勝ち目がない。
々 エリー.ファー @eri-far-
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