まさるくんの決断

卯野ましろ

まさるくんの決断

「まさる、この前オープンしたゲーセン行こうぜ!」

「ゲームセンターは無駄遣いしちゃうし、怖い人いたら嫌だから行かない。おれの家でゲームしようよ」




「今から、あのクソジジイんとこ行ってピンポンダッシュするんだけど、まさるも一緒にやる?」

「やらないし、やめなよ。おじいさんは、おれたちのために自転車の乗り方を注意してくれたんだよ? そんな良い人に嫌がらせなんて、したくないなぁ」




「なあ、まさるって何かムカつかね?」

「……あー……」

「良い子ぶっていて腹立つよな!」

「あんなやつ、もう仲間外れにしようぜ!」

「おっ! イイねぇ~」

「う、うん」

「あ、でもハブる前に少し懲らしめてやろうか!」

「えっ?」

「だな!」

「じゃあさ……」




「なあ、まさる! 今日の放課後に遊ぼうぜ! 学区内で!」

「……へ……?」


 遊びに誘われ、まさるくんはポカーンとしている。誘った男子たち数人は「あ、こいつ察したか?」とヒヤヒヤ。

 しかし、まさるくんの反応は意外なものだった。


「うんっ! ありがとう!」


 ぱああっ……! と明るい、まさるくんの表情。それを見て、一瞬「お、おう……」となった一同。そして数秒後、まさるくんから離れて、きれいに揃ったガッツポーズ。


「っしゃー! まさるをハメようぜーっ!」

「っ、おーっ!」

「……おー……」




 放課後、まさるくんたちは楽しく遊んでいた。鬼ごっこ、かくれんぼ、だるまさんがころんだ……などなど。そんな幸せな時間は、あっという間に終わってしまう。


「そろそろ帰る時間だな!」

「そうだね」


 みんな「5時には家に帰るように」と普段お母さんから言われている。最近みんなは守らないことばかりだったけれど、いつも守っているまさるくん以外の男子も今日は素直だ。


「帰ろうぜ~」

「バイバーイ」

「また明日!」


 クラスメートが次々に公園から離れていき、まさるくんも帰ることにした。腕時計を見ると、今は午後4時57分。遊び過ぎちゃったから走って帰ろう。それなら3分で間に合う……と思ったそのとき!


「痛いっ! 痛いよう……」

「えっ!」


 まだ帰っていない遊び仲間の岡くんが、苦しみ出した。


「お腹が……痛い!」

「岡! 大丈夫?」

「う~……」

「よし! 岡、おんぶする! おれ送るよ!」

「え、でも……」

「早く!」


 岡くんは驚いた。けれど、すぐにまさるくんの背中に身を預けた。


「行くよっ……!」


 まさるくんは走り出した。




「まさるくん、ありがとう!」


 公園から歩くと1分の岡くんの家。岡くんのお母さんは、まさるくんに心から感謝している。まさるくんの手は、お菓子がいっぱい。そして、お腹が痛い岡くんは、すぐにトイレに駆け込んだ。今もトイレの中。


「じゃあ、ご馳走さまでした。岡くんに、お大事にと言っておいてください」

「本当にありがとう! さようなら!」

「お邪魔しました」


 まさるくんは、また走り出した。

 でも既に5時は過ぎていた。


「ただいま……」


 ドキドキしながら家に入る、まさるくん。そして待っていたのは……。


「お帰りなさい、まさるっ!」


 どうやらホクホクな、お母さん。


「遅くなって、ごめ……」

「まさる、岡くんのお母さんから電話で聞いたわっ! お腹が痛い岡くんを助けたんですってね!」

「えっ……」


 まさるくんの頭を、お母さんがナデナデ。


「まさる……あなたは、この家の誇りよ。自慢の子よっ!」

「……ありがとう」


 まさるくんも、お母さんもニッコニコ。そして……しばらくしてから話を聞いた、お父さんもニッコニコ。




「まさる! 君は素晴らしい子だっ!」


 次の日の、朝の会。まさるくんは先生にも誉められた。岡くんのお母さんは、まさるくんたちの先生にも電話したらしい。

 すると、まさるくんの昨日の遊び仲間たちが慌てた。


「何でだよっ!」

「家に着いたの5時過ぎたのに!」

「先生っ! 岡は、あのとき実は……」

「痛かったよ」


 遊び仲間の一人が、岡くんが仮病だったことを言おうとした。けれど遮られた。

 それに岡くんは本当に、お腹が痛くなってしまったのだ。岡くんは仮病を使って、まさるくんに門限を破らせる役だった。でも、まさるくんが好きな岡くん。イヤイヤで作戦に参加して、ずっと心配になって、とうとうお腹がいたくなっちゃったのだ。


「まさる、ありがとう」

「どういたしまして。よかったね、岡」

「岡! お前、裏切るのかよ!」

「裏切るって、どういうことだ……?」


 ギクッ。

 その後、岡くんたちは先生に呼び出された。岡くんは、すぐ解放された。そして全員が解放され、まさるくんの前で「ごめんなさい!」。


「あのとき、みんなに久々に誘われて嬉しかったから良いんだ!」


 しばらく遊びに誘われず。自分は嫌われているのかな。実は不安だった、まさるくん。

 優しい優しい、まさるくん。優しいと書いて、まさるくん。それからは多くの友達に囲まれて、いつもいつも楽しかった。

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