第8話 普段通りに学校に登校すると、下駄箱に1通の手紙が入っていた。
翌朝。
普段通りに学校に登校すると、下駄箱に1通の手紙が入っていた。
こげ茶色の封筒で、差出人の名前はどこにも書かれていない。
そして手紙の内容は、秘密をバラされたくなければ、同封してある小型カメラを女子更衣室に仕掛けてくることだった。
もし断ったら、私が中学時代にSNSでエッチな自撮り写真をアップしていたことを神村龍一にバラす、とも書いてあったわ。
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『龍一視点』
だ、ダメだっ!
何かが足りない!?
この小説には決定的な『何か』が足りない。
自分の内面から物語を拾い上げていく作業をしていると、そんな思いに駆られることがある。
そもそも恋愛経験がまるでない俺に、恋愛小説など書けるわけがない。
女の子と接することなんてもちろんなく。
コミュニケーションはもっぱら『妄想』による脳内での触れ合いだけで15年生きてきた、まともに女子と『会話』した『記憶』すらない『非モテ男子』だ。
合コンに誘われたこともないし、もちろん告白したこともないし、されたこともない。
何しろ相手にも選ぶ権利があるからだ。
俺のように凡百の人間が選ばれる可能性がどの程度あるか?
そんなことは考える間もなく、身に染みてわかっていた。
だから気になる女性がいても、すぐに『どうせ、彼氏がいるではないか』と危惧してしまい。
結果。
女の子と一度も『お付き合い』したことがないんだよな。
だからどうしても『キスシーン』で、行き詰ってしまう。
好きな『恋愛小説』を読んでも『ドラマ』や『映画』を見ても、何が足りないのか、それすらわからなかった。
〆切が迫っているというのに、原稿がまったく進まない。
このままでは(某)新人賞に、応募すらできずに終わってしまうぞ。
そしたら『退学』だ。
俺の高校生活がいきなり終わってしまう。
ヒキニートになってしまうのだ。
それはマズイ。
非常にマズイ。
俺が通っている学校は、即戦力になる『クリエイター』育成することをモットーにしていて。
結果が出せないものは容赦なく『退学処分』にさせられるのだ。
試験は7月と12月に、年に2回行われる。
国数英社理の筆記試験とは、別に『長編小説』を一本提出しなければならないのだ。
完成度の高い作品は、そのまま新人賞に送られ『デビュー』が決まることが多い。
早ければ高1の秋ぐらいから、プロとして活動しているヒトも存在している。
その他にも声優を志望する人は、学校が主催する『オーディション』を受けたり。
イラストレーター志望なら、当然『イラスト』を提出しなければならない。
プログラマーなら一本ゲームを完成させること。
またプロ、アマ問わず入学できるため、プロ作家に弟子入りする生徒も非常に多い。
だが、俺は……『元プロ作家』としての矜持が邪魔をして、誰か? 教えを乞うたことはない。
週に4時間ほど『専門の授業』がある以外は、通常の高校となんだからないんだよな。
そんなことを考えていると、辺りが騒がしくなり。
俺は慌てて『ノート』を机の中に押し込んだ。
雑談を重ねていたクラスメイトの視線が、教室の後ろのドアに集中する。
「マジ姫川さんって、下手なグラドルよりもカワイイよな」
熱い憧憬と崇拝の視線。
普通の女子生徒とは
今一番注目を集めている女子生徒であり、その人気は生徒会長よりも高い。
彼女はその視線の雨にまったく動じることもなく、美しい金色の髪を靡かせ。
完璧な微笑みを浮かべて、教室に入ってきた。
やっぱり姫川さんは凄いな。
俺なら絶対に逃げ出してるよ。
注目されるのが、死ぬほど苦手だからだ。
彼女は鞄をいったん床に置き。
制服のスカートを軽くつまみ、かすかに身体を屈めて
「皆様、おはようございます」
落ち着き払った品の良い声ともに、造形が整いすぎて冷たい印象さえ与える
そのわずかな身動きに連動し、腰まで伸びた金髪がさらさらと衣擦れのような音を奏でながら彼女の背中を撫でた。
眉の上できっちりとそろえられた前髪も上品で、少しの手入れでも十分見栄えのする細い眉は髪質と同じく柔らかに震え、そのすぐに下には赤いピアスをつけた丸く小さな耳があった。
そして小さめな耳たぶは、やわらかそうな感じでとてもキュートだ。
頬にもほとんど触れないように計算し尽くされ、カットされた金の絹糸は陶器のような白い肌によく映え、一個の芸術品のような印象を抱かせる。
そして何よりも立ち姿が、落ち着いた声が、言葉遣いがっ!?
一礼したあとの笑顔が気品に満ちていた。
あくまでも控え目で、必要以上に目立つような行動は取らない。
あと同年代の女子が周りにたくさんいるだけに、その抜きん出た『ファッションセンス』の良さが際立って見えた。
丸みを帯びた細い可憐な肩のラインに、胸元を飾る大きなリボンタイ。
清楚系ブレザーの下に着こんだ薄手のカーディガンは、優美さと可憐さを強め春の主役であるパステルカラーが、明るい彼女にはとても似合っていた。
折り返しになった袖口の先から、ほんの少しだけ白い指先が出ている。
桜色のカーディガンは、やや胸元が強調されるデザインになっていて歩くたびに揺れる胸は、校則違反としか思えないほど短くした膝上30cmに迫るスカートと黒ニーハイの間から見える『絶対領域』は、まぶしいほど白くて。
ミニスカートの中から白く張りのあるカモシカの脚のようなピチピチの太ももが露わになり、今にも『下着』が見えそうで、それでいて見えない『鉄壁のスカート』を見つめ、ゴクリッと喉を鳴らしてしまう。
学校指定の上履きのゴムは、1学年を表す緑色だ。
非の打ち所がない完成されたコーディネートに思えるが、赤いピアスや大胆な衣装を身につけているその姿は『背伸び』をしている感があった。
衣服は第2の皮膚だと言われるほどだ。
服装には、その人の性格や考えを無意識のうちに反映されている。
彼女が派手な服装を好むのにもちゃんとした理由があるのだ。
恋愛マスターとしての『地位』を守るためだと言われているな。
カップル成立率を上げるために、ラブレターの代筆をしたり、デートプランを考えたり、異性の素行調査まで、やってくれるみたいだな。
そのひた向きな姿に心打たれる人も多く。
とても面倒見が良く、努力家で少しも気取ったところがない。
自然と彼女のポジジョンは『クラスの中心』にあって、嫌味にならない目線でみんなをまとめるのが、教師よりも上手い。
彼女はお淑やかで、口数も少なく、声も細い。
人の言うことを素直に聞き入れはするが、物事の良し悪しは、自分で判断できる高スペックな人間だ。
「今日も美しいわね」
「お姉サマ~~~。私と結婚してください」
そう叫ぶ女子生徒たちは夢見るような表情で、ぼーっと胸の前で両手を握りしめていた。
心ここにあらずと言った感じの『フワフワ』した状態だ。
姫川さんは、最高の営業スマイルを浮かべて、そんな女子生徒に向かって手を振り。
「お、俺、姫川さんと目が合った」
目をハートにさせた男子生徒にも優しく微笑みかけてきた時、一瞬。
目が合ったような気がしたが、気のせいだよな。
だって目が合ったということは、姫川さんも俺を見てたということで、あの姫川さんが俺なんかに微笑みかけてくれる、わけないもんな。
とほほ。
「コラ、男子。目がイヤらしいぞ」
どうやら女子たちは、姫川さんを男の毒牙から守るという意識があるみたいだな。
女は……コワイ……女は……コワイ……女は……コワイ……。
特に集団化した女性は、何よりも恐ろしい。
女子たちが侮蔑を含んだもの凄い形相で男子を睨む、と男子たちも負けずに凄い形相で女子たちを睨み返した。
「うっせぇ、ブス」
身の毛がよだつような、イヤらしい視線を姫川さんに向けながら
「それにしてもエロいカラダしてるよな。見てるだけで、ムラムラしてくるもんな」
少しだけ怒りを覚えた。
コロコロと態度を変えるうえに、姫川さんをエロい目で見るなんて、失礼極まりない奴だな。
あの『芸術的』な美しさが、穢れなき美しさが、わからないのか?
愚かしいにもほどがあるな。
まさに高根の花で、俺にとっての『ヴィーナス』だ。
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