第8話 シュウという人


夜中にあんなことがあってトラウマ化したのか、あまり休んだ気がしない。

というか、助けてくれた人たちが怖い。

明るくなって来たのでいそいそと起き上がる。

ふと、周りを見れば昨日助けてくれた人たちが座って寝ていた。


「大丈夫かな…」


不思議というか不安ではあるが、ありがたくついていくことにする。

街まで行けば、関わることもないだろう。

それまでは自分が警戒を怠らなければいい。


川で顔を洗い、無限収納インベントリから出した果実を食べる。

心なしか身体が軽くなった気がする。

日課になりつつあるストレッチをしながら、今日することを考える。


というか、これからどうなるのかを考える。

この人たちはこれからどうするつもりなのだろう。

依頼というのは、もう達成してるのか?

ぐるぐる考えていたら、声がかかる。


「………起きた?」


びっくりして振り返ると、昨日の二人はまだ寝ていて、昨日の人とは違う知らない人。


「だ、だれ……?」


本当に誰?

いつからそこにいたの?


「アルトから…聞いてない?俺シュウ。パーティーのもう一人のメンバー。アルトの弟」


え、あぁ。

敵ではない、仲間…でもなさそうだけど。

あの人たちのメンバーさんか。

なんか、眠そうな人……


「ふぁぁ。あれ、シュウいたの?もう朝か」


シュウさんが自己紹介を終えたタイミングで、アルトさんが起きた。

隊長さん?のことを起こしてる。

………叩き起こしてる。

うん、怖い。


「お嬢ちゃん、朝ごはんにするよ。こっちおいで」


「うん」


トコトコとついていく。

渡されたのは、パンとスープ。

みんなが食べ始めたので「いただきます」をして食べ始める。

なんだけど……パンは美味しい。

ちょっとだけ硬かったけど。

スープは美味しくない。

ただの塩を混ぜたお湯みたいな感じ。

ちらっとアルトを見ると、普通に食べてる。

表情はない。ただ、食べてる。

この世界では食事はあんまり重要じゃないのかな?

街についてもこの食事になったら嫌だなぁ。


パンを全部食べて、スープは残してしまった。


「ごちそうさまでした」


「ん?え、もういいの?」


「うん」


「へぇ、全然食べないね。それでこれから動けるの?」


心配されたけど、大丈夫だと思う。

それに、こんなに美味しくない食べ物をこれ以上食べられない。


「シュウ、この子のこと頼んだからね。僕らは採取に行ってくる。色々説明しといて」


「分かった」


食べ終わったのか、シュウに声をかけて隊長さん?と一緒にどこかへ行ってしまった。

一緒に連れ回されなくてよかったといえばよかったんだけど、これからどうしろと?


困惑してると、シュウに肩を叩かれてビクっとなる。

シュウは気にしなかったのか、そんなことより、と小声で本当に小声で私にこう言った。


「信用しちゃいけないよ」


え?なんで?と聞き返そうとしたけど、もうすでにシュウは側にいなかった。


慌てて周りを見ると、さっきいた場所に戻っていた。

初めて会ったとき、この人は嫌な感じがしなかった。

さっきもなんか忠告するようなことを言ってくれた。

このパーティーの中では、この人の側にいたほうがいいのかもしれない。

そうじゃなくてもいるしかないんだけど。


そして、軽くではあるが今回の依頼についての説明がシュウからあった。


「僕らはパーティー「ブレイン」。

もう会ってると思うけど赤髪がアルト。

焦げ茶がシユウ。僕はシュウ。呼びづらいから、シユウの方は隊長って呼ばれてる。ここにはある依頼で来てる。複数のパーティーで手分けして素材を集める依頼」


ここまで分かった?

と言われコクンとうなずく。


「もう片方のパーティーは「両翼」。僕らよりよっぽどいい人だから合流したらあっちのメンバーの誰かにくっついてるといい。確か女のメンバーがいたはずだから。僕らが取ってくるのはクリシュナって言う万能薬。この森にしか生息してない珍しい薬草なんだ」


そこまで聞いて、初めて質問をした。


「クリシュナは生息地に行けばたくさん生えてるの?」


「あるんじゃないかな。僕はいつもそこまで行かないし、そこに行くまでの魔物がすごく強いから基本的に依頼は上位パーティーにしかいかないんだ」


「シュウたちのパーティーは強いんだね」


「そうだね。でも、周りからの評価は酷いと思うよ。多分…特に兄のアルトが。だから、合流したらすぐにあっちのパーティーに行くんだよ」


「分かった」


シュウは怖い人じゃないよという言葉は言葉になることはなかった。



「アルトたちがここに帰ってくるのは三日後じゃないかな。それまではここで待機だよ」


「何するの?」


「特になにもしないよ。でも、そうだな……」


そう言うと、シュウはじーっと私を見た。


「魔法が使えるのか知らないし、聞く気もないけど、なにか自分で身を守れるような術を身に着けたほうがいいと思う。だから、これをあげる」


そう言って渡されたのは弓と矢と小ぶりの剣。

どれも今の私にはピッタリのサイズだった。


「これ………」


「明日から、弓の使い方を教えてあげる。今日は剣の振り方ね」


「いいの?」


「うん。君にはアルトの被害にあって欲しくないから」


「ありがとう」


アルトが何してるかは分からないし、知りたくもないけど……

だって絶対に犯罪まがいのことしてるよね?!

シュウはこんなによくしてくれるのにどうしてこのパーティーにいるんだろう?



シュウの教えはとても丁寧で、分かりやすかった。

夕方になる頃には、全く剣を振れなかった私でも、ある程度は形になったように見える。


「ねぇ、ご飯食べるよ」


呼ばれたので、近くまでいって今朝と同じものを受け取ろうとして、シュウから受け取るのはパンだけにする。


「シュウ、パンだけでいい」


美味しくないものを食べる気はしないし、パン一個でもお腹いっぱいになることが今朝のご飯で分かっていたからスープはいらないと言った。


「そう、やっぱり美味しくないよねこのスープ」


ため息を吐くように言うシュウが面白くて、軽く笑った。


「シュウ、街のご飯もこんなのなの?」


「街のご飯がこんなのだったら、みんな死んじゃうんじゃない?」


食べながらシュウに聞いたら、真顔で返された。

猫ちゃんにパンを小さく切ってあげなから、でもこのスープは美味しくない。と言う。


「野営食だからだよ。美味しいのが食べたかったらあと四日待つことだね」


「なんで?」


四日目は両翼と言うパーティーと合流する日で街に帰る日じゃない。


「いい人たちが揃うということは、いい人材が揃うってことなんだよ。確かリンネっていう名前のやつが美味しい料理を作ってるはず」


「食べたことあるの?」


「一度だけね。食べてから後悔したけど」


「美味しすぎて?」


「そう。明日からまたただの塩スープかと思うと悲しくなったね」


そこでシュウは初めて私に微笑んだんだよ。


「さて、と。食べ終わったし寝るか」


と言って、シュウが木の幹に寄りかかったから、私も猫ちゃんを抱いてシュウの隣に座った。


「信用しちゃいけないって言ったよね」


そんな私を見て、呆れたようにシュウは言うんだけど、


「シュウは大丈夫」


と言って、私は目を閉じた。




そして、二日が経った。


辺りも明るくなり、ようやく目覚める。

いつもよりは遅い起床だった。


「ふぁー」


やはりこんな生活を続けていると、知らず知らずの内に疲れはたまるのか意識していなくても身体はだるさを訴えてくる。

どこまでも身体は正直だ。


「ふかふかのベッドで寝たい……」


温かい湯船にも浸かりたいし、と思う。どこかも分からないモンスターがうじゃうじゃいる場所で安眠なんて出来るはずもなく、何より木の側に座り寝ているとなれば身体が悲鳴を上げてもおかしくない。

精神的に見ても、身体的に見ても、そろそろ限界が近かった。

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