忍の旦那
影宮
朝
日課としてまず夜影に起こされる。
主を起こす前に必ず此処に夜影が来る。
機嫌が悪いと苦無が頬を掠めて布団に突き刺さるが、そういう日は目が覚めるのが早い。
今日はそうじゃなかった。
「おはよう才造。」
今日は夜影が非番なこともあり、ゆったりとした口調だった。
ワシの上に乗りニッと笑むのを眺めてまだ残る睡魔と共に布団から出ることを諦めて目を閉じようかまだ夜影を眺めていようかなどと悩んでいた。
まだ日が昇っていない。
「才造、今日は夜影ちゃんが暇なんですけどぉ!」
構え、と言いたいのはわかる。
甘えるようになってくれたのは嬉しい。
だが、ワシは今日は仕事。
そもそも、夜影とワシの非番が重なることは無い。
それでも言うか。
「取り敢えず、起きない?夜影様の苦無が才造の此処に刺さっちゃってもいいわけ?」
此処、と言いながら心の臓の上に手を置かれる。
どうやら今日はご機嫌らしい。
冗談を言いつつ冗談ではない苦無を晒して座っている体勢からワシの上に器用に寝転ぶ体勢に移られる。
起きろというわりには体を起こさせる気は無いのか?
その黒髪を撫でてやりながら、既に働きたくない気持ちが先に起き上がった。
「もう一睡していいか?」
返答がない。
耳を澄ませば静かな寝息がそこにあった。
ワシの上にいるというのに、軽くていけない。
上から降ろし、ワシは布団から出て夜影を代わりにそこに入れておく。
髪紐を取り髪をいつも通り適当に結んでおく。
ワシの布団の中で丸くなる夜影を眺め、さて、支度をしよう。
着替えている最中、夜影が起きることは無かった。
本当なら夜影と寝てしまいたい。
夜影を構ってやりたい。
そういうわけにもいかんのがまた、惜しいが。
もう一度夜影を撫でてから、覆面をして外へ出た。
主を起こす前にいつも此処に来るが、寝たということは夜影の代わりに誰かが起こしに行かねばなるまい。
長が非番……ワシが副長でなかったら良かったのだが、どうとも出来ん。
一日中夜影と過ごしたい欲しかない。
おい、誰かワシの代わりに仕事してくれ………。
あの安心しきった寝顔も無防備な寝姿も、ずっと眺めていたい。
大きな溜め息が零れ落ちた。
幸せ、ではあるが……。
「働きたくねぇ……。」
「才造さん、長が非番になる度に言うのやめてください。」
部下もこれには慣れたらしい。
「働きたくねぇ!」
壁を殴っておく。
可愛い愛しい嫁をずっと愛でて過ごしたい。
非番の日くらいは!!
「おい、誰か才造さんをやる気にさせてくれ。」
「ほっとけ。どうせ長が可愛いとしか言わんぞ。」
最近部下の上司に対する扱い等が雑な気がする。
聞こえていようがいまいが、遠慮もねぇのかお前らは。
切り替えをしようにも朝からあぁいう起こし方をされると部屋に戻りたくなる。
ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!
よし、戻るか。
「才造さん、戻らないで下さい。」
ガシッと肩を掴まれ止められる。
クソがッ!!
働きたくねぇ!!!
だいたい毎回こうなるのをそろそろ直さんと減給させられるかもしれんな。
こうして一日が始まる。
終われ
忍の旦那 影宮 @yagami_kagemiya
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