第7話 エピローグ
その頃、那覇港。
那覇港ターミナルビルロビーに巡視船のミュータント達が集まっている。
「アニータ達はどうする?」
朝倉は口を開いた。
「私達は国に戻ります。それにカメレオンの対処法も知った」
アニータは答えた。
「中国海警船のミュータントはなんとかできる。カメレオンの巡視船の監視が強化されるらしい。東南アジアのASEANの国々で漁船に接近しないように僕達が監視して近づけないようにする」
トムが説明する。
「ただ台湾は復興の途上にある。台湾の周囲に中国海警船がうろついている」
ウーライが視線をそらす。
「あそこから逃げたミュータント達は東南アジアの国々に身を寄せているが近いうちに帰ってくる瓦礫の街はいずれ復活する」
李鵜が唇をかんだ。
「じゃあ海保の尖閣専従部隊と共同で一緒にパトロールしながらカメレオン対策や海警船の対策をしないか?}
それを言ったのは三神である。
「え?」
「石垣島の海保の再建をしないといけない。人手が足りないからね」
沢本はため息をついた。
「それは台湾も一緒」
リーフとウーライはうなづく。
「海保も欠員が出ているから人手がいる」
三神は手を差し出す。
「わかった」
二人は沢本と三神と握手をした。
「俺達は帰る。また連絡する」
アレックス達はそう言うと海に飛び込み、巡視船に変身して港から出て行った。
同じ頃。辺野古基地
基地のロビーに入ってくる米軍兵士四人。
「クリス、アイリス、レジー、レイス。ここは自衛隊基地ですけど何か?」
佐久間は口を開いた。
「サラトガだ」
オルビスとリンガム、アーランが駆け寄ってきた。
「もう一匹増えた」
嫌な顔をするアイリス。
「サラトガ。また技とか教えて」
オルビスは声を弾ませる。
「オルビス、リンガム。おまえに教える事は何にもない。お前達で波王と互角に戦ったなら俺はなんにも言わない」
クリスはフッと笑ってオルビスの頭をなでながら言う。
「そうなんだ」
困惑するオルビス。
「街に遊びに行こう」
アーランが誘う。
オルビスとリンガムはうなづくとロビーから出て行った。
「ちっとはまともな事を言うのね」
声を低める佐久間。
自分達はカメレオンと戦ったがあの射程が倍ある光線さえ気をつければなんとかなるだろう。ただ波王は傷口が治ると同時に小型船が生み出される。カメレオンのボスだから当然だろう。たぶん映画エイリアンでいうクイーンだと思っている。
「俺は波王に負けたしかなわなかった。カメレオンのボスと互角に渡り合った。ならあいつならこの戦況を変えられる」
クリスは腰に手を当てた。
「カメレオンは私達とちがい「卵」で生まれるそうよ。台湾攻撃の日に葛城君は「深海の民」というカメレオンの少数派に出会った。そして彼らの協力で通信や暗号を解読した。七割は解読できていてその暗号機がこれ」
佐久間は写真を出した。
「エニグマ暗号機にそっくり」
アイリスが口をはさむ。
「でも見た目は光学式の機器で見た事もない造りだった。構造は半導体そのものよ」
佐久間が指摘する。
「そこまでわかっているなら動きもわかるだろ」
レジーとレイスが声をそろえる。
「サブ・サンの動きがつかめない。彼らは未来人同様にどこにでも現れる。尖閣諸島の戦いでキジムナーの洞窟でサブ・サンと一緒に紀英州中央軍事委員会副主席が現れた。葛城君とエリック、和泉、死んだ沙羅さんが見ているし戦った。葛城君はサブ・サンと互角に戦った。たぶん時空武器のおかげね。それに紀英州も気功や格闘技を習得していてかなりの使い手だった」
佐久間は紀英州の写真を出した。
「中国政府にいたんだな幹部が」
納得するクリス。
「本格的な戦いが始まるわ。日本政府はASEAN各国と連携して話し合いに行っている」
佐久間は腕を組む。
「アメリカ政府はまだ何も言ってない」
アイリスがわりこむ。
「チャンスが来たらそれを利用するだけよ」
佐久間は言った。
那覇にあるTフォース事務所。
ベンチに座る翔太。
彼はバックからネックレスとお守り袋を出した。これはキジムナーの洞窟で沙羅が死ぬ前にもらったものだ。今日は沙羅の実家でお葬式がある。父親と一緒に行く予定だ。沙羅の両親に返すつもりだ。
翔太はネックレスとお守り袋をながめて袋のさわり心地がなんか違う事に気づいた。お守り袋を開けるとパズルピースが二つ出てくる。ネックレスについている琥珀は星座かと思ったら地図だ。
喪服を着た博が近づいた。
「お父さん。これ、覇王の石の手がかりだ」
翔太は見せた。
口をあんぐり開ける博。
「沙羅さんが死ぬ前に渡してくれたんだ。形見だろうと思ったけど」
困惑する翔太。
「あの子自身がパズルピースで手がかりだった。精霊から半分命をもらったのならそうなるだろう」
博は気づいた事を言う。
「精霊は先人から手がかりをもらい隠した」
翔太はポンと手をたたいた。
なんで気がつかなかったのだろう。手がかりは隣りにいたのだ。
「だがこれから本当の戦いが始まる。中国もサブ・サンも本気で来る」
博はパズルピースを見ながら言う。
翔太は深くうなづいた。
翌日。佐久間の実家。
居間に入る未来(みく)。
部屋に父がいた。
「また何ですか?」
不快な顔をする未来。
父は三面鏡を出す。大きさは一メートル位で外側の板に魔法陣が描かれている。
「船魂がいるね」
父は鏡をチラッと見る。
ドキッとする未来。
鏡に背後霊のようにいる女がいた。「あしがら」の船魂だ。
「葛城長官が昨日来てね。一番時空のひずみや異変を強く反応するのはおまえと三神隊員だそうだ。サブ・サンが侵入してきたが時空異変は小さい物だけでも世界中に起きている。時空異変を感知したのは自分達だけでなく院瀬見家や五百旗頭家だけでなく辰寅家、朱鷺家、帯刀家、神護家、下水流家、雲竜家の当主達だ。いくつかの分家で潜水艦や艦船、哨戒機、戦闘車両と融合した息子や娘がいる。いずれの当主の初代当主は天人や天女、異邦人からパワーを授かっている。それは子孫に脈々と流れている。いずれは家督を譲らなければいけない」
父は重い口を開いた。
「私は関係がないわ」
腕を組む未来。
「船魂よ。出てきなさい」
父は静かに言う。
ふすまが開いて入ってくる女性自衛官。
「なっ!!?」
驚きの声を上げる未来。
「あしがら」は笑みを浮かべた。
未来はいきなり足払いをかけ船魂を転ばせ馬乗りになり首をつかむ。
「なんのつもり!!」
目を吊り上げる未来。
「戦いは続く。時空異変で感知能力の高いミュータントが出てくる。その中でもとりわけ強いとオルビスのように融合の苦痛を何度も起きるだろう」
「あしがら」はにらみ突き放すように言う。
「葛城長官も同じ事を言っていたね。時空異変の中心に入れば感知能力が特に強い者はオルビスやリンガムのように融合の苦痛を繰り返していくと。順応しても常に体内を造り替え続けるから痛みと苦痛に苛まれるとね」
冷静に見ている父。
「それが私だと?」
声を低める未来。
「悪いがそう思うね」
父はビンつめの虹色の綿毛を出した。
時空異変でかならず見つかる「時間の欠片」だ。異変が起きる時はこれがあちらこちらに散らばるのだ。
「ぐっ・・・・」
佐久間はナイフでえぐられるような痛みにわき腹や腹部を押さえた。
未来を押しのけ馬乗りになる「あしがら」
ギシギシ・・・メキメキ
佐久間は腹部やわき腹をかきむしった。
「反応するね」
うーんとうなる父。
「ぐううぅぅ・・・」
身をよじる未来。
体内から肉が割れ、骨が軋み、金属がこすれあうような軋み音が聞こえ、内部の金属骨格が何かが這い回るかのように歪むのが嫌でもわかる。自分には生身の部分はない。生きた機械でできている。
「こんな体は嫌よ!!いずれ船と切り離してやる」
目を吊り上げる未来。
「それは無理かもね。少なくとも今の科学力では無理だ。受け入れるしかない」
はっきり言う父。
「嫌よ。こんな化け物船」
キッとにらむ未来。
「よく見るのよ自分の体を」
「あしがら」はわき腹をつかむ。そして力を入れた。
くぐくもった声を上げてのけぞる未来。
ズン!と突き上げるような激痛に腹部やわき腹を強くかきむしる未来。
メリメリ・・・ギシギシ・・
体内から断続的に軋み音が響く。皮膚もまるでゴムのようにへこみ違和感と不快感に身を何度もよじった。体内で配管やケーブル、コードが激しく蠢き、体中を何かが這い回るかのように盛り上がりへこむ。
「この体・・・嫌」
肩で息をして顔が歪む未来。
「反応はまだ小さいか」
つまらなさそうに言う「あしがら」
「時空異変は続く。本格的な時空異変はこれからだろう。おまえは三神隊員やオルビス達と行動をするのだ。そこから糸口が見える。
言い聞かせるように言う父。
「嫌よ!!」
未来は「あしがら」を押しのけ跳ね起きて父の胸ぐらをつかむ。
「まだ親に反抗する元気があるじゃないか」
冷静に言う父。
歯切りする未来。
「船魂よ帰りなさい」
父は未来の腕を振り払う。
「こんな家出て行ってやる!!」
額に青筋を立てる未来。振り向くと「あしがら」はいなくなっていたがかまわずに歩き出す。
「時空異変も戦いもこれからも続くぞ」
語気を強める父。
未来は無視して出て行った。
海上保安官 三神&朝倉につづく・・・
尖閣諸島の戦い ペンネーム梨圭 @natukaze12
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