第6話 尖閣諸島の戦い つづき
宮古島に接近する特命チームメンバー。
「波王艦隊がやってくるわ」
佐久間がだしぬけに叫ぶ。
「俺達はサラトガ達よりも宮古島に近い海域にいる」
間村は周囲を見回す。
宮古島へは五キロ行けば海岸が見える。
特命チームのメンバー達はそのままのスピードで宮古島の海岸に接近した。
北方向から大水柱を上げて接近してくる波王艦隊。普通の艦艇なら何時間もかかる距離を猛スピードで進んでいる。
「ミサイル接近」
室戸が報告した。
艦首の76ミリ、127ミリ砲でミサイルを撃墜した。
小型船が多数接近する。
その姿はいろんなものを載せている。ミサイル発射機や短魚雷、速射砲など漁船や貨物船にそんなものがついている。外見はありあわせの部品をくっつけた姿をしているのだ。
沢本や「あきつしま」「いず」は三十ミリ機関砲を連射。いくつかの小型船は四散する。
三神は小型船の機関砲をかわして錨を突き入れた。小型船のコアをえぐった。小型船は爆発した。
「間村先輩。こいつらどんどん沸いてきます。どこから?」
「あきづき」に変身する青山が報告する。
「波王だろ」
間村は接近してきた小型潜水艦を吊り上げコアをえぐった。
「どんどん増えてきている」
SH-60J哨戒ヘリコプターがわりこむ。
彼だけでなく二十機いる。
「どこから?」
レベッカは20ミリバルカン砲を連射。
小型ボートがいくつか四散した。
ウイルは対艦ミサイルで小型漁船や小型駆逐艦を撃沈していく。
「ゲテモノばかりだ」
朝倉は錨や鎖で小型船のコアをえぐった。
「意志が感じられない。操り人形だ」
三神が気づく。
攻撃はすれどすごい弱い。間合いも取れないし単純な動き。かといって魔物でもない。
三神は唐突にパッと動いた。二対の鎖でなぎ払った。
その船は船体をえぐられたような傷口が開いてよろけた。
「やあ、三神、朝倉。そしてそこの外国の巡視船」
その中国の海警船は女性の声だ。
「おまえは・・・!!」
アレックス達は声をそろえた。
海警「2901」である。台湾の侵攻のさいに台北の海岸巡防署を襲ってきた海警船だ。
「死んだハズだ!!」
リヨンが声を上げた。
「確かに死んだよ」
あっさり答える「2901」
「爆発して沈んだ」
ぺクが鎖で指をさす。
「あのあと波王が再生してくれたんだ。すごいでしょ」
「2901」はもったいぶるように言う。
「空母が再生って?」
トムがわりこむ。
「我々カメレオンはやられた仲間を再生する事ができる。おまえらマシンミュータントはちがうのだ。進化なのだ」
「そんなバカな」
フランやルース、リーフが絶句する。
「カメレオンは唯一無二の存在だ。地球はその土壌として最高だ!!」
「2901」は笑い出す。
「何がおかしい!!」
一喝する沢本。
「我々は今までたくさんの惑星を征服してきた。ここで阻まれる事はないのだ!!」
「2901」が声を荒げた。
「ならここで止めてやる!!」
声を張り上げる三神。
「波王はお前のことを目の仇にしているようだ。目の仇はオルビスとリンガム、アーランだがその次におまえと「あしがら」だ」
「2901」は冷静に言う。
「え?」
「おまえはロマノフの五つの宝事件で追ってきたサラトガ達と互角に戦った。その韋駄天っぷりが気に入ったらしい。「あしがら」は氷着け能力とイージス艦としての高い能力が気に入ったらしい」
「2901」が説明する。
「な・・・」
三神が絶句する。
「中国軍がただ何もしてないと思った?中国軍も優秀なミュータントを探していた。そして波王も優秀な戦士を探していたんだ。その次が「あしがら」。あとは戦闘奴隷だよ」
クスクス笑う「2901」
黙ってしまう三神。
確かにこれまでもスカウトは来ていた。東日本大震災の前に尖閣諸島に台湾の巡視船と漁船と中国海警船と漁船を総出で上陸阻止をしていきなりリュー・リーミンがスカウトしてきた。その次は米軍のサラトガと自衛隊でTフォースからもオファーが来た。Tフォースの佐久間に頼まれて大津波の危険がある仙台市に入った。大津波を乗り越えてから浸水する仙台市に入って葛城翔太の救出に行った。普通なら第二波が来る危険がある中、助け出した。そこから自分もロマノフの宝事件に巻き込まれ、ウラノスと戦い異星人を始めて目にした。ウラノスの素顔は水棲型宇宙人で地球の環境では生存できなかった。ウラノスは仲間の宇宙人もろとも時空のゆらぎに吸い込まれていった。今度は中国軍の侵攻。普通なら防衛大臣や海上保安庁長官や自衛隊の統合幕僚長なんてめったに見ない人を見た。自分では驚きの連続だった。
「腕づくでも・・・」
「2901」は最後まで言えなかった。沢本の二対の錨が船体をえぐった。
イージス艦「望洋」の体当たり。ぺクとキムは岸壁に激突した。
「レビテト」
エリックは翔太、和泉、沙羅、和泉に呪文をかけた。力ある言葉に応えて船橋ウイングから飛び立った。
望洋は100ミリ速射砲をなぎ払うように撃った。太い赤い光線が防波堤とテトラポットを一直線になぎ払う。
ドーン!グァン!!
火柱が残った建物をなぎ払い中国軍が揚陸した物資も吹き飛ばした。
空母「波王」はミサイルを発射した。
霧島と佐久間はミサイルを発射してそれらを撃墜する。
波王は速度を落として船体から一〇対の鎖を出した。
ヴァルキリーといずもは遠巻きににじり寄った。
ヴァルキリーは二対の鎖を突き出す。先端が金属のドリルで撃ち込む。
目の前にいた波王が消えて次の瞬間姿を現して鎖の先端を分銅にしてなぎ払った。
ヴァルキリーは片側の船体から金属のウロコで覆った。分銅は弾かれた。
いずもは艦首側エレベーターから赤い銛を十本発射。
波王が周囲にまとう半透明なゼリー状のものに穴が開いた。
ヴァルキリーの体当たり。
波王が大きく揺れた。
ヴァルキリーの右舷側の船体から五本の鎖を金属のノコギリとドリルに変えて貫通した。
いずもの赤い銛がその傷口を切り裂いた。
波王は船体からドリルと赤い銛を引き抜く。
「気に入ったぞ。オルビス、リンガム」
波王はクスクス笑う。
「何?」
「そこらのミュータントよりも優秀だ。だがその輝きが気に入らん。カメレオンはその輝きなどいらんのだ」
波王はビシッと錨で指さした。
「何を言っているのかわからない」
潜水艦が浮上した。アーランが変身した姿である。
「少数波のできそこないが黙れ」
波王は言い放った。
「僕達は戦闘マシーンじゃない」
声を荒げるオルビス。
「立派な戦闘マシーンだろうが。我々の価値は戦う事にあるのだ」
波王が言う。
「それはちがう。共存する事よ」
リンガムが反論する。
「僕は百二十年前に地球に落ちてきた。そこで葛城庵に出会った。僕のせいで人生が狂ったけど前を向いて行動する人だった。そして茂はチームや団結を、勝や博は強調する事や弱い者を助ける事を教えられた。僕達の種族にはないものを人間達は持っていた。その時々の社会情勢で時代は変わる。でも変わらないものがそこにある」
オルビスは訴えるように言う。
ここに来て涙というものを知ったし、なぜ人間が泣くのかおぼろけながらわかった気がするのだ。
「それにマシンミュータント達は歴史に翻弄されるけど自分というものを持っている。ただ喰らうあんた達とはちがう」
リンガムがはっきり言う。
「私達は人間達に助けられたと思っている」
アーランが言う。
「このガキが・・・やっとここで魅力的な惑星を見つけたと思ったのにこの星には大気や重力があり我々を邪魔をする。ならテラフォーミングして改造してやる」
波王は声を荒げた。
「そんな事はさせない。先島諸島と尖閣諸島は日本政府の領土だ。返してもらう」
オルビスは声を低めた。
「そしておまえなんかサブ・サンと一緒に追い出してやる」
声を荒げるリンガム。
「俺達の物だ」
波王の艦橋の二つの光が吊り上る。
「おまえの物じゃないわ」
アーランが反論する。
「これ以上弄ぶならこの僕が許さない。消してやる」
オルビスは身構えた。
港の岸壁に激突する遼寧と蘭州。
「どうしたポンコツ空母!!」
間村は声を荒げた。
「バカな。俺たちの攻撃が見切られているなんて」
蘭州は頭を抱えるしぐさをする。
「あれが攻撃?全部読めたわ」
しゃらっと言う佐久間。
「読むのは簡単だ。隙だらけだった」
ウイルがわりこむ。
「中国軍の上陸部隊と一緒に逃げた方がいいよ」
室戸がすすめた。
「誰がそんな事をするか。お前達の排除するために来たんだ」
怒りをぶつける蘭州。
「排除できてないじゃん」
ミサイル艇「はやぶさ」がわりこむ・
よく言った栗崎。
間村が言う。
「中国にも特殊部隊はいる。そろそろサブ
・サンが来るし、サブ・サンと一緒に中央軍事委員会副主席の紀英州同士もここに来る。あのガキと男女と戦闘機に何ができる」
蘭州はクスクス笑う。
「何!!」
驚くウイル達。
「共産党のお偉いさんが来るなら捕虜にする事もできる」
霧島がしゃらっと言う。
「サンダースピア」
蘭州は中国語で叫ぶ。しかし何も起こらなかった。
「お前の呪文ならすでに封じた」
間村が言う。
「いつの間に」
驚きの声を上げる蘭州と遼寧。
「ミニマム」
佐久間は呪文を唱えた。力ある言葉に応えた二隻は全長一メートルの模型に縮小した。
「やめろ!!計画が」
遼寧が鎖をばたつかせた。
「なんの計画?」
「しまゆき」がしらける。
「大森先輩。こいつらに計画なんか立案できる電子脳なんて持ってませんよ」
護衛艦「まきなみ」がわりこむ。
「よく言った西田」
大森がしれっと言う。
「お前達は捕虜なんだよ」
間村は大型犬のゲージに二隻を放り込んだ。
「栗崎、西田。こいつを「かが」まで送り届けて」
室戸は大型犬用ゲージを渡した。
三神と朝倉達は「2901」の船首と望洋の艦首から飛び出した砲台から放出される赤い極太の光線の間隙を縫うようにかわした。
望洋は一〇対の鎖の先端を盾に変えた。
フラン達のミサイルや雷の槍、氷の刃、炎の玉をすべて防いだ。
「このままだとまずいぞ」
リヨンは息を切らしながら言う。
「もう順応して俺達の攻撃を防いでいる」
三神は分析した。
おまけに傷口がふさがるのが早い。
「さてとトドメを刺してそのコアをえぐって部屋に飾ってやる!!」
「2901」はビシッと鎖で指さした。
望洋は艦首が花弁のように開いた。砲口が三つ現れた。
「チェックメイト」
ウイルが放った鎌居たちをともなう二対の鎖が望洋の船体を貫通した。
「ぐはっ!!」
望洋はのけぞった。
ウイルはコアをえぐった。
「バカな・・・」
望洋は中国語でののしり閃光とともに爆発した。
「な・・・!!」
驚く「2901」
彼女の気がそれたせつな佐久間の鎖が貫く。
「ぐうう・・・」
「2901」はくぐくもった声を上げた。
「再生されたならこれはどう?」
佐久間は冷静に言った。
すると傷口から凍りはじめた。
「2901」は驚き船体を引っかいた。もがきながらだんだん芯まで凍りついた。
佐久間はコアを引っこ抜く。
「2901」は凍りついたまま砕けていった。
レベッカ、リアム、大野、アンナは八重干潟にいた哨戒ボートを何隻かミサイルで撃つ。ボートは四散した。中国軍の哨戒ヘリや戦闘機のミュータントが近づいてくる。
「あいつらは我々がなんとかする」
大野は促した。
翔太はうなづく。
接近してくる中国軍の飛行艇。着水すると洞窟に接近。ボートで内部に入った。
翔太、エリック、沙羅、和泉は洞窟内部に飛び込んだ。
地底湖に中国軍将校とスキンヘッドの異星人がいる。
「こいつ中央軍事委員会の紀英州だ」
エリックが誰だか気づいた。
「中国外務省の会見場にいた人だ」
翔太が気づいた。
テレビで見た事がある。周主席と一緒にいたりする人物で、もう一人はサブ・サンだ。
「やあ葛城五代目に会えるとはね」
サブ・サンは笑みを浮かべる。
「知っているの?」
翔太は聞いた。
「人間の一生は短い。何代目かはわかる。でもあまり手間はかけないでくれよ」
サブ・サンは笑みを浮かべる。
「こんなに精霊がいるのだね」
紀英州副主席は地底湖をのぞいた。
「え?」
「中国が逆転するにはこれが一番だ」
紀英州はそこに泳いでいた白い鯉に手を伸ばした。
翔太は光る矢を射った。
しかし紀英州は矢をつかんだ。
サブ・サンも二本の矢をつかんでいる。
紀英州は身構えた。
翔太は長剣に変えた。
紀英州の鋭い蹴りをかわすエリック。紀英州の鋭い蹴りからの回し蹴り。エリックは受身をとりかわす。
翔太は袈裟懸けに斬り、和泉と沙羅は短剣で突きやなぎ払う。
サブ・サンは手を後ろに組んだまま全部かわした。
翔太の突きをかわし、和泉や沙羅の攻撃をすんなりかわすサブ・サン。
「こいつすべて動きを読んでる」
翔太がつぶやいた。
丁度映画のマトリックスみたいにすべて攻撃を読みかわしている。
「人間は動きが遅いですね」
つまらなさそうに言うサブ・サン。
急激に気配が威圧するようなものに変わる。
「我々は全時空、全時代、全空間にその名前を行き渡らせるのだ。地球は戦闘奴隷として生かしここを拠点に戦略拠点にする」
サブ・サンは笑みを浮かべる。
翔太達は遠巻きににじり寄る。
サブ・サンが動いた。その動きはエリックや和泉には見えなかった。
翔太はその動きが見えた。なぜかわからないがたぶん時空武器のおかげだろう。時空武器が盾に変形した。
サブ・サンの蹴りやパンチをその小型の盾で受け止める翔太。
盾は軽く動きがさまたげにならない。
翔太の鋭い蹴りを入れる。
サブ・サンがすんでの所でかわす。
地を蹴り、壁や天井を蹴りサブ・サンと翔太がパンチや蹴りを入れ、その度に二人が交差した。
「動きがわからないわ」
和泉と沙羅が驚きの声を上げる。
「人間にあんな動きはできない。たぶん時空武器のおかげね」
沙羅が気づいた。
紀英州は掌底を弾いた。
エリックはよろけた。
紀英州の回し蹴りからのかかと落とし。
エリックはひっくり返った。
紀英州は白い鯉をつかみ上げ、ナイフを振り上げた。
翔太の飛び蹴り。
紀英州はその蹴りを腕一本で受け止める。
「な・・・」
驚く翔太。
「気功には硬気功もあるんだ」
紀英州は笑みを浮かべナイフで白い鯉を突き刺した。
いっせいに他の鯉が湖底から逃げ去る。
「精霊が・・・!!」
エリック達の声がはもった。
「これで攻めやすくなりましたよ」
サブ・サンは報告した。
紀英州はうなづくとサブ・サンと一緒に洞窟から去っていく。
「どうしようキジムナーが」
翔太は駆け寄った。
これは祖父から聞いた話だが精霊が死ぬとそこにある自然が枯れるだけでなく魔術師の魔術が使えなくなるのだ。そればかりか日食が起きて暗くなる。暗くなるだけでなく作物も育たなくなる。
「佐久間さんたちがやばい」
エリックは言った。
急激に暗雲が垂れ込め暗くなり太陽は日食で月と一緒に隠れる。
「どうしたのだ?」
「かが」の艦橋や甲板でどよめく自衛官達。
「日食?」
司令官が首をかしげた。
鄭和の攻撃に行っていたF-35Bが戻ってきて垂直に着陸する。
パイロット達もどよめいた。
「夜みたいになった?」
司令部要員が言う。
「Tフォースから聞いた事がある。この現象は精霊が死んだからだ」
本田は答えた。
東京にある首相官邸。
閣僚達がどよめいた。
「気象庁からです。太平洋周辺とアジア各国で日食が報告されています」
秘書が飛び込んできた。
「日食?」
三宅総理達が聞き返す。
「考えられる事は一つです。キジムナーが殺されたと思います」
思い当たる事を指摘するベック。
平賀はホワイトボードに複雑な数式を書いている。
「精霊は自然や魔術を司っています。それが死んだとなれば作物は育たなくなり、魔術師は魔術が使えなくなります。このままでは生態系も変わります。日本だけでなく世界中で四十八時間以内に気候も変わり、氷河期が始まります」
平賀は振り向いた。
閣僚達がどよめいた。
「総理。キジムナーの洞窟に紀英州中央軍事委員会副主席がサブ・サンと一緒に来てキジムナーを殺したそうです」
別の秘書が飛び込んでくる。
「中国政府内部にすでに入り込んでいるのは確かだったようだ」
楠木は難しい顔をした。
中国軍のフリゲート艦や駆逐艦が接近してきた。
朝倉はまんじゅうをこねるしぐさをして綿あめのような泡を投げた。つもりだったが泡が溶けて流れ落ちた。
急激に暗くなり日食になり驚くぺク達。
「何が起こった?」
三神は周囲を見回した。
「オーマイゴット」
「魔術が使えない」
アニータ達が頭を抱える。
「泡が溶けたのはみんなも同じ?」
朝倉が聞いた。
「俺達もなんだ」
困惑する間村。
「いけない。精霊が死んだ」
三島が言った。
「それはまずい状況だ」
三神が周囲を見回す。
Tフォースで聞いた事がある。精霊が死ぬと生態系が破壊され氷河期が始まるという。まさかそんな事はないと思ったが想定外のことが起きたようだ。
「遼寧と蘭州はどこやった?」
駆逐艦が聞いた。
「知らないね。探しに行けばいいだろ」
室戸がつっけんどうに言う。
「コアをえぐってそれを部屋に飾ってやる」
「この島は渡すものか」
フリゲート艦と駆逐艦のミュータントは声を荒げ、襲いかかった。
どうすればいいかわからない。
翔太は時空武器を出したがしかし死者を蘇らせる機能はない。くやしいが何もできない。
「このままでは氷河期が始まってしまう」
エリックは地底湖の湖岸を行ったり来たりしている。
「氷河期?」
翔太と和泉が聞き返す。
「キジムナーは自然の調和を保つ力を持っている。ガジュマルの古木の精霊だからね。ほとんどの精霊は自然を調和して水をきれいにたもち作物を育てる。それが死んだという事は生態系も崩れていくことを意味する」
エリックは湖岸を歩き回りながら説明する。
「こればかりはエクリサーでもダメか」
和泉は青いビンを眺めた。
「私はキジムナーから半分命をもらった。なら今、帰すときが来たわ」
決心したように言う沙羅。
「返す?」
聞き返す和泉。
「両親は禰宜で死にかけて生まれた私をこの地底湖に浸したの。なら私は返さなければいけない。やっと尖閣諸島や先島諸島を奪還できるチャンスがきた。私は喜んで返すわ」
沙羅は持っていたネックレスとお守り袋を翔太に渡す。
「そんな・・・」
絶句する翔太。
自分はなにもできなうえにそれを見なければいけないなんてありえない。
「翔太君。出会えてよかった。あなた方ならこの状況を変えられる」
沙羅は翔太に抱きつきキスをした。
驚き赤面する翔太。
沙羅は地底湖に入り両手を高くかかげた。
湖の奥から淡い光が灯り、浸した髪から絵の具が溶け出すように流れ、元の黒髪に戻っていく。すると死んで動かなかった白い鯉が動き出し湖に入った。湖底の底から二十匹以上の鯉がやってきた。
雷がなり響いていた暗雲がウソのように晴れ渡り青空が見えた。
「魔術が復活した!!」
声を弾ませる三島と大浦。
「バカな・・・」
駆逐艦のミュータントが驚いた。
「ファイアーランス」
「ブリザード」
「サンダー」
間村や三島達が呪文を唱えた。
いろんな方向から雷や火の玉や氷の玉が降り注ぎ、ミサイルが命中した。
「ぐはぁ!!」
岸壁や崖にたたきつけられる駆逐艦やフリゲート艦のミュータント達。
「バカなぁ!!」
駆逐艦が叫んだ。
「形勢逆転だな」
声を弾ませる間村。
中国軍のミュータント達は逃げ出した。
海警船も同じである。逃げていく。
宮古島から魔術や空飛ぶ能力を持つ中国兵が次々飛び去っていくのが見えた。
ヴァルキリーといずもは金属のドリルや赤色の銛で波王の船体を貫き、えぐった。
アーランが発射したミサイルが波王の船底で爆発した。
「波王。残念だね。太陽が出てきた」
オルビスは太陽や青い海を見ながら言う。
波王は船体から銛やドリルを引き抜いた。
「まだ戦いは終わってない」
波王は不敵に笑う。
「中国兵が逃げていくけど」
リンガムが指摘する。
「役に立たない奴らだ」
舌打ちする波王。
上空を輸送ヘリや輸送機が飛び去っていく。
「かならず今度は仕留めてやる」
波王は舳先を北方向へ向けて去っていく。
駆逐艦とフリゲート艦のミュータント達があわてて逃げ去るのが見えた。
「やったぞぉ!!」
鎖や錨をたたきあって喜ぶ間村達。
「残っている中国兵はどうする?」
三神が錨で指をさした。
「迎えがくるさ。来なければ俺達が用意して送迎するのさ」
室戸が当然のように言った。
キジムナーの洞窟から出てくる翔太達。
エリックは冷たくなって動かなくなった沙羅をおんぶして出てきた。
中国軍が乗り捨てていったボートがあった。そのボートに乗り込むエリック達。
八重干潟に出ると中国軍の艦船はいなくなっている。太陽は輝き、青い海が広がっている。中国軍の輸送機や輸送ヘリが飛び去っていくのが見えた。
「僕達は勝ったみたいだね」
翔太はつぶやいた。
犠牲の多い勝利だろうか。素直に喜べない。沙羅は半分もらった命を返したのだ。キジムナーは蘇った。
「これで中国軍は先島諸島からいなくなった。元に戻すのは時間はかかりそうだ」
エリックがつぶやく。
「翔太君。自分のやれる事はやったの。人には役目がある。彼女は役目をはたした。あなたにはあなたの役目がある。誇りに思いなさい」
和泉は翔太を抱き寄せた。
うなづく翔太。
「今日は長い日だった」
エリックは空を見上げた。
東京にある首相官邸。
閣僚達はホッとあんどのため息をついた。
「かが」「あかぎ」艦隊の戦闘と特命チームの戦闘が終わった二時間後だった。
今回の戦いのすべてが危うい綱わたりであることを自衛隊幹部も首脳部もそれをわかっていた。
しかも戦いはまだ終わっていない。東シナ海での緊張はなおも続いている。
尖閣諸島にいた上陸部隊も先島諸島にいた部隊も逃げて島はもぬけの殻になっているが先島諸島沖で「かが」艦隊が遊弋している。尖閣諸島沖にオルビス、リンガム、アーランがいる。
与那国島沖に特命チームがいる。
先島諸島の映像は入ってきているから北京から指示された計画は頓挫しているのだ。
一時間前にアメリカ政府から祝電の電話が入った。ロシア政府やモンゴル政府、東南アジアの国々からも祝電が続々はいってきているのだ。
「サブ・サンのタイムラインがまた消えた事は言えますね」
ベックが口を開いた。
「南海艦隊の基地の倉庫での爆発が先ほどあったので北京はダメージがかなりきていると思います」
平賀は冷静に言う。
「精霊も蘇り、氷河期はなくなったようだ」
博が秘書が渡した資料に目を通す。
「特命チームに志願した女性はキジムナーから命を半分わけてもらっていた。不思議な事があるのですね」
外務大臣が驚きの声を上げる。
「その女性は命を半分返した。彼女の犠牲がなければ我々は負けていた」
石崎はうなづく。
「中国はおとなしくなるでしょうか?」
ベックが口を開いた。
「サブ・サンがいるから正気でいられる。時空侵略者がいなければ手負いのクマ状態が瀕死の狼状態だろう」
外務大臣が推測する。
「中国国内まで我々は足は踏み入れる気はないですね」
官房長官がすました顔で言う。
「サブ・サンがいなければ勝手にあの政権は倒れている。下手に刺激すればICBMを撃ってくるかもしれないし普通のミサイルは日本の都市に標準に合わせている。日本にもミサイル防衛システムはあるけど一〇〇%防げるとは言い切れない」
石崎が説明する。
「あとは台湾ですね」
博が口を開く。
「先ほど入ってきた情報だと台湾軍が台湾の奪還に成功したようです。尖閣諸島の失敗を受けて中国兵が引き上げているようです。ただアメリカ政府がカメレオン討伐にすごい乗気になっている。あの四隻のミュータントを借りれるかもしれないね。ASEANの国々と連携してカメレオンを追い出す必要がある」
三宅総理は腕を組んだ。
「今更アメリカが出てくるのですか」
しれっと言うベック。
「都合がいいですね」
平賀が釘を刺した。
「でもサブ・サンが仕掛けた危機は抑えられた。カメレオンの対処法や彼らの暗号、通信内容を共有してカメレオンもなんとかしなければならない」
石崎が言う。
「あの射程が倍の光線はTフォースが着弾地点を解析していて七十五%の確立で予測ができます。着弾地点がわかればよければいい」
楠木は資料を出した。
「そこまでわかっている?」
驚く閣僚達。
「暗号や通信もカメレオンの少数派がつかんでいて七割は解読できるそうです」
航空総監が口をはさむ。
「それなら南シナ海にいるカメレオンと中国軍をなんとかできそうだ」
博は言った。
北京にある中央指揮センター
鄭和艦隊の壊滅とキジムナーがなぜか蘇って気候が回復。遼寧と蘭州は自衛隊に捕まり、中国軍の上陸部隊が引き上げた報告を受けて首脳部の閣僚達はがっくりと肩を落とし、青ざめていた。
南海艦隊基地の倉庫が日本人スパイにより爆発をした報告も聞いている。
「ウイグル自治区はウイグル人の反乱軍によって制圧されたようですが他の場所はまだ健在です」
秘書が駆け込んできた。
「そうか」
周主席は力なくうなづく。
「まだ七つの軍区は健在です」
紀英州中央軍事副主席が入ってくる。
「そうだな。まだ国内はデモを気にしなければなんとかなる」
周は顔を上げた。
「サブ・サン。住民を抑えるのには限界がある。これ以上何かあるともたない」
ヤン・サラはささやいた。
「それはわかっている。覇王の石を手に入れるまで辛抱だ」
サブ・サンは小声で言う。
部下達にまかせて住民達の感情を抑えさせているがいつまでも持たない。沸騰寸前だ。タイムラインがいくつも消えている。まさかキジムナーが蘇るとは思わなかった。ちゃんと計画したのに想定外の事が起こっている。
「覇王の石をなんとしてでも手に入れろ」
周主席は程府公安部長に指示した。
護衛艦「かが」
格納庫に三神達が集まり敬礼した。
ストレッチャーに寝かされていた沙羅の遺体に白い布をかぶせる二人の医務官。
艦尾側第二エレベーターに乗ると上昇して甲板に着陸しているオスプレイに乗せた。
「葛城君。よくやった」
簡易ベンチで座ってうつむく翔太の肩をたたく本田艦長。
うつむいたままの翔太。
「君はサブ・サンの計画を潰した。それに互角に戦ったそうではないか。君はすごいいい物を持っている」
本田は隣りに座る。
「あれは時空武器のおかげです。氷河期も起こらなかったし、日本も占領されなかった」
首を振る翔太。
確かに自分はサブ・サンと同じ動きをして戦った。三神さんみたいな事ができたのだ。でもそれは時空武器のおかげだろう。それにキジムナーが復活して氷河期は起こらなかった。サブ・サンの計画はいくつか潰れた事になる。
「そうだな。那覇においしい沖縄料理の店があるんだ。チームメンバーを連れて食べに行こう」
本田は笑みを浮かべる。
「そうしよう」
翔太は破顔してうなづいた。
「ここから出せ!!」
二つの大型犬用のゲージで叫ぶ遼寧と蘭州。
「かが」の格納庫の隅でゲージごと置き去りにされている。ミニマムで小さくされた二隻は檻をつかんだ。
三神はおもむろに木の枝でつっついた。
「ちくしょう!!俺達はイノシシじゃない」
遼寧と蘭州は威嚇音を出した。
「イノシシでもないさ。ポンコツとなんちゃってイージス艦の模型だね」
間村はゲージを見下ろす。
「すごいよくできた模型だ」
本田艦長がわりこむ。
「模型じゃねえわ」
二隻は声をそろえた。
「これって売れるの?」
オルビスがわりこむ。
「ブローカーに売り飛ばしても二束三文にしかならない」
ぴしゃりと言うウイル。
「本当に情けない船よね」
リドリーがのぞいた。
韓国語やタイ語、ヒンディ語、英語、インドネシア語、中国語でバカにするぺク達。
「この捕虜どうする?持って帰りますか?」
間村が聞いた。
「手続きが面倒だから帰ってもらうのが一番だね」
本田が結論を言う。
「残念だったなくず鉄にならなくて」
はやしたてる室戸。
「武士の情けでおまえらは元に戻して中国に帰ってもらう」
霧島が噛み付くように言う。
「覚えてろよ。俺たちを殺さずに捕虜にしなかった事を後悔させてやるからな」
遼寧と蘭州は捨てセリフを吐いた。
今日という日は、日本全国が落ち着きを失っていた。当然だろう。自衛隊創設以来、はじめて外国艦隊と戦ったのだ。
だが、早朝からの政府の呼びかけと、個々の戦いの状況が刻々としらされた事により、混乱することもなく職場や学校も交通機関も商店街も、いつもどおりに機能していた。
有志によって銀行に、戦死した自衛官や海上保安官、Tフォース隊員への香典の口座が設けられ、時間が経つとともに問い合わせや振込み件数が増えていった。
さらに先島諸島にいた中国軍が退却した事、工場や基地の建設をしようといくつかの家をや建物を更地にしていた事、精霊が一度殺されて氷河期が始まる一歩寸前の事にほとんどの国民は愕然としていた。
翌日もニュースや新聞で
鄭和艦隊壊滅
一度死んだ精霊を幼い頃に命を分けてもらった女性がそのもらった命を返して氷河期の危機から救う
尖閣諸島、先島諸島の奪還に成功
特命チームと自衛隊の極秘作戦が成功。
韓国近海にいた中国軍は撤退。
戦果は伝えられた。
国民は浮かれてはいなかった。
大勝利を祝う声は、全国のあちこちで聞かれた。
「これでひと安心だね」
「スーパーで食料品を買いだめしなくて済むわ」
「でも、いつまた危機が」
街や職場で家庭で言う者があれば大半の人々はうなづいていた。
「米軍の第七艦隊所属で横須賀を母港とする空母「ロナルドレーガン」が修理を終えて横須賀に入港しました。また新たに編成された空母打撃群とミュータントの空母打撃群を引き連れて黄海に向けて出港します」
男性アナウンサーが報告した。
映像に修理を終えて横須賀にやってきた「ロナルドレーガン」艦隊は東京湾でサラトガ達と合流して向かう姿が映し出された。
「今頃?」
「なにを今更」
「アメリカは嵐が過ぎ去ってから登場するのですか?」
国民の反応は冷ややかだった。
東京にある首相官邸
「中国はおとなしいですね」
三峰長官は口を開いた。
「サブ・サンとその仲間が抑えているからでしょうね」
ベックがわりこんだ。
「でも限界だろうね。おとなしそうに見えても国内の住民の我慢は沸騰寸前だ」
博は推測する。
氷河期は訪れず、鄭和艦隊は壊滅して、尖閣、先島諸島は奪還された。中国国内は経済も疲弊しているうえにガタガタだ。
「日本としては中国の問題には介入しない。ほっといても倒れるからね」
三宅総理は口を開いた。
「でもロナルドレーガンとあのミュータントを黄海に浮かべるのは効果的ではないですか」
官房長官が言う。
「国民の大多数がアメリカは嵐が過ぎ去ってからやってきたと揶揄しています」
石崎が口をはさむ。
それも無理ないだろう。目に見える場所に米軍はいなかったのだ。でもやはり米空母打撃群の登場により多くの国民は自衛隊の存在と一緒になにかしらの安心感を得ていたのは事実だろう。
「総理。ロシア政府が北方領土の相談をしたいと打診してきました。内容は二島返還なら応じると言っています」
官房長官が話を切り替える。
「今回の戦いで相談しようとしているけどあくまでも四島返還です。国際司法裁判所への提言しましょう。韓国の竹島も同様です」
はっきり言う三宅。
のどもとをすぎたらなんとやらで韓国も竹島も問題で竹島に守備隊を増やすと言っているのだ。
「韓国の大統領がまた竹島に上陸すると言っているけど阻止した方がいいのでは?」
外務大臣が提案する。
「そうですね。阻止も考えています」
三宅はうなづく。
「中国は話し合いに応じるでしょうか?」
ベックが口を開いた。
「サブ・サンがいると話し合いは無理だと思います」
博が答えた。
「サブ・サンとその仲間とカメレオンを追い出す方法を考えなければいけないですね」
石崎はうなづく。
「カメレオン討伐も含めて周辺国と協力して中国軍と時空侵略者をなんとかしましょう。其の後の事は考えればいいと思います」
三宅は言った。
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