第5話 尖閣諸島の戦い
北京にある中央指揮センター
「あの日本人少年と警視庁の刑事とエイリアンの子供は台湾を脱出して日本にいる?軍とカメレオンは何をやっている。程府公安部長!!」
机をバンとたたく周主席。
「Tフォースの台湾支部が手引きしたらしく、故宮博物館から脱出用地下道があったようでそこから脱出したようです」
程府公安部長は答えた。
「台湾からどうやって脱出した?」
周主席が聞いた。
「基隆市の漁港で上陸部隊が脱出する日本人少年を見ています。漁港に潜水艇があってそれを使って脱出しました」
陳総参謀長が答えた。
「サブ・サンのタイムラインはあてにならないな。自衛隊の護衛艦「いずも」「かが」
「あかぎ」はどこにいる?」
周主席が聞いた。
「佐世保基地に「いずも」がいます。「かが」「あかぎ」は就役に向けての試運転が開始されたばかりです。「ひゅうが」は呉基地で「いせ」は舞鶴基地です。「いずも」「かが」「あかぎ」は空母的な性格が強く垂直上昇機能があるF35を搭載できます。「ひゅうが」「いせ」は哨戒能力はありますが「いずも」型三隻は対潜水艦能力があり、洋上司令部機能が強化されています。「かが」「あかぎ」が就役する前に「いずも」を撃沈していいかもしれません」
陳総参謀長は提案した。
「それに人民は今、おとなしくなっています。おとなしくなっているうちに佐世保から九州地方を占領して日本を併合しましょう」
李国務院総理が口をはさむ。
「対米工作もうまくいってアメリカとは停戦合意に至りました。ロナルドレーガンが大破したのが効いたようです」
程府公安部長がわりこむ。
「それはニュースでも昨日の報告でも聞いている」
周主席はうなづく。
テレビニュースで東京湾から横須賀基地に傷だらけの四隻のミュータントに曳航されてくる空母「ロナルドレーガン」の姿があった。船体のあっちこっちから黒煙が上がり、甲板には穴がいくつも開いていた。基地に着いてから衛生兵によって死傷者が次々に病院に運ばれていく映像が映し出されていた。「ロナルドレーガン」はあの後、修理に入っている。応急措置的な修理が終われば大規模修理でアメリカに帰る事になる。
「リンガムというエイリアンの子供は艦船と融合していないというのを聞いている」
中央軍事委員会副主席が口をはさむ。
「今のところ、F-35だけです。脅威ではありません。「いずも」を先に沈めてしまうべきだと思います。その後はじっくり料理をすればいいかと思います」
程府公安部長が提案する。
「ではサブ・サンの言うタイムラインを消しに行こう」
周主席は言った。
同じ頃。佐世保基地。
佐世保には在日米軍と海上自衛隊の基地がある。
官舎に入ってくる博、佐久間、翔太、アーラン、オルビスとリンガム。
「本田艦長。巻き込んで申し訳ない」
博は頭を下げた。
「話は防衛省から聞いている。すでに荷物は搬出してある。私達は「かが」に移る事になる。「かが」も「いずも」も基本的に構造は一緒だ」
本田艦長は窓に視線をうつす。
聞いた時は驚いたが今、日本は状況的に不利である。ならリンガムが「いずも」と融合してもらった方が戦況は変えられるのではという可能性に賭けたのだ。
「立神桟橋から離れた岸壁に係留している」
本田艦長は立神桟橋から五十メートル離れた岸壁に係留される「いずも」を指さした。
「行こう」
翔太は促した。
「空母遼寧とイージス艦「蘭州」接近」
オルビスが気づいた。
「何ィ!!」
驚きの声を上げる本田と博。
港湾施設にテレポートしてくる遼寧と蘭州。
基地内に警報が鳴り響いた。
「ふふふ・・・あいつらは沖縄に釘付けよ。主要な艦艇は沖縄にいる」
蘭州はクスクス笑う。
「いずもを見つけた。沈めてしまえ」
遼寧は他の艦艇には目をくれず一〇対の鎖を出すと「いずも」に接近した。
ドーン!!
空母「ヴァルキリー」に変身したオルビスの体当たり。
遼寧が大きく揺れた。
「おまえなんか沈めてやる!!」
オルビスは叫んだ。二対の錨から金属のウロコが生えて、先端部を突き出す。先端部から金属のドリルが伸び遼寧の船体を貫通した。
「ぐはっ!!」
遼寧は船体中央部の傷口を二対の鎖で押さえ、よろけながら離脱する。
「叛士拳八双発破!!」
蘭州は一〇対のスピードを上げ一〇対の鎖を交互に速射突きをくりだした。
「ぬあああっ!!」
ヴァルキリーは一〇対の鎖を高速で突き出した。
「やああああ!!」
蘭州は数千発繰り出して緑の蛍光を放つ二対の錨を振り上げた。
とっさに右舷側船体から金属のウロコが生えて蘭州の錨を防いだ。蘭州の錨が欠けた。
「バカなあぁ!!」
愕然とする蘭州。
よろけながら港湾部から出る遼寧。彼は汽笛を鳴らした。
護衛艦「いずも」に駆けつける翔太達。
リンガムは船体側面の第二エレベーターから艦内に飛び込んだ。そして機関部に入り、エンジン部へ入った。
「ヤバイわ。駆逐艦とフリゲート艦百隻やってくる全部カメレオンよ」
アーランの顔が真っ青になる。
港湾部から逃げ出す蘭州。
中国海警の「2505」「2506」が港内に侵入して「いずも」に接近してきた。
「おまえらの相手は僕だぁ!!」
ヴァルキリーは六対の金属ドリルを伸ばした。「2505」「2506」の船体を貫き、頭上に持ち上げた。
持ち上げられ叫び声を上げもがく二隻。
それを切り裂くヴァルキリー。
船体が真っ二つに折れ閃光とともに爆発して四散した。
ヴァルキリーは港の出入口へ出た。
急激に強風が吹き荒れ、岸壁周辺で写真がたくさん舞っている。
「融合する」
翔太が気づいた。
「成功だ」
博がうなづく。
その写真は護衛艦「いずも」が造船所で建造されて海上自衛隊に引き渡されて、東日本大震災の災害支援にかけつけるといった内容である。青白い光に包まれ上空に光が放たれる。光の中で博、翔太、アーラン、リンガムは濃密な煙の中から女性自衛官が現れた。細面の顔、スタイルのいい体つき。乗艦していた乗員達のイメージを船魂が形にしたのだろう。でもその気配は威圧するような気配が漂っている。
「完全に僕達を敵視している」
翔太が気づいた。
「ヴァルキリー」もそうだが完全にオルビスやリンガムを異物扱いで敵意を持っている。それも無理ない。のぞまない形で融合する事になるのだから。
「リンガム。気をつけろ「いずも」本人だが敵意を向けている」
博は注意した。
リンガムは身構えた。
女性自衛官はいきなり鋭い蹴りを入れる。
リンガムはそれを受払い、パンチを入れる。
それを受け止める女性自衛官。彼女は速射パンチを突き入れる。
リンガムを間隙を縫うようにかわして速射パンチを入れた。そして掌底を突いた。
ひっくり返る女性自衛官。
リンガムは馬乗りになり彼女の首を絞める。 女性自衛官は片手を刃物に変えてリンガムの胸を突き刺し、もう片腕を彼女の腹部に突き刺した。
「ぐふっ!!」
リンガムは口から青い潤滑油を吹き出す。
彼女は目を吊り上げ反対に馬乗りになる。
ナイフでえぐられる激痛にのけぞるリンガム。胸や腹部からケーブルや金属骨格が露出している。
「護衛艦「いずも」私とあなたは長い付き合いになるわ」
リンガムは船魂の腕をつかむ。
船魂は眉間にしわを寄せて鬼のような形相でコアをつかむ。
「受け入れるの「いずも」。私はあなたの力を借りるの」
リンガムは船魂の胸に腕を突き入れた。彼女と船魂は黄金色の光に包まれた。
「いずも」を包んでいた光がやみ、金属が軋み、歪むような音が響き、船体から二対の鎖が飛び出した。
メキメキッ!!ギシギシ・・・
船体を激しく揺らした。
「いずも」とリンガムの声が苦しむ声が不協和音となって響く。
ヴォオオオン!!
獣のような吼え声と雄たけびを上げる「いずも」
そして苦しげな呼吸音が響き、艦橋の窓に二つの光が灯った。
リンガムは周囲を見回した。
「いずも」の船魂の存在を感じる。彼女はしぶしぶ納得したが自分を認めていない。
ソナーやレーダーに敵の船影が映し出される。電子脳にそれが立体的に表示される。敵の気配や敵意が黒い点となって見えた。
リンガムはミサイルに精神を振り向けた。
ミサイルが発射された紫色に輝くミサイルは接近してきた五隻のフリゲート艦に命中。爆発した。真っ二つに船体が折れて四散した。
リンガムは港の外に出た。
「潜水艦も連れてきたのね」
リンガムはソナーだけでなく匂いで魚が腐るよう匂いに気づいた。
「じゃあ遠慮なく狩るわ」
リンガムは声を低めた。「いずも」の艦首側第一エレベーターが降下して砲台が現れた。そこから赤い光る銛が複数飛び出した。太さは大木位。それは接近してきた五隻の潜水艦の船体を貫通してそれを魚釣りの要領で吊り上げた。
「行くよ」
リンガムはうれしそうに言う。
船体から五対の鎖は金属のドリルのように伸びて貫いた。潜水艦は真っ二つに船体が折れて閃光とともに爆発した。
ヴァルキリーといずもがデータリンクでデータを共有する。
「よし行くぞ!!」
リンガムとオルビスは声をそろえた。
船体側面の格納ドアが開いてレールガンの砲口が見えた。レールガンはレーザーを発射するものだが見た目はレールガンでも中身は時空船が保管していたストック装置にあった粒子砲である。二隻は青白い光線を発射。極太の光線が照射。
そこにいた数十隻の艦船が閃光とともに爆発して四散した。
「やったぁ!!」
ヴァルキリーといずもは鎖をたたきあって喜んだ。
「バカな・・・」
遼寧と蘭州は絶句した。
逃げていく駆逐艦達。
「どうするの?」
護衛艦「あしがら」が接近した。佐久間が融合するイージス艦である。
艦橋に博と翔太、アーランがいた。
「計画が・・・」
蘭州がつぶやいた。
「なんの計画だよ。ポンコツ空母」
テレポートしてくる護衛艦「あまぎり」「むらさめ」「みょうこう」
「間村、室戸、霧島」
なれなれしく呼ぶ遼寧。
「あきづき」「まきなみ」ミサイル艇「はやぶさ」が接近する。青山、西田、栗崎というミュータントが変身している。
「これはなんかの間違いなんだ」
遼寧は弁解する。
「なにが?」
護衛艦「しまゆき」がわりこむ。
「見逃してくれ」
「頼むからバラバラしないでくれ」
懇願する蘭州と遼寧。
「本当に情けない船よね」
怒りをぶつける佐久間。
「バラバラになんかしないし、見逃しもしない。拿捕はしないさ。その労力と時間はもったいないからな」
間村は吐き捨てるように言う。
「中国に帰ったら周永平に言うんだな」
室戸が言う。
「失敗しましたってな」
霧島がわりこむ。
「お・・覚えてろ!!」
遼寧と蘭州は捨てセリフを吐いて一目散に逃げていった。
同じ頃。東京にある首相官邸。
会議室に閣僚達が顔をそろえている。いずれも日本の危機であるというような緊張感が漂っていた。
「葛城長官は?」
三宅総理は口を開いた。
「佐世保基地です」
ベック支部長が答えた。
「葛城長官と相談したのですが明石元二郎大佐・・・明石作戦を行おうとしています」
石崎防衛大臣は口を開いた。
閣僚達がどよめいた。
明治時代、日露戦争の時に活躍した人物である。当時、桂太郎内閣は満州から南下し朝鮮をも併合しようとするロシア帝国に対して開戦は避けられないと苦渋の決断を強いられた。当時、日露の国力から見れば、まともにぶつかったのでは勝ち目がない。そのため政府は英米に側面支援の工作を展開するとともに、軍の参謀本部は百万円の対露工作資金を工面し、明石元二郎大佐をロシア帝国の首都サンクトぺテルブルグの日本公使館に駐在武官として送り込んだ。明石大佐は着任するとすぐスウェーデンに入り、フィンランドの独立を目指す革命党と親交を結んだ。革命党を通じ、レーニンと連絡を取り、ロシア革命支援工作をした。その結果、ストライキ、武装蜂起が相次いだ。日露戦争では葛城庵長官率いる特命チームの活躍もあり、戦艦「三笠」がオルビスと融合した。戦況が変わり勝利したのは歴史の通りである。ある意味、明石大佐は影の主役と言えた。
「北の工作員ライ・コーハンによるとウイグル自治区とチベット亡命政府の関係者と親交があるようです。チベットはチベットで中国ではないしウイグルは中国ではありません」
石崎大臣は説明する。
「それはわかっています」
外務大臣がうなづく。
「最終目的は中国国内を混乱させる事です。混乱すれば日本に影響ははじめはあっても内政干渉さえしなければ勝手に倒れて分裂します。中国国内には日本の企業や邦人もいますが危険がせまれば引き上げるだけです。中国じゃなくても東南アジアに企業の拠点を作ればいいのだけのことです」
ベックは説明した。
「なるほどね」
楠木幕僚長は納得する。
中国もロシア製の武器を買い込んでいるがそのオーバーホールはロシアまかせである。中国が分裂してもロシアは知らん顔するだけ。痛くもかゆくもない。
「でもとにかく葛城長官の息子さんは無事でよかった。息子さんが連れてきたのはカメレオンの少数派の穏健派の子供を連れてきたそうだね」
三宅は話を切り替える。
昨日の会議でマシンミュータントに擬態しているエイリアンを「カメレオン」と呼ぶ事にした。ニュースで流れている。カメレオンは中国軍と一緒にいる。そしてさっき米軍のロナルドレーガン艦隊を襲った。生き残ったのはサラトガ、エセックス、フリーダム、リトルロックと空母「ロナルドレーガン」だけであった。群れで襲ってきたという。ボスは空母「波王」であるという。その「波王」は傷口が治ると同時に小型船がいくつも生み出されるのだという。「ロナルドレーガン」は大破して航行不能で横須賀に帰ってきたのをテレビニュースでも放映していた。横須賀基地で航行できるように修理したあとはアメリカへ大規模修理に帰るだけである。
ロナルドレーガンに乗艦していた乗員は四五〇〇人だがそのうちの半数に死傷者が出た。軍の病院だけでは受け入れられず、市内の病院にも搬送された米兵であふれかえっていた。
「少数派と強硬派は仲が悪く穏健派を閉じ込めていましたが逃げて深海にいるそうです」
石崎が報告する。
「強硬派はサブ・サンに賛同して行動しています。彼らもTフォースにくわわります。サブ・サンと強硬派カメレオンの暗号解読や無線傍受の協力をするそうです。それと国際ハッカー集団のメンバーが中国政府と中国軍のネットワークのかく乱を手伝ってくれるそうです。使えるツテは全部使います」
楠木の眼光が鋭く光る。
「そうしないと日本にとても勝ち目がないし、ここで抑えなければ世界に危機が及ぶ」
三宅はうなづく。
「総理」
秘書官が部屋に飛び込んできた。
「佐世保基地周辺で特命チームのヴァルキリーと遼寧、蘭州が交戦。接近していたカメレオンの群れを追い返したそうです。そのさいに護衛艦「いずも」とリンガムが融合して交戦したそうです」
秘書官はテレビモニターをつけた。
「いずも」がいる岸壁で青白い光が上空に伸びている様子が映っている。直径は三百メートルの光の中心に「いずも」がいる。
港に入ってこようとした遼寧と蘭州を攻撃するヴァルキリーの姿が見えた。撮影場所は佐世保市内か山の上だろうか。
光がやむと「いずも」は五対の鎖を出して獣のように吼えた。
どよめく閣僚達。
「中国軍はこの二隻に追い返されました」
秘書官は報告した。
「すでにネットで拡散したね」
石崎が指摘する。
たぶんニュースでも「いずも」がマシンミュータントになった事は知られる。でもその中身がリンガムというエイリアンまでは誰も知らない。政府としてはそれでいい。
「佐世保は救われましたな」
楠木の眼光が鋭く光る。
「戦況が少しは変わりそうですね」
三宅が言った。
北京の海南台。
「どうなっているんだ!!」
周永平主席は顔を朱に染めて叫んだ。
「想定外のことが起きた」
サブ・サンは冷静に答えた。
部屋にいた閣僚達が振り向いた。
「これを見ろ」
周主席は新聞を机に置いた。新聞はロイター通信や日本の新聞、ミューヨークタイムスといった新聞が乱雑に置かれている。
第一面に
”護衛艦「いずも」マシンミュータントになる”
”空母「ヴァルキリー」と一緒に中国軍上陸部隊を追い返す”
とあった。
写真には融合の光を放つ様子や潜水艦や中国の海警船を倒して、駆逐艦を追い払う様子と攻撃に失敗して助けを懇願する遼寧や蘭州の姿まで映っていた。
「タイムラインが消えたのではないのか?」
周主席は声を低めた。
「想定外の事は計画のうちに入れている。融合したのならこっちにだってそれ専用の武器はある」
サブ・サンは言う。
「ほう。そうか」
周主席は怪しむ。
「もちろんこの二隻をなんとかしなければ話は進まない」
冷静なサブ・サン。
「ではあの二隻をなんとかするのだ。我々は自衛隊をなんとかする。対米工作でやっとアメリカが引っ込んでくれたのだからな」
周主席は言った。
戦後はじめて日本は「有事」と呼ばれる事態の中にある。その中で八月ということからほとんどの学校は夏休みに入っていた。中国軍の侵攻から二ヵ月が経ったが教育機関も交通機関、日常生活に特に混乱は生じていなかった。武力紛争が長期化すれば別である。
また、紛争の原因が尖閣一帯の争奪にあることがわかっている事から、日本国民の大多数が、戦争は本土に及ぶ事はない・・・中国側も前面衝突までは考えていないとそう見ていた。そのために、息を潜めるという雰囲気まではない。
ただ、政府の公式発表やその正確さは素人では判断しがたい諸情報が断続的に流れるだけで国民は少なくとも、海上保安官、自衛隊の中から多数の犠牲者が出ているだろうと察していた。対馬や佐渡島や日本海側にある離島から本土に避難してくる人が出始めた。
志水港にいる家族には元気でやっているとメールを三神は送信した。あれから二ヵ月が経って本土では夏休みに入っている。俺は再編された尖閣専従部隊に入って奇襲、ゲリラ攻撃にくわわっている。八ヶ月前には考えられなかった事だ。
空母「ロナルドレーガン」が大規模修理でアメリカに帰ってからサラトガ達とは会っていない。アメリカが中国との停戦合意してから横須賀にある在日米軍基地には米軍のイージス艦や巡洋艦は停泊しているだけ。人員も留守番の米兵を残して主要な兵力をアメリカに引き上げている。
俺達もそれをただ見ているだけではない。特命チームと一緒に奇襲作戦に参加している。
「三神、宮古島に補給艦がいる」
朝倉が指摘する。
「知っている。作戦指令書がどっかにあるんだろ」
三神はレーダーを見ながら言う。周辺に駆逐艦がいるが人間や普通のミュータントが乗る普通の船である。
どこか遠くの方で爆発が聞こえた。
航空自衛隊の戦闘機ミュータントと普通の戦闘機の混成部隊が船舶を爆撃したのだろう。
ならこっちもおおいに暴れさせてもらう。
「ゲイルブレード」
沢本は走りながら二対の錨を交差した。近くにいたフリゲート艦の船体が真っ二つに両断される。普通の船だから真っ二つに折れて沈む。
「ファイアーボール」
大浦と三島は呪文を唱えた。
接近してきた三隻の普通のフリゲート艦の船体に複数の直径一メートルの火の玉が命中した。火柱が何度も上がり傾いた。
五隻は元のミュータントに戻って補給艦に飛び乗った。
沢本は持っていた日本刀を抜いた。
三人の兵士が狼男に変身して飛びかかったがその太刀筋は見えなかった。
沢本が鞘に納めると狼男達は両断されて海へ落ちた。
背中から二対の鎖を出して壁をよじのぼって艦橋に飛び込む三神、朝倉。
中国語で叫ぶ艦長。
乗員達は短剣や長剣を抜いた。
三神が動いた。その動きは艦長達には見えなかった。彼が着地すると袈裟懸けに斬られた乗員達が倒れていた。
朝倉は泡を投げた。泡は槍に変化して虎男や狼男に変身したミュータントに突き刺さる。
もんどりうって廊下で倒れる乗員二人。
朝倉と三神は艦内に入った。
襲ってくる乗員を倒しながら駆け抜けCICに入った。
氷の槍と石の槍が突き刺さり倒れる乗員達。
やったのは大浦と三島である。
「もう制圧したんだ」
三神と朝倉が周囲を見回す。
足元にはここの区画要員達が倒れていた。
「このUSBを差し込めばいいのか」
沢本はUSBを差し込む。
USBはブレインから渡された物である。ただデータに何が入っているかは解析待ちになる。
「金庫を見つけた」
室内を物色する三神。
「こいつ鍵を持っている」
倒れている乗員から鍵の束を取る朝倉。鍵を順番にさしこんだ。合う鍵があり開いた。
「これ作戦指令所だ」
三神と朝倉がのぞきこむ。
「なんの文字?中国語でも韓国語でもない」
驚く二人。
「ギリシャ語でもドイツ語でもロシア語でもないわ」
三島と大浦が指摘する。
「ハングル語でもなさそうだ」
困惑する四人。
「オルビスやブレインに見せるしかないな」
三神が腕を組んだ。
どうやら中国軍はこれを上陸部隊にいる「
カメレオン」に渡すつもりだったのかもしれない。
「よしできた。それの書類も持って帰ろう。連中が来る」
GPSレーダーを出す沢本。
これはTフォースから借りた物だ。自分達が融合した巡視船は自衛隊や米軍の艦船ほど高度なレーダーまで備えてない。
レーダーに「カメレオン」のフリゲート艦が接近してくる。
「爆弾セットした」
朝倉はバックから正方形の物体を置いた。
五人はテレポートした。
五隻の「カメレオン」のフリゲート艦が接近してそのうちの一隻が補給艦に鎖でつかむ。せつな閃光とともに爆発。光は同心円状に百メートル広がってそこいたフリゲート艦は四散した。
翔太はリドリーが変身する警備船の船橋ウイングから身を乗り出し時空武器を弓に変えて矢を射った。光る矢は五本に分裂して中国のイージス艦「望洋」の艦橋の窓に突き刺さった。
「ぐあっ!!」
望洋は目をかばうしぐさをする。
望洋がカメレオンの擬態なのは知っている。
周囲にいる海警船が船首を向けた。
アレックスが発射したミサイルが命中。
ぺクやキムの鎖が中型の海警船の船体を貫き、コアを引っこ抜いた。
中国語でののしり爆発して四散する。
何隻もの海警船のミュータントが爆発した。
リヨンやアニータ、トム、ウーライ、リーフ達は石垣島に接近しようとした揚陸艦に接近した。揚陸艦は普通の船で艦内に中国兵の上陸部隊が乗っているのは事前情報で知っている。
ミンシンやフランが放った火の玉や雷の槍が揚陸艦に命中。次々火柱が上がり爆発した。
「みんな帰るよ」
翔太が船内無線で指示した。
アレックス達はテレポートした。
「Tフォースめ・・」
望洋は刺さった矢を引き抜いた。
そこには揚陸艦が爆発しながら真っ二つに船体が折れて沈んでいく姿が見えた。周囲にいた海警船も残骸が浮いていた。
北京にある中央指揮センター。
「・・・以上であります」
作戦参謀の報告が終わった。
「日本側の反撃をまったく食い止められていないではないか。この二ヵ月、奇襲、ゲリラ攻撃に始まって国際ハッカー集団「アウンノウン」のサイバー攻撃もなんとかできていない。日本人少年もエイリアンの子供も台湾攻撃の時に逃がして自衛隊と一緒に攻撃にくわわっている。何としても尖閣諸島は渡すな。アメリカがおなしく引っ込んでくれているうちが勝負だ。いつやるか?今なんだ」
陳総参謀長は声を荒げた。
黙ったままの作戦参謀。
「作戦を見直すんだ」
陳総参謀長は促した。
「日本の自衛隊は予想以上に手ごわいようだな」
資料に目を通していた周主席が顔を上げた。
さすが世界軍事ランキング四位だけのことはある。この二ヵ月。自衛隊もおとなしくしているのかと思ったら、Tフォースの特命チームと組んで奇襲攻撃やゲリラ攻撃、補給部隊を攻撃したり、石垣島、宮古島、与那国島に造った基地を爆撃してカメレオンとミュータントが駆けつける前に逃げ去る。自衛隊のミュータントは補給物資を奪ったり、海上や空から基地を攻撃して逃げ去る。逃げ足も速かった。おかげで先島諸島の兵士に補給物資が二日間届かないとか資材が奪われて基地の建設がストップする事が何度もあった。補給がストップするということは士気が下がる事を意味する。
「通常戦力の戦闘能力はかなり高いとみています」
陳総参謀長がうなづく。
「大変です。周主席」
秘書があわてて部屋に入ってきた。
「どうした?」
週主席が振り向いた。
「ウイグル自治区で住民が武装蜂起しました。香港と上海では大規模なデモが発生して武警と衝突しています!!」
秘書は報告した。
「何ィ!!」
閣僚達もどよめいた。
スクリーンを切り替える程府公安部長。
映像や武器を持って地方政府や軍の基地に流れ込む人々が映っている。上海や香港では警察署や地方政府を囲む住民の姿が映る。
口をあんぐり開ける周主席。
この二ヶ月間おとなしかったのになぜ?
「国際ハッカー集団「アウンノウン」がご丁寧にも日々の戦況を微簿や百度サイトやフェイスブック、グーグルに乗せているのです」
程府公安部長が報告する。
「なんでハッカー集団が我々の邪魔をするんだ」
周主席は歯切りする。
二ヶ月前、このハッカー集団が中国を攻撃すると宣戦布告をしてきた。ハッカーだから武力攻撃はなくともサイバー攻撃は頻度が高く、遼寧と蘭州の懇願する姿や奇襲やゲリラ攻撃で壊滅した部隊などわざわざ住民に流すようになった。民衆の目を外に向けさせるどころか中央政府に向いている。
「サブ・サンともう一人の連れはどこにいるんだ」
周主席はふと思い出した。
「ここにいますが」
部屋に入ってくるサブ・サンとヤン・サラ
「タイムラインとやらはどうなった?」
周主席が聞いた。
「私達が小さなタイムラインは見えないが大まかなタイムラインは見える。探知できなものもある」
サブ・サンはしゃあしゃあと答えた。
「答えになってない」
李総理がしれっと言う。
「我々の作戦はキジムナーの洞窟に現れる精霊を殺そうという作戦を立てている。魔術師はたいがい精霊と契約する。ならその精霊が死ねばその精霊と契約している魔術師や召喚師は魔術が使えなくなり有利になる」
サブ・サンが提案する。
「それはいい作戦だ」
周主席と陳総参謀長が身を乗り出す。
「大変です。青島にある軍の倉庫が爆発しました」
中国軍将校は駆け込んできた。
「どうなっているんだ」
作戦参謀がつぶやく。
「どうやら日本側の放ったスパイが紛れ込んでいたようです」
くだんの将校が答えた。
「どうやら自衛隊とTフォースは行動を開始をはじめると思います」
陳総参謀長は口を開いた。
「私達がヴァルキリーといずもをなんとか食い止める」
サブ・サンがわりこむ。
「当たり前だ」
周主席は目を吊り上げた。
「サブ・サン。一つタイムラインが消えた」
ヤン・サラがつぶやいた。
「何が消えたのかね?」
李総理が聞いた。
「いやなんでもない。失礼する」
サブ・サンは困惑するヤン・サラの腕を引っ張って部屋を出て行く。
「自衛隊と特命チームを尖閣諸島と先島諸島から引き離せ。勝てるか?」
周主席が声を低めた。
「もちろんです」
陳総参謀長は答えた。
東京にある首相官邸
「やっと作戦が実を結んでくれましたね」
楠木統合幕僚長が口を開いた。
モニターにはウイグル自治区での住民による武装蜂起や上海や香港でも大規模なデモ隊と武警と小競り合いになっている様子が映っている。
「青島にある中国軍の倉庫が爆発したというのを聞いたけどあれは日本人のスパイではないですよね?」
三宅総理がたずねた。
「あれは北のスパイのライ・コーハンがやった事です。中国政府は北のスパイには気づいていないようです」
石崎防衛大臣が指摘する。
ライ・コーハンの知り合いに国際ハッカー集団のメンバーの知り合いがいる事は驚きだったが使えるものは使う。北朝鮮との拉致問題は後で考えればいい。
「中国の外務省で記者会見が始まったようです」
部屋に秘書官が入ってきた。
モニターを切り替える官房長官。
映像に中国の外務省が映り、女性報道官が入ってきた。
「尖閣諸島は古代よりわが国の領土であり、魚場である。そこへわが国の漁民が上陸するのはなんら問題がないばかりか、当然の権利である。それを日本の軍国主義者が妨害した事は、国際的にも許されない事であり、当然の権利である。近づいてくる自衛隊の艦船やTフォースの船を追い払った」
熱弁をふるう女性報道官。ひと息入れるとさらに続けた。
「わが偉大なる中華民族は、日本が先島諸島と称している列島を占領した。日本は真摯に受け止めなければならない。もし武力でまた島に近づくなら、それは帝国主義の露呈であり、そこに起こりうる事態は、すべて日本帝国主義者が追わなければならない。尖閣諸島は純粋にわが国の国内問題であり、もし日本帝国主義を支援する国があれば、その国に対し、わが国はICBMを含む、充分な報復力を保持していることを、最後につけくわえておく」
女性報道官は言った。
記者会見の様子を見ている三宅総理達。
「どうやらスパイがライ・コーハンである事に気づいていない。奇襲作戦、ゲリラ攻撃で補給や資材が滞っていて基地が建設できないことにイラだっていますね」
石崎は推測する。
この二ヵ月間、自衛隊もじっとしていたわけではない。カメレオンの少数派の協力して中国側と強硬派カメレオンの無線や暗号を傍受していた。中国側の無線や暗号は米軍が知らせてきたりする。米軍もおとなしく引っ込んでいたわけではなかったし、ロシア政府もこっそり教えてくれる。かなり把握している。カメレオンの少数派のリーダーであるイザヤとは会った事があり、アーランと通信、暗号要員をよこしてくれた。カメレオンの無線や暗号は音や超音波がモスキート音となってラジオ電波、FM電波に混じってくる。それを拾っていく。専用の暗号機があり形はナチスドイツのエニグマ暗号機に似ているという。奇襲攻撃とゲリラ攻撃しているうちに補給艦や輸送船内部にあったのを特命チームが奪ったものである。さっきの外務省の会見といい中国側の動きといい暗号機が盗まれているということに気づいていないのかもしれない。カメレオンの動きもそうだろう。
「補給が何回も途絶えればその軍隊は士気も下がる。戦意も落ちてくる。それにウイグルの武装蜂起。中国国内でデモや暴動が頻発している。中国政府も落ち着いていられない。中国政府は近いうちに艦隊を出すと思います」
楠木は冷静に分析する。
何度か補給要請や資材が足りないという通信が報告に入っている。
「わかった。準備をしよう。サブ・サンやカメレオンの動きに注意しながら行動開始だ」
三宅総理はうなづいた。
その夜。辺野古基地。
翔太は官舎の屋上から海を眺めていた。
中国軍が台湾や尖閣、先島諸島を占領して二ヵ月になる。自分は高校を中退して特命チームにくわわっている。本当なら学業に励みたかったが自分の力がないと時空関連の物は対処できない。昼間に石垣島に向かっていた揚陸艦部隊を襲ったが三神のチームは補給部隊を奇襲した。そこには別の暗号機があって書類もなんらかの兵器の資料があった。地図もあって南シナ海で何かをやっているという結論がでている。
八ヶ月前とは環境も変わった。
中学卒業を迎えようとしている頃で進路に迷っていた。それが学校の林間学校で東北地方に行ったら東日本大震災が発生。自分も転校生のクララもオルビスも仙台で巻き込まれた。二回も震度7の大地震が発生。高さ三十メートルの大津波が襲ってきて自分達は建設中のビルに逃げ込むのが精一杯だった。その津波で浸水する仙台の街へ命がけで入ってきて助けてくれたのが三神と朝倉である。二人は佐久間から依頼されて助けに来た。仙台や東北地方は壊滅して、福島第一原発が爆発して半径三十キロの地域は住めなくなった。今も避難生活を強いられている人達は多い。その中での中国軍侵攻だ。この戦争が終わればまた学業に励みたいと思っている。
「翔太。ごめんね。私達の戦いに巻き込んで・・・」
リンガムが近づいた。
「私達の力がなくてごめんね」
アーランがあやまる。
「いや、起こった事はしょうがないよ。僕は東北地方の人達も先島諸島の人々の力になりたいだけ。せめて中国軍を先島諸島から追い出して現状を打開したい。そしたら台湾も解放につながる。この戦争が終われば僕は学校へ行きたい。大学で政治学を専攻してカメレオンの少数派とオルビスの種族と人類が共存できるようにしたい」
翔太は目を輝かせる。
それは本音である。力では解決しない。話し合いは重要だ。話し合いで解決できるものがあればとことん話し合いして着地地点を探せばいい。二ヵ月前、米軍の空母「ロナルドレーガン」が大破して修理してアメリカに帰って行ったのをニュースで見ているし、台湾侵攻で死体だらけの場所で手の指にロウソクの火のように燃えているのが印象に焼きついている。それ以来サラトガ達とは会っていない。アメリカ政府は中国政府との停戦合意ですっかりおとなしくなっている。
「それなら私達も協力するわ。私達も他の異星人との共存を選んだ」
リンガムは口を開いた。
「戦争で自分のいる惑星を吹き飛ばすまでは、カメレオンも本来はそうだった。サブ・サンの策略にかかったの。強硬派は破壊のみの集団になった。サブ・サンの種族は全時空、全種族、全時代に自分達は唯一の絶対的種族であること知らしめる事しかない」
アーランはどこか遠い目をする。
「それってすごい大義名分だよね。身勝手すぎる。僕達がここで食い止めないと世界に危険が及ぶ。サブ・サンの種族の狙いは地球人の戦闘奴隷化だろうから」
翔太は真剣な顔になる。
高祖父は日露戦争に従軍した。そしてTフォースを創設した。自分に何ができるか?自分には時空や時間を感知できる武器や能力があるしオルビスやアーラン達がいる。時空を監視するチームを作ればいい。
「それはわかるわ。サブ・サンの戦闘奴隷になった異星人達を見ているから」
リンガムがうなづく。
「僕はこの戦いが終わったら時空を監視する専門家チームを作った方がいいと思っている。オルビスやリンガム、アーラン達が最適だと思う」
思い切って言う翔太。
「それに賛成するわ」
アーランがうなづく。
「そうね・・・」
リンガムは最後まで言えなかった。心臓を万力で締められるような痛みに身をよじった。
「どうしたの?」
翔太が声をかける。
「融合の苦痛よ。オルビス来て」
アーランは無線に切り替えた。人間で言うテレパシーのようなものだ。
屋上に駆けつけるオルビス。
翔太は腕を押さえた。
アーランとオルビスは体や手足を押さえる。
メキメキッ!!
リンガムは血流が激しく壁をたたくような痛みに声を上げた。胸から腹部、わき腹が深く断ち割れ、ケーブルや歯車が飛び出す。
翔太はケーブルをつかむ。
それは血管のように脈動している。質感はゴムを触っているようだ。
「ぐあああっ!!」
目を剥くリンガム。
ギシギシ・・・メギギ!!
胸から腹部内部の金属骨格が露出する。体内の機械類が蠢いて、発電機や集積回路やシリンダーといったものを造り出す。体内内部の感じも艦内の格納庫ドックを連想するような造りに変形していく。
「これは融合した「いずも」の物だ」
翔太はケーブルや飛び出した歯車を触る。
どれも格納庫で見た事のある装置だ。この四角形のフタは艦内エレベーターに形状が似ている。
「いずも。君がやっているのか?」
翔太は聞いた。
「そうだ」
鋭い目つきで女性の声で答えるリンガム。
「間もなく本格的な戦いが来るのを感じたんだね」
翔太は推察する。
「そうだ・・・ぐふっ!!」
リンガムは答えると身を激しくよじった。
体から激しい軋み音が聞こえ、胸や腹部、わき腹、背中から金属のドリルやノコギリが飛び出した。
リンガムといずもの叫び声が不協和音となって響いた。
耳障りな肉が割れ、骨が軋む音が響く。体内も体自体も激しく何かが這い回るように盛り上がりる。
「がんばれリンガム」
翔太は声をかけた。
彼女のわき腹の穴から砲口がいくつも顔をのぞかせる。しばらくすると金属のドリルもケーブルも体内に引き込まれ縮小して体内へ格納される。
でも苦しげな呼吸音が聞こえ、激しく胸が上下する。
「ぐうう・・・」
激しくのけぞるリンガム。
断ち割れた胸、腹部、背中、わき腹から金属の芽が飛び出し、鎧を形成する。
ドクッドクッっという心臓音とともに鎧が崩れ金属の芽となって体内に納まった。
ぐったりするリンガム。
「融合の苦痛が終わったね」
ホッとする翔太。
オルビスとアーランはうなづいた。
翌日。
那覇と辺野古、嘉手納との通信が増えた。
「よし」
沖縄から五十キロ離れた海域に展開している「かが」艦隊の司令官はうなづき、全艦に命じた。全兵装の安全装置はすでに解除している。
「前進用意、そのまま待機」
進路は北方向である。
ここから五百キロ先にあるのが折江省にある東海艦隊基地から空母「鄭和」の空母打撃群が出航。駆逐艦二隻、フリゲート艦四隻。イージス艦二隻。潜水艦は不明。
午前八時頃に米軍から衛星情報が入った。
いずれも普通の船であるという。
すの数分後、北海艦隊の情報が入った。青島にいた空母「波王」とイージス艦「望洋」艦隊が動き出したという情報が入った。「波王」や「望洋」がカメレオンである事は知っている。同じく空母打撃群を構成している。これはロシア軍からの情報である。
空母「鎮遠」艦隊のある南海艦隊は動かずにそこにいるという。
「空母「波王」艦隊は特命チームにまかせよう」
司令官は司令部要員の乗員に指示を出した。
「武運を祈る」
本田艦長は司令部要員のやり取りを聞いてつぶやいた。
同じ頃、東京の首相官邸
「・・・やっと出てきてくれましたね」
楠木幕僚長はため息をついた。
「作戦を聞いたが佐世保も横須賀も主力を空になる。大胆だね」
三宅総理は資料を見ながら聞いた。
空っぽの場所にカメレオンが来たらそれこそ日本は終わりである。
「鎮遠は動いていませんが脅威なののは空母「波王」でしょう。「波王」と戦ったサラトガ達の話では傷口はすぐ治り、治った場所から小型船が生み出されるそうだ。小型船は武装されたフリゲート艦や駆逐艦の姿をしていて動き回りながら実物の艦船と同じ大きさになるのが報告されている」
石崎が資料を閣僚達に渡す。
「まるでギリシャ神話のヒュドラではないか。あれは斬った場所から首が生えてどんどん手ごわくなる」
三峰長官が口をはさむ。
「鎮遠を残したという事は戦力を温存しているようですね」
楠木が指摘する。
「波王が出るなら鎮遠艦隊を出さなくていいと思っているだろう。それを利用します。南海艦隊の基地に北の工作員を向かわせました。騒ぎを起こすためです」
博は声を低めた。
「騒ぎが起これば鎮遠は出てこないですからね」
石崎はうなづく。
「厳しいがチャンスが来たと思っている」
三宅は言った。
沖縄沖二百二十キロの海域。
「空母「波王」がやってくるんだね」
オルビスは甲板から視線を海に向けた。
護衛艦「かが」の甲板に特命チームのメンバーが顔をそろえている。こうして集まるのは二ヵ月ぶりだ。
「本田艦長。ご協力ありがとうございます」
翔太は礼を言う。
「当然の事をしたまでだ。空母「鎮遠」は南海艦隊は動いていない。鄭和艦隊が南下している。こちらは普通の船だから我々がなんとかする」
本田ははっきり言う。
「空母「波王」にサラトガは勝てなかった。ならそのできなかった分を撃ちこめばいい」
間村はオルビスの肩をたたく。
「遼寧と蘭州は?」
三神が聞いた。
「あのポンコツは波王と一緒にいる」
室戸が答えた。
「敵は総力を集中してしかけてくるだろう」
本田が推測する。
「波王艦隊は僕達が引きつける。彼らの狙いは僕とリンガムとアーランだから」
オルビスがうなづく。
「俺達も行くぞ」
三神が声をかける。
沢本や大浦、三島の他に尖閣専従部隊のミュータント達も入っているし、アレックス達も入っている。
「本田艦長。奪還できたら一緒においしい店へ食べに行きませんか?」
翔太は誘った。
「かまわないよ」
本田は笑みを浮かべる。
三神達は海に飛び込んで巡視船に変身した。
リドリーの船橋に乗り込む翔太。
「私達も志願したの」
エレベーターから船橋へジャンプして乗り込む和泉、エリック、沙羅の三人。
佐久間達も海に飛びこんで艦船に変身して
「かが」艦隊と離れた。
「かが」の艦橋に戻る本田。
レーダーを見るとミュータント達が離れてかわりに鄭和艦隊の艦影を映し出した。
ここから二百キロ離れた海域にP-1哨戒機が哨戒している。
「敵艦隊周辺の潜水艦は三隻」
という通信が入ってきた。
哨戒中のヘリ四機が戦闘モードに入った。艦隊の前面と左右に潜行している潜水艦もデータリンクしており、同時に戦闘モードに入っている。潜水艦は「そうりゅう」「うんりゅう」「はくりゅう」である。ヘリが飛ぶ外側をP-3Cが飛行している。
いま最前線にいるのは、早くから潜水艦「
そうりゅう」三隻である。
接近してくる鄭和艦隊の進路はわかっている。進路はこのまま「かが」艦隊の方へ向かっている。
波王艦隊は迷わずに特命チームの方へ向かっている。
「敵潜水艦、「そうりゅう」に接近」
司令部要員がつぶやいた。
「・・・距離五〇〇」
「そうりゅう」のソナーマンは報告した。
データリンクして近くにいた「うんりゅう」が近づく。
「そうりゅう」に接近する敵潜水艦。
「探信魚雷二本発射」
「そうりゅう」「うんりゅう」から魚雷が発射される。
二隻の敵潜水艦はあわてて舵を切った。しかし簡単には向きは変わらない。回避行動を取る前に魚雷が命中した。
P-1哨戒機のレーダーから潜水艦の艦影が二つ消えた。
海面にはおびただしい水泡が浮かんだ。
「そうりゅう」「うんりゅう」は急いで海域を離れた。
鄭和艦隊はしばらくスピードを落としたがすぐにスピードを上げた。
「随伴の潜水艦を失っても艦隊単独でやるべきことがあるようですね」
「かが」の副長がささやく。
「そのようだ。次はあれを使うぞ」
本田が格納庫カメラに切り替えた。
もちろん特命チームには内緒である。
「かが」のエレベーターが動いて次々とFー35B戦闘機が姿を現した。ヘリ空母「かが」の甲板から、二機づつ同時に最新鋭の戦闘機が轟音とともに空中へ上昇した。轟音と噴煙を残してあっという間に北方向へ消えた。
「司令官。米軍から緊急情報が入りました。山東省のミサイル基地に熱源を捉えました。ミサイルが数機が上昇中にあり」
司令部要員の乗員が報告した。
「あかぎから緊急連絡。貴艦は鄭和艦隊に専念されたし」
別の司令部要員が報告した。
「了解」
「かが」はその海域から離れた。
本田はレーダーをのぞいた。
接近してくる飛翔体はミサイルである。ミサイルは「あかぎ」艦隊が放ったミサイルによって撃墜されその周囲で爆発して四散して消えた。
「八〇キロ先の海域にいた敵潜水艦を二隻しとめたそうです」
司令部要員の乗員が司令官に報告する。
「敵の駆逐艦を一隻を沈めました」
別の司令部要因が報告する。
「敵はあの攻撃のあと油断したようだ」
本田は副長にささやく。
「そのようですね」
副長がうなづく。
「殲20接近」
ソナーマンが報告した。
殲20は中国軍のステルス戦闘機である。専門家によると未知数と言っていたがF-35Bにだいぶ技術が近づいているという。
「距離一万九〇〇〇」
司令部要員が報告した。
各艦がいっせいに速射砲を発射した。ミサイルよりも戦闘機の方が的は大きい。接近してきた殲20戦闘機五機は撃墜されて海へ落ちていった。
「いずも」に随伴しているイージス艦「きりしま」護衛艦「てるづき」「いかづち」から対艦ミサイルが発射される。
鄭和と一緒にいる駆逐艦はソブレメンヌイ級駆逐艦はロシア製で高度なイージスシステムを持っているが米軍や自衛隊のイージス艦より機能は劣っている。
鄭和と随伴している駆逐艦やフリゲート艦は潜水艦「そうりゅう」「うんりゅう」「えんりゅう」を探してながら対潜機雷を海中に投下していた。そこへミサイルがやってきたのである。
鄭和や駆逐艦に一〇発のミサイルが命中。火柱を上げ、爆発する。
鄭和は六発も命中して黒煙を上げながら傾いた。爆発が何度か起こり甲板の艦載機もろとも沈没した。
逃げ出すフリゲート艦三隻。
「かが」艦隊から複数のミサイルが飛んできて命中した。
「かが」の艦橋からでも黒煙と火柱ははっきり見えた。
「生存者を助けるのだ」
司令官が指示を出した。
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