第4話 中国軍の侵攻 つづき

 「我々はどこに向かっているんだろうな?」

 羽生は船内でつぶやいた。

 「さあ日本に帰ることができればそれでいいわ」

 疲れた顔でつぶやく田代。

 黙ったままの翔太。

 自分達が乗っているのは李三希が指示した潜水艇である。パイロットはいなくて無人で自動運転なのだろう。携帯は圏外である。それは田代、羽生の携帯も圏外になっていた。あれから四時間が経つが情報がいっさい入ってこない。

 「僕のレーダーもソナーも遮断されて周囲の状況がわからない」

 オルビスが不安な顔で言う。

 「私もよ」

 つぶやくリンガム。

 それから小一時間経っただろうかどこかに着岸するような衝撃によろけた。

 青銀色の髪の少女が入ってきた。

 「着きました。とりあえず降りてください」

 少女はそっけなくそういうと手招きした。

 「どこへ?」

 羽生と田代は顔を見合わせる。

 困惑したまま潜水艦ドックの岸壁に上陸する翔太達。

 黙ったままついていく翔太達。

 トンネルを抜けるとそこはドームの中に都市があった。そんなに大きい街ではなく数十件の世帯が入る建造物が点在している。

 「ここはいったい何だ?」

 羽生は周囲を見回す。

 「宇宙人の船?」

 田代は困惑する。

 彼らはひときわ大きいドーム型の建造物に入った。

 「ここは小笠原諸島沖の日本海溝の熱水孔噴出地帯にある海底都市だ」

 初老の男性は口を開いた。ピッタリフィットする緑色のサイバネティックスーツを着用している。ここに住む人達の服装なのだろう。

 「日本海溝?」

 聞き返す翔太。

 「我々は時空武器を操る人間を探していた。そしてオルビスとリンガムと合流するためにこの惑星にやってきた。私はここのリーダーのイザヤ。百年前に死んだオウルや未来人ダニエルとは友人の関係だ。我々は異星人からは「カメレオン」と呼ばれている。オルビスの種族の亜種だ。というかその少数派だ。穏健派と強硬派に大昔に分かれて強硬派の連中は我々を隔離した」

 イザヤと名乗った男は説明した。

 「隔離?」

 「もともと住んでいた惑星が自ら起こした戦争で破壊して流浪生活になった。小数派の我々は他の種族と共存をのぞんだが強硬派はサブ・サンと組んで侵略と破壊しかない連中になった。私達は隙をついて逃げた。ここには五百人住んでいて、マリアナ海溝に五〇〇人、その他の海溝に五千人点在している」

 イザヤはどこか遠い目をする。

 「僕達は阿蘭・・・アーランという人を探すように言われました」

 翔太は李三希からもらったストック装置を出した。

 「アーラン」

 イザヤは呼んだ。

 青銀色の髪の少女が近づいた。

 「え?」

 アーランと呼ばれた少女はストック装置を胸の接続穴にはめた。

 「米軍の最新鋭潜水艦が入っているのね」

 アーランの目が鋭く光る。

 「どうなっているんだ?」

 困惑する羽生。

 「この人達もオルビスと同じようなエイリアンよ。難民としてここにいるだけ」

 田代がささやく。

 「難民か。そうかもしれない。サブ・サンの仲間に追われてここに隠れている」

 イザヤはため息をついた。

 「まず何が起きているのか知りたい」

 羽生は口を開いた。

 「数時間も潜水艇に缶詰で携帯も圏外で何も情報がない」

 田代がわりこむ。

 「では何が起きているのか見なさい」

 イザヤは正面スクリーンをつけた。

 「日本時間、午前一〇時頃、中国軍が台湾、先島諸島に侵攻しました。台湾の総統府は中国軍の管理下にあります。そして先島諸島の宮古島、石垣島、与那国島、尖閣諸島は占領されました。先島諸島にいた住民は中国軍が用意した船に全員乗せられ追い出されました」

 男性キャスターは報告した。

 「中国軍と一緒に行動しているのはサブ・サンに加担した強硬派カメレオンだ」

 イザヤは画面を切り替えた。

 衛星画像には宮古島や石垣島、与那国島だ。宮古島と与那国島と池間島を結ぶ橋は落とされ、街は瓦礫とかしている。レーザーや光線で切断したように建物や山のてっぺんが刃物でスッパリ切られたようになっている。自衛隊の分駐地や石垣島の海上保安部施設は全壊し、地面に大穴が開いている。

 「カメレオンを止められるのはオルビス、リンガム、アーランと君だけだ」

 イザヤははっきり言う。

 「僕は時空武器が使えるだけです」

 首を振る翔太。

 そうは言っても自分に強力な魔術は使えない。ウラノスの時は運がよかっただけだ。

 「時空、時間操作能力は君しか使えない」

 イザヤの眼光が鋭くなる。

 「中国軍の方は人間達がなんとかするだろうがカメレオンを見分けられる仲間をワシらも派遣する。協力してサブ・サン達を元の世界に追い返すんだ」

 イザヤは強い口調で言う。

 「僕にできることがあるならなんでもやる」

 オルビスがうなづく。

 

 「リンガム。陸へ行ったらこの船と融合するんだ」

 写真を渡すイザヤ。

 「え?いずも」

 驚くリンガム。

 「空母の能力がないと戦えない」

 イザヤが言う、。

 「行こう」

 翔太が言った。


 同時刻。辺野古基地。

 半年前に建設された新しい基地である。世界一危険な基地と言われた普天間基地は縮小され米軍が使用している。その代わりに辺野古基地は日米共同になった。

 航空自衛隊辺野古基地の官舎内にあるミーティングルームに十人の自衛官の男女が集まった。みなF-2やF-15Jと融合するミュータント達である。

 「編隊長。どこを攻撃するのですか?」

 大野は口を開いた。

 「占領された先島諸島だ。威力偵察だ。君らは反撃の第一歩となる」

 編隊長と呼ばれた自衛官は言う。

 「偵察ですか?一気に攻撃しないのですか」

 大野は聞いた。

 「中国軍と一緒に異質なエイリアンの報告が入っている。連中は船に擬態している。どんな武器を持っているのかわからないから偵察をするのだ」

 編隊長は正面モニターを出した。

 衛星画像に先島諸島の周囲に群がる大型船の群れが見えた。百隻はいる。いずれも船体のどこかに光る模様があった。

 「じゃあ見に行こう」

 大野はうなづいた。

 格納庫の外へ出るミュータント達。彼らは戦闘機に変身した。

 鳥が飛び立つように舞うミュータント達。

基地から飛び立ち十機の編隊を組んで飛び去った。

 「大野。君は特命チームに選ばれたのだろう?」

 F-2戦闘機が聞いた。

 「宮原。特命チームも自衛隊のスクランブルと変わらない。選ばれたらエイリアンと戦わないといけない」

 ため息をつく大野。

 「そうですね。半年前は本当に時空侵略者が侵入してきた」

 宮原と呼ばれたくだんの戦闘機が言う。

 「時空のゆらぎは閉じたけど今度は中国が呼んだ。それを追い返そう」

 大野は語気を強める。

 「もちろんそのつもりです」

 宮原が言った。

 「宮古島だ。戦闘準備」

 編隊長機のF-15が声を荒げた。

 高度を下げる大野達。

 宮古島に資材を運ぶ中国兵達が見えた。港には揚陸艦がいる。

 機銃掃射をする大野達。

 数十人の中国兵が撃たれ倒れた。

 大野は対艦ミサイルを発射した。揚陸艦に命中。火柱と爆発で傾き沈んだ。

 宮古島を離れ、石垣島上空に入った。

 石垣島にも揚陸艦がいて戦車を揚陸しているのが見えた。

 対艦ミサイルを発射するミュータント達。

 二隻の揚陸艦は火柱を上げて真っ二つに折れて沈んだ。

 石垣島海上保安部に五隻の海警船がいた。いずれも大型巡視船である。船首に「2902」「2903」「2503」「2502」「2301」とあった。

 五隻は沈んでいる海保の巡視船の部品や機器類をもぎとり物色していた。

 「2902」が船首を戦闘機の方に向ける。

 「特命チームの戦闘機がいる。あの大野という戦闘機を捕まえろ!!」

 「2503」が叫んだ。

 「な・・・」

 絶句する大野。

 煙突から黄色に光るミサイルがたくさん飛び出した。

 チャフをバラまいて回避行動を取る大野達。

 「2301」「2502」「2503」の煙突から赤色に光る十本以上のムチのようにしなる銛が飛び出した。

 五機のF-2とF-15の機体に銛が突き刺さり四散した。

 「退却だ!!」

 編隊長機が叫んだ。せつな赤い銛が刺さる。

 大野は巧みな操縦でその銛をすんでの所でかわして石垣島から離れた。

 「2902」のスクリューがジェットエンジンノズルに変形して走った。

 「なんだあいつ?!!」

 宮原が叫んだ。

 トビウオのように跳ねながら走る「2902」がいた。

 「スクリューじゃない。エンジンがジェットエンジンだ」

 驚きの声を上げる大野。

 両舷から金属のヒレが出ている。船体から一〇対の鎖を出す「2902」鎖から赤い光線を発射した。

 二機のF-2に命中して爆発した。

 「大野。なんとかして逃げろ」

 宮原はそう叫ぶと旋回した。

 「やめろ!宮原」

 大野は叫んだ。

 宮原は呪文を唱えると二対の鎖を機体から出した。

 「スラッシュアタック」

 宮原は緑の蛍光に包まれ「2902」のエンジンへ突っ込んだ。前のめりにつんのめり横滑りするとジェットエンジンを廃棄してスクリューが勢いよく回転して追いかけてくる。

 「2902」は二対の錨が赤色に輝く。

 すると強い磁力に大野は引き寄せられた。

 二対の鎖でつかむ「2902」

 大野はもがいたが相手の力が強くて振りほどけない。

 「捕虜にする。代弁者になって・・・」

 「2902」は最後まで言えなかった。大木のように太い青色の光線が貫いたからである。

 「ぐはっ!!」

 「2902」は思わず大野を放した。

 海中が盛り上がりクジラが飛び出すように出てくる空母「ヴァルキリー」

 大水柱をいくつも上げて出てくる空母。

 「オルビス!!」

 大野は驚いた。

 「遅れてごめん」

 艦首を向けるヴァルキリー。声はその巨体に似合わず子供の声。オルビスだ。

 接近してくる「2903」「2503」「2502」「2301」

 ミサイルを発射する五隻。黄色に光るミサイルがヴァルキリーの手前で爆発した。

 「そんなもの命中しない!」

 一〇対の鎖を船体から出すヴァルキリー。

 五隻から赤い銛を発射された。

 艦橋の二つの光が吊り上る。船体に金属のウロコが生えて一〇対の鎖を覆い硬質化した。五隻のムチのようにしなる銛をその鎖でなぎ払い弾いた。その鎖の先端がドリルのように変形。その五対のドリルに貫かれ、切断される「2301」「2502」は閃光を上げて爆発した。

 「2902」「2903」「2503」の煙突から太いムチのような銛がヴァルキリーの船体に巻きついた。

 「ぐうぅ・・・」

 ヴァルキリーはくぐくもった声を上げた。

この空母と融合するオルビスは思わず声を上げた。電子脳に船体が軋む音が聞こえ、ダメージが万力で締め上げられるような激痛として送信される。

 オルビスの電子脳に百十一年前の日露戦争の旅順口での戦いと今が重なった。あの時はロシア帝国の戦艦のミュータントにコアをえぐられそうになった。でも相手は戦艦じゃない。普通の船だがカメレオンだ。

 「おまえらなんかにコアを取られてたまるかぁ!!」

 ヴァルキリーとオルビスの声がはもった。船体の四方八方から大木のように青白く光る太いノコギリでムチを切断した。

 「ぬああああ!!」

 ヴァルキリーは獣のように吼えた。そして艦首側エレベーターが開いて砲台が飛び出した。そこから青白い稲妻をともなった光線がそこにいた三隻に命中。

 「バカなあぁ!!」

 「2902」は叫んだ。

 三隻は一瞬にして塵と化して爆発した。

 「こいつ・・・すげえ生命体だ」

 絶句する大野。

 いや二ミッツ空母と融合したオルビスなら戦局は変えられる。

 浮上する潜水艇。

 「大野さん無事でよかった」

 ハッチが開いて翔太が顔を出す。

 「無事だったんだ」

 潜水艇に舞い降りミュータントに戻り身を乗り出す大野、

 ミシミシ・・・バコッ!

 軋む音がしてヴァルキリーの一〇対の鎖と右舷側船体を覆っていた金属のウロコがはがれ落ちた。


 同時刻。北京中央指揮センター

 侵攻作戦開始後、最高首脳会議が行われていた。

 周主席は戦況の報告を受け、また次の段階に進むにあたって各当局に指示をしていた。

 「陳恵総参謀長より報告を」

 首相が口を開いた。

 陳恵総参謀長と呼ばれた将校は大型スクリーンの前に立った。

 「ただいま北京時間十五時でありますが同九時、現在の侵攻作戦の遂行状況を報告を申し上げます。まず、第三機動艦隊を中心に展開中の釣魚島占領作戦は反撃がないまま順調に進行中であります。

スクリーンに五星紅旗がついているのは、すでにわが将兵が上陸し、占拠状態にあることを意味します」

 陳は説明した。

 「第三機動部隊は攻撃を受けたのか?」

 周主席はたずねた。

 「いえ受けてません。しかし絶えず日本の偵察機が周辺に飛来しており、中には無人攻撃機も含まれるものと警戒しております。続いて先島諸島の状況を説明します。十五時現在、宮古島、石垣島、与那国島での日本側のレーダー及び通信施設に対する無力化と破壊、海保、自衛隊分駐地への制圧は完了しました。

そして台湾の状況ですが総統府、市街、基地は制圧しました」

 陳は報告した。

 「沖縄の米軍はどうなっている?」

 周主席はジャスミン茶を飲んだ。

 「米軍には動きはありません。対米工作はうまくいっているようです。ですが自衛隊の戦闘機、駆逐艦が集結中です。ミュータントも集結しているので奪還に動くと思われます」

 陳は答えた。

 「李遜花首相。対米工作の方は頼みますぞ」

 周主席はチラッと見る。

 「もちろん優秀な者を行かせています」

 李遜花首相はうなづいた。

 「台湾侵攻で行方不明になっている日本人少年はどうした?警視庁の刑事とエイリアンの子供と一緒にいたが?」

 周主席はたずねた。

 「まだ行方不明です」

 陳が答えた。

 「早く見つけるのだ」

 周主席は指示を出した。


 中国首脳部が会議している頃、東京の首相官邸では官房長官による記者会見が開かれていた。その時点までに日本政府はアメリカ政府に対し、日米安保法案の発動を要請をしていたがアメリカ議会での審議は開かれていなかった。一方、中国政府との間では停戦を巡る駆け引きが続いていた。

 

 官房長官の会見が終わるやいなや報道陣の記者が矢継ぎ早に質問をしてきた。

 「尖閣諸島だけでなく先島諸島、台湾、南シナ海の島々に軍事侵攻した名文を、中国側は核心的利益を守る予防的措置だと言ってきたことについて政府はどう考えるのか」

 男性記者は質問した。

 「まったく受け入れられない論拠と考えています」

 官房長官が答えた。

 「生存者の話では中国軍と一緒にマシンミュータントに擬態したエイリアンがいると目撃情報が入っています。それは海警船、駆逐艦、民間の大型船の船体のどこかに光る模様があるそうですね」

 女性記者がたずねた。

 「それは調査中です」

 官房長官は答えた。

 「先島諸島の住民は全員追い出されました。対馬や隠岐、佐渡島周辺に中国海警船が出没しているそうですね。避難を考えていますか」

 初老の記者がたずねた。

 「それは協議中です」

 「中国側から停戦を申し入れをしてきたがどうお考えですか」

 「それは協議中です」

 「擬態したエイリアンは生存者の話では変形して光線を撃ってくるそうですね。射程は倍だそうです。反撃するにはどういう作戦でいくのですか?」

 「まだ会議中です」

 「アメリカは財政の崖から転落して議会と大統領はもめています。米軍は参戦しないとみていますが日米同盟の今後を考えた方がいいのではと思います」

 「まだアメリカ議会で審議ははじまっていません。まず日本がすべきことをするというのは当然な原則の下、全力を尽くすべきと考える次第であります」

 官房長官ははっきり答えた。

 

 辺野古基地。

 基地内の官舎でも官邸の記者会見同様にもめていた。

 あきれかえるライ・コーハン。

 「台湾は中国に占領された。その攻撃で葛城君と二人の刑事とエイリアンの子供は行方不明ではないか」

 烏来は中国語で声を荒げた。

 「なんで自衛隊は動かない!!攻撃されて中国と交渉に入っているというが併合だろう」

 ぺクとキムは韓国語で声を荒げた。

 「南シナ海の島が攻撃を受けた」

 トムはタイ語で言う。

 マレーシア語やインドネシア語、英語、ヒンディ語でののしるフラン達。

 「この基地に来たのはその奪還部隊にくわわるために来たんだ」

 三神は声を張り上げた。

 「今、攻撃すべきだ」

 朝倉は声を荒げた。

 「やかましいわ!!」

 間村は拡声器で一喝した。

 黙ってしまうアレックス達。

 「米軍みたいに兵力があればとっくに出しているだろうが!!」

 室戸は間村の拡声器を持った。

 「俺達は海警「2901」を倒した。だから倒せるんだ!!」

 三神は机をたたいた。

 「話を聞いたら十一人がかりだろ。海警船は八百隻以上いるんだぞ。そのうちの半数が光る模様がある。集団で来られたらやられる」

 霧島は拡声器と反論した。

 「佐久間はどこいったんだ!!」

 朝倉は指をさした。

 「東京支部」

 霧島がしゃらっと言う。

 「米軍同様に役に立たないじゃないか」

 タイ語でののしるトム。

 「日本語しゃべれよ」

 しれっと言う間村。

 「腰抜け」

 イラリア語でののしるリヨン。

 「全員留置場決定だな」

 あきれる間村。彼はパチッと指をならす。

 「ちょっと待て!!」

 「話が途中だ」

 「バカな」

 アニータ達はそれぞれの国の言語でわめきながら三十人の自衛官達に羽交い絞めにされ地面に押し付けられ手錠をかけられ文句を言う三神達を連行していった。

 

 夕方。東京にある首相官邸

 「総理。ホワイトハウス報道官の声明を出しました」

 首席秘書官が三宅の元に駆け寄った。

 「中身は宣戦布告か?」

 三宅は顔を上げた。

 「いえ、これまで通り、日中、特に中国側に自制を呼びかけると共に、即時、軍の徴兵を要請するものでした。また、沖縄に避難してきたアメリカ人及び外国人の早期身柄引渡しを強く求めています」

 「去年、有事のさいのアメリカがどうでるかんぼシュミレーションをやったが政府見解通りに参戦しないな。国益を重視に回ったか」

 少しイラ立ちをぶつける三宅。

 葛城長官ともふまえての協議だったがまったくその通りになった。

 「とにかく尖閣はわが国だけで奪い返すべきだろう。米軍みたいに大兵力はない。葛城長官の提案では小さな作戦から成功してチャンスがきたら一気にたたく作戦で行くべきではないかと言われた」

 三宅は口を開いた。

 「そうですね。七十年前の戦争で二ミッツ提督がやった飛び石作戦ですね。開戦直後、米軍は小さな作戦を成功させていった。それは使えそうですね」

 官房長官はうなづく。

 「私も賛成だ」

 三宅は言った。


 夜、Tフォース東京支部

 営業時間が終わり、窓口には誰もいないオフィスに佐久間、大野、オルビス、リンガム、博と翔太、アーラン、ベック、平賀がいた。

 田代と羽生は帰ってここにはいなかった。

 「・・・話はわかった。中国軍と一緒にいるのは「カメレオン」という亜種で金属生命体だが乗り物と融合しないと他の惑星では生活できない。特に地球の重力がダメで融合前の状態では生活できず、大気も苦手。だから乗り物と融合するのか。しかし特徴の光る模様は個体差があって民族衣装のようなもので隠せない。生態は基本的に深海生活か。中国軍といるのはサブ・サンに従う強硬派で穏健派は共存を願っているが少数派である。海底に隠れ住んでいるのは少数派だった」

 博は話を整理しながら口を開いた。

 「そういうことになります」

 うなづく翔太。

 話せば長くなるけどそういうこだ。

 「台湾の侵攻前に李紫明の父親に出会ったのね。その父親は初代長官と一緒に行動していた王虎の子孫ね。これは何かの縁ね」

 ベックはうなづく。

 「そうだね」

 翔太が口をはさむ。

 高祖父は歴史的に有名だけでなくその仲間もかなり有名だ。歴史に名前を残したのだから。本部のアルバムに高祖父と仲間の写真やセオドア・ルーズベルト大統領やエジソン、ヘンリー・フォード、カーネギー、アインシュタインといった有名な偉人との写真もかなりあるし、一部を博物館に寄贈している。

 「そして大野さんは十機で威力偵察に行った。そしたら中国軍が資材を揚陸していた。石垣島では五隻の海警船がいてそれが襲ってきた。すべて科学力でまかなっていて魔術は使えない。でも魔術は有効で有利である。五隻を倒したのはオルビス。ここまで情報があれば戦局は変えられると思うわ」

 平賀はホワイトボードに数式をビッシリ書きながら振り向いた。

 オルビスは顔をゆがめよろけた。

 「どうしたの?」

 驚く佐久間と翔太。

 「融合の苦痛よ。早すぎるわ」

 リンガムが気づいた。

 「そこの簡易ベットを持ってきて」

 佐久間が隅にある折りたたみベットを見つけた。

 弾かれるようにアーランとリンガムはベットを持ってきて広げてオルビスを寝かせた。

 翔太と博、ベック、平賀はロープで彼の手足を縛った。

 「百十一年前も早くに融合の苦痛が来たというのを聞いたわ」

 佐久間は足を押さえながら聞いた。

 「あの時は幼かったのもあるけど彼の場合は早いんだ」

 博は暴れるオルビスを押さえた。

 オルビスは過呼吸に近い感じで胸が激しく上下した。

 ビシビシ・・・ギシギシッ!!

 オルビスは目を剥きのけぞった。胸や腹部、わき腹にかけて激しく軋み歪み、何かが這い回るかのように盛り上がりへこむ。腹部から胸にかけて機械類が飛び出す。それは電磁カタパルトのシリンダーとケーブルだった。収束装置とケーブルは血管のように脈動している。

 メキメキッ!!

 背中からジェットエンジンのようなノズルが飛び出した。

 「痛い・・・」

 オルビスは身を激しくよじった。

 ドクドクという心臓音が聞こえた。胸から腹部に出ていたシリンダーは分解され吸い込まれ傷口はふさがらないまま金属のウロコが生えてそれは胸当てやショルダーパッと、腹部プレートや篭手、足にも金属の鎧が生えた。それは十センチの厚みがあった。

 ミシミシ・・・メキメキ・・・

 わき腹から金属のヒレが飛び出す。

 「この鎧とウロコは空母に変身していた時も生えていた。いわば盾であり攻撃の武器にもなるわね」

 アーランとリンガムが気づいた。

 「そういえばそうだ」

 翔太はうなづく。

 オルビスは気がつかないうちに能力を使っている。やっているのはヴァルキリーだろう。彼には空母「ヴァルキリー」と船魂の意識が存在する。それにさっきでてきた集束装置は空母にある装置で戦闘機を発艦させるものであり着艦する時はフックで引っかけて強制的に止めるものだ。エンジンは見た事のない形状だ。たぶん他の惑星で見つけたものでジェットエンジンに似ているけどちがうようだ。だが水中でも海面でも九十ノット以上で走れそうだ。わき腹の金属ヒレはトビウオのように水面を跳ねながら航行できるだろう。それにこの鎧は船体の一部だろう。

 ヴァルキリーとオルビスのうめき声が不協和音となって響く。

 「ヴァルキリー。痛いの?」

 翔太は声をかけた。

 「痛む・・・」

 女性の声で答えるオルビス。

 胸当て、わき腹、腹部、背中、両足、両足から十本の直径三十センチの金属ドリルとノコギリが飛び出した。長さは一メートルだ。

 思わず身を伏せる翔太達。

 「このノコギリとドリルは使えるな。あいつらを倒した」

 冷静な大野。

 「彼ならこの情勢を変えられる」

 確信をもつ翔太。

 「だが彼だけではダメだ。リンガム。護衛艦「いずも」と融合するんだ。「いずも」は洋上司令部機能だけでなく対潜水艦能力もあり空母的な性格も強い」

 博は何か決心したように言う。

 「・・・気がすすまないけどこのまま追われ続けるのは嫌だからサブ・サンを追い出したいわ」

 リンガムはしぶしぶうなづく。

 「明日、閣議がある。そこで提案する。今日はここに泊まる」

 博は視線をうつす。

 バキバキッ!!

 「ぐあああ!!」

 そこには十本のドリルとノコギリが生えたまま苦しむオルビスがいた。

 しばらくオルビスはのけぞり身をよじっていたがやがてドリルやノコギリは縮小して吸い込まれていく。そして鎧はウロコのように分解してはがれ落ちた。でもまだうめき声を上げのけぞっている。胸から腹部にかけての傷口は開いたままでわき腹からケーブルがいくつも出ている。

 胸から腹部にかけての傷口から金属骨格と胸部の青白く光るコアが見えた。わき腹の穴から歯車がいくつも飛び出しショートして火花が散った。歯車とシリンダーが見えた。

 「痛い・・・痛い・・」

 オルビスはもがいた。

 焼きゴテを押し当てられたような痛み、ナイフでえぐられるような痛み、心臓や肺を万力で締め上げられるような痛みが電子脳を刺激する。

 バキバキ!メギギィ!

 体が激しく軋み、歪んだ。

 「がんばれオルビス」

 翔太は激しく軋む彼の胸を押さえた。なんともいえない違和感。ゴムをさわっているような質感だ。

 「融合の苦痛が終わらないわね」

 心配する佐久間。

 「長いわ」

 アーランとリンガムも心配する。

 「たぶんカメレオンと対抗できるように造り替えているんだ。彼が簡単に死なないように。シリンダーと一緒に発電機みたいなのが見えた。あれは予備電源だ」

 翔太がふと思い出す。

 だからサブ・サンや他の異星人からオルビスの種族が狙われ続ける理由だろう。たぶんこの順応能力で宇宙船や船に変身できて武器も強力なものを持っている。戦えば戦うほど強くなりかつ無敵になっていく。考えれば宇宙最強の生命体だろう。だがそう進化したせいでオルビスの種族は生涯その融合の苦痛に苦しむのだ。

 「融合の苦痛が終わったら閣議で提案する予定だ」

 博は額の汗をぬぐった。


 翌日。首相官邸。

 会議室に閣僚達が顔をそろえていた。

 閣議の内容も尖閣諸島をどう奪還するのかの話し合いである。しかし中国軍と一緒にいるカメレオンの数の多さに自衛隊幹部達は戸惑いを見せていた。

 「総理!!」

 部屋に入ってくる秘書官。

 「何かね?」

 振り向く三宅総理。

 「米軍の第七艦隊が沖縄から先島諸島に接近しつつあるそうです」

 秘書官が報告した。

 「おお!そうか!」

 閣僚達がどよめき波顔した。

 「先ほど、マーク在日米軍司令官から電話があったのですが本国からの宣戦布告の通告はなくとも、我々は常に日本にあるという意思に変わりない。たとえ戦闘はできなくても、それ以外のすべてで日本側に良かれと思う事を実行すると言っていました」

 秘書が報告する。

 「そうですね。米艦隊がその海域にいること自体、中国側には圧力になります」

 楠木がうなでく。

 「第七艦隊にはあのサラトガやエセックス、リトルロック、フリーダムというミュータントがくっついています。ただカメレオンとまともに戦えるかわからないですね」

 心配する石崎。

 「そうですね」

 外務大臣がうなづく。

 「最初の侵攻でカメレオンが大量に出現して石垣島の海上保安部をまっさきに壊滅させ巡視艇のミュータントを十隻食べたといいますし、あの射程が倍以上の光線は脅威です」

 石崎の眼光が鋭くなる。

 「戦況がそれで変わればいいですね」

 楠木が言った。


 沖縄本島から二百キロの海域。

 空母「サラトガ」強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」とイージス巡洋艦「ジャーヴィス」イージス艦

「スティングレイ」「ジョンソン」と潜水艦三隻が航行している。いずれもミュータントである。

 空母ロナルド・レーガン艦隊はここから一〇〇キロ離れた海域を航行している。

 「南シナ海や先島諸島、台湾に現れたカメレオンは数百隻いると聞いたが本当なのか」

 「スティングレイ」が聞いた。

 「逃げてきたミュータントの話では本当らしいぞ。それも巡視船、駆逐艦、民間船に擬態していて船体のどこかに光る模様がある。そして射程が倍の光線を発射するそうだ」

 サラトガが答えた。

 「時空船騒ぎの次は中国軍の侵攻。世の中どうなっているのかしら」

 アイリスがつぶやいた。

 「時空侵略者のほとんどは実は中国政府や中国軍にいたんだ」

 レジーが言う。

 「死んだスパイは重要な物をあの少年に渡していた。中身はサブ・サンの種族とカメレオンの情報。剥製の手はカメレオンの物らしいぞ。カメレオンも俺達同様に元のミュータントに戻るけど水かきがあり首にエラがある。髪は銀髪のメッシュが入り、両目は赤色か紫色。顔の右か左側に光る刺青がある。魔術は使えないそうだよ」

 レイスが説明する。

 「魔術が使えないならこっちに勝ち目があるのでは?」

 潜水艦「シーウルフ」がわりこむ。

 「まだ俺達に勝ち目はある」

 イージス巡洋艦「ジャーヴィス」が言う。

 「ハリス。よく言った」

 レジーとレイスは声をそろえる。

 「俺達がその攻撃の第一歩になる。どんな連中か見てやる」

 サラトガが言った。

 「オオーッ!!」

 意気込み声を上げるミュータント達。

 「空母二隻、イージス艦二隻、駆逐艦三十隻、フリゲート艦五〇隻接近」

 潜水艦「シーウルフ」が報告する。

 「何ィ!!」

 驚くサラトガ達。

 「空母遼寧と波王です。イージス艦蘭州と望洋といます」

 アイリスが報告した。

 「空母「波王」は海南島にいると聞いた」

 ハリスがわりこむ。

 「ミュータントだったんだ」

 サラトガが気づいた。

 「こちらロナルドレーガン。サラトガどうした?」

 ロナルドレーガンの艦長からの通信が入る。

 「中国艦隊です。空母波王と遼寧、イージス艦蘭州だ。全員ミュータントとカメレオンが混じっている」

 サラトガは報告した。

 「やあ空母「サラトガ」友達を紹介するよ」

 遼寧はクスクス笑う。

 「あの空母。船体に象形文字の目をあしらった模様がある。古代エジプトのホルスの目だろう」

 ハリスが気づいた。

 「ポンコツ空母。おまえの友達の空母はカメレオンなんだな。いい友達を持ったな」

 わざとらしく言うサラトガ。

 「ジョージワシントンやロナルドレーガンを沈めると時空船事件で言っただろう。本当に実現させてやるんだ!!」

 遼寧は声を荒げた。

 「中国が太平洋や世界の海を支配するんだ。アメリカは引っ込め!!」

 蘭州は艦橋の二つの光を吊り上げた。

 「おいポンコツ空母とイージス艦。後悔するなよ」

 サラトガは悪態をついた。

 「そっくり返してやる。そして護衛艦「いずも」や「かが」「あかぎ」を沈めてやる」

 遼寧は言い放った。

 「スプリングショット!!」

 一〇対の鎖を出して黄金色に先端の分銅が光った。それをムチのようにしならせ振り下ろすサラトガ。

 しかし波王の周囲にらせん状にまとう青白い粘液によって攻撃が当たらなかった。

 「磁力砲」

 一〇対の鎖の先端から黄金色の光線を放つアイリス。波王の粘液がはがれ船体をえぐる。

 「スプリングショット!!」

 サラトガは再び鎖の分銅を撃ち込む。

 「ヒートガン」

 「コールガン」

 「サンダースピア」

 「ファイアボール」

 「スティングレイ」とハリス、レイス、レジー、潜水艦三隻の光線や炎の玉や雷の槍、氷の光線が波王や望洋に命中した。

 船体を貫通されてボロボロになったがすぐに復元していく。傷口から別の小型船がいくつも生み出される。

 「こいついったい何だ!!」

 絶句するサラトガ。

 そして波王、望洋の船体が変形して砲台がいくつも出てきた。五〇隻以上の駆逐艦の船体が変形した。船体側面の格納ドアが開いて砲台の砲口が顔を出す。いっせいに赤色の光線が放出された。

 

 「艦長!多数の艦艇が接近」

 レーダーの前にいたオペレーターが叫んだ。

 「友軍か?」

 艦長がたずねた。

 「いいえ。ちがいます。カメレオンとミュータントです」

 オペレーターは青ざめた。

 艦長達は正面スクリーンをのぞいた。

 警報がロナルドレーガンや随伴の艦艇に鳴り響いた。

 みるみる接近してくるフリゲート艦と駆逐艦の群れ。発射機から次々赤い光線が発射された。


 その頃。那覇港の外海。

 「そこの船。どこにいく?」

 港湾施設の防潮堤から外海へ出て行く十一隻の巡視船を呼び止めた。舳先を向けるアレックス達。

 巡視船「やしま」「つるぎ」「かいもん」と元尖閣専従部隊の大型巡視船のミュータント達がいた。

 「偵察に決まっている」

 イタリア語で言うリヨン。

 「自衛隊も米軍も動かないなら自分達が行くべきだ」

 タイ語で言うトム。

 それぞれの国の言語で文句言うぺク達。

 「やかましいわ!!日本語しゃべれよ」

 一喝する沢本。

 黙ってしまうトム達。

 「やっと営巣から出られた。だから行動を起こして行くべきなんだ」

 三神は声を荒げた。

 「何を言っているのかわからない」

 はっきり言う沢本。

 「そんな理屈が通るわけないだろ」

 朝倉が反論する。

 「私達の任務はパトロールであって攻撃は自衛隊がやることだ」

 沢本は二対の鎖で腰を当てるしぐさをする。

 「だからここから出ないつもりですか?」

 三神は船橋の二つの光を吊り上げる。

 「連中はおとなしく中国の言う事を聞いていると思っていない。サブ・サンがいるなら中国政府を乗っ取るに決まっている。利用しているだけだ」

 烏来が言う。

 「ここでじっとしていてもマシンミュータントは人間や普通のミュータントよりも早く徴兵命令がくる。七十年前の太平洋戦争でもそうだろう。客船も貨物船のミュータントは徴兵された。氷川丸はミュータントであの激戦で奇跡的に生き残った」

 三神は指摘する。

 「戦いが長引けば俺達だって徴兵される」

 朝倉が食い下がる。

 「しかしどうやって戦う?あの光線は射程が倍ある。おまけに変形して俺達を食べる」

 吐き捨てるように言う沢本。

 「そこは戦略を立てて行く。私達は行く」

 ぺクは詰め寄る。

 「それはできない」

 沢本は詰め寄った。

 シャアアアア!!

 舳先をつき合わせて威嚇する沢本とぺク。

 「あきつしま」達と三神達は四対の鎖を出して遠巻きににじりよる。

 「そこのポンコツ巡視船!!」

 鋭い声が響いた。

 「誰がポンコツだぁ!!」

 声を荒げる沢本達。

 接近してくる護衛艦「あまぎり」「むらさめ」「みょうこう」。間村、室戸、霧島が変身している。

 「おまえらだろうが」

 ビシッと鎖で指さす間村。

 「要救助者を助けに行くぞ」

 室戸は行った。

 「どこへ?」

 沢本達が声をそろえた。

 「ここから百五十キロの海域だ。米海軍の乗員の救助だ」

 霧島が口を開いた。

 「なんで米軍がそこにいるの?」

 大浦が聞いた。

 「空母で威圧しにいって逆にやられた。さっきサラトガとアイリス、レジー、レイスは空母ロナルドレーガンと那覇空港沖にテレポートしてきたんだ」

 間村が言う。

 「救助専門だろ。海保のミュータントはみんな腰抜けか?」

 霧島は声を張り上げた。

 「俺達は行くぞ」

 三神と朝倉が名乗り出る。

 それぞれの言語で名乗り出るアレックス達。

 名乗り出たアレックス達と間村、室戸、杵島は那覇港を離れた。

 しばらく行くと那覇空港沖である。

 そこに二隻のニミッツ級空母と強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」がいた。

 空母「ロナルドレーガン」の甲板上にあった艦載機はなくなり、船体のあっちこっちから黒煙が出ていた。甲板には穴がいくつも開いている。

 その大破した空母を曳航する「サラトガ」彼もアイリスもレジーもレイスも傷だらけだった。

 「サラトガ。あとの船は?」

 三神は駆け寄った。

 「数百隻のフリゲート艦と駆逐艦のカメレオンが現れた。空母「遼寧」とイージス艦「蘭州」がいた。そいつらと一緒にいた空母

「波王」がカメレオンのボスだ。そいつらの光線にやられて他の艦艇は沈んだ。ハリスも他の連中も」

 サラトガはくやしがり泣き出した。艦橋の窓から噴水のように流れ落ちる。空母が泣いているのだ。

 絶句する三神達。

 「私達はかろうじてあの状況を逃げてきた。ロナルドレーガンの原子炉は無事よ。乗員は一〇〇〇人ほど死んだ」

 アイリスは周囲を見ながら言う。

 「アメリカまでは無理だから横須賀にテレポートして修理するつもりだ」

 レジーは視線を落とした。

 「俺達はアメリカに帰る」

 レイスはつぶやくように言った。

 「俺達はあの現場に行って要救助者を救助に行く」

 三神は何か決心したように言う。

 「やめたほうがいい。連中は群れで襲ってくる」

 泣きやむサラトガ。

 「救助者がいるから行くんだ。行こう」

 三神は促す。

 「そこの海域へテレポート」

 アレックスは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて三神達の姿が消えた。次の瞬間、姿を現したのは沖縄から百五十キロの海域だった。

 そこに救助ボートが二〇個浮いていた。ボートには米兵達が一五〇人程乗っていた。

 「十二隻の随伴艦がいてこれだけ?」

 アレックスが驚きの声を上げる。

 しかし米兵達は動かなかった。というより顔は土気色で生気がなく手足がない者も何人もいた。

 「ワナだぁ!!」

 三神は気づいた。威圧するような気配に。台湾で出会った「2901」と同じような押しつぶすような気配だ。

 三神はとっさに20ミリ機関砲を撃った。ドローンが三機落ちた。三神は動いた。彼がいた場所に大木のように太い鎖が振り下ろされ、もう一本の鎖をすんでのところでかわす。

 「なんだ?」

 驚くリヨン達。

 姿を現す中国軍空母。

 「なっ・・・!?」

 絶句するアレックス達。

 「空母「波王」だ」

 間村が気づいた。

 設計や船型はワリヤーグそっくりだ。

 「やあ。おまえそいつらより優秀だな」

 太い声で「波王」は声をかけた。

 「え?」

 三神は困惑する。

 「空母サラトガとエセックスは魅力的だ。それにおまえの能力も魅力的だ。なんでおまえはそこにいる?」

 波王はクスクス笑う。

 「何を言っている?」

 三神は声を低めた。

 アレックス達は身構えた。

 「戦闘本能は戦いを常に求めている。おまえはサラトガ、エセックス同様に強いんだ。その戦闘本能と戦闘能力をもっと生かさないか?もっとおもしろいぞ」

 波王は誘った。

 「冗談だろ」

 朝倉がしれっと言う。

 「おまえたちが探していた船はこれか?」

 海中から鎖に巻きつけて取り出す波王。一〇対の鎖にロナルドレーガンに随伴していた艦船が巻きついている。しかし生存者の匂いはない。

 「サラトガと一緒にいた他のミュータントはどうした?」

 アレックスは声を荒げた。

 「これだよ」

 波王は甲板から六本の細い鎖を出した。そこには緑の蛍光を放つコアがあった。

 「戦い続けるには敵を喰うのが一番だ。我らはそう進化してきた。おまえだって戦いを求めているんだよ。海上保安庁をやめて俺達と一緒に来いよ。戦場で楽しもう」

 波王は当然のように言うと艦内に放り込んだ。せんべいを食べるような音が響いた。

 「やだね。俺は戦うためにいるんじゃない。守りたい連中がいるから戦うんだ!!」

 声を荒げる三神。

 こいつ筋金入りの慢性戦闘中毒者だ。カメレオン全体がそうなのかもしれない。

 二対の錨を突き出す波王。

 すんでのところでかわすと三神は20ミリ機関砲で艦橋を撃つ。

 目をかばうしぐさをする波王。

 「テレポート」

 アレックスは叫んだ。

 力ある言葉に応えて三神達は青い光に包まれて消えた。

 歯切りする波王。

 波王は怒りをぶつけるように巻きつけていた鎖に力を入れた。

 メギッ・・・ギギ・・バキッ!!

 十隻の米軍艦船は船体中央部から裂けてちぎれて落ちた。


 那覇港にテレポートしてくる三神達。

 「あいつ最悪だ。コアを喰った」

 キムはため息をついた。

 「カメレオン全体がそうかもしれない」

 アニータが言う。

 「なんで俺に興味を持ったんだろう?」

 三神がため息をついた。

 よく他の仕事に誘われることはある。ロマノフの五つの宝事件では中国海警からだし、次は米軍。今回はカメレオンからだ。だからといって行く気はない。かといってじっとしていても徴兵令状はくるのだ。マシンミュータントは戦争が起きればまず先に徴兵される。それは七十年前の太平洋戦争でもそうだし第一次世界大戦、日露戦争でもそうだ。優先的に召集される。たぶん実家にも徴兵令状は行っているだろう。民間船、民間機のミュータントにも同じように徴兵が始まる。

 「要救助者はどうした?」

 巡視船「やしま」が近づいた。沢本である。

 「あれはカメレオンが仕掛けたワナだった。行ったら全部死体だった」

 間村がわりこんだ。

 「残念ながら生存者もいない。米軍の艦船は沈没した」

 はっきり言う霧島。

 「沢本隊長」

 海保のヘリコプターが近づいた。

 「何?」

 沢本が聞いた。

 「那覇海上保安部に三峰長官が来ています。重要な任務があるそうです。アレックスさん達も来てください」

 そのヘリコプターのミュータントは答えた。

 「俺達も辺野古基地から呼び出しだ」

 間村は暗号に気づいた。


 那覇海上保安部の会議室。

 元のミュータントに戻った沢本達が講堂に集まっていた。その中にはアレックス達も顔をそろえている。

 壇上に三峰長官が現れた。

 「敬礼はいい」

 はっきり言う三峰。

 「重要な任務とは何ですか?」

 沢本はたずねた。

 「尖閣専従部隊の再編だ」

 静かに言う三峰。

 どよめく隊員達。

 「しかし長官。尖閣諸島は中国軍が占領しています。石垣島の海上保安部は壊滅してあの部隊もなくなった」

 沢本が驚きの声を出した。

 「わかっている。那覇海上保安部に尖閣専従部隊を置く事になる。そして任務は自衛隊の後方支援だ。マシンミュータントは優先的に徴兵令状が行く。さっき、君らの家族の元に政府から徴兵令状のハガキが来たそうだ」

 三峰は冷静に説明する。

 「そんな・・・」

 三島や大浦は絶句した。

 「間もなく民間船、民間機のミュータントに同じようなものが行く。次に普通のミュータントの順番だ」  

 三峰ははっきり指摘する。

 「ですがカメレオンは群れで襲ってくる。射程が倍ある光線やいくつも格納している砲身は地球の科学力を超えています」

 巡視船「あきつしま」だった巡視船のミュータントがわりこんだ。

 「それもわかっている。日本には米軍のような大兵力はない。なら小さな作戦から成功させていけばいい。防衛省もその見解に達している。Tフォースの特命チームと一緒に行動する事になるだろう」

 三峰の眼光が鋭く光る。

 「小さな作戦?」

 聞き返す沢本。

 「ゲリラ攻撃や奇襲攻撃だ。テロリストがやるやり方に似ている」

 三峰が答えた。

 「それは俺達にテロリストのマネをしろというのですか?」

 リヨンがわりこんだ。

 「そうは言っていない。君達は米軍の飛び石作戦を知っているか?」

 三峰が聞いた。

 「七十年前米軍は真珠湾攻撃を受けてから小さな拠点から攻撃した。二ミッツ提督はアメリカが負けないような作戦を敢行した」

 三神が答えた。

 「もちろん、補給部隊や守りが手薄な小さな拠点から潰していく。チャンスがあれば奪還できる。奪還後は通常の任務に戻る」

 三峰が地図をスクリーンに出した。

 「それはいいが彼らのレーダーは私達よりも性能がいい」

 アニータが指摘する。

 「先ほど、オルビス、リンガム、葛城長官の息子さんと一緒にいた警視庁の刑事の無事が確認されている。そしてオルビスの種族の亜種で同じカメレオンだが少数派の穏健派がTフォースに協力を申し出てくれた。彼らは無線傍受や暗号解読を手伝ってくれる。もう一つは国際ハッカー集団「アウンノウン」のメンバーが北の工作員と接触してカメレオンのネットワークに侵入してハッキングを申し出てくれた」

 三峰は報告した。

 「小さな作戦とかハッキングってそれは沈みゆくタイタニック号の甲板をモップで掃除しているのと同じだ」

 三神が文句を言う。

 「カメレオンは信用できないし、化け物と同じだ。オルビスやリンガムも同様に」

 沢本は指摘する。

 「使えるツテはなんでも使わなければ日本に勝ち目はない。よって尖閣専従部隊は自衛隊、Tフォースの後方支援、奇襲、ゲリラ活動に参加することになる。場合によっては奪還後は台湾開放作戦に参加する。世界中の有志達に彼らの対処法を教えながら戦う事になる。強制はしない。それぞれの所属保安部に帰ってもいい」

 三峰は語気を強めた。

 「俺は参加します。カメレオンがなんであるか台湾に行きました。台湾は占領されましたがカメレオンの事がだいぶわかってきたら戦況は変えられます」

 それを言ったのは三神である。

 「それはそうだな。奴らは魔術が苦手だ。ならフル活用すべきだ」

 朝倉が助け舟を出した。

 「俺も行く」

 「私も行くわ」

 リドリーやトム達も口々に賛同する。

 「このまま逃げ回るのは嫌よ。中国は停戦交渉とかしているけど本当は韓国も台湾も日本も併合して植民地にしようとしている」

 「奴隷にされるくらいなら戦った方がマシ」

 大浦と三島がうなづく。

 「俺もやろう」

 沢本が口を開いた。

 他の隊員たちもうなづく。

 「ここから奪還への第一歩がはじまる」

 三峰は何か決心したような顔で言った。

 

 

 

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