第3話 中国軍の侵攻

 あれから一週間が経つが平穏になんの事件も起きていない。

 翔太は学校の帰り道、自販機でお茶のペットボトルを買うと飲んだ。

 ドシッ!!

 誰かがぶつかってぶつかった方も翔太も道路に転がった。

 「気をつけてください」

 翔太は身を起こしてお茶のボトルを拾う。

 「すいません」

 ほこりを払うとインド人はあやまる。

 「君、これをTフォースに届けて」

 いきなりインド人は周囲を見回すと風呂敷に包んだものを学生カバンに入れた。

 「ちょっと・・・」

 困惑する翔太。

 インド人はいきなり走り去った。

 「なんだろ。あれ」

 戸惑う翔太。

 いきなりぶつかっていきなり人のカバンに入れていった。あのあせりようといい重要な物だろう。Tフォース那覇支部ならそこだ。

 「待てぇ!コラァ!!」

 追いかけてくる中国人二人。中国語でののしりながら翔太に気づいて駆け寄ってくる。

 「葛城。インド人を見なかったか?」

 なれなれしく呼ぶ中国人。

 ムッとする翔太。

 誰だか知っている。蘭州と遼寧だ。本名がチャドとキムなのだがほとんど艦名である。

 「あっちへ逃げた」

 繁華街を指さす翔太。

 「なあ北京に来ないか?」

 チャドはニヤニヤ笑う。

 「やだ」

 きっぱり言う翔太。

 「いいものを見せてやるよ。オルビスに関係あるものがあるんだ」

 キムはいきなり翔太の腕をつかむ。

 翔太はその腕を引き寄せ払いのけ、足の甲を思いっきり踏みつけ、学生カバンで殴った。

 チャドは鋭い蹴りを入れる。

 翔太はすんでのところでかわしてローキックを何度も入れた。しかしチャドはニヤニヤ笑いながら彼の腕をつかみ背負い投げ。

 「ここが海じゃないことをいいと思えよ。おまえら人間がミュータントに勝てないのは知っている」

 チャドとキムは笑う。

 「力ずくで連れて行く」

 チャドは腕を伸ばした。せつな、キムとチャドは誰かに蹴られ地面に転がった。 

 「誰だ!蹴ったのは!!」

 二人は跳ね起きて叫んだ。

 「俺だよ。ポンコツ空母」

 三人の自衛官がいた。

 「間村さん」

 目を輝かせる翔太。

 間村、室戸、霧島は海自の作業服を着用している。

 「なんでここにいる?」

 キムは驚きの声を上げる。

 「おまえバカか?沖縄には七十五%の基地がある。大部分は米軍でその中には自衛隊の基地もある。なんでここにいる?仕事がないなら紹介しようか」

 わざと言う霧島。

 「ポンコツすぎて電子脳も故障だらけか?病院紹介するけど」

 室戸がわざとらしく言う。

 「コアをえぐってやる」

 歯切りするチャド。

 「ここで?周りをよく見た方がいいよ。逃げるかここで逮捕されて強制送還になるか」

 間村はニヤッと笑う。

 「覚えてろよ。コアをえぐってやるからな」

 チャドとキムは中国語で捨てセリフを吐いて歩き去った。

 「大丈夫か?」

 間村は翔太を助け起こした。

 うなづく翔太。

 「間村さん。あの二人に追いかけられていたインド人がいて僕のカバンに何か入れて逃げた」

 学生カバンに入れた風呂敷包みを見せた。

 「インド人?」

 聞き返す三人。

 「Tフォースに届けてほしいって言われた」

 翔太は困惑する。

 「基地に行こう。そこで調べた方が早い」

 間村は言った。


 その頃。石垣島から百キロの沖合いに巡視船「やしま」「あそ」「こうや」「つるぎ」

「かいもん」が接近する。

 漁師からの通報で見慣れない船が二隻いるという通報で向かっていた。

 接近すると白色の船体に青、黄、赤色のラインが入っている。なんだかわかった。韓国海洋警察の警備船である。ぺクとキムだろう。

 「海上保安庁である。ここは日本の領海である」

 韓国語で警告する沢本。

 「そんなこと知っている」

 しゃらっと言うパクとキム。流暢な日本語で答えた。

 「じゃあなんでここにいる?」

 朝倉は船橋の二つの光を吊り上げた。

 「私達は韓国政府から特命チームに協力するように言われた」

 ぺクは口を開いた。

 「冗談でしょ?」

 三島が怪しむ。

 「時空船騒ぎの後に日韓トップ会談と局長級会談をソウルでやった。その時に非公式に北朝鮮の局長が来ていて三者会談をこっそりやったんだ。そこで北朝鮮は拉致問題の進展させる取り決めをしてきてスパイをよこすと言ったそうだ」

 キムが説明した。

 「拉致問題は進展してないし、北朝鮮はいつもそうだよな」

 朝倉があきれる。

 拉致問題を解決したいって言いながら解決していないしミサイルを飛ばす実験をやっている。

 「北朝鮮が言うには中国政府内部に時空侵略者が入り込んでいるのは確実らしい。こっそり三者会談の前に中国に行った北朝鮮のナンバー2が言うには見慣れないミュータントが出入しているのを見たそうだ」

 ぺクが声を低める。

 「スノー・ディアスという元スパイが暴露した話は本当だったんだ」

 三神がわりこむ。

 「異様に皮膚が白い連中でスキンヘッドの見たことのないミュータントが外務省を出入しているらしい」

 ぺクが答える。

 「アメリカの秘密基地が存在する事をバラらさてそこの実験で時空侵略者が入ってきた。世界中大騒ぎよね。日本政府はアメリカ政府におもいやり予算の大幅な減額の協議をすると言ってきた。当たり前よね」

 大浦が当然のように言う。

 「中国は国内外に問題を山ほど抱えている」

 キムが心配する。

 「共産党独裁じゃそうだろう。北京には地方政府の横暴に耐えかねた農民が陳情に来ているし、この前の中米トップ会談でニューヨークの国連本部前で陳情に来た人々が来ていた。それに官僚の汚職。ある官僚は愛人四十人と付き合っていた。またある官僚は巨額の脱税で逮捕された。まともな国じゃないだろ。事故を起こした新幹線を埋めるなんて」

 三神が思い出しながら言う。

 最近やったニュースを上げるとキリがない。そういう国だというのはわかっている。

 「普通はやらないさ。でもこれはウワサなんだがリュー・リーミンとワン・リウイが南シナ海の海警隊に更迭されたらしい」

 ぺクが重い口を開く。

 「本当?」

 聞き返す沢本達。

 「じゃあ尖閣沖は誰が?」

 大浦が聞いた。

 「海警「2901」「2503」だよ。駆逐艦と一緒にいるらしい」

 キムが答えた。

 「海監のミュータントも南シナ海へ更迭になったらしい。リューとワンは海警船のミュータントのリーダーも外されたらしい」

 ぺクが口をはさむ。

 「すごいおかしなことばかりだ」

 三神と朝倉が声をそろえる。

 「台湾やベトナムの巡視船のミュータントから聞いたんだが妙な大型漁船や巡視船を見るというウワサを聞いた」

 ぺクが声を低めた。

 「妙な船?」

 沢本が聞いた。

 「船体のどこかに光る模様があるらしい。からくさ模様だったり幾何学模様だったり個体差があるようで象形文字模様の船がいるというウワサだ。中国軍の駆逐艦にも模様のある船を見た漁師もいる。いったい何が起こっているのかわからない」

 ため息をつくキム。

 「一度、台湾に行った方がよくないですか」

 三神はひらめいた。

 「そうだな。本庁に言ってどんな物か見なければわからない」

 結論を言う沢本。

 「私達も行く」

 ぺクとキムが名乗り出る。

 「じゃあ石垣島の海上保安部にきてくれないか。そこで本庁の許可をもらう」

 沢本は言った。


 自衛隊那覇基地。

 官舎の応接室でお茶を飲む翔太。

 佐久間とオルビス、リンガムが風呂敷をのぞこきこんだ。

 間村は風呂敷を開けた。

 ノートPCと手から腕にかけての剥製が入っていた。

 「なんだこれ?」

 室戸と霧島は声をそろえた。

 佐久間はノートPCを立ち上げた。画面はファイルだらけだ。

 「台湾?」

 佐久間と間村がのぞきこむ。

 「故宮博物館にパズルピースらしいものを保管している?」

 翔太がわりこんだ。

 台湾の台北の地図が出てくる。

 「ヒンディ語とロシア語と英語とイタリア語、フランス語で書かれている。フランス語とイタリア語とヒンディ語がわからない」

 頭を抱える佐久間、間村。

 「ピョートルさんとアッシュさん、リアムさんを呼んだ方がよくないですか?」

 翔太が提案する。

 「このファイルは?」

 オルビスが赤いファイルを指さす。

 間村がクリックする。すると写真が出てくる。いずれもサハラ砂漠やどこかの砂漠で黒い外套を着た者達が映っている。皮膚は異様に白い。

 「時空侵略者?」

 オルビスとリンガムが声をそろえる。

 「ロシア語か。中国の北京で多数の見慣れないミュータントを目撃。そのミュータント達は異様に皮膚が白い。イスラム過激派の本拠地でも目撃する。しかし異教徒を嫌う過激派と彼らは仲が悪い」

 霧島は翻訳した。

 「大変。官邸に知らせないと」

 翔太が目を丸くする。

 「そうね。でもこのファイルだけは政府高官でしか開けられないようなコードとパスワードが設定されている」

 佐久間が気づいた。

 「え?」

 「つまり三宅総理と葛城長官の指紋認証とパスワードのセキュリティコードがある。いずれにしても緊急事態よ。私は防衛省に行ってくるからオルビスとリンガムと葛城君をお願いします」

 佐久間はパソコンと剥製を急いで片付けて風呂敷に包んだ。

 「わかった」

 間村はうなづいた。


 東京港埠頭。

 埠頭の一角にブルーシートが張られ野次馬からは中が見えなかった。

 そばにパトカーが何台も止まり警官や鑑識が周囲に証拠品がないか捜査している。それは刑事の羽生と田代も同じだ。他の刑事と一緒に何か凶器や物が落ちてないか調べていた。

 「仏さんはロシア人とインド人か」

 羽生はパスポートを開いた。インド国籍とロシア国籍の女性である。二人とも普通のミュータントを示すNがついている。人間だとHである。

 「ミュータントでTフォースロシア支部とインド支部の許可証があって邪神ハンターですね。それもS級だって」

 パスポートにはさんである許可証を見せる田代。

 「普通、邪神ハンターのS級、A級のハンターはあまりいなくてスパイしかいない。それなりの訓練を受けているのを簡単に殺せるのか?」

 疑問をぶつける羽生。

 「殺せるのはその上を行く者だけよ。何かのどの奥にある」

 田代はピンセットで紙を取り出した。紙には台湾の地図と人物の似顔絵が書かれている。

 デジカメで写真を撮る田代。

 「これもTフォースに聞いた方がいいな」

 羽生が小声になる。

 「公安がまたやってくる感じね」

 田代は言った。

 二人は現場を離れると警察車両に乗り込む。

 カーナビをセットする羽生。

 行き先はTフォース東京支部だ。

 覆面パトカーは現場を離れた。


 一時間後。銀座にあるTフォース支部。

 「警視庁です葛城博さんはいますか?」

 受付嬢に警察手帳を見せた。

 「葛城長官なら首相官邸です」

 不意に声をかけられ振り向く羽生と田代。

 「平賀博士」

 驚く二人。

 「殺人事件ですか?」

 単調直入に言う平賀。

 「そのようなものです」

 田代は言いよどむ。

 「この人物を知っていますか?」

 羽生は写真を見せた。

 「インド人がペアジェ。インドの特殊工作員でロシア人がサーリーナ。ロシアのスパイ。両方ともスパイよ」

 平賀は答えて手招きした。

 三人は事務所の管理室に入った。

 「その死んだ二人はこの紙を飲み込んでいたのですが何だかわかりますか?」

 デジカメの写真を見せた。

 「このマークは覇王の石への手がかりとそれを知っている人物が台湾にいるという感じね」

 平賀はロシア語を翻訳した。

 「覇王の石?」

 二人は聞き返す。

 「大昔、宇宙からもたらされた強大なエネルギーが詰まった石があった。それはヒトラーや秦の始皇帝、ローマ皇帝、ナポレオンも求めた時空遺物で手に入れれば世界はおろか宇宙も支配できる力が得られる。先人達はその恐ろしい力を目の当たりにして手がかりさえも隠した」

 平賀は資料を見せた。

 「本当に実在するのか?」

 「都市伝説では?」

 声をそろえる田代と羽生。

 「どうやら本物らしいのよ。手がかりの宝石は見つかっていてパズルピースがあと三つ足りない。でもそれを中国政府は本気で探している。中国政府に時空侵略者がいるのは確実らしいわ」

 平賀は心配する。

 「そういえばテレビでスノー・ディアスというCIA工作員がロシアに亡命してアメリカ政府の欧州首脳の盗聴や米軍の秘密基地の存在。そこの実験で時空のひずみから侵略者が入り込んだ。世界中から非難の声が殺到している」

 あっと思い出す田代。

 「よくテレビ見ているな」

 感心する羽生。

 「当分葛城長官は官邸だろうし私はここの留守番をしなければいけない。そこで台湾に行ってくれますか?たぶんロシア人とインド人のスパイの殺人事件は公安に移りると思われます」

 平賀は推測する。

 「公安もスパイってわかったら警視庁に横ヤリを入れてくる。そうとなれば台湾で人探しを手伝いましょう」

 羽生は難しい顔をする。

 「このスパイが飲み込んでいた台湾の地図とこの人物を探してください」

 平賀は言った。


 同じ頃。ブラジルのスラム街

 スラム街の一角にある家で三人の人物がいた。一人は黒色の外套と頭巾を目深にかぶり二人は初老の男性である。

 「おまえさんが時空侵略者だというのは知っている」

 初老の男の眼光が鋭く光る。

 「我々に何の用だ」

 もう一人の初老の男性が聞いた。

 「雪風と根本という名前は知っている。我々はサブ・サンと一緒に来たヤン・ハカ。七十年前の戦争でマシンヘッドやヴァルの侵入を手助けした」

 ヤン・ハカと名乗った人物は外套を取った。

 どよめく雪風と根本。

 サブ・サンの種族の皮膚は異様に白く頭髪はスキンヘッドであるのは知っている。ピッタリフィットするスーツも黒色から赤、黄、白とバラエティに富んでいてかならず金の刺繍がある。彼らに男女の区別がない。

 「そうか。その時がやってきたのか」

 笑みを浮かべる雪風。

 「半年前はウラノスに協力していたようだね。私達と組まないか?」

 ヤン・ハカは提案する。

 「ウラノスのように失敗しなければいいさ」

 根本は腕を組んだ。

 「私達は失敗しないので」

 しゃらっと言うヤン・ハカ。

 「ほう。たいした自信だ」

 感心する二人。

 「私達は中国政府を利用する。最終目的は中国の願いをかなえる事だがもちろん政府は乗っ取らせてもらう。そして地球を中継基地にして他の惑星へ侵攻する足がかりにする」

 ヤン・ハカははっきり言う。

 「それはおもしろい。乗った」

 根本と雪風はうなづいた。

 「では連絡・・・」

 ヤン・ハカは最後まで言えなかった。屋根の一部が壊れてロープ降下してくる男達。

 「Tフォースだ。雪風、根本。逮捕する」

 中年の男が叫ぶ。

 「ひさしぶりだね、ラニック、トレス、柴崎。太平洋戦争以来だ」

 雪風は笑みを浮かべた。

 「その時空侵略者もついでに逮捕だ」

 トレスが指さした。

 「私達は忙しいのだよ」

 ヤン・ハカはもっていた外套を投げた。

 柴崎はそれを払いのけた。

 「しまった逃げられた」

 トレスがくやしがる。

 「Tフォースに連絡しないとまずい。時空侵略者が根本と雪風と会っていた」

 ラニックは言った。

 

 東京にある首相官邸

 会議室に三宅首相、石崎防衛大臣。外務大臣、官房長官、警察庁長官、国交相、三峰海上保安庁長官、楠木統合幕寮長、陸海空の三総監が制服のまま出席しておりTフォース長官の葛城博とベック支部長が顔を揃えている。

 「葛城長官の報告を目を通しただけなのだがサブ・サンが百十一年ぶりにこの世界にやってきた事は本当ですか?」

 石崎大臣は口を開いた。

 「そのようですね」

 それを言ったのは三峰長官である。

 「知っているのですか?」

 官房長官がたずねた。

 「これは韓国海洋警察の警備船のミュータントから聞いた話なのですがこの間の日韓トップ会談と局長級会談が開かれた時に北朝鮮の特使が来ていた。特使が言うには北のナンバー2が訪中した時に外務省にサブ・サンの仲間が出入していたのを見たそうです」

 三峰長官は答えた。

 どよめく閣僚達。

 「北朝鮮が拉致問題を進展させたいからといって北の工作員を特命チームにくわえてくれないかと言ってきた」

 三宅は口を開いた。

 「私は気が進まないが人員は多い方がいいと思って私は許可した。どこかで近いうちに特命チームと合流するだろう」

 博の顔がくもる。

 もちろん加えるつもりもなかったが人員はかならず不足するだろうから使えるものは使うのだ。

 「その海洋警察のミュータントの話では中国の海警で信頼できるミュータントのリーダーが南シナ海へ更迭され、代わりのこの大型巡視船が二隻と駆逐艦が尖閣諸島をうろついている」

 三峰はモニターをつけた。

 画面に一万トンクラス、五千トンクラスの大型巡視船が映っている。船橋の窓に二つの光が灯っている。

 「装備が軍艦並だね」

 楠木が気づいた。

 「船首に76ミリ砲。ミサイル格納庫。3〇ミリ機関砲。ヘリ格納庫。中国軍の上陸部隊を乗せられるし、装甲も厚そうだ」

 石崎は分析した。

 「もはや巡視船とは呼べない代物だ」

 楠木がわりこむ。

 「駆逐艦やフリゲート艦だと問題ありでも巡視船と言えば問題なくパトロールできるし航続距離も長く留まれる。しかもミュータントとなると空母やイージス艦に体当たりができるだろう」

 石崎は推測する。

 「古典的な手法だ」

 楠木がつぶやく。

 「もう一つ気になることがある。海洋警察のミュータントが言うには南シナ海の巡視船や駆逐艦、中国籍の民間大型船の船体のどこかに光る模様がついた船がいるとのことです。台湾やベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアの民間船、巡視船のミュータントや、漁師が見たという目撃が入っているのです。サブ・サンと一緒にやってきた生命体と思われる。海上保安庁の特命チームを台湾に派遣してなんなのか情報収集に向かわせようと思っています」

 三峰は提案する。

 「警視庁でも二人の刑事を台湾での人探しに向かわせようとしています。故宮博物館に覇王の石の手がかりがあり、それを知っている人物を探そうと派遣する事にした」

 警察庁総監が口を開いた。

 「ではその刑事と一緒に私の息子も同行させてもらえますか?」

 博がわりこむ。

 「いいですよ。協力しましょう」

 うなづく警察庁長官。

 「それと気になる事があります。北朝鮮からなんですが中国軍から怪しい電波がFMラジオ電波に乗せておかしな事をやっているそうです」

 それを言ったのは外務大臣である。

 「電波?」

 「北朝鮮とイスラム過激派がトルコの交渉人に言った事なんですが特定の周波数を使って何か実験をしているという情報がありその電波を調査していました」

楠木は重い口を開く。

航空総監がノートPCを見せた。

モニターに数字がカウントされている。

「なんですか?」

官房長官が聞いた。

「北海艦隊、東海艦隊が集結中という情報があるそうです」

楠木が答えた。

「でも動きはありません。空母「遼寧」とイージス艦「蘭州」は単独で動いていますが空母「鄭和」「鎮遠」艦隊の一部が東シナ海で演習をやっています。これは通常の演習だそうですが我々は攻撃が近いと見ています」

 石崎が声を低めた。

「攻撃?本当かね」

閣僚達がどよめいた。 

「不確定要素がたくさんあって一概には言えないのですがなんらかの動きではないかと思います」

懸念する石崎。

「その数字のカウントダウンが気になるね。わざわざご丁寧にもテロ組織が教えてきた」

三宅が疑問をぶつける。

「トルコ人の交渉人によるとイスラム過激派は毛嫌いしていて本拠地に勝手にやってきた彼らのアジトを攻撃。逆に過激派の戦闘員の半分殺害されたそうです。そっから睨み合いが始まった」

外務大臣が答えた。

「基本的に異教徒を嫌うからね」

しゃらっと言う石崎。

「中国軍の潜水艦の音紋は全部データベースに入っています」

石崎が話を切り替えた。

「東シナ海をウロついているだけで具体的な行動に移っていません」

海上総監が口を開く。

「いずれにしてもそのカウントダウンもそうだし、光る模様がある船の生命体といいこれは「今そこにある危機」だと思います」

楠木がはっきり言う。

「今、日本が置かれている状態はまさにその危機だと私も思います。陸海空自衛隊に防衛出動命令を出すべきかと思います。何も起こらなければ解除するだけです」

提案する石崎。

「私も同感です。日本支部のTフォースと魔術師協会、ハンター協会に警戒態勢を発令するべきだと思います」

黙っていたベックがわりこんだ。

「私もそう思う。話からすると北朝鮮やテロ組織がサブ・サンの仲間の存在を知らせてきて周辺国でも異変が起きている」

博がうなづく。

「わかった。防衛出動命令を出そう。何もなければ解除するだけだ」

三宅は少し考えてから言った。


「陸海空全部隊へ。防衛出動命令近し。一級警戒態勢に入れ」

防衛省の回路と暗号を使い陸上は北海道から沖縄まで、空では飛んでいる早期警戒管制機まで海では潜行している潜水艦や自衛隊所属のミュータントまで命令を下した。

これによりどの基地も船も自衛官は外出禁止になり、いずれのレーダーサイトも、隊員たちの緊張は増した。


その頃、中南海の主席執務室に閣僚達が顔をそろえていたが一人だけ皮膚の色が異様の白いスキンヘッドの男がいた。

「ではサブ・サンよ。百十一年前の失敗を取り戻したいのだろ?」

周永平国家主席はジャスミン茶を飲んだ。

「ようやく決心してくれましたね。これからは盛大な花火が見られますよ」

サブ・サンは笑みを浮かべた。

「一緒に連れてきた連中はマシンミュータントとほぼ変わりないと聞いている。工作とは進んでいるのか?」

周は聞いた。

「小日本は気づいておりません」

中央軍事委員会副主席は口を開いた。

「では見せてもらう。その生命体の能力と性能とやらを」

周主席はうなづく。

 「東京の狼狽ぶりが目に浮かぶようです」

 国務院総理は笑みを浮かべた。

 

 翌日。台湾。

 台湾の正式名称は中華民国である。台湾は中国大陸の東南、、福建省から百五十キロの海上に位置し、沖縄から六百キロの距離で与那国島といった先島諸島が近い。言語は中国人で漢民族と十四の原住民族に分かれるが、人口の約九十八%は漢民族。漢民族は、日本統治時代以前に台湾に渡ってきた「本省人」と中国国民党政府の統治後に台湾に渡ってきた

「外省人」に分けられる。台湾の人口の八十五%が本省人である。日本と中国に一九七二年に国交が成立したため日本と台湾の国交は断絶したが交流は深い。大使館や領事館はないが「台北駐日文化代表処」「財団法人交流協会」の事務所が台北と高雄にあった。

 台北松山空港の出国ゲートから出てくる田代、羽生、翔太、オルビス、リンガム。

 今回は佐久間はTフォース東京支部から帰ってこれないのでこのメンバーになった。

 「どこに行く?」

 翔太はガイドブックを出した。

 昨日、本屋で買ってきた。

 「夜市は夜にならないと開店しないから小龍包食べに行く?」

 リンガムが口をはさむ。

 「台北101は?」

 オルビスがわりこむ。

 咳払いする羽生。

 「私達は観光に来たわけではなくて捜査に来たのです」

 田代は言い聞かせるように言う。

 「お昼はその店だね」

 しれっと言う羽生。

 「その探している人は見つかったのですか」

 オルビスがたずねた。

 「故宮博物館の学芸員をしているらしいからそこに向かうの」

 田代が答える。

 「行くにはMRTというトラム・・・路面電車みたいなのに乗って行くといいみたい」

 ガイドブックを見せる翔太。

 「そこからバスに乗れば着くみたいね。行きましょ。お土産は帰りに買うから」 

 田代は駅を指さした。


 同時刻。台北沖

 その海域にいた台湾の巡視船が二隻接近してきた。

 「おまえ、半年前に尖閣沖で会ったな。中国海警の女と仲がよかった」

 声を低める巡視船。

 「だから何?」

 韓国語でわりこむぺク。

 「こいつも中国と仲がいい」

 もう一隻の巡視船が言う。

 シャアアア!!

 韓国の警備船と台湾の巡視船は威嚇音を出してにらんだ。

 「俺達はケンカに来たわけじゃない」

 あきれる三神。

 「私は烏来(ウーライ)。隣は李鵜(リーフ)ケンカしている時間なんてないわ」

 フンと鼻を鳴らす烏来(ウーライ)

 手招きする李鵜(リーフ)

 彼女の案内で港に入っていく。

 台湾の海岸巡防署の岸壁に接岸すると元のミュータントに戻った。

 官舎の会議室にベトナム人やタイ人、フィリピン、マレーシア、インドネシアの沿岸警備隊の男女が顔をそろえている。

 「こんなに集まってたんだ」

 驚く三神と朝倉、ぺク、キム。

 「俺達も派遣されたんだ」

 その男女と一緒にアレックス、リドリー、フラン、リヨンがいる。

 「イタリアはまだ関係がないのでは?」

 朝倉が首をかしげる。

 「トリップ議員の要請で来ている。難民問題も大事だけど何か起こっているのかわからないから来たんだ」

 リヨンは答えた。

 「ベトナムから来たグエン・ティンです」

 ベトナム人男性が名乗る。

 「フィリピンから来ましたアニータ・リガウエンです」

 フィリピン人女性が名乗った。

 「タイから来たトム・パッカーンです」

 「ミンシン・ホアフェです」

 「ルース・ディエゴです」

 マレーシアとインドネシアから来た二人の男性は答えた。

 「南シナ海にはスプラトリー岩礁があり

ますが中国は基地を建設しました。基地には戦闘機や艦船がいる。それはベトナムから奪った島でもそうで基地があって海警の巡視船や駆逐艦が出入している。フィリピンにある島でも勝手に基地を造った」

 グエンは地図と写真を出した。

 「すごいな。基地ができてる」

 声をそろえる三神、朝倉、ぺク、キム

 「これなら二十四時間以内にいつでも出撃可能だ。すでにミュータントは常駐しているだろうし港もある。この規模だと駆逐艦くらいは停泊できる」

 アレックスは指摘する。

 「香港のそばに南海艦隊の基地がある。いつでも南シナ海に行ける。海南島には潜水艦基地があり、鄭和、鎮遠艦隊から戦闘機が出撃できる。空母「波王」は海南島から動いていない」

 リドリーは地図を指さした。

 「三隻の正規空母は完成したのか?」

 キムがわりこむ。

 「試験航海をやっているのを見たことがある。試験やっているのに乗員がいない。それにおかしな光る模様が船体にあった」

 アニータはふと思い出す。

 「海警の巡視船には光る模様が煙突についている船を十隻以上見ている。駆逐艦や民間の大型船も二十隻見た」

 トムは腕を組んだ。

 「そういえば煙突に妙な模様があった」

 三神は「2901」の煙突にファンネルマークでもついているのかと思ったらあれは模様なのかもしれないと思った。

 「五千トンクラスと一万トンクラス、三千トンクラスの船に変な模様がある。駆逐艦やフリゲート艦も模様のある船を見た」

 ミンシンがふと思い出す。

 「この半年の間におかしな事ばかり起こっている。南シナ海に行ってみようか?」

 三神が提案する。

 「そのまま行けば警戒されるだけだ」

 不意に鋭い声が響いた。

 振り向くと三人の男女が入ってきた。三人はかぶっていた帽子を取った。

 「誰だ!!」

 身構えるウーライとリーフ。

 「李紫明(リューリーミン)と王海凧(ワンハーベイ)だ」

 ぺクが指をさす。

 「このミュータントは?」

 怪しむアレックス達。

 「北朝鮮工作員のライ・コーハン」

 ライと名乗った男は答えた。

 「なんで来るんだ。おまえら海警のせいで島を取られたんだ」

 グエンとアニータは声を荒げる。

 「基地を造って侵攻するのか?おかしな連中を連れてきた」

 ミンシンとルースが思わず立ち上がる。

 黙ったままの李紫明と王海凧。

 「すごい恨まれているな」

 朝倉がつぶやく。

 「強引なパトロールをしているからな」

 うなづく三神。

 「なんか気持ちがわかるな」

 フランがささやく。

 「そうね」

 リドリーがうなづく。

 「でもこの状況を止めないと話し合いにならないぞ」

 困った顔のアレックス。

 「コアを取ってバラバラにしないと気がすまない」

 「それ以上に基地を壊したい」

 アニータやルース、グエン、トム、ミンシンはそれぞれの言語でののしり、怒りをぶつけた。

 「取り込み中悪いが気になるものがある」

 言い合いをしているウーライ達に割って入るライ・コーハン。

 ハタッとやめる李鵜達。

 ノートPCを開くライ。

 画面にカウントダウンの数字があった。

 「なんだこれ?」

 三神達は声をそろえた。

 「中国軍に動きがないのが気になる。民間船と漁船が南シナ海や台湾海峡、東シナ海で数百隻が群れている。南シナ海には米軍のイージス艦「ラッセン」がいて、多数の中国の漁船団がいる。それもみんなミュータントだ。台湾海峡と黄海、東シナ海に大型船と漁船と海警と駆逐艦がいる。海警は「2901」「2902」「2903」「2904」「2503」「2501」「2502」と三千トンクラスの巡視船が集まっている。遼寧と蘭州は南シナ海にいる。この事から攻撃準備でないかと思う」

 ライは推測して説明する。

 「オーマイゴット」

 アニータとアレックスが驚く。

 「まずいソウルに知らせないと」

 「総統府に知らせないと」

 血相を変えて右往左往するぺク、キム、烏来、李鵜の四人。

 「バカな・・・」

 絶句するミンシン、トム。

 「第十一管区海上保安部と連絡が取れない」

 「携帯も無線も圏外だ」

 困った顔をする三神と朝倉。

 「まずいわ。故宮博物館に行った翔太君達が危ないわ」

 リドリーが危惧する。

 「電話は携帯も固定も不通だ。電波妨害されている。もうすぐカウントがゼロになった」

 ライは言った。


 同時刻。故宮博物館。

 ルーブル美術館、大英博物館と並ぶ世界屈指の博物館として有名である。主に明、清の皇帝のコレクションを中心に六十万点以上もの中国文物を保有している。それらは幾多の戦争や内戦をまぬがれた貴重な物ばかり。常設展示物も定期的に入れ替えが行われている。博物館の背後の山は保管庫になっていてまだ梱包も解かれてない遺物が保管されていた。

 ロビーに入ると学芸員らしい男性がいた。

 「警視庁の羽生と田代です」

 羽生は警察手帳を見せた。

 「日本語はある程度わかる。私は李三希(リュー・サンシー)だ。葛城翔太君だね。特命チームの事は聞いている」

 学芸員男性は名乗った。

 「李三希?」

 翔太がオルビスが声をそろえる。

 「私は李紫明の父だ。私の先祖は葛城庵長官と縁が深かった王虎(ワンフー)なんだ。内緒にしていたのは中国政府の手がカナダにいる家族に危険が及ばないためだ」

 李三希は名乗った。

 「ええええ!!」

 思わず驚きの声を上げる翔太達。

 「今、休館日だからお客はいない。君に渡したい物がある」

 李三希は小袋を渡した。

 小袋にはパズルピースとひし形のストック装置が入っていた。

 「オルビス、リンガム。君らの種族の亜種が深海にいる。仲間にして一緒に戦うんだ」

 李三希はストック装置を渡す。

 「え?」

 「このストック装置はその亜種の物だ。基隆市の漁港に行け。名前は阿蘭(アーラン)」

 李三希は真剣な顔になる。

 「なんで?」

 羽生と田代、翔太が聞いた。

 「オルビスとリンガム。君ならわかるはずだ。敵の総攻撃が近い。もう遅いかもしれないが」

 李三希は声を低めた。

 「総攻撃?」

 目を丸くする田代と羽生。

 翔太の頭の中にふいに入ってくる威圧するような無数の声とミサイルが降り注ぐイメージ。嫌な殺気も感じた。

 「中国軍が来る」

 周囲を見回す翔太。

 「漁船と民間船じゃない。巡視船と大型船、駆逐艦に擬態したカメレオンだ。中国軍と一緒にやってくる」

 オルビスとリンガムがだしぬけに叫ぶ。

 「ええええ!!」

 田代と羽生が驚きの声を上げた。

 せつな、飛翔音が響いて紫色に光るミサイルが空港の方向に飛んでいった。

 ドドーン!ドオーン!

 近い場所に炸裂音と爆発音が響いた。

 「何が起こった?」

 「爆弾テロか?」

 血相を変える田代と羽生。

 「中国軍の攻撃が始まったんだ。大変だ!沙羅さん達が危ない」

 翔太が窓からのぞいた。

 台北空港から火柱と黒鉛が上がる。

 「ここから地下道がある。もしものために造っておいた。案内する。無事に逃げて亜種のアーラン(阿蘭)に会うんだ」

 書棚を押すリュー・サンシー。

 ドアが開くように動いて階段が現れた。彼らは階段を降りていった。


 台北の海岸巡防署では断続的に爆発音が響いた。

 「敵襲!!」

 警報サイレンが鳴り響いた。

 「しまったぁ。ワナだったんだ」

 グエンや烏来はくやしがる。

 中国軍の戦闘機が機首を並べて爆弾を投下していく。

 ドドーン!ドゴーン!

 港湾施設が吹き飛んだ。官舎の窓が割れた。

 「このままだと台北市に入れない」

 三神は身を伏せながら言う。

 「そうは言ってもこの攻撃の中で行くのは無理だ。空港と街は爆撃が続いている」

 アレックスが分析する。

 「ここは台湾から脱出して体勢を立て直すしかないぞ」

 ライが推測する。

 「バカな。離れるのか?」

 李鵜と烏来がわりこむ。

 「この状況を見てみろ。どうみても総攻撃だろうが」

 フランが叫んだ。

 「携帯も無線もつながらない」

 アニータが携帯と無線をたたいた。

 「李鵜、烏来。俺達と一緒に海保に来ないか?少しでも戦える人員がほしい」

 三神はひらめいた。

 「そこから台湾の奪還を考えればいい」

 朝倉が提案する。

 「しかたがないわ」

 烏来はうなづいた。

 李鵜は両目を半眼にした。船内無線で巡視船やヘリコプター、航空機のミュータントに指示が送信された。

 「ここを出よう」

 アレックスはあごでしゃくった。

 三神達は官舎を飛び出した。海に飛び込み巡視船に変身して離岸した。

 そのすぐそばを太い赤い光線が稲妻をともなって官舎に命中。閃光とともに同心円状に吹き飛んだ。

 「どっから撃っているんだ」

 トムの声が震える。

 「射程が倍あるぞ」

 宙に浮かぶライ。彼は普通のミュータントである。

 「ライ。乗って」

 リドリーが呼んだ。

 ライはうなづく。

 「あんな光線みたことがない」

 グエンが声を震わせる。

 港から脱出するのは自分達だけではない。あの戦場を運良く生き残った飛行機や船のミュータント達が逃げ出していた。

 「ミサイルが赤色と紫色に光っている」

 アニータが指摘する。

 街の方へ飛んでいく。

 そして落下傘も見えた。

 「私と王は海警に戻る。少しでも内情を探りたい」

 李紫明は周囲を見回す。

 「わかった」

 三神はうなづく。

 そうした方が彼ら二人は怪しまれない。

 李紫明と王はどこかへテレポートした。

 港湾部を飛び出す三神達。

 「やあどこに行く?」

 濃密な煙から出てくる海警「2901」

 「逃げるに決まっている!!」

 烏来が声を荒げる。

 「おまえらはここで死ぬんだ!!」

 「2901」は叫んだ。せつな船体の両舷から砲身が飛び出し、煙突から砲台が飛び出した。

 「トランスフォームしたぁ!!」

 李鵜が叫んだ。

 「2901」の三つの砲台から太い稲妻を伴った赤い光線がなぎ払うように放出される。

 彼らはジグザグに間隙を縫うように航行してかわした。

 「朝倉。泡」

 三神はひらめいた。

 「了解」

 朝倉は二対の鎖でまんじゅうをこねるようなしぐさをすると青色の泡を何個か投げた。

 「2901」が張るバリアにはばまれたが石けんが溶けるようにバリアに穴が開いた。

 リドリーは黄金色の息を吹いた。

 「しょうゆの香ばしい匂いがする」

 「2901」は匂いをかいだ。

 三神が動いた。その動きは彼らにも「2901」にも見えなかった。気がついたらたくさんの傷が口を開けていた。

 アレックスのミサイルが命中。

 「レイカッター」

 グエン。ミンシン、アニータ、トムは声をそろえた。緑の蛍光の刃が鎌いたちのようにいくつも舞った。砲身の留め金や固定していた金具が壊れて海に落ちた。

 フランの二対の鎖の先端がドリルに変形して傷口をえぐった。

 朝倉とぺク、キムの四対の鎖の先端が青白く輝き「2901」の傷口を貫通した。

 「ぶぐあっ!!」

 よろける「2901」

 「ぬあああ!!」

 「2901」の船首が花弁のように開いて中から三つの砲身が見えた。

 黄金色の光線が放出された。なぎ払うように放たれる光線をかわす三神達。

 光線が放出しおわると同時に三神達がいっせいに襲いかかり鎖や錨でえぐり、ミサイルを撃ち込み、炎の玉や氷の槍が船体を貫いた。

 「かならず台湾を解放するからな」

 烏来と李鵜は怒りをぶつける。

 「私がやられても次が来る・・・」

 不気味に笑う「2901」そして閃光とともに爆発して四散した。

 「逃げよう。中国軍が来る」

 アレックスが叫ぶ。

 彼らは逃げ出した。


 地下道を走る翔太、リュー・サンシー、オルビス、リンガム、田代、羽生の五人。

 どこか遠くで爆発音が聞こえる。まだ爆撃が続いている。空爆が終われば次は揚陸艦で上陸兵や戦車がやってくる。

 「驚いたな。こんな地下道があったなんて」

 羽生は周囲を見回した。

 地下道はレンガでしっかり固定されている。ただ足元を照らすのはランタンだけだ。

 「昔、戦争に巻き込まれたら港まで宝物を運び出すつもりで造った」

 李三希が口を開く。

 「名前を変えて生活していたんですね」 

 翔太は口を開いた。

 「七十年前の終戦後は名前を変えて台湾に来たんだ。家族は数年前にカナダに移住した。私もハンターだからハンターの活動をして様子を見ていた。案の定、中国内部に時空侵略者が入り込んでいた」

 顔がくもる李三希。

 「アメリカだけじゃなかったんだ」

 翔太が言う。

 「中国国内は汚職官僚、生活や職を失った農民や市民で怒りが渦巻いている」

 声を低める李三希

 「でも中国人の爆買いは有名よ」

 田代がわりこむ。

 「あれは政府が住民の感心が政府に行かないための政策だ。軍隊も共産党のための軍隊だ。いくらネットやテレビを規制しても人々は抑えきれない。爆発寸前だ」

 李三希は答えた。

 「あの国は国内外に問題を抱えている。数え切れないくらいにね」

 李三希がつぶやく。

 「時空侵略者の手を借りて中国は何をするつもりなんだ」

 羽生が聞いた。

 「衰退しているアメリカに変わって世界の覇権を握る事。そのために「覇王の石」をほしがっている」

 李三希が答えた。

 「もうすぐ出口です。敵はいません」

 オルビスが報告した。

 しばらく行くとハシゴがありそれをのぼbって出るとそこは井戸だった。

 しかしそこに街はなかった。すべて瓦礫と化していた。そこにあったビルや建物は全壊しているものが多くまともに立っている建物はなく人々が倒れていた。

 その死体のわき道を早足で駆け抜け、漁港へ入った。

 すると十人の中国兵がライフル銃を連射。

 物陰に隠れた。

 「私が囮になる。娘に出会ったらこの剣を渡してくれ。これは高祖父が使っていた剣なんだ」

 李三希は風呂敷に包んだ物を渡した。

 「でも・・・」

 「君らには日本へ着いてもらわないと困る。カメレオンの少数派と協力しないと奴らに勝てない」

 李三希は語気を強めた。

 「わかった」

 真剣な顔になる翔太。

 「あの小屋に走れ」

 李三希は短剣を抜くとバラック小屋を指さした。

 李三希と翔太達は駆け出した。

 李三希は中国兵へ走り、翔太達はバラック小屋へ駆け込んだ。そこに潜水艇がいた。

 潜水艇のハッチが開いて青銀色の髪の少女が現れ手招きする。

 小屋の外で銃声が響いた。

 弾かれたように翔太達は潜水艇に乗り込む。潜水艇は潜行を開始して港を離れた。


 三時間後。東京の官邸。

 記者会見室に三宅総理が入ってきた。そこには多くの報道陣やカメラが並んでいる。

 深呼吸するとギュッと口をかんだ。

 「まず、昨晩からわが国に起こっている異常な状態によって、国民のみなさんに著しい動揺と不安とを抱かせておりますことについて、私は国政を預かる最高責任者として、まずおわびを申し上げたいと思います。総理大臣である私の最大の使命は、日本国の主権と、国民の生命及び財産を守る事にあります。一方、日本国憲法は戦争放棄を明確に確定し、わが国は第二次世界大戦後。一貫して平和主義を貫いてまいりました。その中で、歴代の総理及び政府と同様、私及び政府は外国の侵略や外国との武力衝突を、可能な限りの方法を通じ予防することに腐心してまいった次第です。しかし、私共の力が及ばず、今般、中国による武力侵攻という異常な事態を迎えてしまいました。わが国政府は、国際法に違反する中国の行為に厳重な抗議を発するとともに、侵害されたすべての主権を速やか回復すべく、あらゆる措置と行動を実施することを決定しました。今回の中国の理不尽な行為を国際社会に訴える一方で、憲法上の自衛権の発動により自衛隊に防衛出動命令を発し、あらゆる状況に応じた強力な対応をとるようすでに命じています。日本国民の付託と支援を受けるわが国の自衛隊は、崇高な使命感と士気の高さ、さらには世界的にも屈指の装備と錬成度によってきっと、この国家的な危機を打開し、回復してくれるものと期待し確信するものであります。自衛官諸君の奮闘と献身に、深甚なる謝意と敬意を表すものです。

 国民のみなさん。私は総理大臣として現状について宣言しなければいけません。わが国は戦後初めて「有事」の状態下に入りました。これによって、当分、わが国の社会は武力攻撃事態法など有事関連の諸法律が施行されることになります。今後、関係当局や各地方自治体を通じ、様々な指示や協力要請などがみなさんに求められると思います。どうか、冷静に、そしてこの緊急かつ異常な状況から一日も早く回復できるよう、国民が一致して行動し、協調することを切にお願いします。私及びわが国政府は、あらゆる力をふるって、事態の拡大回避と、中国軍の排除そして、再発防止に全力を尽くす覚悟であります。どうか政府を信じ、ご協力いただけますようにお願い申し上げます。そして特に外国軍の侵攻を直接受け、強い驚きと戸惑い、そして恐怖と不安の中に身を置かれている先島諸島の住民のみなさまに申し上げます。私共の力が及ばす誠に申し訳なく、断腸の思いでいっぱいです。一刻も早く、心身共に不正常な環境を一掃できkるよう全力を尽くしてまいることを固く誓う次第でございます。どうぞ今しばらく耐えていただきたいとお願いするばかりです。最後になりましたが、この事態の中で尊い命を落とした自衛官をはじめとする方々の御霊とそのご遺族に深い哀悼の意を表すものであります」

 そう言うと三宅はいったん、机上に置いていた手を下ろし、気をつけの姿勢をとりながら頭を下げた。


 その頃。沖縄の那覇港やあらゆる漁港に避難民を満載したフェリーや大型船、貨物船から漁船にいたるまで殺到していた。避難民を港にピストン輸送するようにかわるがわるに降ろすと港湾施設から出るの繰り返しが続いていた。三時間すぎるとそれは終わった。

 三神達が中国軍のいる海域を避けて沖縄に着いたのは首相官邸の記者会見が終わってからの事だった。

 「港に船がいっぱいいる」

 ぺクが指摘する。

 「なんでこんなにいっぱい?」

 朝倉が周囲を見回す。

 ターミナルビルに人々がごったがえしているのが見えた。

 港で巡視船や民間船のミュータント達が邪魔な船を港湾施設の外に出して岸壁に係留させている。

 「隊長!大浦、三島、みんな」

 三神と朝倉は駆け寄った。

 グエン達も駆け寄る。

 船体の向きを変える複数の巡視船。

 「隊長。第十一管区石垣島保安部に戻らなくていいのですか?」

 三神が聞いた。

 「知らないのか?尖閣専従部隊も石垣島の保安部はもうなくなった。第十一管区だけじゃなく自衛隊の分駐地もレーダーサイトもTフォース、魔術師協会、ハンター協会出張所もなくなった」

 沢本は声を低めた。

 「そんな・・・」

 絶句する三神達。

 「これらの船はご丁寧にも中国軍がわざわざ島にいた人々を追いたてて集めて乗せたの。エリックさん達も乗り込んで那覇にいる」

 大浦が口をはさむ。

 「三時間前に宮古島の自衛隊レーダーサイトが爆撃されて基地も攻撃された。次に第十一管区だった。赤い光線が発射されてミュータントとそこにいた隊員たちは直撃を受けて建物もろとも吹き飛んだ。あんな武器みたこともなかった」

 三島は重い口を開いた。

 「台湾は総攻撃に近い感じだった。中国軍と一緒に海警「2901」がいた。あいつサブ・サンが連れてきたエイリアンだったんだ。見た事もない武器を船内に七つも格納していて煙突からミサイルを発射してビーム光線を発射する砲台を格納していた」

 三神は思い当たる事を言う。

 「先島諸島に来たのは江凱ⅡA型フリゲート艦数隻と海警「2503」だった。ランタンのような装置がアーチ状に出て紫色の光線でなぎ払った。建物が一瞬にして刀で切断したみたいに真っ二つになった。あいつらもエイリアンだったのよ」

 大浦がおぼろげながら思い出す。

 「巡視艇のミュータントが十隻死んだ。ヘリコプターや航空機のミュータントも赤い光るムチでつかまえてあいつらは食べた」

 三島は泣き出した。

 「我々は負けたんだ」

 どこか遠い目をする沢本。

 「ニュースでやっていたけど台湾も攻撃したらしいわ。南シナ海の内海にいた民間船、漁船、そこにいた島も攻撃を受けたみたい。台湾と先島諸島は中国軍に占領された」

 大浦は説明した。

 「そんなバカな・・・」

 李鵜と烏来が絶句する。

 「私達は情報がほしい」

 アニータが心配する。

 「ターミナルビルに行けば大型モニターがあってニュースをやっている。さっき総理の記者会見をやっていた」

 大浦は鎖で港を指さした。

 同時刻。中国外務省

 中国外交部報道官が記者会見室に入った。

 「四時間前、我が人民解放軍は、最高意思決定機関の命令により、わが国及びわが人民の核心的利益を侵害し続ける日本政府に対し、やむを得ず軍事的手段をもって、わが国及びわが人民の確固たる意志の実現を期すべく行動にうつした。

 従来よりわが国政府が、普遍かつ明白な根拠をもって、わが国の領土としてきた釣魚島一帯、スプラトリー礁一帯に対し、関係国政府は一方的な主張を掲げ、わが国政府及び、人民に不当な圧力と不利益を長年に渡り与えてきた。これに我々はあくまでも忍耐をもって対応し、日本政府、関係国政府に主張の自制を促してきたものである。

 ここに、我々ははっきりと侵略意図を確信した次第である。その上でさし迫った核心的利益を防衛し、再びその時代遅れな帝国主義的な考えに基づき、わが国及び人民の核心的利益を脅かすことがないよう、釣魚島一帯、スプラトリー礁一帯その周辺から軍事的脅威を一掃することにしたものである。従って、我々の行動はすべて、日本と関係国に対するものであり、周辺諸国を含む第三国の主権及び安全に、一切影響を与える意思はない。逆に、我々は第三国の本件に関するいかなる干渉、妨害を排するものだ。我々の考え、そして行動に最大限の理解を示してくれることを望みながら、静観することを期待したい。今回の行動は善良かつ友好的な日本の人民にいたずらに恐怖と不安を与えようとするものではない。また、我々は戦局の拡大を決して望むものでもない。日本政府が、これまでの方針、行動を反省し、改めることを約束するならば、即時、行動を停止するものである。

                 以上

 那覇港ターミナル。

 元のミュータントに戻った三神達は港のターミナルビルのロビーにある大型モニターを見て歯切りした。

 「何が核心的利益で軍事行動だよ。やっていることは侵略ではないか!!」

 「一方的なのはおまえらだろう」

 李鵜、烏来、ぺク、キムは中国語と韓国語で声をを荒げた。

 「今、米軍の行動がなければ太平洋を割譲したいと言い出すにちがいない」

 ベトナム語や英語でモニターに文句を言い始めるアニータやグエン達。

 「佐久間さん達の所へ行こう。自衛隊でも動きがあれば参加しよう」

 三神は提案した。

 自分達のできることはやるそれだけだ。

 「那覇基地へ行こう」

 アレックスが言った。


 

 

 

 

 

 

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