第2話 尖閣専従部隊と終わる平和 つづき
東京にある首相官邸
「三宅明弘総理。この三人の子供を知りませんか?」
「マーク在日米軍司令官。私達はなにも感知していません」
三宅明弘総理と呼ばれた人物は答えた。
ムッとする米軍将校。マークは納得しない顔で腕を組んだ。
「マーク司令官。葛城長官の息子を執拗に追いかけていますね。この四隻のミュータントを使って」
三宅総理は正面モニターをつけた。画面にニミッツ級空母とワスプ級強襲艦。沿岸戦闘艦の二隻が映っている。艦橋の窓に二つの光が灯っている。
「空母のミュータントは初耳だ」
どよめく閣僚達。
「ウワサは本当だったな」
自衛隊の幹部がつぶやく。
「海上保安庁の巡視船のこのミュータントは何回も我々の邪魔をしている」
マークはリモコンで切り替えた。
画面に巡視船「やしま」「あそ」「こうや」
「つるぎ」「かいもん」が映っている。
「邪魔などしておりません。職務をこなしているだけですが何か?」
海上保安庁長官が冷静に聞いた。
「三峰昌長官。米軍の哨戒活動を邪魔して調査も邪魔しました」
マークは語気を強めた。
「長官の息子とオルビスとリンガム隊員を拉致する事をですか?」
はっきり指摘する三峰長官。
黙ってしまうマーク。
「マーク司令官。このスパイの言っている事は本当ですか?エリア51には時空侵略者がいて中国政府の内通者と仲がいいのは?」
ベック支部長は写真を出した。
「スノー・ディアス。元CIAのスパイでロシアに最近になって亡命して欧州の首脳の会話や政府の電話を盗み聞きしていたのはどうしてですか?」
平賀博士はたずねた。
モニターにアメリカ人男性が出る。
「それは調査中」
マークは答えた。
「エリア51では夜な夜な時空のひずみを作る実験をしている。それではいくらTフォースが監視していても侵入されますよね」
ベックははっきり言う。
「あの大震災が原因で時空のひずみが発生した。むしろそれは遠因であなた方の実験が原因ですか」
防衛大臣がわりこんだ。
「だからそれは私も知らない。なんで官邸に上級魔術師が同席させているんですか」
言いよどむマーク。
部屋にもだが政府機関には普通に紫色の外套を着用した魔術師が警備している。
「時空侵略者は自分達がいた世界の物はここに来ると使えなくなる。科学力の差は別として魔術が使っても侵入は防げる」
すました顔の三宅。
「国際調査で海保の他にインドとロシアとアメリカの沿岸警備隊の船のミュータントがいた」
マークが指摘する。
「米軍が追っていたのは時空船ですか?」
ベックが冷静に言う。
どよめく閣僚達。
「中国軍や中国政府だけでなく米軍に時空侵略者のフィクサーや手下がいると見ています。入られ放題ですね」
平賀はしゃらっと言う。
「さっき、中国の駐日大使から尖閣沖で拾ったものをよこせと言って来た。時空船を使って何をするのですか?フィクサーのいいなりですか?」
三宅の眼光が鋭く光る。
「第七艦隊司令部とハワイの司令部ですか」
防衛大臣が口をはさむ。
「調査中です」
マークは憮然とした顔で言う。
「私達はこのあと会議がある。私達は忙しいのだよ」
三宅は腕時計を指さしながら言った。
同じ頃。ウラジオストク港
港の片隅に停泊する貨物船にレナ議員と博が入ってきた。
食堂にいた三神、朝倉、リドリー、アレックス、フラン、翔太、リンガム、オルビスと佐久間、レベッカがいる。
「レナさん。僕達は時空船を拾いました」
困惑する翔太。
死者の羅針盤をたよりにいっただけ。米軍や中国が探しているものを見つけた。
「ここを探知されるのも時間の問題よ。二十四時間ね」
戸惑うレナ。
「なんで?」
翔太がたずねた。
「釜山に米軍の空母ロナルドレーガンがいて日本海にサラトガ達がいるの」
レナが地図を出した。
「そういえば空母ジョージワシントンと交代して二週間前に横須賀に来てそのまま韓国軍と演習するために日本海へ行った」
レベッカがふと思い出す。
「ニュースでやっていたし来て二日目に一般公開やってた」
翔太があっと声を上げる。
NHKや民放でもやっていた。盛況すぎて二時間で締め切りになった。すごい人気で行列が二駅ほどになったという。
「葛城長官。渡すものがあるわ」
佐久間は旅行カバンを開けた。彼女は戦艦「三笠」の模型を出した。
「報告を聞いたが本当なんだね。ようやく曽祖父達の願いがかなった」
博はしみじみとつぶやく。
「キジムナーが僕の不具合を治してくれた」
オルビスは破顔する。
「今度は本当の戦いが始まるね」
博は顔を上げた。
「戦艦「三笠」はどうする?」
三神がたずねた。
「元に戻せば世間が騒ぐし、マスコミも当然騒ぐ。東郷平八郎記念館に模型を寄贈をでいいと思うね」
博は腕を組んだ。
「そうした方がいいかも」
朝倉がのぞいた。
「空母ヴァルキリーと融合したのか。誰に使い方を教わる?」
博が困った顔をする。
「一番いいのはサラトガだよ。遼寧は問題ありすぎてダメだし」
フランが言う。
「この事件を片付けたら教わるしかないね」
博は少し考えてから言う。
「時空船を見てみませんか?」
翔太が話を切り替える。
「そうね。貨物室に案内するわ」
レナは手招きした。
貨物室に入ってくるレナ達。
貨物室にオルビスと同じ種族のブレインがいる。レゲエ風の長髪に見えるがそれは全部ケーブルの束でゴーグルをつけている。鉄の前かけをつけた丸っこい体型だが進化と融合の末にそうなった。
「時空船なんて初めて見た」
アレックスと三神が声をそろえる。
「たぶんこれがドアのスイッチ?」
翔太は船体側面にある二重丸のマークに手を触れた。なぜかわからないが時空武器を持っているせいだと思う。
マークに触れると出入口ドアが観音開きに開いた。船内はテレビニュースで見るような国際宇宙ステーションやスペースシャトルの船内を思わせる白を基調としたデザインだ。
後部にもドアがあって開けるとコンテナがあったがドアがどれも開いていて空っぽだ。
「君の指紋認証と時空武器に反応するように造られているね」
ブレインは分析する。
「積荷は何もないな」
フランと朝倉がのぞく。
荷物も何もない。使い尽くした感じだ。
翔太は正面ドアを開けた。
そこはコクピットである。操縦席に座っているパイロットに近づいて思わず腰を抜かす。
「どうした?」
レベッカが聞いた。
「ミイラがいる」
指をさす翔太。
回転式のイスを回すブレイン。
「エイリアンだ」
レナ達は声をそろえた。
指は六本でとがり耳。顔立ちは西洋人。額から後頭部にかけてヒョウ柄模様がある。来ている服はピッタリフィットするラメ入りのサイバネティックスーツを着用している。
足元に金庫が転がっていた。
ブレインは金庫を拾った。センサー部に自分の人差し指をプラグに変えて接続。しばらくするとドアが開いた。
「これは何の文字?」
レナが書類を出した。
「地球にある言語では書かれていない。このパイロットがいた惑星の文字ですね」
ブレインは分析しながら言う。
「本当だ。ロシア語でもヒンディ語でもないぞ」
フランが驚く。
「すげえな」
三神達がのぞきこむ。
象形文字のようだが古代エジプトのものでもない文字が並ぶ。
「これは覇王の石の手がかりの一部の宝石とパズルピースだ」
ブレインは翻訳しながら指摘する。
「このサファイアが?」
リドリーがわりこむ。
「宝石は水晶玉とサファイア、翡翠、トパーズ、ルビーの五つ。パズルピースもあと三つある。全部そろえると覇王の石への道が現れる」
ブレインは書類を見ながら言う。
「それなら昨日都内のホテルで殺害されたリディア博士がパルミラ遺跡から持ち出した重要な危険な時空遺物の中にあった」
博はふと思い出した。
「え?」
「警視庁が捜査しているんだが公安に捜査が移った。リディア博士の持ち物に翡翠、トパーズ、ルビーがあったがパズルピースがないんだ」
博は後ろ頭をかきながら言う。
おもむろに翔太は死者の羅針盤を出した。地図ではなく船内図をさして針は床を指した。
翔太はコクピットを出ると出入口付近の床に近づく。足元にマンホールがあった。
「三神さん。開けられますか?」
翔太は呼んだ。
三神は取っ手をつかむと開けた。床下にトンネルが続いている。二人は顔を見合わせうなづくとハシゴを降りていく。
しばらくすると船底にあるデッキに着いた。
望遠鏡と地図と一緒にひし形も機器がいくつか置いてある。
「これもしかしてオルビスやリンガムの胸にあるストック装置に似てない?」
翔太はあっと声をあげた。
「この地図は太陽系?」
三神は首をかしげる。
「それはこのパイロットの物だ。たぶんそのストック装置は持っていっていいかもしれない。これはなんだろう?発炎筒?」
翔太は推測する。ストック装置をのぞくと見たこともない武器や機械が見える。
「これを全部オルビスに見せた方がいいかもしれない」
三神は小さなコンテナに備品や機器類を入れた。
「オルビス、リンガム、ブレイン。下のデッキでこれを見つけた」
翔太はハシゴをのぼってトンネルから出てくる。
博達が振り向いた。
ハシゴをのぼってくる三神。背中の二対の鎖でコンテナを引き上げる。
「下部デッキ?」
ブレインがのぞきこんだ。
「十メートルあるよ」
オルビスとリンガムが計測する。
「すごいわね。魔術を使わずに科学力で別の次元をつないでる」
佐久間は推測する。
「すごい技術力」
レナがつぶやく。
「これはすごいね。プラズマ砲、粒子砲、重量子ビーム、電磁砲。ビックガンが喜びそうだ」
ブレインは声をはずませる。
「ヒールモジュールは僕達のエネルギーや体力、損傷をすばやく治せる」
リンガムは別の装置をのぞきこむ。
「武器システムだ」
オルビスが目を輝かせる。
「聞いた事のない物ばかりだ」
アレックスがつぶやく。
「別の惑星から取ってきたのかも」
リドリーが怪しむ。
「いずれにしても現在の科学力じゃ無理だ」
三神が小声で言う。
「アンチエイジング装置なら少しは若返る事ができるかも」
ブレインは博に渡した。
「これはプラズマ銃やレールガンに使えそうだよ」
オルビスが声を弾ませ博に渡した。
「世界情勢を変えそうなものばかりだ」
朝倉が不安な顔をする。
「これは型落ちのロケットエンジン。少なくとも月や火星に半年は短くできる」
ブレインは博に渡した。
「これは発炎筒じゃないよ。救援用ビーコンだよ」
オルビスが指摘する。
「これはヴェラニウム。燃料に使えるけど地球だと太平洋の海底にあるとされている。少量しか存在しないかわりに原子炉のように放射能は発生しない。宇宙船のエンジンに使えそうだ」
ブレインは満足げな笑みを浮かべる。
「でも時空船はどうする?」
三神が聞いた。
「救援用ビーコンがあるならこの船を元の海域に戻した方がいい」
それを言ったのは翔太である。
なんでそう思ったのかわからない。直感でそう思っただけだ。
「尖閣諸島沖は中国の海警だけでなく中国軍の艦船も出没する。日本海には米軍がいる」
困った顔をする三神。
「護衛艦「いずも」が那覇沖にいる。そこにいったんテレポートして現場海域に行ってもらう。一隻だけじゃなくて間村達も呼ぶわ」
佐久間がひらめいた。
「尖閣専従部隊の連中も呼ぼう」
朝倉がうなづく。
「私はモスクワに帰るけどここにはオルビスの種族専用の武器しかなかったと報告する」
レナは真剣な顔になる。
コンテナに備品や金庫を入れるブレイン。
佐久間達は船外へ出た。
時空船の出入口ハッチが閉まる。
「翔太、佐久間一尉。私も「いずも」へ行こう。ブレイン。荷物とレナ議員を頼む」
博は指示を出した。
「レナ議員。いったんハバロスクの本部に立ち寄ります」
ブレインは近づく。
レナはうなづく。
二人はテレポートしていく。
「よし俺達も行くぞ」
朝倉が言った。
三十分後。護衛艦「いずも」
全長二四八メートル。二万六千トン。
ひゅうが型に続く空母型護衛艦である。「ひゅうが」型が洋上司令部機能が充実しているのに対して空母的な性格が強い。
艦内の格納デッキに時空船が哨戒ヘリコプターと一緒に格納されている。
「未確認飛行物体をはじめて見た」
感心する艦長。
幹部達も物珍しそうに見ている。
「本田雅史艦長。巻き込んで申し訳ない」
博はあやまった。
「葛城長官。ここはお互い様です。邪魔が来ないうちに行きましょう」
本田艦長がうなづく。
「この哨戒ヘリコプターをどかさないと時空船を出せないな」
三神が周囲を見回す。
本田艦長は部下達に指示を出す。
乗員達は時空船の隣にあった哨戒ヘリをフォークリフトで押した。
「艦長。尖閣諸島沖に接近します」
艦内アナウンスが入る。
「空母と船三隻が接近します」
オルビスが報告した。
「え?」
「空母サラトガと強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦の二隻です」
佐久間がタブレット端末を出した。
「もうかぎつけたんだ」
三神と朝倉は声をそろえた。
「空母サラトガから通信が入っています」
乗員が小型無線を本田艦長に渡した。
「おいそこの船。拾ったものをよこせよ」
ドスの利いた声で艦内アナウンスにわりこんでくるサラトガの声。
「ウワサ通りタメ口だな」
しれっと言う博。
「こちら「いずも」の艦長である本田だ。艦名くらい言えないのかね?」
冷静に小型マイクごしに言う本田。
「船名なんていちいち覚えてられないね。拾ったものをよこせばこの船は壊さない」
見下すように言うサラトガ。
「渡さないつもり?船なんか壊すのは簡単」
アイリスが艦内アナウンスにわりこむ。
「三人の子供もよこせよ」
レジーとレイスがわりこむ。
「本田艦長。第一、第二エレベーターを開けてください。フランとリドリーさん、佐久間さん、アレックスさんは時空船を持って尖閣諸島沖の拾った地点へ行ってください。僕と三神さん朝倉さん、レベッカは第二エレベーターから出て囮になります」
ひらめく翔太。
「僕とリンガムは?」
オルビスがわりこんだ。
「艦内に侵入してくるドローンを撃ち落として」
翔太が答えた。
オルビスとリンガムがうなづく。
「わかった。第一、第二エレベーターを開けろ」
本田は部下達に指示を出した。
翔太達は船首側に駆け寄る。
船首側エレベーターが下りてくる。
後部の第二エレベーターが下りてきて格納ドアが開いた。
「やっと渡す気になったんだ」
艦内アナウンスに割り込むサラトガの声。
第一エレベーターが上昇する。甲板から海と空母サラトガ、強襲艦「エセックス」と沿岸戦闘艦が見えた。
サラトガは「いずも」に接近して二対の鎖で船体をつかんでもう二対の鎖を第二エレベーター内部に入れた。
第一エレベーターが甲板に着いたせつな翔太は矢を射った。光る矢は五本に分裂して正確に空母の艦橋の窓に刺さった。
「ぐああっ!!」
サラトガは四対の鎖を引っ込め、別の二対の鎖で目をかばうしぐさをする。
朝倉は浮遊の呪文をかけた。
三神、翔太、朝倉、佐久間が浮いた。
レベッカはFー18Fほーネットに変身して舞った。
アイリスの四対の鎖が伸びた。
その場から飛び退く三神達。
アイリスに体当たりする護衛艦「みょうこう」。轟音が響いた。
三十発以上のミサイルがサラトガに命中。
スピードが落ちた。
翔太は甲板に着地すると矢を射る。光る矢は五本に分裂して「エセックス」の艦橋の窓に突き刺さる。
くぐくもった声を上げてのけぞるアイリス。
巡視船「やしま」の体当たり。
「リトルロック」が大きく揺れた。
「沢本さん」
甲板から身を乗り出す翔太。
「尖閣専従部隊の連中を連れてきた」
沢本は「フリーダム」のマストと76ミリ砲を二対の鎖でつかんだ。
巡視船「あきつしま」「いず」の他に大浦と三島が変身する船も見えた。
「いずも」の甲板に舞い降りるF-15とF-22とスホーイ35
誰だかわかった。大野、アンナ、リアムだ。
「遅れてごめん」
接近してくる護衛艦「あまぎり」「むらさめ」の他に「しまゆき」「あきづき」といった護衛艦やミサイル艇がやってくる。
サラトガはその巨体でスピードを上げて間村達を押しのけた。
フランとリドリーは巡視船に変身して第二エレベーターに設置した時空船をつかんで駆け出した。
三神と朝倉、佐久間は海に飛び込んでそれぞれ融合している船に変身した。
朝倉は鎖を伸ばして翔太とオルビス、リンガムを船橋に乗せた。
「空母遼寧、イージス艦「蘭州」接近」
オルビスが報告する。
「中国軍フリゲート艦十隻接近」
リンガムが報告する。
「邪魔な奴が増えた」
間村がわざと声を張り上げる。
「米軍が見つけたんだ!!」
サラトガは叫んだ。
「俺達のものなんだ!!」
遼寧が叫んだ。
「この船を壊してしまえ!!そうすれば脅威度は下がる」
蘭州は錨で「いずも」を指さした。
江凱Ⅱ型A型と3型フリゲート艦は船体から八対の鎖を出した。
六隻の中国軍の艦船にミサイルや氷の槍、炎の玉、雷が命中した。
よろけくぐくもった声を上げるフリゲート艦のミュータント達。
スピードを上げてその間をすり抜けていく
「いずも」
「ヘイスト」
サラトガと遼寧は呪文を唱えた。力ある言葉に応えてスピードが上がった。
「スプリングショット!!」
サラトガは一〇対の鎖の先端を分銅に変形。
「淵鄭流気功5の舞。白鳥の舞!!」
遼寧は一〇対の鎖を出して奇声を上げ、猛スピードで動き回り接近する度に速射突きを繰り出した。
「ぐはっ!!」
くぐくもった声を上げる遼寧とサラトガ。
二隻の船体にボコボコに殴られたようなへこみが多数あった。
「淵鄭流気功その四。軽脚。その六。蜂の舞!」
一〇対の鎖で妙な円を描くと奇声を上げて走り出す遼寧。
「スプリングアタック!!」
サラトガはエンジンとスクリュー全開で走った。
遼寧とサラトガはスクリュー全開で海面をモーターボートのように六十ノット以上の速度でジグザグに駆け回りながら一〇対の鎖の連続突き、なぎ払い、袈裟懸け斬りを繰り出した。コマのように轟音をたててぶつかりながらトビウオのように駆け回った。
「スプリングアッパー!!」
サラトガは遼寧の放ったミサイルを五対の鎖でなぎ払い別の五対の鎖を束ねて遼寧の左舷船腹にたたきこんだ。
ドゴォ!ボコォ!!
爆発音のような轟音が響いて遼寧の船体が五メートル浮いた。
サラトガの体当たり。
遼寧が大きく弾かれスピンしながら海面をすべりながら止まった。
サラトガは遼寧を押しのけてスピードを上げて進んだ。
「ぐうう・・・」
くぐくもった声を上げてよろける遼寧。
「あしがら」の艦橋の窓に二つの光が怪しく紫色に輝いた。
レジーとレイスは強い眠気に襲われて寝息をたてはじめた。
フランとリドリー、三神、朝倉、アレックスは時空船がもともと浮いていた海域に接近した。
すると五十機以上の武装ドローンがやってくる。
三神達は機関砲で次々と撃墜した。
フランとリドリーはもともと浮いていた海域に近づくと時空船を放した。
翔太は救助用ビーコンのスイッチを押す。
「時間の流れが変わった」
声をそろえるオルビスとリンガム。
はるか上空から黄金色の光が伸びて時空船を捉えた。光の柱によって引き上げられていく時空船。
「ぬわあああ!!」
スピードを上げて接近するサラトガと遼寧。
オルビスは海に飛び込むと「ヴァルキリー」に変身した。
遼寧とサラトガは二対の鎖を伸ばした。
三十ミリ機関砲を撃つオルビス。銃弾ではなく青白い光線が何条も発射されて二隻の空母の鎖を撃ち抜きちぎれて海に落ちた。
時空船ははるか上空に消えていく。
接近する「いずも」
舳先を向ける遼寧とサラトガ。
「邪魔するなと言っている。せっかくの獲物が消えた」
「あれは中国のものだ」
サラトガは英語で遼寧は中国語で叫んだ。
「こちら「いずも」空母サラトガと遼寧に告ぐ。あれはどこのものでもない」
はっきり言う本田。
「あれは本来の自分の世界に帰還しただけ。それだけのことだ」
博は無線ごしに言う。
サラトガは頭をかかえるしぐさをして「いずも」の周囲を英語で文句を言いながらクルクル回る。
「サラトガ。第七艦隊の空母はいつも事件が起こる前にそばにいる。誰からそれを聞いている?」
博は核心にせまる。
サラトガは舳先を「いずも」に向けた。
「CIAやハワイ司令部」
サラトガが答えた。
「じゃあ空振りだったな」
本田はしゃらっと言う。
「覚えてろよ」
怒りをぶつけるサラトガ。
「サラトガ。この船を沈めようよ」
遼寧が誘った。
「なんでおまえと一緒にやらなければいけない。沈めたい時は好きな時にこんな船なんか沈めてやる。勝手に沈めたいならすれば」
突き放すサラトガ。
「言われなくてもやるさ。この船を沈めたら空母ロナルドレーガンとかジョージワシントンなんて沈めてやる」
ビシッと錨で指さす遼寧。
「やってみろよ。ポンコツ空母。アメリカや世界でおまえがなんて呼ばれているのか教えてやる。「欠陥空母」って呼ばれているんだ。くやしかったらもっとなんかやってみろ」
バカにするサラトガ。
蘭州は中国語で文句言いながら連れてきたフリゲート艦のミュータントと一緒に逃げていく。
「やってやるさ。おまえのコアをえぐってやるからな」
遼寧は二つの光を吊り上げる。
「少し黙れよ。俺はオルビスに用事があるんだよ」
意地悪く言うサラトガ。
歯切りする遼寧。
あきれかえる本田達。
「オルビス。力の使い方がわからないならいつでも沖縄基地に来いよ。この欠陥空母よりはマシな事を教えられる」
わざと言うサラトガ。
「うん。わかった」
うなづくオルビス。
「返事するんじゃねえよ」
遼寧は中国語でつぶやく。
サラトガはアイリス達と一緒に帰っていく。
「ふざけんなよ。このポンコツが!!」
中国語でののしる遼寧。
「僕はポンコツじゃないもん」
しゃあしゃあと言うオルビス。
「この「いずも」という船もおまえも沈めてやる。邪魔はいない方がやりやすい」
遼寧は怒りをぶつけた。彼は二対の鎖を伸ばして「いずも」の船体をつかんだ。せつな、五十発以上のミサイルと氷の槍、火の玉、鎌居たちが命中した。
「ぐはっ!!」
傷口を押さえるしぐさをする遼寧。
「何を沈めるんだよ。言ってみろよ。ポンコツ空母!!」
間村は声を荒げた。
彼だけでなく哨戒ヘリコプターや戦闘機のミュータントもいるし、他の護衛艦のミュータントもいた。
「俺は欠陥でもポンコツでもないね。もう少しで「いずも」を沈めてそのマストを俺の部屋に飾ってやる」
くやしがる遼寧。
「中国に帰れば。これ以上恥をかかなくて済むと思います」
翔太ははっきり無線ごしに言う。
「よく言った」
朝倉と霧島が納得する。
「よく考えてみろ。おまえは一隻でこっちは十隻以上の護衛艦と巡視船、戦闘機のミュータントがいる」
室戸がさとすように言う。
「このことを中国政府に報告してやる」
声を荒げる遼寧。
「何を報告するのかね?あの時空船はどこのものでもない。それだけだね」
本田は無線ごしにピシャリと言う。
「日本との対話なんかしなくていいって報告してやる。韓国なんかもともと中国のものなんだよ」
遼寧は怒りをぶつける。
「おまえ病院に行った方がよくない?」
霧島があきれる。
「電子脳を一回見てもらえば?」
突き放すように言う佐久間。
「おまえの所の巡視船も電子脳を一回検査した方がいいよ。回路がショートしているかもしれないから」
アレックスがわざと言う。
「どうするんだよ。ここでボコボコにされるか逃げるかの選択しかないんだよ」
間村は強い口調で言う。
「覚えてろ!!」
遼寧は中国語で捨てセリフを吐くと汽笛を鳴らして帰っていった。
一時間後。護衛艦「いずも」
甲板から父の博を乗せたオスプレイが飛び立った。
格納庫に間村達が集まっている。
「ウイルさん来たんだ」
翔太がウイルの姿を見つけた。
「アメリカ政府とべクシル司令官の要請でここにいる」
ウイルがうなづく。
「君が葛城長官の息子かね」
不意に声をかけられて振り向くと海保の制服の中年男性と自衛隊将校が近づいた。
「はい。葛城翔太です」
翔太はうなづく。
「私は統合幕僚長の楠木洋司。隣が海上保安庁の三峰昌長官。特命チームの力をいろいろ借りる事になるだろう」
中年の将校は翔太の肩をたたく。
三神、朝倉が気づいて敬礼した。
間村、室戸、霧島、佐久間も駆け寄る。
アレックス、フラン、リドリーが近づく。
「僕ができることはします」
困惑する翔太。
「中国海警の巡視船と戦った事があるというのを聞いた」
三峰長官が口を開いた。
「俺と朝倉と尖閣専従部隊の連中は中国海警の大型巡視船を見ています。一万トンクラスと五千トンクラスの巡視船は新人隊員だそうですが中国軍の指令を受けて動いているというのを聞きました」
三神が答えた。
「それを誰から聞いたのかね?」
三峰はたずねた。
「中国海警の海巡21と融合する李紫明です。彼女は他の海警とちがい信用できます」
朝倉が口を開く。
「彼女はこの半年で環境が変わったとか新人をどこまで押さえられるかわからないと不安がっていました」
危惧する三神。
「時空船が見つかる前に「2901」と「2503」は台湾を制圧後は韓国と日本を併合してやると言っていました」
朝倉は思い出す。
「確かに台湾を制圧すれば、南シナ海のシーレーンは中国は手中にできる」
楠木幕寮長は難しい顔をする。
「おまけに血の気が多くて本気で攻撃しようとしてきた」
三神は口をはさむ。
「それを彼女が魔術で小さくして事を納めた。彼女がいなかったら国際問題になっていたと思います」
朝倉がつけくわえた。
「それは中国軍の蘭州と遼寧にも言えます。半年前は日本海で妙な実験をしていました。それが今年になって南シナ海にも出没している。ネットで欠陥空母とか揶揄されていますが武術気功の達人で暗器を艦内にたくさん隠し持っています」
黙っていた間村が口を開いた。
「私もそれはわかる。サラトガと互角に戦っている」
本田艦長がわりこんだ。
「中国軍の戦闘機や艦船のミュータントは武術や気功、異能力でその不利さをカバーしています」
間村が言う。
「東日本大震災の時に襲ってきた中国人の刺客は武装ヘリと装甲車ですが武術と気功でカバーしていました」
あっと思い出す翔太。
「我々もそう見ている。本家のパクリ武器だがミュータントはあなどれない。万が一の有事が起こったら君らの力を借りたい」
楠木ははっきりと言う。
「だってまだ戦争になってません」
翔太が耳を疑う。
「中国は今、マシンミュータントや普通のミュータントを世界中から集め、軍備増強をしている。周主席は日中会談やアラミス大統領と会談をして外遊して自分達は敵じゃないとアピールしているが内モンゴルで市街戦を想定した訓練をしている。それにアメリカ政府は米軍のイージス艦や空母を南シナ海を航行させたがあれでおとなしくなると見ていない。むしろやる気でいる」
楠木は懸念を口にする。
「それってニコライ二世やヒトラーとやっていることは同じだと思います」
それを言ったのはオルビスである。
「それは日本政府も同じ懸念を思っている」
三峰がうなづく。
「米軍が助けてくれるんじゃないんですか」
翔太が聞いた。
「憲法のどこにもそういう文言はない。アメリカも財政の崖からまた転落して議会ともめている。議会も国益を重視すると見ている。なら日本は中国と戦わなければならない。尖閣だけでなく先島諸島を占領して台湾も制圧すれば南シナ海も牛耳れる。そうなると周辺国と協力して追い出すことになる」
楠木は真剣な顔になる。
「そんな・・・」
絶句する翔太。
「半年前、東日本大震災の発生で時空のゆらぎが発生して時空侵略者が侵入した。原因はそれだけでなくて米軍の秘密基地でやっていた時空のひずみを作る実験のせいで時空侵略者が侵入していた。中国政府や中国軍内部に相当数のフィクサーや手下がいると見ている。中国政府は否定しているが世界の政府機関は警戒している」
楠木は説明する。
「もしかしてエリア51とか?」
間村がわりこんだ。
「それに似たような施設だね。米軍は否定しているけどそれが原因だろう」
三峰が腕を組んだ。
「アメリカ政府に進言しておいた。閉鎖すると言っていたがどこまでできるかわからないな」
楠木は難しい顔をする。
「入られ放題だったわけね」
佐久間は腕を組んだ。
「都市伝説は本物だったんだ」
朝倉がわりこむ。
「よく映画にも出ていた」
うなづく翔太。
ハリウッド映画や海外ドラマでも秘密基地が出てくるSF映画はある。宇宙人との密約とかささやかれているが本当だったようだ。
「召集指令が来たら最寄の自衛隊の基地へ来るんだ」
楠木は言った。
その頃。北京市の一角に紅色の高い壁に囲まれた場所があったがそこは地図に載っていない。中南海と呼ばれていた。北京の大通りは年中渋滞してその排気ガスが街中に漂いPM2・5といった大気汚染でマスクが必要なほどだがここなら空調システムにより汚染された空気は入ってこなかった。
国家主席の執務室に五人の閣僚が顔をそろえている。
「ウイグル自治区でまた爆弾テロです」
国家公安部長が資料を渡した。
新疆ウイグル自治区では数年前から駅前や広場で爆弾テロをするようになった。それだけでなく地方政府の強引な取立てに土地を取られた農民や生活できなくなった農民達がプラカードを持って北京や各国の大使館に陳情に来るのだ。この間はネットで官僚の愛人騒ぎ報道や汚職が暴露された。最近では天津で大爆発事故も起きている。小さな暴動やデモを合わせるとキリがない。でも抑えなければいけない。これらのデモや暴動が横のつながりを持つと反政府運動になってしまうのはどうしても避けたい事案だ。
国家公安部長のチラッと腕を組んで座っている周永平国家主席を見た。
「ここを切り抜ける方法は一つあります」
国家公安部長は口を開いた。
「全人民の目をそらすのだろう?それも尖閣諸島を占領しろと」
目をつむり腕を組む周主席。
「そうです」
うなづく国務院総理。
「戦争を始めるのは簡単だ。終わり方は難しい。七十年前の戦争でもどの戦争でも終わり方は難しいし火種は残る」
中国軍将校は口を開いた。
「では残らないようにすればいいのだろう」
いきなり割り込んでくる声。
「誰だ?」
目を開ける周主席。
「私はサブ・サン。百十一年ぶりにこの世界に戻ってきたんだ」
黒色のピッタリフィットしたサイバネティックスーツに異様に白い皮膚。スキンヘッド。スーツには金色の刺繍が入っている。赤い瞳でじっと見つめた。
「誰だね。時空侵略者を呼んだのは!!」
思わず立ち上がり叫ぶ周主席。
公安部長と国務院総理もどよめいた。
「私が呼びました」
外交部長が入ってくる。
「周主席。国外、国内にいろいろ問題を抱えていらっしゃいますね」
サブ・サンは壁の地図を指さした。
「出て行ってもらう。我々は時空侵略者の手まで借りるまで落ちぶれていない!!」
周主席は目を吊り上げた。
「衛兵。何をしている!!侵入者だ」
公安部長が叫んだ。
部屋に待機していた邪神ハンター達が入ってきて長剣を抜いた。
「私は出て行きますよ。でも必要な時はかならず来る。問題は山積みだ」
笑みを浮かべるサブ・サン。
外交部長と一緒にサブ・サンはおとなしく出て行った。
都内にあるTフォース支部。
屋上のヘリポートからオスプレイが飛び立った。
ヘリポートから下の階へ入る博。
屋上への階段に清掃係がいた。
「ダニエルだね。うちはそこの会社とは契約していないからね」
博は作業服を着た男性が誰だかわかった。未来人ダニエルの変装である。
「よく見ているね」
モップを持ちながら感心するダニエル。
「スノー・ディアスというCIAのスパイにCIAやNSA、米軍に時空侵略者の手下がいる事や中国政府や中国軍にすでにフィクサーや元締めが入っている事をバラしたね。欧州の首脳の電話盗聴の暴露と一緒に世界中大騒ぎになっている」
博はタブレット端末の画像を出した。画像にYAFOOやグーグルニュースや新聞の紙面はいづれもスノー・ディアスのロシア亡命が記事になっている。
「もちろん仕向けたのは私だ。それはただの下地にすぎない」
深呼吸するダニエル。
「下地?何が下地かね。世界中大騒ぎだし世界の人々は時空侵略者の存在を知った。私はTVに呼ばれて説明に追われている。その上にエリア51の存在をバラした」
不満をぶつける博。
あの報道が増えてから急に講演会に呼ばれて講演することが多くなった。そして映画やドラマで都市伝説になっている秘密基地が暴露された。時空のひずみはあの大震災が遠因で原因は秘密基地での実験だった。
「あのサブ・サンがこの世界にやってきている。百十一年ぶりにね」
静かに言うダニエル。
「え?」
「間もなく七十年の平和が終わる。護衛艦「いずも」とリンガムは成り行きで融合する事になるだろう。比較的早い時期に。そしてオルビスの種族の亜種が侵入している」
ダニエルはため息をつく。
「亜種?」
「同じ金属生命体でもその亜種は少数派で水棲種族で深海に潜んでいる。大部分はサブ
・サンに賛同して侵入している。護衛艦「いずも」が撃沈するといくつかのタイムラインが消える。そうなると自衛隊も我々も不利になってしまう。その未来は太平洋を半分を割譲して日本は韓国、台湾もろとも併合される道が待っている」
ダニエルははっきりと指摘する。
「そうならないように行動をしている」
博は腰に手をあてる。
「サブ・サンの種族が侵入したことを間もなくスパイが知らせるだろう。歴史の波がやってきている。奴らは中国政府を口車でそそのかして南シナ海や東シナ海へ侵略を始めるだろうね。あの子が亜種の少数派の協力や「いずも」とリンガムの融合と「ヴァルキリー」のパワーをオルビスが使いこなす事ができないとさらにタイムラインがなくなる」
顔がくもるダニエル。
「条件が厳しいね。いつわかる?」
博は聞いた。
「タイムラインは不確定要素が多い。そこまではわからない」
首を振るダニエル。
「七十年前の太平洋戦争の開戦前にも曽祖父に君はそう言ったそうだね。結局、真珠湾攻撃が起こった」
「歴史の波は避けるのが難しい。中国は国内、国外問題をたくさん抱えている。いつ暴発してもおかしくない。中国政府はサブ・サンにとっては好都合だ。政府が決意するのもそんなにかからない。背中をポンと押すだけに来ている」
「すごいぼかしていますね」
「中国軍の動きに気をつけることだ」
ダニエルは真剣な顔になる。
「うちの息子を巻き込まないでくれないか」
博は詰め寄る。
「歴史の波は私達でも止められない。また何かあったら来る」
ダニエルはそう言うと屋上のドアを開けた。
博がドアを開けると彼はいなくなっていた。
海上自衛隊佐世保基地に入港する「いずも」
岸壁に接舷して桟橋が出てくる。その桟橋から乗艦する一人の紺色の背広の中年男性。
間村、室戸、霧島、佐久間、大野は彼を見るなり敬礼した。
「それはしなくていい」
中年男性は笑みを浮かべる。
「誰?」
アレックスが聞いた。
「石崎繁夫議員。国会議員よ」
佐久間が紹介した。
「私は防衛大臣に任命されたんだ」
口を開く石崎繁夫議員。
「石崎大臣は軍事オタクで有名だというのをTVでやっていました」
翔太がふと思い出す。
数年前に防衛大臣やめて普通の国会議員になったのをニュースで見た。防衛大臣をしていた頃は戦闘艦や戦闘機が好き模型を部屋に飾っているのも見たし、宇宙戦艦ヤマトのファンでもある。軍事オタクでもありトマホークミサイルやイージス艦の説明もしている番組も見たことがある。
「あれは趣味なんだ」
困った顔をする石崎大臣。
「何の用ですか?」
リドリーが聞いた。
「私が来たのは日本政府からの要請で特命チームの力を借りたい。自衛隊からも海上保安庁から聞いたと思うが、今そこにある危機に対処しなければいけない」
石崎の顔から笑みが消えた。
「そんなに急変するのか?」
フランがわりこむ。
「たぶんあなた方の所属する沿岸警備隊からも特命チームにくわわるように指令が来るだろう」
真剣な顔になる石崎。
顔を見合わせるフラン、リドリー、アレックス。
「時空侵略者ですか?」
三神がたずねた。
「日本政府も自衛隊も中国政府、中国軍内部に時空侵略者のフィクサーや元締めがいると思っている。我々だけでなく世界の政府機関はそう思っている。中国政府は否定しているが行動を見ると内部深くに侵入していると見ている」
うなずく石崎。
「僕は半年前のロマノフの事件でもそうだけど僕はリンガムを見つけて五つの宝を渡さないようにしただけです。あの時は大震災に巻き込まれて高いビルに逃げ込んだだけで何もできてないです」
翔太は視線をそらした。
あの大地震と大津波にただ逃げるだけ。サラトガ達とまともに戦えるわけでもない。時間、時空を操作できるのは時空武器のおかげで成り行きでそうなった。
「君は中国政府が放ったジャオ、チャオズという二人の刺客を倒した。時空関連の遺物や時間、時空操作ができるのは君だけだ。君の一族だけと言っていい。それは誇りに思っていい」
石崎は翔太の肩をたたいた。
うなづく翔太。
「戦争になるのですか?」
朝倉が口をはさむ。
「今すぐではないが中国は南シナ海の岩礁を埋め立て基地を建設し、東シナ海に油田施設を建設している。あの油田施設には中国軍のミュータントが常駐している。それに世界中からマシンミュータントや普通のミュータントを集めている。民間軍事会社からも優秀な隊員を引き抜いている。そのうえに正規空母が三隻就役した。イージス艦も五隻増えている。首脳部は遼寧達も使って「覇王の石」を探している。それを手に入れれば米軍でも手が出せなくなる」
石崎は難しい顔をする。
「本気でやる気でいますね」
間村は納得する。
「日本はあの太平洋戦争から七十年。平和を保ってきた。その平和が終わる事になる。国同士の争いごとに巻き込んで申し訳ないがシーレーン防衛も任務に入ってくるだろう。シーレーン防衛は南シナ海の国々の沿岸警備隊の力を借りる事になる」
はっきりと言う石崎。
「俺達のできる事があれば協力します。フィリピンやベトナムに新型巡視船を政府は貸与したのをニュースで見ています。それに南シナ海の沿岸警備隊のミュータントと演習をしています」
三神は名乗り出る。
「そこのミュータントの知り合いもいる」
朝倉が口をはさむ。
「召集指令が出たら最寄の海保保安部に集まるんだ」
石崎は言った。
その頃、ホワイトハウス
大統領執務室にカール国防長官と米軍将校が入ってきた。
執務室に二人の女性がいる。Tフォース北米支部のべクシル司令官と魔術師協会の理事であるイリス・クラーリッツが振り向いた。
「大統領。なんで私の秘書を刑務所行きにしたのですか?」
不満をぶつけるカール長官。
「君の秘書は時空侵略者の手先だった。それだけだ」
アラミス大統領は当然のように言う。
「それと特命チームが時空船を拾ったようですがなんで我々はその調査にくわわれないどころか情報もない」
米軍将校はジロッとべクシルをにらんだ。
「ハデン司令官。あそこは日本の領海で海保と自衛隊に調査権限があります。特命チームとTフォースが出ているので情報はありません」
しゃらっと言うイリス。
「それに時空船はどこのものでもありません。元の世界へ帰っただけです」
ピシャリと言うベクシル。
歯切りするハデン司令官。
「映画や都市伝説になっていた秘密基地が本当にあったんだな。初耳だった」
話を切り出すアラミス。
カールとハデンは顔を見合わせた。
「時空のひずみの実験を誰に頼まれてやったのかね。マックスという秘書のフィクサーから指示が来たのではないのかね」
アラミスは核心にせまった。
「時空侵略者に入られ放題ね」
イリスが言う。
「だから閉鎖を命じたんだ。そこの機器はTフォースに渡すか破壊するかだ」
アラミスは身を乗り出す。
「あれには長年の研究がつまっている」
食い下がるハデン。
「その結果が半年前の時空のひずみが南極に出現して侵略者が入ってきた。敵を招いてどうするのかね」
語気を強めるアラミス。
黙ってしまうハデンとカール。
「中国政府は本気で「覇王の石」を探しているというのを聞いている。それを米軍が探しているというのを聞いたが我々はそこまで落ちぶれたのかね?」
あきれかえるアラミス。
「中国は国内外にいろんな問題を抱えています。それが南シナ海やインド洋進出につながっていると思います。中国政府はミュータントを集めている。やっている事は日露戦争のロシア帝国やヒトラーと同じです」
カールが話を切り替えた。
「話を変えましたね」
釘をさすイリス。
ムッとするカールとハデン。
「私達もいろんな問題で議会ともめている。中国のことは後回しになる」
アラミスはため息をついた。
「我々はじっとしているだけですか?」
不満を言うハデン。
「そういことになる」
アラミスは言った。
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