第1話 尖閣専従部隊と終わる平和
ロマノフの五つの宝事件から半年が経った。
僕は父の仕事を手伝いながら学校に行くこと決めた。普通なら半年前は中学を半年後に卒業して高校に進学するか大学目指すなら進学校に進んで受験勉強を目指すか、中卒で働きに出るかの選択だ。自分の場合は高祖父はタクティカルフォース・・・通称Tフォースを創設して初代長官になった葛城庵である。曽祖父も祖父も父も長官である。高祖父の庵は和菓子職人になるために伊豆から東京に上京。上京初日に宇宙からエイリアンの子供が乗った船が落ちてくるという出来事に巻き込まれ邪神ハンターの弟子になり、邪神ハンター試験を受験の時に日英同盟を反故にしようとする勢力から公使館員の護衛としてイギリスに旅立った。その任務は成功してあとは歴史の通りである。曽祖父の茂は日本生まれだが関東大震災を機に高祖父の庵と一緒にアメリカへ渡米。二十三歳の時に太平洋戦争が勃発した。ハワイにいたところに日本軍の奇襲攻撃してきた。真珠湾攻撃により日本とアメリカは戦争に突入するのである。曽祖父は連合国側からオファーが来て日独伊同盟の影に隠れている時空侵略者を退治するために戦いに身を投じる。時空侵略者をこの世界から追い出すことに成功。日本は広島、長崎に原爆を投下され終戦を迎えたのは歴史の通りだ。曽祖父は終戦後はGHQと一緒に日本に帰国してしばらくはTフォースからも遠ざかっていたが昭和三十一年に第一次南極観測隊に選ばれる。というのも当時の日本は敗戦国のレッテルを貼られ接岸不可能な地という魔物の巣を割り当てられていた。曽祖父はTフォース隊員として同行して昭和基地の建設に協力して長官になった。その曽祖父は十五年前に脳梗塞で死んだ。自分としては生まれる前だったし曽祖父の事は知らないが祖父や父から何回か聞いた事があるし本部にも写真は残っている。Tフォース本部は三年前アメリカのあーカムからロシアのハバロスクに移転になった。Tフォースの前身はウイルマースという対邪組織でその組織が国際的機関になり今に至っている。
でもなんで本部をアメリカからロシアに父は移転したのだろう?ロシアと日本は北方領土でもめている。父が言うにはアメリカから移転して初めてわかる事があるらしい。移転してみたらアメリカ国内や米軍に時空侵略者の手下や幹部、元締め、フィクサーがいることがわかった。米軍内部に手先がいることに気がついたのはロマノフの宝事件で東日本大震災が発生。時空のゆらぎが南極に出現して時空侵略者が侵入した。彼らは仲間と合流してウラノスとその仲間を使って侵略しようとしたが特命チームが結成されて阻止された。特命チームは時空のゆらぎや邪神復活の兆しの事件に結成された。太平洋戦争や一九四七年の南太平洋の邪神復活さわぎや第一次世界大戦、日露戦争でも召集され、歴史的事件の前にはかならず召集されている。半年前、僕自身も参加してウラノスは仲間の異性人と一緒に時空のゆらぎに吸い込まれていった。
「翔太。宮古島に着いたけどこのあとどこに行くの?」
オルビスが声をかけた。
「オルビス、リンガム、佐久間さん。無理言ってごめん」
翔太はあやまった。
オルビスは明治時代に地球に落ちてきた金属生命体の子供である。平均寿命は五万年くらいで二〇〇年で成人する。高祖父の庵との出会いで邪神ハンターになった。リンガムはオルビスと同じ種族の少女である。半年前に落ちてきて修理中だった米軍の空母「ヴァるキリー」と融合して逃亡して自分は探しに行って保護した。
佐久間は海上自衛隊の自衛官でイージス艦「あしがら」と融合している。
全長一六五メートル。全幅二一メートル。基準排水量七七〇〇トン
「あしがら」は、海上自衛隊が運用するイージスシステム搭載護衛艦、あたご型
の二番艦。艦名は神奈川県と静岡県とにまたがる金時山の別名足柄山に由来し、日本海軍の妙高型重巡洋艦三番艦「足柄」より受け継いだもので、本艦が二代目にあたる。
「とりあえず島を一周しますか。レンタカーを借りれるわ」
佐久間は空港のそばにあるレンタカー屋を指さした。
「そうしよう」
翔太はうなづいた。
もうすぐ沖縄の高校に入学である。なんで横浜から沖縄なのかはわからない。父の仕事の関係もある。卒業旅行で宮古島や石垣島に来たのである。
白のバンは繁華街を抜けて海岸沿いの道路を走っている。どこまでも青い海が広がっている。
「きれいだね。横浜とちがう海がある」
つぶやく翔太。
横浜は東京が近いせいか高層ビルが立ち並ぶがこっちの方は低いビルが多い田舎町に見えた。
ガイドブックをながめる翔太。
唐突にたくさんのささやき声が頭の中に聞こえた。
「どうしたの?」
リンガムが聞いた。
「ささやき声が聞こえる」
翔太はガイドブックの地図を指さした。
「八重干潟(やびし)ね。そこは魔術師協会宮古島出張所の管理する場所だから出張所へ行って許可をもらわないといけないわ」
佐久間は答えた。
「いきなり行って許可もらえる?」
オルビスが疑問をぶつける。
「交渉してみましょ」
佐久間は言った。
白のバンは池間大橋を渡り、池間島漁港に入った。漁協の隣に出張所に足を踏み入れる翔太達。
「いらっしゃいませ」
三人の男女があいさつした。
「佐久間さん?」
背の高い女性が聞いた。
「そうよ」
佐久間が答えた。
「葛城長官の息子さんとオルビス、リンガムね」
銀髪の女性が声をかけた。
「君は?」
翔太がわりこむ。
「私はグレース・和泉美代。隣がエリック・スミス。式部沙羅。宮古島出張所にようこそ」
背の高い女性が自己紹介した。
「よろしく」
翔太は笑みを浮かべた。
「八重干潟(やびし)にあるキジムナー洞窟の調査をしたいんだけどいいかしら?」
佐久間は地図を指さした。
「それには東京支部の許可を得なければいけないわ」
困った顔をする和泉。
「私が責任を取るわ」
佐久間の顔から笑みが消える。
「わかったわ。ついてきて」
和泉は手招きした。
漁港に停泊する漁船に乗り込む七人。
漁船は岸壁から離岸して漁港の外へ出た。
「君の髪は染めているんですか?」
翔太はおそるおそる聞いた。
「この髪は生まれた時、死にかけていたから禰宜だった両親がキジムナーの洞窟の地底湖に浸してキジムナーから半分命をわけてもらってからこの髪になったの」
どこか遠い目をする沙羅。
「そうなんだ」
視線をそらす翔太。
プロペラの飛翔音が響いてPー2C哨戒機が飛び去った。
「あれは米海軍所属の哨戒機ね。空母艦載機だけど沖縄の基地から飛び立って尖閣諸島を偵察に行った感じね」
佐久間は飛び去る機体を見て言う。
「尖閣諸島はここから百七十キロの海域にあるわ。中国船だけでなく中国の巡視船や艦船も現れる。爆買い中国人は本土に来るようになったし、ここにも来るようになった。米軍の哨戒機も来るようになったし、戦闘艦もウロつくようになった」
和泉は空を見上げた。
「戦闘艦とか中国人ってこんな感じ?」
タブレット端末を見せる翔太。
画像に米軍の戦闘艦が何隻かうつる。
「そうそうこの船と四人のアメリカ人が来たの。中国人も怪しいし、インド人も怪しかった」
あっと思い出す沙羅と和泉。
「調査のわりに物色する感じだった」
エリックは操縦しながら言う。
「このアメリカ人がクリスでアイリス、レジー、レイス。クリスが空母「サラトガ」アイリスが強襲艦「エセックス」レジー、レイスが沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」インド人はインド海軍の空母「ヴィラートだよ」
翔太は画像と写真を切り替えて説明した。
「この中国人はキムとチャド。キムが中国軍のイージス艦「蘭州」チャドが空母「遼寧」と融合している」
佐久間はタブレット端末を見せて説明した。
「空母のミュータントなんて初耳よ」
和泉と沙羅が声をそろえた。
「どこの国もマシンミュータントは利用している。それが空母となると空母は機密の塊みたいなものだから情報は出さないわ」
佐久間は写真を見ながら言う。
「海底洞窟に着いたよ」
エリックがわりこんだ。
漁船は洞窟の中に入り岩棚に横付けする。
洞窟に上陸して洞窟内部に入る七人。トンネルをしばらく歩くと教室が二つ分入りそうな広場に出た。部屋は白い光るキノコがいくつも生え地底湖を照らしている。地底湖の透明度は高く透き通っていて湖底の岩盤が見えている。
すると錦鯉が二十匹湖底の奥から現れた。大きさは一メートルでブチ柄から黒色、真っ白やオレンジ色の鯉がいる。
唐突にオルビスは地底湖に入った。彼の周りに二十匹の錦鯉が近づいた。
「こんなに精霊が現れるなんて初めて」
驚きの声を上げる三人。
「葛城君、リンガム、オルビス。精霊に会えることは名誉なことよ」
佐久間は声を低めた。
うなづく翔太とリンガム。
父から聞いた事がある。精霊が人間達の前に姿を現すことはめったにない。見る時は天変地異の前触れか戦争前だという。キジムナーも沖縄のガジュマルの古木の精霊である。それも集団で現れることはめったいない。
オルビスと精霊たちは虹色の光に包まれた。
光の中でオルビスの前に明治時代の軍服を着用した男性が立っていた。それが誰だかわかった。戦艦「三笠」の船魂だ。百十一年前の日露戦争で旅順口で戦艦「三笠」と融合して戦った。その彼がこうして現れたということは自分の不具合は治り切り離しが可能になったことを意味する。
船魂は手を差し出す。
オルビスは船魂と握手をした。
虹色の光がやむと錦鯉は湖底の奥へ帰っていく。
翔太のいる岸に白い錦鯉が二匹近づく。口に何かくわえている。
翔太はしゃがむとその袋を受け取る。
二匹の錦鯉は湖底の奥へ去っていく。
「水晶玉とパズルピースだ」
翔太はつぶやく。
「佐久間。戦艦「三笠」の船魂がさようならを言ってきた。「三笠」を手放さないといけない」
オルビスが地底湖から上がる。
「わかったわ。海に出ましょ」
佐久間はうなづいた。
同時刻。
海上保安庁の巡視船が石垣島から百七十キロ離れた海域にある尖閣諸島沖に舳先を向けてスピードを上げていた。
七隻の巡視船の船橋の窓に二つの光がともっている。全員ミュータントである。
大型巡視船「やしま」「いず」「あきつしま」と中型巡視船「あそ」小型巡視船「こうや」「つるぎ」「かいもん」である。
三神はレーダーをチラッと見る。船影は自分達しかいない。
もうすぐ進むと尖閣諸島である。尖閣諸島は日本固有の領土であるが中国が自分のものだと言い出して中国海警の巡視船や漁船がひんぱんに現れるようになった。
半年前まで横浜の第三管区海上保安部でパトロールしていたがロマノフの五つの宝事件がきっかけで自分と朝倉が特命チームに選ばれて行動する事になった。その関係だろうか石垣島の第十一管区海上保安部所属の尖閣専従部隊に配属になった。沢本、大浦、三島も同じ第三管区だったが自分達と一緒に配属になった。
尖閣専従部隊には大型巡視船が三十隻在籍。そのうちの十二隻はミュータントである。邪神ハンターや魔物ハンターの隊員も常駐している。石垣島や宮古島には自衛隊の西部方面隊の島嶼防衛部隊の基地もある。それだけに国境の島といえた。
「レーダーに船影。中国の巡視船が来た」
朝倉が指摘する。
七隻はスピードを落とした。
海巡21、31、海監45、65が現れた。
「李紫明。デートする?」
唐突に誘う朝倉。
「やだ」
きっぱり言う海巡21に変身する李紫明。
ムッとする朝倉。
あきれる三神達。
「台湾の巡視船はどうしたの?」
三島が聞いた。
「それなら私達が追い払った」
いきなりわりこむ中国海警の二隻の大型巡視船。
「中国の一万トンクラスと五千トンクラスの巡視船だ」
巡視船「あきつしま」がつぶやく。
「半年前に就役してもう融合したミュータントがいたんだ」
ささやく沢本。
「すごく早くないですか」
怪しむ巡視船「いず」
「別に早くないさ。たまたまそうなっただけのこと」
中国語で言う五千トンクラスの巡視船。船首には海警「2503」と書かれている。
「台湾の巡視船には引っ込んでもらった」
女性の声で中国語で言う一万トンクラスの巡視船。船名は海警「2901」である。船首には76ミリ砲がある。
「日本語でしゃべれよ」
三神は声を荒げた。
「三神と朝倉だっけ」
海警「2901」が日本語で聞いた。
「気安く呼ぶなよ」
朝倉が口をはさむ。
「石垣島に赴任になったんだろ。海保なんて簡単に蹴散らせる。それにここは中国のものになるし使う言葉だって中国語になる」
自慢げに言う「2503」
「特命チームなんてムダな事だ。中国に時空侵略者の手下はいない」
ビシッと錨で指さす「2901」
「政府内部に入り込みすぎてわからないだけじゃない?」
三島はわざとらしく言う。
「政府内部は汚職まみれでしょ」
大浦は指摘する。
「黙れよ」
声を低める「2503」
両方の巡視船のミュータント達の二つの光が吊り上る。
「まだここでは何も起こってない」
割って入る李紫明。
「覚えてろよ。かならず蹴散らしてやる」
捨てセリフを吐いて中国の巡視船達は帰っていく。
「おまえは帰らないのか?」
声を低める朝倉。
「この半年でずいぶん環境が変わった」
李紫明は周囲を見回した。
「それは俺達だって言える。半年前とはちがう。南シナ海にもあのクラスの巡視船が三隻と五千トンが四隻、三千トンが五隻就役していると聞いている」
三神が聞いた。
「事実よ。装備も装甲も軍艦並だ。まともに戦ったら負ける。もし戦争になったら私達ミュータントも戦う事になる」
李紫明ははっきり指摘する。
「まだ戦争にもなっていない」
沢本が指摘する。
「中国政府が戦争を考えていないとでも?いつだって南シナ海やここへも進出できる」
李紫明は声を低める。
「正規空母が就役してイージス艦が五隻も増えるからだろ」
朝倉がわりこむ。
「時空侵略者の言いなりは中国政府だろ。遼寧と蘭州は半年前に妙な実験をしていた」
三神が核心にせまる。
「あの「2901」と「2503」や就役したばかりの大型巡視船は軍の司令官から直接指示が出ている。万が一のことがあれば石垣島や宮古島から逃げて体勢を立て直すことをすすめる。中国政府も軍もあの少年や二人のエイリアンの子供をマークしている」
李紫明はもったいぶるように言う。
「やっぱり時空侵略者がいるじゃん」
大浦がしゃらっと言う。
「時空遺物狙いじゃん」
三島が口をはさむ。
「忠告か?」
三神が声を低める。
「私はしゃべっただけ」
李紫明はそう言うと立ち去った。
同じ頃。八重干潟(やびし)沖。
漁船から身を乗り出すオルビスとリンガム。
「僕の交換できるものはFー35とレールガンだよ」
困った顔のオルビス。
「私のは空母「ヴァルキリー」と粒子砲と格納式ミサイルと空飛ぶ空母。「ヴァルキリー」のプログラムがないと空飛ぶ空母に変身できないの」
リンガムは胸のひし形の装置を外して説明した。
「あれは?」
首をかしげるエリック。
「あれは彼らの種族のテクノロジーの塊。五つの武器や兵器をストックできるカスタマイズ装置。融合すればするほど彼らは強くなるんだ」
翔太は説明した。
「だから米軍も世界の政府機関も興味を持たれるわけね」
和泉が納得する。
「あの中にデータ化なんて今の地球の科学力じゃ無理ね。さすがエイリアン」
沙羅がうなづく。
「時空侵略者にも興味持たれているし敵からも狙われている」
翔太は視線をそらす。
オルビス達がいた惑星はとっくの大昔に時空侵略者であるサブ・サンの種族によって滅ぼされ戦争に負けた彼らはジプシーのような生活をしている。時空管理局に協力しながら生存をかけて惑星にいる住人達に邪神や時空侵略者の戦い方を教えながら放浪生活をしている。成人するまではブラックホールで育ち成人してから宇宙船といった乗り物に融合して異星人と共存しているという。スターウォーズ並の物語になりそうだが明治時代に落ちてきて今に至っている。
オルビスとリンガムがフワッと浮いて船から出て海上に浮かぶ。
「すごいわ。魔術を使わないで科学力で浮いている」
和泉が気づいた。
「足に反重力装置が組み込まれている。その装置は乗っていた宇宙船にあったものを装着している」
翔太は指さした。
「まさに高度知的生命体だ」
納得するエリック。
「交換・融合」
オルビスとリンガムは声をそろえる。すると青色の光に包まれた。強風が吹き荒れる。
「写真が舞っている」
エリックが指さした。
それらの写真は空母「ヴァルキリー」が造船所で建造されて米軍に引き渡され、イラクやアフガニスタンの作戦に投入されるといった写真だ。
リンガムとオルビスに近づく米軍の女性将校。スタイルがいい。
「あの空母の船魂だ」
翔太が気づいた。
船には船魂がいる。特に客船は女性系で呼ばれる。軍艦にも一隻一隻宿る。その船が役目を終えて解体されるまで宿り続ける。
「敵意むきだしね。異物という認識だしオルビスを認めてないわ」
佐久間が威圧するような気配に気づく。
「性格も悪そうよ」
沙羅がわりこむ。
「ヴァルキリー。君と僕は長い付き合いになる」
オルビスは遠巻きににじり寄る。
船魂はいきなり鋭い蹴りとパンチを入れた。
オルビスは受け流しかかと落とし。
船魂はその蹴りを受け止める。彼女は速射パンチを放った。
オルビスは間隙を縫うようにかわして掌底を弾いた。彼女がひっくり返ったが跳ね起きて足払いをかけ転ばせる。
オルビスは船魂の蹴りをかわして跳ね起きてパンチを放つ。
船魂はそれを受け止め、片腕を彼の胸に突き入れた。
「ぐはっ!!」
オルビスは口から青い潤滑油を吹き出す。ナイフえぐられるような激痛が襲う。彼は船魂の胸に腕を突き入れた。
「僕とおまえは二人で一つだ」
言い聞かせるオルビス。
歯切りしながらもしぶしぶうなづく船魂。
青い輝きの中に三人が消えてしばらくすると光がやんで空母「ヴァルキリー」とと戦艦「三笠」がいた。
「ミニマム」
佐久間は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて「三笠」は全長一メートルの模型サイズに縮小した。船体をつかんで旅行用キャリーバックの中に入れた。
「おじゃま虫が来ないうちに帰るわよ」
佐久間が声をかける。
「はーい」
返事をする「ヴァルキリー」
「もう帰るのか?俺がパワーの使い方を教えようか?」
いきなりわりこむ空母「サラトガ」強襲艦
「エセックス」沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」の四隻。誰が変身しているか知っている。空母サラトガがクリスでエセックスがアイリスでレジーとレイスだ。
「いつの間に?」
エリック、和泉、沙羅は声をそろえる。
「哨戒機を飛ばしているし、沖縄の基地は近い」
サラトガが言う。
「ねえ探し物の手伝いしてくれない?」
アイリスがわりこむ。
「やだ」
オルビスとリンガム、翔太は声をそろえる。
「かわいくない子供」
舌打ちするアイリス。
「アイリス。君に協力する気はないし、サラトガやそこの金魚のウンチにも協力しようなんて思わない」
しれっと言う翔太。
「誰が金魚のウンコだ!!」
レジーとレイスは声を荒げる。
「どういう教育をしているのよ!!」
声を荒げるアイリス。
「葛城長官の教育は間違ってなかっただけよ。普通のどの家庭と変わらないわ」
佐久間は冷静に言う。
「アメリカに帰れば」
わざと言う翔太。
「そこのイージス艦と駆逐艦にそのガキに使い方を教えられるのか?」
二対の鎖を出すサラトガ。
黙ってしまう佐久間と翔太。
確かにそうである。力の使い方は先輩から教わるが同じ船でないと教えられない。戦艦
「三笠」の場合は日露戦争、第一次、太平洋戦争の時は戦艦のミュータントはいてそのミュータントから教わった。現在では戦艦はほぼ廃艦になっているし時代に合わない。
「同じニミッツ型空母は俺とそのガキだし他にいない。遼寧にでも教わるのか?」
クスクス笑うサラトガ。
「別にいいんだよ。あいつらなら喜んで中国政府に差し出すだろうに」
わざと言うレジー。
「実力行使してでも連れて行くぞ」
声を低めるレイス。
身構えるエリック達。
「人間が私達に勝てるかしら?」
アイリスは十対の鎖を出した。サラトガの鎖同様に大木のように太い。
「海上保安庁である。ここは第十一管区海上保安部の管理している。出て行ってもらう」
鋭い声が響いて翔太が振り向いた。
巡視船「やしま」「いず」「あきつしま」「あそ」「こうや」「つるぎ」「かいもん」が接近した。
「沢本さん!!」
目を輝かせる翔太。
誰だか知っている「いず」と「あきつしま」に変身しているミュータントは知らないけど他の船はわかる。沢本、三神、朝倉、大浦、三島である。
「俺達は戦いに来たわけじゃないさ。見に来ただけ。帰るぞ」
サラトガはそう言うと舳先を沖縄に向けてその海域から去っていった。
その頃。都内のホテル。
ホテルの一室に警官や刑事らしい者達が現場検証をしている。
「仏さんは外国人か」
倒れている外人女性を見下ろす男女の刑事
「最近は外国人は多いな」
羽生はパスポートを見ながら口を開いた。
「昨年は千四百万人も観光に訪れたらしいですよ」
田代は遺体に他に傷がないか確認する。遺体には胸に一突きされた跡しかない。
「被害者はリディア・チェルビッチ。シリア国籍です」
「シリア人が温泉にでも入りに来たのか」
羽生が旅行カバンを開けた。
「あれ?のどの奥に何かあるわ」
田代はピンセットでのどの奥の紙を取り出した。小さく折りたたまれていた物を開く。
「こっちも何かの書類。アラブ語なのかな。アラブ語がわかる連中を連れてこないとダメだな。それに宝石箱がある。犯人はこれと貴重品を盗まずに逃げたようだ」
うーんとうなる羽生。
「バックに魔物ハンターの資格証があるわ。Tフォースに聞いた方がいいわね」
田代は言った。
同じ頃。八重干潟沖。
「ひさしぶりね。那覇にミュータントが集まる居酒屋があるから一緒に飲まない?」
佐久間が誘った。
「いいねえ」
三神が声を弾ませる。
「よし決まった」
わりこむ朝倉。
「私達は始末書と報告に石垣島に先に帰っている」
沢本はそう言うと大浦達と一緒に海域を離れる。
「私達もまぜてくれる?」
和泉がわりこむ。
「いいわよ」
佐久間は笑みを浮かべた。
都内にあるTフォース支部。
銀座の一等地にそのオフィスビルはある。十階と九階がTフォースと魔術師協会の支部のテナントが入っていて八階から下は他社が入っていた。
「警視庁の羽生と田代です。葛城博さんはいますか?」
羽生は受付嬢に警察手帳を見せた。
「少しお待ちください」
受付の女性はどこかに電話をする。
しばらくすると中年の男性が近づく。
「葛城博さんですね。この方を知っていますね?」
写真を見せる田代。
「リディア博士ですね。奥の部屋に案内します」
博は促した。
田代、羽生は応接室に入った。部屋には半年前のロマノフ事件で知り合った平賀博士がいた。
「隣の方は?」
田代はたずねた。
「ベック・アーミティッジです。魔術師協会東京支部の支部長です」
亜麻色の髪の女性は名乗った。
「羽生です」
「田代です」
二人は警察手帳を見せた。
「リディア博士の荷物の中にこの書類と宝石箱があったのですがどんな仕事をしていたのですか?」
羽生はたずねた。
「彼女はシリアの考古学者です。ただシリアはイスラム過激派と政府軍に別れ内戦状態なので国外で活動していました。シリアでディラン博士と危険な古代遺物はTフォース本部に隠す仕事もしています」
ベックは地図を出して説明する。
「ディラン博士ってこの間、イスラム過激派に殺害されましたよね」
田代はふと思い出す。
「彼は古代遺物を守る仕事をしており彼女は彼の弟子です。パルミラ遺跡から持ち出したのがこの宝石箱の中にあるのですがどれかわかりません」
平賀博士とベックは腕を組んだ。
「彼女とディラン博士はパルミラ遺跡から
「覇王の石」に関する調査をしていた。重要な物を隠した。この資料にはどこに隠したのかが予測される場所が書かれている」
黙っていた博は口を開いた。
「覇王の石?」
聞き返す羽生と田代。
「宇宙エネルギーがつまった石。持つ者に宇宙を支配できるという危険な時空遺物よ」
書棚から魔術関係の辞書を出すベック。
「ずいぶん古そうな本ですね」
のぞきこむ田代。
「ラテン語で書かれています。古代ローマ時代からある魔術アイテムや時空遺物を網羅する辞書です」
平賀はメガネをずり上げた。
「危険すぎるから先人達は隠したんです。手がかりはパンくずをたどる感じで時空武器や時間魔術を使える者にしかわからないようになっています。手がかりはパズルピースが七つと五つの宝石です」
ベックは説明する。
「お宝関係はTフォースと魔術師協会になりますね。警視庁は犯人を追います」
腕を組む羽生。
「時空武器を持っているのは息子さんですよね。これは公安から聞いたうわさですが中国政府のスパイがそのお宝を探しているというのを耳にしました」
田代が思い切って言う。
「公安だけじゃなく米軍も興味を持っているというのを聞くが?」
羽生が口を開いた。
「中国は南シナ海やインド洋に海洋進出がめざましい。経済もお金で純正品を買っている。私達は時空侵略者の手下が入っているとみている。米軍にも手下がいて中国にはフィクサーや元締めがいて情報を提供していると見ている。去年の東日本大震災によって時空のひずみが一時的にできた。時空侵略者が何種類か侵入したと見ている」
博は南極で撮られた動画を見せた。
昭和基地と思われる場所からだろう。光が飛んでいく映像だ。
「また協力をお願いできますか?」
博は提案した。
「もちろん。警察は協力します」
羽生と田代はうなづいた。
夕方。那覇市内。
居酒屋「ちゅら海」に翔太達は入った。
那覇市内には基地で勤務するマシンミュータントや普通のミュータントが集う居酒屋や酒場が普通にあった。その店には自衛隊割や在日米軍割といった割引の看板が普通に出ているがサラリーマンやOLは寄ってこない。店内は基地で勤務するミュータント達の溜まり場になっていた。
「間村さん。レベッカさん」
目を輝かせる翔太
ひさしぶりである。ロマノフ事件以来だ。
「あれ?ヴィラート?」
インド人を見てのぞきこむ翔太。
「本名はアッシュ・マウディだよ。あいつらには内緒で来ている」
アッシュと名乗ったインド人は周囲を見回した。
「ピョートル・アレクサンドルさんですね。ロシア海軍の空母「アドミラル・グズネツォフ」と融合している」
翔太はロシア人と握手をする。
「俺がこいつを誘って観光で来ただけだ」
アッシュは小声で言う。
「翔太君。こっち」
佐久間が呼んだ。
座敷に上がる翔太。
「エリックです。隣が式部と和泉」
エリックは自己紹介した。
「佐久間から報告を聞いたけど戦艦「三笠」を精霊が引き離したのか?」
間村は話を切り出した。
「キジムナーが不具合を治してくれた」
オルビスはうなづく。
「空母「ヴァルキリー」と融合した。でも自衛隊には空母はいない。ニミッツ級空母は米軍の船だし誰に教わるんだ?」
困惑する間村。
「アッシュ。ピョートル」
レベッカはカウンターで飲んでいたロシア人とインド人を呼んだ。
ピョートルとアッシュが座敷に上がる。
「オルビスに力の使い方を教えられる?」
レベッカが話を切り出した。
「君は魔術は使えるのか?」
アッシュが聞いた。
首を振るオルビスとリンガム。
「俺のは闇の精霊と契約してできる。同じ空母に教わったほうがよくない?」
困惑するアッシュ。
「俺のは雷の精霊と契約している。遼寧やサラトガのはどの精霊とも契約していない。遼寧のは気功だし、サラトガのは光を操れる。アイリスは磁力を操る能力を持っている」
ピョートルは考えながら説明する。
「魔術を使わないで能力を使うのはサラトガとアイリスと遼寧だよ。ただ遼寧はあまりお勧めできない」
顔がくもるアッシュ。
「そうだよね」
うなづく翔太。
遼寧は中国軍の指示で動いている。練習空母扱いでネットではポンコツぷりがささやかれているがあの武術気功は本物だ。
「僕はサラトガのところへ行って教えてもらうことにする」
オルビスはしぶしぶうなづく。
「それとキジムナーの洞窟で精霊がこれをもらった」
翔太は水晶玉とパズルピースを見せた。
「それは・・覇王の石に至る手がかりだ」
声をそろえるピョートルとアッシュ。
「覇王の石?」
聞き返す間村達。
「聞いたことがあるよ。なんでも宇宙を支配できるエネルギーが詰まった石。古代ローマ時代からの伝説だ」
エリックがポンと手をたたく。
「ナチスドイツだけでなく秦の始皇帝やアレクサンダー大王、ナポレオンも求めていた。手に入れれば世界だけでなく宇宙さえも支配できるエネルギーが詰まっている。先人達はその手がかりになる物を隠した。これはウワサなんだが中国政府はスパイを使って探しているのがその石らしい」
ピョートルはタブレット端末を出して世界地図を出した。
「その力を手に入れたい時空侵略者の欲望がそのまま出てるわね」
佐久間がわりこむ。
「それに中国政府はマシンミュータントを集めている。南シナ海やインド洋に展開する人員を召集している。インド政府は中国政府内部に時空侵略者のフィクサーがいると見ている」
アッシュは熱燗を飲みながら言う。
「ロシア政府もそう見ているし、世界の政府機関はそう思っている。中国政府は認めてないけどね」
ピョートルはカクテルを飲んだ。
「アイリスが言っていた探し物ってその手がかりなのかな?」
黙っていたリンガムが口を開く。
「アイリス達の目的はそれじゃなくて別の物を探している」
それを言ったのは翔太である。
チラッと見えたのだ。彼らが探しているのは覇王の石の手がかりではなくて別の物だと。どうしてかわからないが直感だ。
「別の物?」
聞き返すアッシュ達。
「時空関係の物だよ」
オルビスが答える。
死者の羅針盤を出す翔太。
「たぶん尖閣諸島沖に何かを探している」
翔太は地図を指をさした。
「また嫌な予感がする」
朝倉がつぶやく。
「尖閣諸島沖で中国海警の一万トンクラスと五千トンクラスの新型巡視船のミュータントに出会った」
三神は携帯の写真を出した。
「デカイ船だ」
つぶやく間村。
「半年前に就役してもうミュータントと融合している。中国は南シナ海に一万トンクラスを四隻。五千トンクラスを五隻投入している。あの武装といい護衛艦の武装に近い。尖閣専従部隊だけで対処ができるのかわからない」
三神はため息をついた。
「尖閣専従部隊って今年新設された部隊ですね。三神さんと朝倉さんはそこにいるんですか?」
翔太がわりこむ。
「今年になって沢本隊長と大浦、三島も一緒に配属になった」
三神がうなづく。
「李紫明が隊長だけどあの威圧たっぷりな新人をどこまで押さえられるかわからないな」
朝倉がつぶやく。
「そうだな。フランやアレックスやリドリーを連れて国際調査という名目で言ったらどうだ?」
ピョートルがひらめく。
「そうだ。僕の父さんに言って海上保安庁に言えばいいと思う」
翔太がうなづく。
「それで行こう」
三神は言った。
翌日。石垣島海上保安部から八隻の巡視船が離岸した。
「リドリーさんアレックスさん、フランさん。巻き込んでごめん」
リドリーが変身するロシアの警備船の船橋で翔太はあやまった。
「それはかまわない。沿岸警備隊も中国のサイバー攻撃がどこから攻撃しているのか探していた」
アレックスが口を開く。
「最近は中国の巡視船が南シナ海だけでなくインド洋にも出没している。何を探しているか確かめる必要がある」
フランが答える。
「中国とロシアは良好な関係だけど政府は中国をあまり信用していない。ウワサだけど時空侵略者のフィクサーがいると見ている」
リドリーが口をはさむ。
「中国の海洋進出はめざましいし軍備を増強している。おまけにミュータントを集めている。やっている事はニコライ二世と変わらない」
三神が指摘する。
ニコライ二世もだがナチスドイツもミュータントを集めだし、時空遺物を血眼になって探している。
「私達の目的はそれぞれちがうけど行き着く場所は似たようなものよ」
三島が核心にせまる。
「それはそうかもしれない」
アレックスはうなづく。
「尖閣諸島沖にテレポート」
沢本は呪文を唱えた。彼らの姿が青い光に包まれて消えた。次の瞬間、百五十キロの海域に姿を現した。
翔太は死者の羅針盤を出した。コンパスの針がクルクル回りだす。
「中国の巡視船四隻接近」
オルビスが窓からのぞいた。
濃密な霧の中から姿を現す海巡21、31と海警「2901」「2503」
「台湾の巡視船はどうした?」
朝倉が聞いた。
「追い払った」
しゃあしゃあと言う「2901」
「台湾なんて六日で制圧できる。制圧した暁には日本も韓国も併合してやる」
「2901」は見下すように言う。
「ちょっとあんた、頭の中は大丈夫?」
リドリーが声を低める。
「平気さ。太平洋を半分支配するのは中国なんだ。アメリカじゃない!!」
ビシッと錨で指さす「2503」
「どの口がそれを言っているんでしょうね」
大浦がしれっと言う。
「今日は何の用?」
あきれる李紫明。
「俺達は国際調査で来ている」
アレックスは答えた。
「それは政府から聞いていない」
李紫明が声を低める。
「ロシアの警備船に乗っているエイリアンのガキをよこせよ」
「2901」はわりこむ。
「お前達に渡せない。そいつらをよこせ」
鋭い声がわりこんだ。見ると韓国海洋警察の中型警備船が接近する。
「ここは中国の領海だ」
海巡31が中国語で叫ぶ。
「そんなの関係ないね。私達はその子供三人に用事があるの」
韓国語で言う二千トン型警備船。
「日本語しゃべれよ。ここは日本の領海だ」
沢本が警告する。
「私はペク・ハニ。隣はキム・ヨンス」
二千トン型警備船は名乗った。
韓国海洋警備船は中型、大型警備船は白地の船体に船首にオレンジ、黄色、青色のラインが入っているが、小型警備船は船橋構造物が白色で船体が青色のツートンカラーである。
「探し物の手伝いをしてほしいんだ」
キム・ヨンスもったいぶるように言う。
「やだ」
翔太ははっきり言う。
「かわいくない子供」
韓国語で舌打ちするぺク。
「2901」は汽笛を鳴らした。
テレポートしてくる空母「遼寧」とイージス艦「蘭州」
「そこのガキ。なにか見つけたんだろ?」
中国語で言う遼寧。
「おまえに関係ないじゃないか」
突き放すように言う翔太。
「生意気なガキだ。オルビス。米軍の空母と融合したんだろ。俺が力の使い方教えようか?」
わざとらしく言う遼寧。
「なんで知っている?」
驚くオルビス。
「俺達だってスパイ位使っている。北京に来いよ。もっといい事を教えてやる」
クスクス笑う遼寧。
「オルビス。聞くな。どうせガセネタだ」
アレックスがわりこむ。
「ガセネタじゃないさ。探し物を手伝ってくれたらいいものをくれてやる」
蘭州が口をはさむ。
「何をくれるのか言ってみろ」
三神がわりこんだ。
「外野は黙れよ」
「2503」が声を低める。
「三神と朝倉だっけ。半年前はよくも任務の邪魔をしたな」
遼寧は語気を強める。
「日本の領海でサイバー攻撃しているそっちが悪いだろ」
錨で指をさす三神。
「尖閣専従部隊なんて蹴散らすのは簡単。日本も韓国も台湾も併合したら韓国語も日本語も廃止して中国語にするんだ」
蘭州はしゃあしゃあと言う。
「冗談だろ。こいつもあいつと同じことを言っている」
フランがあきれる。
「まだ戦争なんて起こってないじゃないか」
翔太がわりこんだ。
「こっちには大人の事情があるんだよ」
遼寧は錨を出してチッチとやる。
「なんで韓国も併合なんだ」
キムとぺクがわりこむ。
「太平洋の半分をアメリカと割譲するんだよ。おもしろいだろ」
蘭州が言う。
「ロシアとかオーストラリアとか南シナ海の国々はどうするんだ?」
アレックスがあきれかえる。
「海を実行支配して話し合いをすれば納得する」
「2901」はしゃあしゃあと言う。
「納得できないね。インド政府も納得しないさ」
フランが船橋の二つの光が吊り上がる。
「ロシア政府も納得しないでしょうね。本気で考えている?」
リドリーがわりこむ。
「二〇〇七年の米中会談で前の主席が言った事さ。アメリカに中国と太平洋を半分づつ支配しないかって。アメリカは納得していないし聞いてないね」
「2503」はしゃらっと言う。
「当たり前だろ!」
一括する沢本。
「王(ワン)。この新人と空母とイージス艦の言っている事は本当か?」
船内無線でささやく李紫明。
「二〇〇七年の会談で本当に言った事だそうだ。首脳部は本気で考えていたらしい」
王(ワン)と呼ばれた海巡31が船内無線でささやいた。
「血の気の多い新人だ」
李紫明がささやく。
「止めないと騒ぎになる」
王が小声で言う。
「世界の中心は中国なんだ。アメリカに認めさせてやる」
声を荒げる「2901」
「自分で何を言っているのかわかってる?」
朝倉が反論する。
「だからそれにはその子供三人がほしいんだ。実力行使してでも北京に連れて行く」
声を荒げる遼寧。
「遼寧。そんな事をしたらマスコミが騒ぐ」
ワンが声を張り上げる。
「それって誘拐じゃん」
ぺクがあきれる。
「韓国も対馬がほしいなら一緒に連れ去らないか?」
蘭州が誘った。
「え?」
「最近、韓国も対馬は自分の領土と言っているじゃないか。経済支援するし後方支援もするけど」
誘うように言う遼寧。
「やっぱり中国は信用できないな」
はっきり言うぺクとキム。
「韓国政府と中国政府は良好な関係だ」
「2901」がわりこむ。
「なんで催眠電波を出しているの?」
翔太がわりこんだ。
「出してない」
蘭州が否定する。
「本当に信用できないな。韓国政府にそう報告してやるわ」
ぺクは決心したように言う。
「そんなことさせないさ。実力で連れて行って電子脳を改造してやる」
「2503」が錨で指さす。
「そんなのは国際法で禁止されている」
声を荒げる李紫明と王。
「改造されてたまるか!!」
声をそろえるぺクとキム。二隻は一〇対の鎖を出した。
「代弁者として活動してもらう」
「2901」がしゃらっと言う。
「代弁者が聞いてあきれる。中国は世界の笑い者になるだろう」
フランははっきり言う。
「それだとニコライ二世やヒトラーとやっている事は同じよね。ロシア政府にそう報告するわ」
リドリーははっきり言う。
「まず韓国とそこの海保の巡視船から改造したらおもしろそうだ」
「2901」は一〇対の鎖を出した。
「改造されてたまるか?」
「誰が代弁者になるか!!」
三神と朝倉が身構えた。
沢本達も一〇対の鎖を出した。
「ミニマム」
李紫明と王は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて「2901」「2503」と遼寧、蘭州は青い光に包まれて全長一メートルの模型サイズに縮小した。
「何をする!!攻撃できないじゃないか」
「2901」と「2503」は鎖をバタつかせた。
「まずこいつらから拉致する計画がおじゃんじゃないか」
食ってかかる遼寧と蘭州。
「まだ戦争にもなっていないのに何を言っている。国際問題に発展する」
王が一喝する。
「中国政府に勝手に攻撃しようとしたとそのまま報告する。スリブル」
李紫明はそう言うと呪文をかけた。
四隻は強い眠気に襲われて寝息をたてた。
「血の気が多い者達で申し訳ない」
王はすまなそうに言う。
「あいつらが襲ってきたら攻撃する所だった。中国政府は中国軍を管理できているのか」
沢本が疑問をぶつけた。
「そのために汚職官僚の取り締まりや軍事パレードをやった。どうやら本当に私達の知らない所で時空侵略者がいるのかもしれない」
李紫明は不安を口にする。
「中国政府内部や中国軍内部に時空侵略者の手先がいるのかもしれないな」
王が危惧する。
「確かに中国による台湾制圧計画は存在するし、その市街戦訓練を内モンゴルでやっている。でもそれは通常訓練だと聞いている」
李紫明が言う。
「我々も時空侵略者には警戒しているがどこまで政府内部や軍内部に内通者がいるのかわからない。Tフォースにできるだけ協力する」
王が心配する。
「ただ万が一に有事が起これば先島諸島から逃げる事を進める」
李紫明は声を低めた。
「目的の物を見つけたらさっさとここから立ち去る事だ」
李紫明は浮いている四隻を鎖を伸ばしてつかむと王と一緒にどこかへテレポートして去っていく。
「我々は韓国政府に報告する」
パクとキムもどこかへ去っていった。
「本当に中国が攻めてくるんですか?」
翔太が聞いた。
「それはわからないな。中国は南シナ海の岩礁に基地を造っているし、インド洋にも出没をしている。野望は計り知れないな」
アレックスが答えた。
「リドリーさん。十時の方向へ行ってください」
翔太は指示を出した。
「了解」
リドリーはその方向へ進んだ。
「時間の流れが変わった」
オルビスが気づいた。
「何か浮いている」
リンガムが指をさした。
リドリー達がその物体に接近した。
その物体は円柱形で全長二十五メートル位で高さは五メートルある物体である。
「時空船だ」
オルビスが指摘する。
「時空船?」
声をそろえる三神達。
「だから韓国も中国も米軍も血眼になって探していたのね」
納得する三島。
「よく見つけてくれたじゃないか」
不意に声が聞こえて舳先を向ける三神達。
そこに空母「サラトガ」強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」がいた。
「俺達が知らないとでも思っていた?衛星とか使うし無線傍受していた」
もったいぶるように言うレジー。
「じゃあ話は早いよな。中国の台湾制圧のことも聞いていた?」
アレックスが聞いた。
「本当にお笑いだよな。パクリしかできない連中が太平洋を分割で割譲なんて。世界の海はアメリカの手の内にあるんだ」
声を荒げるサラトガ。
「最悪よね。遼寧と海警「2901」と言っている事は同じじゃない」
あきれる大浦。
「米軍内部の内通者は中国軍の内通者とつながっているし仲がいいんじゃないの」
三島が核心にせまる。
「黙りなさいよ」
アイリスがわりこんだ。
「フラン。リドリー。ここは俺達がなんとかするから船を回収してロシア領に逃げ込め」
船内無線で指示する三神。
一〇対の鎖を出すアイリスとサラトガ。
三神が動いた。その動きはサラトガ達に見えなかった。気がついたら無数の深い傷口がサラトガやアイリスの船体についていた。
くぐくもった声を上げる二隻。
朝倉は青い泡を投げた。
レジーとレイスが変身する「フリーダム」と「リトルロック」の艦橋の窓にはりつく。
「なんだこれ?」
レジーとレイスは鎖をバタつかせる。その泡は簡単に取れず、レーダーやソナーの文字が文字化けした。
リドリーとフランが動いた。二隻は時空船をつかむと駆け出した。
沢本は四対の鎖の先端を槍に変形させるとサラトガの船体をえぐった。
「ぐあっ!!」
サラトガは太い鎖の先端を分銅に変えて殴った。
受身を取る沢本、大浦、三島は弾かれた。
アレックスは虚空からたくさんの水の槍を放った。アイリスと変身する「エセックス」の船体にたくさん突き刺さり、朝倉は網を投げた。
アイリスに網がかぶさった。
もがくアイリス。
三神はサラトガの鎖をかわすと機関砲を撃った。サラトガの艦橋を撃ち抜く。
目をかばうしぐさをするサラトガ。
沢本は網を投げた。
サラトガに網がかぶさった。
「逃げろ!!」
沢本達は逃げ出した。
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