第7話 さて、ここまで幾らか一方的に話してきたが
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さて、ここまで幾らか一方的に話してきたがこれは来戸ハルトをある側面からみた話でしかないということをここでもう一度断っておく。
俺は他七日リスカから聞いた話をそのまましているだけなのだから、「これはあくまでも他七日リスカの主観です、実際の事実・団体とはなんの関係も有りません」なんて注釈が付いて然るべきだろう。
知っての通り来戸ハルトは愉快な男だしただの気のいい奴だ。
二枚目よりも一・五倍魅力的な男である。
俺が邪推したところで、なにか後ろ暗いところがあるわけでもないハルトに取り立てて何か怪しいところがあってわけではない。
その清廉潔白さが疑わしいなんて言い出そうにも、少女性愛主義だなんて致命的な欠点があるのだからそれは常人の域を出ないだろう。
何より、他七日リスカがコミュニケーションツールに嘘を駆使する子女なのだから――今までの話全てが口からでまかせということすらあり得るし、そもそも、結局そんな答えでは俺の疑問はなんら解消していない。
来戸ハルトの正体とはどういう奴かという質問の答えは残念ながら、他七日リスカを持ってしても「よくわからない」というのが実情らしい。
分からないくらいがちょうどいい、なんてスタンスの他七日リスカが始めて知ろうとしているのに、ハルトと離別して二年、ずっとハルトの正体を追っていた他七日リスカだったがそんな彼女でも今のところ何も掴めてないのだ。
それを「わからない」の一言で済ましてしまうのが心苦しかったのか、悔しかったのか、長々と他七日リスカは語ってくれやがったのがさっきまでの話であるが――その話の顛末「C.H.K.に人殺しをさせているのはハルトかもしれない」なんてことすらなんの確証も無い話だ。
確かに、状況的に疑わしくはあるが疑わしいだけだ、我が国の基本理念に則れば疑わしいだけで罪にはならない。
なんなら、先天的強迫性殺人障害に纏わる話だって来戸ハルトを構成する要素の一要素でしかないのだから。
俺がハルトを疑っていたのは「主人公補正」の強さであって、「ハルトの周囲にC.H.K.」多すぎることでは無い――なにせ先天的強迫性殺人障害というワードすら今日初めて聞いたくらいなのだから。
その「都合の良さ」は全てマッチポンプと言い換えることが出来て、ハルトがそういうことをやりかねない奴だと知れたことは収穫だが――それもやはり「来戸ハルトとはなんなのか?」の答えには程遠いだろう。
結局俺も他七日リスカもハルトがなんなのかという答えを持ち得ないのだ。
ただ――
『まあ、正直お兄ちゃんの正体がとか、C.H.K.だとか、闇のフィクサーっぽいだとか正直僕はどうでもいいんですよね』
なんて、他七日リスカはそう言っていた。
『どうでもいい、なあ……ここまでの話を総合すればハルトが殺人を手引きしていると確信したからお前はハルトの元を離れた、なんて結論になるんじゃなかったのか?』
『いや、全然? ――けれど殺人の手引きという表現は素敵ですね』
他七日リスカはあっけらかんと……そんな風になんでもない様を装ってはいたがその内情はどうだったのだろうか。
『僕は別にお兄ちゃんが殺人鬼だろうと、犯罪クリエイターだろうと、女子中学生フリークだろうと別に気にしませんが――僕の周りに仮に殺人の手引きが出来る奴が居たとしたらそれは話は別でしょう』
『さながら杉下右京さんですね』なんて言いながら他七日リスカはテーブルを撫でていた。
そのテーブルは奇しくも、かつて杉下右京も座ったことがあるテーブルである。
俺だけではなく他七日リスカを知る誰も彼も――他七日リスカ自身ですら勘違いしていた、というより注視していなかったが、殺人を運ぶ少女、他七日リスカはそんな物騒な肩書きを背負っている割には実は一度も一人きりになったことは無かった。
他七日リスカは一人ではない。
何故ならば、少なくとも彼女自身があいつと袂を別つまでは彼女の側にいつも来戸ハルトが居たからである。
右腕に包帯を巻いて、殺人事件の現場に似つかわしくないほど可憐で、誰よりも血溜まりが似合う少女の傍で、目立たないようにいつも冴えない青年が彼女を支えていたのだ。
そんな二人を並べてわざわざ来戸ハルトに注視する人間はいないだろう、ハルトに「名探偵」なんて称される特性が、他七日リスカという個性が、否が応でも人の目を引きつける。
だから、俺だけではない他七日リスカを知る誰も彼も――他七日リスカ自身ですら勘違いしていたのだ――他七日リスカは殺人を纏う少女である、だなんて勘違いを。
殺人事件を靡くのは決して、他七日リスカ一人
他七日リスカと同じく、
さながら特命係が杉下右京一人だけでは「相棒」足り得ないように……「名探偵」は他七日リスカ一人では成立しなかったのかも知れない。
――どころか。
来戸ハルトが殺人の手引きを出来ると言うのなら――
――もしそうならば。
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