第6話 来戸ハルト、探偵さ

『で、あの話の返事は?』


「――その前に一つだけ質問してもいいか?」


『質問?』


 その事実に「自分が何か関係しているのか」や、「自分の性質はむしろ周りに形作られたものなのか」などと様々な可能性を他七日リスカは見つけが――しかしそれと同時に一つだけ引っかかることがあった。


 来戸ハルトの存在である。


 C.H.K.患者はいずれももれなく他七日リスカも預かり知らないところでの来戸ハルトの関係者だったのだ。


 他七日リスカとて来戸ハルトの交友関係を全て把握しているわけではないのだから、それは構わないとしても。


 時にはC.H.K.患者の通う女子中学生で副担任をしながら数学を教える新任教師であり。


 時にはC.H.K.患者がただの編集者ではなく教育者を目指すように諭した助言者であり。


 時には先輩であり、助言者であり、元締めであり、先達であり、上司であり、指導者であり、先駆者であり、上役であり、義兄である――来戸ハルトとC.H.K.患者との関連性はそんな風に常に来戸ハルトが先導者メンター的な役割を担うものばかりだった。


 ほんの少し他人の人生を狂わせられる程度には、相手を誘導できる位置に必ず来戸ハルトはいたのだ。


「別に、取るに足らない質問だよ」


『ふうん? まあ別になんでもいいけど』


 A型は几帳面だなんて迷信が実しやかに囁かれている現代日本である。


 誰だって几帳面な一面がありつつ大雑把な面もあるだろうし、時にはマイペースな時だってあるはずだ。


 血液型占いなんてそんな誰にでも当てはまることをさも狙いすましてピンポイントに引き当てたかのように見せる技術体系以外何物でもない。


 ――そんな現代日本で、A型の人間が全員人を殺した事があるとすればどうだろうか?


 極論ではあるが、A型の人間が全員突発的に、衝動的に、前兆もなく、脈絡もなく殺人を犯してしまったら。


 彼らが手にかけるのは家族か、友人か、恋人か、赤の他人か、仇敵か、はたまた悪の大魔王か、そこまでは誰にも――本人にさえも分からないとして。


 あくまでも仮定の話ではあるが、実際それがそうなったとしたら……それはもしかすると、Aなんて占い結果が出てもおかしくはあるまい。


 A型を親の仇のように恨むB型の諸兄がなんらかの手練手管でA型の人間に人を殺させ続ければ、A型の人間にあらぬ悪評を掛けることは容易いと言うことだ。


 容易いとは言ったが、他人に人を殺させるように導くというのは並大抵な努力では実行できない。


 それも誘導されているとその本人に自覚させない形で、自らの関与が微塵も疑われないように、である。


 そんなもの新任教師が取り分け親しく接している女子中学生相手だとしても無手に等しいだろう。


 しかし、他七日リスカは来戸ハルトがそれをやってのけたのだと断言していた。



「じゃあ聞くが――来戸ハルト、お前は一体なんなんだ?」



 俺のそんな質問に、ハルトの声に似せられた合成音声が半分笑いながら答えた。


『来戸ハルト、探偵さ――とでも言えばいいのかな』

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