第4話 それはつまり裁判所デートしましょうね、ってことか?

『……おいおい、それはつまり裁判所デートしましょうね、ってことか? やっとデレ期か!?』


「ああ、お前にそんなこと言っても『裁判でリスカと会える!』って多分喜ぶだろうな、とはもう既に伝えておいたぞ」


 殺してきた、なんて剣呑な表現を使ったが彼女自身は明確には否定しないものの、ハルトが幾度も声を荒げてきたようにそれは少し事実と異なる。


 他七日リスカ自身が誰かを手にかけたことはないし、他七日リスカが糸を引いているというわけでもない。


 他七日リスカはただそこに居るだけである――というのは俺も確認していた事実だ。


 とは言え。


 だから他七日リスカは何も悪くない――なんて言えるのは来戸ハルト以外に何人くらい居るのだろうか。


 それは人を殺すかもしれないC.H.K.患者にも言えることだが、因果関係が解明されていなくとも明示はされているのだから他七日リスカになんの責任もないのだなんて言える奴は少し思慮が足りないだろう。


 日本という国に普通に生きているだけでも誰もが一度や二度は理不尽な責任なんてものを背負うことになるのだろうから、他七日リスカとてそれから逃げられるわけでも無い。


 往時の俺は他七日リスカが諸悪の根源であると思っていたし――何より、他ならぬ彼女自身がそう思っていた節がある。


 その性質を指して、「他七日リスカの巻き込まれた事件全てを彼女の犯行であるとした方がまだ筋道が通っている」だなんてあいつは聞き飽きるほどには聞かされていたのだろうから。


『おお、流石僕の親友だな』


「この流れでそう言われるのは不本意だ」


 さて、一度立ち戻ってこれはただの例え話である。


 今更他七日リスカと彼女を取り巻く環境における正しさなんて物に言及するつもりも無ければ、俺が何かの回答を得ているわけではない。


 だから、ただの例え話だ。


 例えば、周囲に死を振りまくだなんて先天的強迫性殺人障害に通じるようなオカルトチックな奴が居るとして、そういう超常的な存在を信じる前に普通は、そいつ他七日リスカが普通に周りの奴を殺しているだけだと考えるだろう。


 それに倣うならば、「人を殺さずには居られない」なんてオカルト的な病気が実在したところで、だと考えるのが普通じゃないだろうか?


 それは飛躍的な発想ではあるが、被虐的な発想ではないはずだ。


 なにせ、ハルトだって百回超えるならばやばいと思う、なんて言っていたんだから。


『ハハッ、照れんなよ――と、そろそろ真面目に話をしようか、銭。流石に周りから変な目で見られ出してきた』


「手遅れだと思うがな」


 例えばの話であるが、「人を殺さずにはいられない」とされた少女と懇意にしている男性教諭が居たとする。


 それだけではない。


 例えば、「人を殺さずにはいられない」編集者が手ずから育てた担当作家が居たとして。


 例えば、「人を殺さずにはいられない」小説家に物書きの道を志させた少年が居たとして。


 「人を殺さずにはいられない」研究者が決して敵わないない同業者が居たとして。


 「人を殺さずにはいられない」コンビニの雇われ店長が一時期バイトとして使っていた学生が居たとして。


 過去の栄光に縋るベテラン演出家の元に駆け出し劇団員が居たとして。


 配偶者に対して、不義を働いている専業主婦の通うジムに専属トレーナーが居たとして。


 自室に篭り口の達者さと図体ばかり成長した大人子供にかつていけ好かない同級生が居たとして。


 閉ざされた籠の中で自由を夢想する御令嬢にかつて一度外の世界を見せてくれた初恋の人が居たとして。


 自身の人生の幕を飾るに相応しい作品に挑戦中の道六十七年の巨匠に車をぶつけて大けがをさせた若輩者が居たとして。


 とある夫婦の元に血を分けた双子の兄弟が居たとして。




まあ無い話では無いだろう――というより無い方がおかしな話だ。

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