第8話 「探偵」
◇
先だって言ってあるように、他七日リスカを言い表す言葉は二つある。
一つは「不登校」。
それはもう説明するまでも無いことだろう、単に彼女は女子中学生だというのにろくに学校に来ないというだけの話である。
その不登校っぷりは筋金入りである。
それこそ、何の気まぐれか(「日本人たるもの、心の故郷には一度訪れなければ」だとか言っていたが)この修学旅行にだけは参加しているが、しかしそれすらも通常の彼女からすれば考えられないくらいなのである。
彼女が修学旅行に参加すると僕が他の先生方に報告した時には、本当に職員室中が揺れたものだ。
事実、その報告の後、すぐさま「緊急他七日リスカ対策会議」が開かれ(それは大体僕に一任するということが結論となった)、酷い話ではあるがどうせ来ないと高をくくっていた先生方は旅館の予約に一名分の枠ををねじ込むことになってしまった。
他七日リスカとはそれほどまでの不登校児なのである。
月華中学に通い始めて今年で三年目のリスカだが、彼女と会ったのはこの修学旅行が初めてである、なんて人間は生徒達はおろな、教師陣の中にも居るほどだ。
――しかし、不登校児が登校してこないことに対して何か会議を開くならばともかく、修学旅行にとは言え登校してくることに対して何か会議をするというのに違和感を覚える人もいるかもしれない。
それもただの会議ではなく「対策会議」なんて物々しい名前が銘打たれている、なんて聞けば大袈裟すぎると思ってしまうかもしれない。
けれど、それは決して大袈裟な話ではない。
むしろ彼女の二つ目の標語を鑑みれば、他七日リスカの対策なんて幾らしても足りないくらいなのだから。
その二つある彼女の肩書きのうち女子中学生というキラーワードすら霞めてしまう「不登校」すら太刀打ちできない、もう一方の言葉――それは「探偵」である。
他七日リスカは自分で言っていたように「探偵」なのだ。
勿論、「他七日リスカは探偵である」なんて叩き上げても、リスカは女子中学生だ。
僕が教師ではなく発明家を職業にしているように、彼女が職業として探偵業を営んでいるわけではない。
つまり、リスカは中学生探偵である――というのも少し違う。
何故ならば、僕が初めて会った時、彼女の齢が四つを数える時にはもう彼女は既に「探偵」であったのだから。
「探偵」の肩書きの前にはやっぱり「不登校」と同じく「女子中学生」なんて枕詞は何の役にも立たないのだ。
一口に「探偵」と言っても意味は様々である。
浮気調査から人探し、殺人事件の解決にテロの阻止――と「探偵」の活動は多岐にわたる。
その中でも、単にパズルを解くように遊び半分で殺人事件をバラす奴を「探偵」だと僕は呼びたくないけれど、世間的にはフィクションの「探偵」はそういうものだと認知されているらしい。
そんな風に事件を引っ掻き回す奴を「探偵」だと定義するならば、やはり彼女はどうしようもなく「探偵」を体現してるのだ。
「探偵」という肩書きが(性質と言った方が正しいかも知れないが)彼女にふさわしいというのは何もリスカが快刀乱麻、全ての事件を類いまれなる推理力で解決するから彼女は「探偵」なのだ、と言っているのではない。
推理力や類稀なる頭脳なんて名探偵の標準装備だろうし、名探偵の資格として必要なものであるが、それさえあれば探偵と名乗れると言うわけでもあるまい。
推理力がある奴なんて警察官や、大学教授、教師にミステリー作家――それから女子中学生とか、そんな風にいたるところに居るのだ。
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