第9話 「死神」
やはり、それが名探偵の専売特許だというわけでも無いのだろうし、そう言った観点から言えば他七日リスカは必ずしも解決率一〇〇パーセント、全ての事件を解決する――なんて万能の名探偵ではないし、寧ろリスカなんて、彼女が迷宮入りさせた事件はそう少なくない。
その事実一つ取ってもお世辞にも他七日リスカは優秀な探偵である、だなんて、とてもじゃないが言えないだろう。
そういう意味で彼女が真に「探偵」であるかどうかの判断は僕には付かないが、しかし、やっぱり彼女が探偵である――(そんな言葉があるのかは知らないが)探偵属性である、と僕は胸を張って宣言できる。
何故ならば――彼女に関してまことしやかに囁かれている噂の一つにこんなものがあるからだ。
他七日リスカ。
――彼女に巻き込まれれば最後、必ず死ぬ、と。
「必ず死ぬ」なんて叩き上げてしまえば、「おいおい、この世界に呪いとか黒魔術とか、そういう方面の設定ぶち込まないでくれよ」なんて思ってしまうかも知れないが、これは別段そういう話でもない。
むしろ「死」なんてものはどうしようもないほどに現実なのに、それをすぐファンタジーに結びつけてしまう方が如何なものかと僕は思うくらいだ。
世間的によく言われるように探偵に行き合うことは事件と遭遇するということ同義である。
旅行をすれば事件が起きるとか、懇意の刑事に「また君かね」なんて声を掛けられる程事件に巻き込まれるとか――それは探偵の一種のステータスなのだろうし、時に死神と揶揄されることすら、その探偵にとっては優秀さの証だろう。
それは類稀なる推理力なんかよりも圧倒的に「探偵」の証明に他ならないのかも知れない。
――そして、他七日リスカとはそれを意図せずして突き詰めてしまっている。
数多ある探偵に必須のスキル、推理力でも、万能性でも、人脈でも、格闘術でもなく、探偵が一般的に持ち合わせている事故性とでも言うべき平和な盤面そのものを叩き壊してしまうアンバランスさ。
そんな死神性に全てのスキルポイントを注ぎ込んでしまったような存在が「他七日リスカ」なのである。
他七日リスカに巻き込まれれば最後、必ず死ぬ――と、実しやかに囁かれる程度には。
僕自身はリスカに関するそんなオカルト信じちゃいないが、しかしフラットな視点で見れば僕だってそう評さずにはいられない。
殺人事件くらいならば誰しも長い人生を生きていれば一度くらい立ち合うことはあるだろうし、それに出会う確率は宝くじで三億円が当たるよりは断然高いだろう。
しかし殺人事件に遭遇する回数が百を越えれば誰だってやばいと思う。
五百回続けばその全てが彼女自身の犯行だとした方が幾らか整合性が取れるくらいだろう。
だから、彼女は時たま、こうも呼ばれるのだ――「探偵」ではなく「死神」と。
それは決して、称賛ではないということだけは断っておく。
しかし、この一点だけははっきり言っておくがリスカは何も悪くない。
死神なんて言っても彼女が手ずから誰かを殺しているわけでは断じてないのだから。
殺人は愚か、思い人がリスカに靡いたから殺した――なんて彼女が殺人事件のきっかけとなったことすらも一度もない。
ただ、何らかの事件に彼女が巻き込まれる度に――或いは彼女が巻き込む度に、必ずと言って良いほど殺人事件が彼女の前で起きるというだけだ。
別に彼女が意図しているわけではないし、彼女が関与しているわけでもない――ただ彼女はその場に立ち会ってしまうだけだ。
なのに人々は彼女に「死神」だなんて心なき中傷を投げつける――それは公平な立場から見れば僕でも仕方のないことだと思う。
しかし、誰よりも彼女を知り、誰よりも彼女の側にいる僕はそれを否定するように彼女のことを「探偵」と呼ぶのだ。
他七日リスカを言い表す言葉は二つある、その一つは「探偵」である、と。
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