第29話 こう言っちゃ、なんですが
こう言っちゃなんですが彼らの気持ちは分かりませんが彼らの苦悩は僕には案外分かるんですよね。
いつ自分が他人の歴史を終わらせてしまうのか、それが赤の他人ですら割り切れないというのに自分の身内に刃が向いてしまえばやり切れない――どれほどまでに悔やんでも悔やみ切れないことか。
それは、地雷原を闊歩するような行為ではなく、自ら地雷をばら撒いて他者に目隠しをして行軍することを強いるような行為。
もしくはデスノートに延々と無作為に漢字を書き連ねていくような行為とでも言えばいいんでしょうか。
いつ名前が完成するかわからない――いつ自分が誰を殺すのかわからない。
殺人という行為は決して一人で完結するものではありませんからね、相手あってこそ、そんな結婚生活のようなものなのですから。
殺人行為、それ自体――つまり自己を正当化するだけというのならば案外簡単ですけれど、しかし他人に肯定される自分を作り上げるのは誰にだって難しいということですね。
行くも闇、行かぬも闇――デッドロック状態なんですから当然ですがどう転んでも破滅しかない――否、破滅するより前に心が摩耗してしまいます。
けれど、彼らには光が射した。
誰にもバレないように人殺しの場を提供してもらえるというのは、さっきの例え話で言えば自己肯定さえすれば誰にも誹られることがないということですから。
これは推測ですが三人は「そのうち無実の誰か殺すなら殺人鬼を殺して終わる方がマシ」という結論に至ったんでしょう。
だから三人共ノコノコと
まあ合理的と言うかスマートな結論であるとは思います、その殺意の対象の片割れが僕ですからそんな他人事なこと言えませんけど。
しかし、「誰が殺したか分からない
状況――心構えが変わったんです。
彼らは遅まきながら「人を殺したらどうなるのか」を理解してしまった。
人は殺したら死ぬ――とそんな今更のようなことに気づいてしまったんです。
で、ビビってしまってガクってしまってブルってしまった。
まあ、あくまでもこれは僕の予想なんですけどね。
もしかすると主催者から興行的な理由からただの狩りから推理ショーにするようにオーダーが通ったとか、もっと常人には理解できない理由があったのか。
「いざ本当に人を殺す段になって怖気付いたから、僕を殺すのに参加したくない」のか「自制心に自信があるから人を殺したという形式だけの証拠が欲しい」のか、
人殺し予備軍じゃない僕には分かりかねますが、犯人――
だからやっぱり、要約するならばC.H.K.を解消する為に呼ばれたというのに、
身勝手な理由で集まり、そこでなお子供のような駄々を捏ねるという見苦しさは僕なら耐えられませんが――しかしこれまでの三人の
三人が三人とも三者三様とは言え等しく自分勝手な奴らでしたしね。
積極的でいながら消極的であるとは「人を殺したくない」――そんな当たり前なことを思ってる奴が居ると、そういう意味での消極のことです。
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