第28話 三人の登場人物、最初で最後の一人

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 三人の登場人物、最初で最後の一人は「日取ひとり甘太あまた」君でした。


 もう今更断ることも無いと思いますが僕の二つ下でまだ中学校に通う年齢だというのに、例に漏れず彼も作家で――C.H.K.患者でした。


 一応彼の書いてるジャンルは児童書で名義は「ひとりあまた」だそうです。


 僕なんかは児童書とライトノベルの違いも、なぜ作者名を平仮名にしがちなのかすら分からないくらいですから、そのことについて特に語ることも無いんですが――代表作すら知りませんし――まあ案外違いはそこなのかも知れませんね。


 漢字と横文字が多いのがラノベで平仮名が多いのが児童書、と――分類学とかの権威とかの前でそう言ったらぶん殴られそうですね。


 ま、日取ひとり甘太あまたが児童書作家でありながら児童作家であると同時に自動作家でありつつ洞察家である――なんてのは特に意味をなさない話なので置いておきます。


 語呂はいいんですけどね。


 例によって今の会話で大体個性キャラは掴んでもらえたと思いますが――百の説明より一つの会話の方が人となりというか、人間という物を簡単に説明出来たりしますし――けれどそれだけでは伝わらない情報もあります。


 チラリ、と触れましたがさっきのって男子トイレの個室の越しの会話なんですよね。


 今思えば僕も隣の個室に入る必要ありませんでしたね、あ、いや、ふと今思っただけですけど。


 日取ひとり甘太あまたという少年は名は体を表すなんてことわざを正しく体現しているような人間だったんです。


「独り」甘太あまたってね。


 まあ「甘太あまた」は「数多」でもありますから、さほど名前の通りというわけではなかったのかも知れませんが……堅い言葉を使うなら日取ひとり甘太あまた君は対人恐怖症――まあ要するにコミュ障だったんです、それも重度の。


 その程度は面と向かって会話が成立出来ないほど、他人の存在を視認してしまうと体の震えが止まらないだとかで彼は不知川しらずがわモールでの時間の大半は男子トイレに篭りきりだったそうです。


 だから僕との会話もトイレの壁越しで行われたというわけです。


 その人見知りの程度で言えば間違いなく日常生活で支障があるレベル――既知の太陽たいよう憎子にくこさんとほんの十数分ばかり行動を共にしただけで限界だったそうですから。


 本当に誰とも人と目を合わせられないどころか歩みを合わせられない奴なんかができる仕事は、作家くらいしかないんでしょうから、彼に物書きの才能があって良かったと思います――すごい上から目線で言いますけど。


 それほどまで重度の人間不信の甘太あまた君ですが、しかし彼は人間を信じることは出来なくとも、人間自体を嫌いだというわけではないようでしてね。


 人間嫌いというより人間関係が嫌いなタイプ、だそうです。


 目を合わせれば辿々しく、何を言ってるのかさえ覚束ない会話も、壁を一枚挟めば彼は誰よりも雄弁に語ってくれた、っていうのは先述の通りです。


 いやはや、逆に僕を犯人扱いするだなんて大胆不敵というかなんというか。


 その辺差し引いても、同年代ということもあり、また先の二人が話が出来ない大人と、話したくない大人だったので、一番意思の疎通が出来たんじゃないのかなあ、とは思います。


 土台「人を殺してもいいよ」なんてメールに乗るやつと話が合うはずもないんですけどね。


 それなりに、強いていうならば、という意味です。


 C.H.K.患者である甘太あまた君達に届いたメール「殺してもいい奴を殺させてやろう」という怪しげな文言に、彼らは三人が三人とも、積極的でもあり、消極的でもありました。


 だって不知川しらずがわモールに来てる時点で誘われていたらしい一十いとう一人ひとり殻井からい証拠しょうこよりは積極的ではあるんでしょうが――しかし、三人が三人とも「自分が日取ひとり其月きつきを殺した!」ですしね。


 彼らだって心の底から本心で人を殺したいわけでは無かったはずです。


 しかし、自分には秘された殺人衝動があるらしい。


 それは頑として排さなけれならない。


 しかし、その為には人を殺さなくてはならない。


 けれど、人を殺したいわけではない、殺したくない。


 だがしかし人を殺さない為には人を殺すしかない。


 それでも……


 と、そんな無益で無意味な堂々巡り。


 こう言っちゃなんですが彼らの気持ちは分かりませんが彼らの苦悩は僕には案外分かるんですよね。

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