第26話 さあ? その時点で

「さあ? その時点で不可能殺人ではなく普通に可能殺人ではあるけれど、閉ざされた部屋ではあるんだから密室ではあるんじゃねえの? 僕はその辺の分類なんてあまり興味ないけど」


「まあ僕もあらゆる分野においてお腹さえ膨れればカップラーメンで満足! ってタイプですからその辺どうでもいいんですけどね。本当のミステリーファン名乗ってる本物の人達には怒られるかもしれませんが」


「だから、それが密室かどうかは知らないが……しかし、発想としては悪くないと思うんだよ『犯人は密室の中に居た』」


「それは密室トリックの花形ではなくともクリーンナップでは有りますし――けれど太陽たいようも言ってましたし憎子にくこさんからも聞きましたが、あなた達は三人一緒に上がってきたんでしょう?」


「ああ。それは間違いないよ」


「じゃあ、誰も居ないじゃないですか! その密室の中に潜んでいるという犯人が!」


「……やっぱり、その時は誰も死体は背負ってなかったし、仮に背負っていたとしても死体を見つけるまでずっと三人一緒だっからな。死体を先回りして置いて、発見させるなんて小細工をすることは出来なかったと思うんだよな――それにやっぱり二階の通行禁止が解かれるまでは誰も二階に入れなかったよ。大体、もし入れるなら普通に入って、普通に殺せばいいだけなんだから」


「え? あ――うん?」


俺たち三人はな・・・・・・・


「……つまり――第三者、例えば一十いとう一人ひとりだとか殻井からい証拠しょうこが居た、と甘太あまた君はそう言いたいんですか? 憎子にくこさんもそんなこと言ってましたけれど、言っちゃあなんですか――」


「いや、違うよそうじゃない。そうじゃない。人をいい歳こいてメンヘラ発症してる婆さんと一緒にしないでくれ」


「面と向かって言えば憎子にくこさんにぶっ殺されそうなこと宣いますね」


「面と向かって言わないからな――けれど一十いとう一人ひとりだのそんなの、というかそんな第三者の介入がアリならなんでもアリになるじゃねーか。選択肢を増やすというのは賢い行いなのかもしれないけれど、中学数学の確率の問題で初めからしらみつぶしに場合分けするような行為はただの愚行だろう?」


「まあ、確かに」


「だろ? だからまずはモール内の話で完結させるべきだよ。


 幸いにもモール自体が巨大な密室空間なんだから外部の侵入者は居ないものとして考えていい――じゃあこれは内部の犯行だろう?」


「それじゃあ振り出しに戻るじゃないですか、結局甘太あまた君達三人は通常の手段で二階に上がれなかったんですから」


「だから、三人はな・・・・。けれどもう一人居るだろう? 僕達三人は二階に上がれなかったとしても、このショッピングモール跡地には人間がもう一人居るんだから」


「…………ん? さっきの話はその前置きで、つまりそれは日取ひとり其月きつきてある――とでも言いたいんですか?『密室で死んでいたのだから自殺だったのだ!』なんてのは敢えて無能に設定されている警部殿が言いそうではありますけれど、そんななんちゃら警部でも多分あの死体を見てそうは言わないでしょう。僕だって自殺するときは首切り自殺は選びません――ってかそんなの断頭台でも用意しなきゃ無理じゃない?」


「ははっ、日取ひとり其月きつきは死体だ、人じゃねえよ。それに僕は別に其月きつきが自殺とも言ってない」


「じゃあ――」


「だからそうじゃない、そうじゃないんだよ。そうじゃなくて……もう一人居るだろう? このモール不知川しらずがわには人間――人を殺せる人間が、今


「………………ああ、なるほろほろ。そういうこと。――職業柄と言うか性質柄疑われるのは慣れてますけれど、その度に僕のガラスのハートはジグザグになっているということを皆さん忘れがちなんですよね」


「そんな酷い奴が居るとは同情するよ」


「同情するならなんとやら、じゃありませんけどそんな乾いた言葉を貰っても何の意味もありませんよね」

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