第25話 殺人鬼かどうかなんて

「殺人鬼かどうかなんて人を殺したかどうかでしかないんだからやっぱり殺人鬼でしかないだろ。一人殺せば殺人鬼、百人殺せば英雄なんて戯言を僕は支持しないしな。人殺しはどう転んだって人殺しだよ」


「それは全くもって同意しますね。おやまあ、なんだか僕と甘太あまた君ってフィーリングバッチリみたいですね!」


「――日取ひとり其月きつき以上の殺人鬼とフィーリングバッチリだなんて言われたって何も嬉しか無いけどな」


「むむっ、何を! だからそれはさっきバッチリ説明したでしょうに、昔とある事情で僕の目の前で人が死ぬことが多かったというだけで――」


「七〇〇人――七一七人もか?」


「ははっ、日取ひとり其月きつきを含めれば七一八人ですよ?」


「目の前で七一八人が殺された、しかし自分は一度も関与したことがない――そいつはもうお前自身が殺しているとした方が自然じゃないのか?」


「そうですかね、十七年間――四歳からだから十三年か。七〇〇人ぽっちじゃ十三年間の日本の総死者数の〇・〇一パーセントにもなりませよ」


「友達百人作りましょうじゃないけれど、十三年間で七〇〇人じゃ出会った奴殆ど全部死ぬくらいの計算だろ? 出会ったら最後必ず死ぬ――なんてそんな死神みたいな奴が、仮に本当にその死に何にも関与して無かったとしても、もっと悔いるべきというか――それこそ死にたくなったりするもんじゃないのか?」


「さて、どうですかね。そりゃあ昔は色々ありましたし思うところもありましたけれど、そんなことで精神的優位取れると思ってる甘太あまた君には悪いですが、今更そんなことでブルーになるようなら、わざわざこんなところまで足を運びませんよ」


「……別に僕はそういうつもりで言ってたんじゃないけどな」


「それは重畳、重畳。しかし、そうですねどうしても僕という奴は疑われる奴ですから。七一八人目、日取ひとり其月きつきの殺害について身の潔白くらいは証明しようとは思ってるんですよ――即ち事態の解明を。甘太あまた君は何か知ってます?」


「何かって――もう二人から大方話は聞いてるんだろ? 僕が新たに提供できる情報はないと思うぜ?」


「だから甘太あまた君に求めるのは情報じゃなくアイデアです、君はあの二人より話しやすいですしね。っていうか、寧ろ最初からそれ以外に聞くことなんて本当はなかったのかもしれませんが――甘太あまた君はどうやって隔離された二階で、日取ひとり其月きつきは殺されたんだと思います?」


「ああ、そうだな。僕もそう言えばその話がしたかったんだ」


「――と、言うと?」


「今回の事件はつまり密室殺人って奴なんだろう?」


「ははっ、おかしなこと言いますね、密室で殺人なんて起きませんよ」


「現に起きてるじゃねえか」


「だから、それは……きっと謎解きの段になれば僕は高らかに『事件当時二階は密室では無かったんですよ!』って宣言しますから期待して待っていてください」


「ああ、期待してるよ、大いにな。けれど本当に密室で人が殺されることがあるだろう? 例えば――」


「遠隔トリックですか? その話はもうさっきしたんですけどまたやりますか? 今度は僕が君をぶん殴って終わるなら別に構いませんけど」


「ああ、それもあるか。けれど僕が言いたいのはそういうことじゃないよ。もう一つあるだろ? 密室のまま起きる密室殺人事件が――ま、ざっくりと要約すれば犯人は密室の中にずっと居たのだ、って奴だよ」


「ああ、なるほど現存する密室トリックの二十六パーセントをしめる奴ですよね、僕調べ」


「それは知らない、が。一番シンプルなので言えばドアの後ろに隠れて、入ってきた奴らの最後尾にしれっと合流する、なんて奴かな」


「んー、まあ言わんとすることは分かりますし、ドアに隠れていたというだけじゃなく綿密なトリックがあったりしたら萌えますが――果たしてそれって密室なんでしょうか?」

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