第15話 行動だけではなく集まった日時もバラバラだったそうで

 行動だけではなく集まった日時もバラバラだったそうで、憎子にくこさんは前日の夕方に一度訪れた後、ホテルで一泊し朝七時頃にもう一度。


 甘太あまた君はその約一時間後の八時前に不知川しらずがわ駅から直行。


 そして、三人目の太陽たいよう憎子にくこさんと同じく前日入りしていたくせに九時五分前に滑り込みで間に合ったと。


 そして太陽たいようが到着してから五分後、謎の人物に指定されていた九時に外側のシャッターが降り、入り口が封鎖されることで三人は外界から隔絶されたそうです。


 二階も当然その時閉鎖されてちたんですからこっちもこっちで密室だった、なんて言ってもいいのかも知れませんね。


 ともあれ、事前に「事が終わるまで外には出られない」ことと「正午に二階のシャッターが開く」ことを主催者から聞き及んでいた三人は特に気にすることなく――あるいは気を紛らわせる為に、二階のシャッターが開く正午までは各々自由に過ごしていました。


 一階部分だけとはいえショッピングモールですから暇つぶしには事欠きませんし。


 


 憎子にくこさんはかつて緑茶カフェだったところで仕事をし、甘太あまた君は一階南入り口近くのトイレで引きこもり、太陽たいように至っては食料品売り場に座り込んで酒飲んでたそうです――本当に救えない、救い難いじゃなく救えない。


 そうして彼らが時間を潰しているうちに正午になりました。


 果たして、ゼロコンマ何秒のズレもなく、事前に知らされていた通り正午ピッタリに一階と二階を隔てるシャッターが開き始めたのです。


 その時、時間に合わせて三人とも一番近いエスカレーターのところに集まっていたそうなのですが、それが偶然あの吹き抜けのところのエスカレーターだったそうです。


 つまり、登ればすぐ側に日取ひとり其月きつきの死体があるはずのエスカレーターに参加者全員が揃ったんです。


 が、しかし。


 他の二階部分のシャッターは外壁部分の物を除けば全て開いたのにも関わらず、そこのシャッターだけは開かなかったんです。


 正方形の吹き抜け、二階部分を囲う四枚とも。


 つまり、日取ひとり其月きつきはシャッターを背にして死んでいたのです。


 その隔壁は僕が解放された後ですらもまだ降りたままだったので僕も確認する事が出来ました。


 本来開放感を与えるはずの吹き抜けに、なぜか威圧感をもたらすようにその鉄の扉は降りていました、其月きつきの死体が鉄の扉を背負うように。


 降りていたのは其月きつきの背面――って言っても仰向けに死んでましたね。


 一応頭側ではありましたけど、まあ吹き抜け側の方がわかりやすいですか。


 降りていたのは其月きつきの吹き抜け側の一枚とその向かい側、さらにその二枚に挟まれたもう二枚の四枚。


 二階の吹き抜け部分は鉄の蛇に巻きつかれたように包囲されて居たんです。


 ま、不可解では有りますよね。


 他のシャッターは全部上がっているんですから何故その四枚だけ……? と思うのが一般的な思考の筈です。


 巻き取り機能が破損してなんらかの不具合が起きたのか、意図的にそうなっているのか――それは僕にはわかりませんでしたが。


 しかし、何はともあれ、其月きつきの吹き抜け側のシャッターということは吹き抜けの内側に設置された、其月きつきのすくそばのエスカレーターを阻むシャッターでもあるわけです。


 そのエスカレーターに集まって居た三人ですがそんな不思議なシャッターに行く手を阻まれては仕方がありません。


 太陽たいよう達も当然そのことは不審に思いましたが、そこで考えていても仕方ありませんしね。


 そこから一番近いエスカレーターまで移動したそうです。


 幸いにもそこの隔壁も降りたままということはなく、今度こそなんの障害もなく二階に上がり――まず、いの一番に何故か閉まっている不審なシャッターへと三人は向かいました。


 そこそこ広いフロアで特に何か行く当てがあるわけでもなかったんですから、何か異常が起きている場所を目指すというのは当然と言えば当然だったのかもしれません。


 そして三人は、日取ひとり其月きつきの首切り死体を発見した、と。


天道てんどう太陽たいよう」「仇愛つれあい憎子にくこ」「日取ひとり甘太あまた」の三人は殺人鬼予備軍である――なんて言ってもその三人の相手は本物の殺人鬼ですかね。


 主催者から十二分過ぎる以上に安全性についての説明はされていでも、その謎の主催者自体が疑わしい。


 ですから、気が合わないとしてもお互いが知らない仲だという訳でもない三人は、偶々エスカレーターの下に集まった時から、安全面を考慮してそのまま仲良く行動していたらしいんです。


 だから、僕が言ったようにその内の誰かが死体を背負っていたとすれば、残りの二人が気づく筈なんです。


 しかし、誰も死体を運んではいなかったと三人とも証言してくれましたから、多分それは本当だったんでしょう。


「誰も立ち入れ無かったはずの二階にある、首切り死体」


 首切り死体を見て入れ替わりを疑うかは議論する余地があるとしても、ギロチンか何かが無い以上首切り死体それが他殺体であることは疑いようが有りませんからね。


 先ほども言った通り「事件当時、霞桜館二階は密室だった」。


 その二つの事実を結び合せる言葉は一つだけでしょう。


 かくして、事態は楽しくない狩りから楽しい事件へと変転したという訳です。

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