第16話 仁愛 恋子こと本名、仇愛 憎子
◇
「
「わーお、いきなり話が早い。けれど貴方が僕の知る
「あら、私のこと知ってるの?」
「ええ――ってか僕でも知ってるような結構な有名人じゃないですか?
「……まあそうね。手前味噌ながら〈鬼灯姫〉にそれなりの世間的認知度があることは確かだと思うけれど、それってやっぱり貴方も言ったように『
「ふーん――もしかして『
「いえいえ、全然これっぽっちも、そんなつもりはさらさら、毛頭、微塵もないわ」
「さいですか。……とは言え、小説家ですか。
「
「いや、いたでしょう
「
「僕も覚える必要あるのかとは思いますけれど、一応覚えて差し上げてくださいよ」
「ふうん、イマイチピンとこないけれど、いまこの中にいるあの男達の中のどれかってことね。私男の名前覚えられないのよね」
「『覚えられない』なんてそんなレベルの話じゃないと思いますが――それにしてもC.H.K.患者として集められただけの三人とも面識があるなんて偶然にしては些か出来すぎじゃないですかね」
「ふふっ、至らない事やつまらない事を偶然と表現する人間は居ないのだから、出来過ぎてない偶然なんてないでしょう?」
「まあ、そう……そうですか?」
「そうよ。それに偶然が重なれば必然――だなんて言うけれど、偶然は一つ目からただの作為の換言よ。本当に偶然があるならばそれは神様の作為のことなのだから、結局偶然なんて言葉は作為の代替語でしかないのよ」
「……どっかで聞いたことあるような言葉ですね。よく知らないけど『少年ジャンプの血統主義は理に適ってる、ぽっと出の主人公が何故か強いより親が強い、従ってその子供の主人公も強い、の方が強さの説明責任を果たしてるんだ』とか二時間くらい語りそうな奴が言ってそう」
「あら、確かにこれは昔会った『この世に偶然なんて物はない』という信条を持つセールスマンからの受け売りだけれど、もしかして知り合いかしら?」
「さあ、知ってるだけで会ったことはありませんよ、人伝に話を聞いた事があるだけです」
「あらそう、世界は狭いわね。なかなか面白い輩だったから貴方も一度会ってみたらいいのに。けれど彼の言葉を借りるならばやっぱり偶然なんてないのよ」
「僕は信じてますけどね悪運とか運命とかそう言う奴。運命と言わなきゃなんなんだと言うような経験を悪運がなければ死んでいたくらいにはしてますから」
「それは個人の受け取り方でしょう? 街中でばったり自分の好きなアイドルに出会えば、それはもしかすると運命の出会いかも知れないけれど、そのアイドルの住所を調べて、生活パターンを予測して、待ち伏せすればかなりの確率で『ばったり』出会えるはずよ。奇跡なんてそんなものよ」
「そりゃあ、アイドルの楽屋に行けば、ばったり四十八人じゃ効かないくらいの人数のアイドルと会えるでしょうけど。けれど、それはやっぱり偶然とは言わないでしょう?」
「だから見方によって奇跡なんてものは変わると言っているのよ。運命だとか奇跡だとかなんて幾らでも偏向処理出来る――例のセールスマンのような彼の主張はそういうことだったはずよ」
「偏向処理ですか?」
「ええ、偏向処理。街中から無作為に数人選んでその全員が人を殺したことがある確率は著しく低い――それこそ奇跡と言っていい確率でしょうけど、死刑囚の収容所から無作為に数人選べば恐らく人を殺した事がない人間の方が少ないでしょう?『無作為に選んだC.H.K.が全員知り合い』は一見偶然のように見えるけれど、C.H.K.ってそもそも基本的にみんな知り合い同士なのよ」
「ん? ……えーと、それはスタンド使い同士は引かれ合うとかそんな話です?」
「さあ? そのスタンド使いが何かわからないわ」
「あーと、類は友を呼ぶ?」
「……性質的に何か影響し合うという事実はあるらしいわよ。引かれ合うかは知らないけれど。まあこれに関してはそんなロマンティックでオカルトチックな話じゃなく、もっと話は単純でC.H.K.患者は定期的に集められるのよ人為的にね。『C.H.K.を集めたから知り合う』のは世間一般的な初対面でしょう?」
「へえ、自己啓発セミナーでもやってるんですか? いやC.H.K.さん達は自己を啓発しちゃ駄目なのか」
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