第13話 小説というものを芸術として

 小説というものを芸術として特別視している太陽たいように比べ、一十いとう一人ひとりはそれを大衆文化かそれ以下に貶めている、いや貶めなければならないのだとさえ主張しているんですから元より噛み合う筈も無いんです。


 千差万別で夥しい数の作品がある濫作家一十いとう一人ひとりの作品の内一つが心の奥底まで突き刺さったというだけで土台なにかを分かり合える筈もなかったんですね。


 別に感情とか思想なんてものは作品に込めてないと一十いとう一人ひとりは公言してますし、それも当然ですが。


 ――と、さて。


 ここまでなんの話かと言えば太陽たいようの話なんですよね。


 別に僕は太陽たいようの思想を否定しているわけではありません。


 確かに僕の個人的な感想を言えば一十いとう一人ひとりの思想の方が好きですが――しかしやっぱり文化とか芸術とか、小説というものをそういう特別なものだと認識している人間の方が多い筈です。


 だから僕が否定しているのは天道てんどう太陽たいようという一個人です。


 天道てんどう太陽たいよう殻井からいさんと一十いとう一人ひとり、大恩あるその二人について実に楽しそうに話してくれました。


 実に楽しそうに、恨みつらみをズラズラズラズラ並べてくれました。


 天道てんどう太陽たいようという作家の育ての親とも言うべき殻井からい証拠しょうこに一抹の恩義すら抱かず、ただ自分の思い通りにならないことを泣き喚く赤ん坊が駄々を捏ねるように愚かなことを口走る――例え、相入れないとしても人生の先達であり、一時は憧れたはずの一十いとう一人ひとりを借りてきたような言葉でこき下ろす。


 天道てんどう太陽たいようとはそんな風につまらない男でした。


 いや、つまらないというより厨二病とでも言えばいいんですかね。


 邪気眼じゃない方の。


 世間一般的に人々は十四歳くらいで自分の限界が見えてしまうと言いますからね――まあそれはただの思い込みなんでしょうが。


 しかし自分の普通さに気が付き、その事実に絶望してしまった時に安易に普通じゃなさを求め、単純に奇をてらうようになってしまう、それが厨二病なのだ! ってのが僕の解釈なんですがそれが正解なのかはともかく、太陽たいように関しては多分それと似たり寄ったりだったんだと思います。


 一十いとう一人ひとりとの思想の対立、なんて言いましたが実際のところ太陽たいようにそんな大逸れた思想はない――というか、思想のようなものを掲げる大仰な理由は「対立するが為」の他に無かったんだと僕は思います。


 所詮太陽たいようの意見は思想なんて呼べるようなものではなく、ただの一十いとう一人ひとりの思想への逆張り――太陽たいようが本当にしたかったのは、そんな一十いとう一人ひとりへの幼稚な反抗だったんですよ。


 あくまで僕の想像では、ですけどね。


 けれど、やっぱり一十いとう一人ひとりが黒だと言っているから自分は白だと言う、自分が結果を出せないのは一十いとう一人ひとりが原因だと思い込む――なんてその程度の話だったんじゃないですか。


 天道てんどう太陽たいようとはそんな奴なんです。


 そんな程度の奴なんです。


 殻井からいさんへの態度もただの反抗期のようなものなんじゃないでしょうかね。


 教育者としての顔を持つ殻井からいさんは精神性がガキの太陽たいようにとって煩わしい存在であることは確かに事実でしょう。


 一十いとう一人ひとりに反旗に翻したのも、自分なんかとはが違う一十いとう一人ひとりをようやく理解したからなんでしょう。


 だから反対し、反抗し、反りを合わせないことで、太陽たいよう一十いとう一人ひとりと対になっていると誤認し、抗えていると信じ、釣り合うと思い込んだんです。


 作家としてなにもない自分を、少しでも大きくする為だけに。


 僕の厨二病の定義からは少し外れますが一十一人特別の反対はやはり普通ではなく特別ですからね。


 これは、別に太陽たいように限った話じゃありませんけどね、別に出版業界に限らずそんな人はどこにでもいっぱい居ます。


 ただ、得てして、どこにいても嫌悪の対象でもあるってだけです。


 一十いとう一人ひとり先生が着流しを着ているかは知りませんが、万年筆を使って小説を書いていることは確かですから太陽たいようはどうあっても万年筆なんて握れませんよ。


 そんな一十いとう一人ひとりの真似なんかすれば、比べられ、自分がつまらない人間だともうバレてることがバレてしまうんですから。


 十四歳の子供が普通を嫌いそんなことをしているならば、まだ可愛らしい若気の至り――それこそ厨二病だね、で話は終わりですが、三十にもなるオッサンがこれではダメでしょう。


 当時未成年だった僕が言うのもなんですが天道てんどう太陽たいようとは子供だったんです。


 天を仰ぐばかりの自分を誤魔化す為に他者を蔑み、人間性が薄っぺらい自分の話を厚くして、浅い底が相手に見切られているというのに懐が深いように演じる、そんな奴でした。


 ま、僕が普通に太陽たいようが嫌いですから多少偏った物言いになりましたが、太陽たいよう個性キャラ掘り下げは十分ですからね。


 一言で総括して言えば逆名探偵、って感じです。


 見た目は子供、頭脳は大人、って口上の奴。


 そんな奴と会話をしなければならなかった僕の不憫さが分かりますか? それもこれも全部日取ひとり其月きつきが悪いと言うわけでは無いんですけどね。

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