第10話 「――まあ、サブタイトルで倦厭されることが

「――まあ、サブタイトルで倦厭されることがあるのは否定しないけどな。……だから俺は嫌だって言ったのにあの糞編集め、下手したらメインタイトルすらなくなるところだったんだぜ?」


「シャーロック・ホームズの推理譚が『転生~』にはどうやってもならないでしょうし。『朝凪の神水』を『朝凪の神水~転生した俺はユニークスキル《推理》を使ってモテエロハーレム探偵生活始めました~』に変えた奴が居るなら多分そいつは仕事出来るやつですけどね」


「ははっ、冗談きついぜ」


「ははっ、冗談きついのは全く同意しますが――けどそうですね、あくまでも正統派ミステリーを騙るというのならば、貴方は今回の一件どう考えます?」


「ん?『朝凪の神水』にふさわしい副題か? そうだな、俺ならやっぱり――」


「違ぇよ。なかなか愉快な事実の連続で話が逸れましたが僕が何しにここに来たと思ってるんですか。――『密室殺人』の話ですよ」


「ああ、それか」


「そのために僕わざわざ三人の元回ってるんですから。太陽たいようさんが一人目ですけど」


「さてね、どうって言われてもな。そうだな『密室殺人』――つまり密室トリックにはいくつかパターンがあるよな? その中でも一番簡単なのは、外で殺して死体を密室に放り込むって奴じゃないか」


「つまり、密室に後乗せサクサクで殺人を上乗せして、本来独立した二つの要素を掛け合わせ、『密室殺人』にするって奴ですね」


「その言い方は語弊があると思うが――今回の事件に当てはめて言うならば……『日取ひとり其月きつき』は実は最初は一階に居たんだよ」


「ほう――なるほろ」


「そうさ、犯人は其月きつきを一階で殺してたんだよ。そうして殺した死体を誰にも気付かれないように運び、二階のシャッターが開いたと同時に投げ捨て、その死体を発見させることであたかも密室殺人に見せかけたのさ。事件は現場で起きたのではない、ってな」


「ま、確かにそれがシンプルで一番簡単かつ、現実的な路線ですよね」


「だろ?」


「――けれど、太陽たいようさんも憎子にくこさんも甘太あまた君も一緒に二階に上がったんでしょう?」


「……まあ、そうだな」


「三人で連れ添って行動していて、一人が死体というか、六十キロから八十キロくらいの肉塊担いでたとしたら普通気づくでしょう? 例えそのまま担かず何か袋にでも入れていたとしても、分かると思いますけれど。そういうわけじゃあなかったんでしょう?」


「んと……それじゃあ――そこに首切りの意味があるんだよ、体全部は無理でも頭だけならバックパックとかに入らないことは無いだろう?」


「じゃあ胴体どうしたんだよ、ってなりますよ。貴方たちが最初に見つけたのは頭だけでなく頭と胴体のセットだったんですから。胴体だけ二階に置けるなら最初から頭も置いとけばいいし、じゃなきゃ頭だけ何とかして二階に運んでも首から下は一階に置きっぱじゃないですか」


「……だな。万策出尽くした」


「はぁ……太陽たいようさん? この程度の密室トリックしか思いつかないだなんて、それでも自称ミステリー作家だという自覚はあるんですか?」


「他称ミステリー作家だぞー」


「じゃあ多少ミステリー作家の太陽たいようさんに聞きますが」


「誰がそこはかとなくミステリー作家なんだよ」


「多分ミステリー作家の太陽たいようさんに聞きますけれど」


「確実にミステリー作家だけどな?」


「ふふっ、まあ多角的に見ればミステリー作家と言えなくもない太陽たいようさん、これならば貴方にも答えられると思いますが。何故犯人――と言う呼称も正しいのか分かりませんが――何故犯人は密室なんて作り出してみたんでしょうね。『自分が殺した』と言うことが目的ならわざわざ密室トリックなんて組まなくてもいいでしょうに」


「ははっ、まあそれくらいははっきりしてるだろ」


「――と、言いますと?」


「さあ、俺にはさっぱりわからないってことだよ。はっきりとな」


「うん、やっぱ使えねーわこいつ。聞いた僕が馬鹿だった」


「そうは言うが人殺しさんよ」


「だからそれは全部冤罪だって何回も説明しただろ!」


「さっき話してた奴全部冤罪の方が恐怖でしかないがな――例え冤罪だとしても捕まえておいた方がいいくらいに。けれど君はそう言うが、大体ミステリー作家は君達のような人殺しと違って現実的なトリックなんて考えなくてもいいんだよ」


「だから誰が人殺しだ、ったく。――えっと、現実的なトリック、ですか?」


「ああ、そうだな。……例えば、創作とはいえ現実でも実行可能かつ絶対にバレない殺人トリックを思いついたとしよう。鮮やかかつ大胆――そんなものを本当に生み出してしまったら、それはトリックとしては至高で最早芸術の域に達してると言えるだろう――が、実際そんなもの本にして出版しちまったら三流作家もいいとこだ」


「それは――」


「ああ、多分察してる通り実際に真似されたら困るからだ」


「……ま、それがどうして三流になるのかは分かり兼ねますが。しかしネット社会が発達した現代、そんなことが発覚すれば作家生命は絶たれるでしょうね。『作品名殺人』とでも名付けられていいように玩具になることは目に見えてますし」


「ああ、至高が最善とはならない事例なんて幾らでもあるように、高尚が最良とはならないんだよ。俺達のような人種に求められるのは地味で完璧な芸術より、派手で実現は不可能だがしかし、それらしくは見えるご都合展開なんだよ。ミステリー作家としてはそっちの方が遥かに有用だ」


「――なるほろ、ラノベ作家の言葉だと思うと金言なのかもしれませんね。下賎なラノベじゃなく高尚な書物が読みたいなら純文学よりも聖書とか六法全書読めば? とは僕も思います」


「おいおい、だから俺をライトノベルなんて書いてる作家の最下層扱いしないでくれよ」


「だからさ、お前そういうとこだぞ、マジで。というか偉そうなことごちゃごちゃ言ってたけどお前如きの真似する輩なんていねーから」


「……なんかさっきから当たり強くないか?」


「そうですか? 僕は接する相手には敬意を忘れないと専らの噂ですけど」

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