第4話 どこまで話を段取りましたっけ

 どこまで話を段取りましたっけ――えーと、そうそう『名探偵の推理ショー』。


 僕が『名探偵の推理ショー』を倦厭する理由なんて大体今述べた超個人的な理由が殆どですが、しかしそれを差し引いても探偵がつらつらと事件について語るというのは些か不適格じゃあないかと思うんです。


 不適格な不適役。


 だって不敵な笑みが似合うのは何も名探偵だけじゃないんですから――そんな奴よりも適役なかたき役、殺人事件には必ずそんな素敵な人材が居るはずなんですから。


 例えば、


 それが突発的犯行だとしたら、混乱の渦の中にいるはずの自己をしっかりと掬い上げ、瞬きをする程の間で計画を練り上げ、それを実現せしめた鬼才。


 あるいは数週間、数ヶ月、数年……その全てをかけて綿密なトライアンドエラーの果て一種の芸術と言ってもいい絵図を生み出した傑物。


 あるいは夥しいほどの結末と目を覆うような屍の上で何事もなく午後のティータイムを楽しめるような、殺人を人殺しとは思わない専門家。


 そんな風に、自ら立てた計画を実行に移し、当然起こりうる当初の予定通りにはいかないハプニングにも柔軟に対処し、最終的には人を殺め目的を成し遂とげた――そんな人間が殺人事件の現場には必ずいるはずなんです。


 なにせ犯人はこの中に居るんです。


 彼らはきっと目の前で偉そうに講釈を垂れる探偵を見てこう憤ってる筈ですよね、「それを考えたのは自分だ!」と。


 こんな言葉があります「探偵はその跡をみつけて難癖をつける……ただの批評家にすぎないのだ」。


 これはとある偉人の言葉ですが――僕も全面的に同意しますよ。


 いや、実際のところただの評論家ならまだマシです、それならばまだ僕も一定の理解を示せたでしょう。


 けれど「探偵」はその実講評すら殆どすることはありません。


 彼らがするのは粗探しばかりで、例えそれが自力ではなく幸運から生じた発見だとしても、ほんの少しでも綻びを見つけようものならば鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てる――「探偵」とはそんな悪質なクレーマーでしかないんです。


「人も殺したこともない奴」が、「どうやって人を殺したか」語る――その愚かしさが分かりますか? 未経験の奴がさも数多の経験を経た百戦錬磨のプロフェッショナルかのように振る舞う、そんな愚かしさは世間一般的に認識されてるはずなのにおかしいとは思わないんでしょうかね。


 可笑しいですよね。


 笑っちゃいますよ。


 まあ、「探偵」自身は人を殺したこともなくとも恐らくは本心から自分のこと殺人事件のプロフェッショナルだと思っているんでしょうが――それが余計タチが悪い。


 実際、「殺したことがない奴」なんかが推理するより「殺したことがある奴」が推理した方が推論の確度も論理的な展開のしやすさも上がると思うんですよね。


 だってあいつら「こうすれば非力な女性でも人を撲殺できるはずだ!」とか言うんですよ? 女でもなければ、人を殺したこともない奴が――女ならどれくらいの力で鈍器を降り下ろせて、人間はどこにどの角度でどれだけの衝撃を受ければ命を失うのか――教科書的には勿論知っているんでしょうけれど、身をもって彼らは知らないはずなのに。


 義務教育を受けていれば現実世界で教科書が如何役に立つのかくらいは知っているはずでしょうに。


 ――だから、僕は謎解きは探偵じゃなく、人殺しがするべきだと言うんです。


 謎解きには「殺したことがある奴」の方が相応しいと。


 その点……ああ、えーっと、世間的には「旧モール跡地殺人事件」なんてなんの面白みもない名前でしたっけ。


 あえて僕が命名し直すなら――うーん、戦場、神隠し、要塞、作家……鬼? 鬼か。


 そうだな四人の殺人鬼で――「四鬼しき」。


 四つの鬼が箱庭に閉じ込められて――おりりで四季折々。


 少々シャレがキツイですが「春夏秋冬殺人事件」――とでも名付けましょうか。


 その点、「春夏秋冬殺人事件」には偶然とは言え探偵ではなく人殺しぼくが乗り合わせたんですから……本当は人殺しだからこそ巻き込まれた、なんて言った方が正しいんですけどね。


 成り行きとは言えその謎を僕が解き明かすことになりましたが、今思い返せば僕が探偵じゃなく人を殺す側の気持ちのわかる人殺しでよかったと思います。


 多分、探偵役に追い詰められる犯人だって、実際に人を殺す苦労を――心を殺す苦労も知らない、ただ上っ面の知識だけで何かを語る奴よりは、その苦労を身をもって知っていて、心に寄り添ってくれる奴に暴いて欲しい筈ですから。


 だから、僕が謎を解き明かしたんです。


 だから、僕が謎を解き明かすんです。


 探偵なんかじゃなく、人殺しとして。


 机の上で人が生きた死んだの話をして、それでご飯を食べてる無責任な奴ではなく、人の命の重さに押し潰されて、ご飯も喉を通らない者の責任として。


「春夏秋冬殺人事件」については結局、名探偵のように大円団の結末は迎えられず、血みどろの終末しか待っていませんでしたが――しかしそれでも、他ならぬ人殺しぼくが結論を出して良かった今もそう信じています。


 ――僕が答えを出して良かったと。


 ま、僕は人を殺したことないんですけどね! 


 確かに僕は人を殺した、ということになってはいますけれどそれ全部冤罪ですし! 先に結末言うならばこれは人を殺したことがない僕にはやっぱり人殺しの気持ちは分かんねーよな、って話ですから。


 僕が人を殺めたことがあったら彼らにもう少し寄り添うことが出来たのかも――と、そういう話です。


 まあ寄り添おうとも思いませんが。


 じゃあそろそろ長々とした前置きはこれくらいにして本題に入りますねー。

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