第3話 ――「名探偵の謎解き」
――「名探偵の謎解き」。
ミステリーの花形ですよね。
誰がそれを始めたのかは不勉強なので知りませんが、まあそんな愚昧な僕ですら名前を知ってるような方々が始めたことくらいは知ってます。
それはもう、「名探偵の推理ショー」は「首切り殺人」と違い昨今の推理小説では欠くことの出来ない存在となっている程なんですから。
その新境地を切り開いた先人はその功績だけで文学史に名を残していることでしょう。
しかしながら、それが尊敬するべき事柄であることは僕も同意しますが、先に言ったようにこれは僕の好みの話ですから。
僕はやっぱり「名探偵の謎解き」って嫌いなんですよね。
超個人的趣味かつ、超個人的な主張故に。
それは別に、分かりきったことを回りくどく、演技がかって、自分に酔った説明するスタイルにムカつくわけでは――いやそれも多少あるか。
探偵を名乗る人種は自己陶酔者でなくてはならない、だなんてルールないはずなのに、全員漏れなくナルシー入ってるのって不思議ですよね。
不思議は不思議ですけれど、それとは関係なく、三度身も蓋も無いことを言わせて貰えば。
もう推理小説を書く上で犯人よりも先に設定されることが多いほど探偵というものが定着したせいか、探偵=殺人事件の捜査をする役職という認識がもう世界的にと言っていいほど刷り込まれていますが――探偵って本来謎解きする職種じゃないでしょう? 仮に本当にそんな職業なんだとしたらおまんま食い上げでしょうし、そんな奴居ませんよ。
だから。
本来は読んで字のごとく探り、偵……偵……密偵の偵ですよ。
偵察の偵――うん、なんかそんな感じの職業のはずです、多分。
と、ともかく!
「探偵」が何かを探る職業だというのならば、なるほど、真実を探るというのもそれはあまり職分から外れてるとは言えないのかも知れません。
しかしそれでも「探偵」という職業に与えられた天分はどちらかと言えば治安維持機関というよりは諜報機関の方が性質が近いはずです。
いや、こう言ってしまうと「探偵なんて名乗っている胡散臭い奴らは全ての事件に決して関わるな、それは警察の仕事なのだから! お前は浮気調査やペット探しだけしてればいいんだ!」――なんて主張しているように聞こえるかもしれませんが、何も僕だってそこまで言ってません。
言ってません、が。
しかしそれでも探偵に与えられた領分なんて精々行方不明者を探したり、落書きをした犯人を見つけたり、誘拐された男性教諭を助けるくらいまででしょうに。
僕にも「どこでもドアを発明して全てのミステリーを終わらせる」なんて、豪語してる私立探偵の友人が居ましたが、それはそんな奇天烈な結論に至ってしまった彼の愉快な脳細胞と真実どころか謎すらも許容するその気質に惚れ込んでいただけで、彼の何色だかの脳細胞だとかそういうものには一抹の興味も敬意もありませんでした。
時に、公立探偵って居るんですかね――いえ、関係ない話です。
確かに「探偵」というものは、探る事が本分で
身をもって知ってます。
――けれど、こと殺人事件に限ってはお門違いなんですよ。
人を殺めてしまうような獣のどす黒い本性を探り、闇を
否、人なのか疑わしい畜生の性合いを、救い難い人間の際涯なき闇を、推し
殺人事件に巻き込まれたのは被害者であれ、加害者であれ、第三者であれ、近隣縁者であれ、被雇用者であれ、通りすがりであれ――探偵であれ、誰も救われないんですから。
だと言うのに。
だからだと言うのに。
何も知らないくせに、何も分からないくせに、何も見当がつかないくせに、何も思い当たらないくせに、何も気づかないくせに、何も聞き及んでないくせに――何も知りもしないのに、何も分かりもしないのに。
探偵という奴はどうしてだか殺人事件に首を突っ込むんです、僕はそれが鼻持ちならないし、我慢ならない。
そんなもの話にならない。
僕は「探偵」を嫌悪します。
世の中には本人がそうしたくないのに、本人がそう望んでいないのに、不吉を孕んで、不穏を
高々正しい程度で――たかが全ての正答を得られると言うだけで、全てを掌握しているつもりにでもなってしまう「探偵」を。
お前なんかが何かを変えられると思っている「探偵」を――僕は嫌いなんです。
――えー、こほん。
盛大に話が脱線しましたね、とりあえず気持ちと話を戻します。
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