歩き慣れた道が全く違うものになったら戸惑うしかない。主観的距離が狂った世界で人間はどう生きるのか
「築五分、徒歩三年」「隣のコンビニまで150Km」そんなフィクショナルな誤字が本当だったとしたら? 思考実験の果てに生まれたのがこの無限の荒野砂漠であろうか。世間ではなに不自由なく享受している利便性から落とし穴に落ちるようにこぼれ落ちてしまうところにリアルな恐怖を感じる。この世界観に漂うユーモラスな毒っ気をもっと味わいたいと思った。
SFって他のジャンルよりも難解だったり、難解であるがゆえに説明が多くなったり文字数がかさんだりしがちなんですが、これは本格SFでありながら分かりやすいです。ゼロ距離の場所が実は離れているという発想、なかなか出てこないよなぁ……。構成も抜群に良かった。設定も、キャラクターも、セリフも、説明も全てが超一級の作品でした。読みやすくて本格的なSFを探している方にお勧めします。