紙とペンとトイレ介助

たつおか

紙とペンとトイレ介助


「ハル……その……終わったところを、拭いてちょうだい…‥‥」


 場所は地元の市立病院──エチカの病室でのことである。


 そもそもエチカ入院の理由は少し前の冬季林間学校にまで遡る。

 そこでのスキー修学中、おかしな転び方をしたエチカは両腕骨折などという失態を犯したのだ。


 その時にパートナーを組んでいたのがハルであり、一抹でもその責任を感じていたことから見舞いに赴くや──入室するなりエチカはハルへと排尿の介助を申し出たのであった。


 その唐突な申し出にハルも面食らったものの、見ればイモムシ然に前腕を丸々ギプスに包まれたエチカの両腕は指一本として露出していない。

 なるほどこれでは何もできないわけだと納得し、ハルは下半身を覆うシーツ越しにエチカの排尿を介助した。


 しかし問題はまだ残っていた。


──っていうか……アタシ、どうやってお尻拭くの!?


 そこのことにも気付いてエチカは愕然とする。


 排尿器が外に伸びた男子とは違い、女子は排泄後にそこを清拭しなければならない。

 そしてどうしたものか思いあぐねているうちに排尿が終わる。しばしそのままの状態ではいたがいつまでもこうはしていられない。


 エチカもまた覚悟を決めた。

 そして状況は、


「ハル……その……終わったところを、拭いてちょうだい…‥‥」


 今に繋がるという訳である。

 途切れ途切れに伝えてくるそれを受けて、ハルもまた不意を突かれては驚きに表情を呆けさせてはエチカを見返した。


「拭くって……股のこと? オシッコしたところ?」

「そ、そうよ。それ以外どこがあるって言うのよッ?」


 改めてハルの口からそれを告げられるとさらに恥ずかしさが込み上がった。

 しかしながらいつまでもこんな不毛のやり取りをしているわけにはいかない。恥ずかしいからこそ早く終わらせねばとエチカも先を促す。

 そして同時にこれの解決策も思いついていた。


「そこの小机の上にペンがあるでしょ……そこにティッシュの紙を巻き付けて」


 もちろん直に触れさせるつもりはない。今も説明した通り、ペンを使って間接的に清拭をさせようと思いついたのだった。


 それを受けて僅かに安心したような表情をハルも見せる。しかしながらその態度に、自分を汚らわしい物のように扱われたようで僅かに苛立ちを覚えるエチカ。


 かくして排尿の済んだ尿瓶をシーツの下からと出すや……


「うわぁ、温かい……それに真っ黄色……」

「なに見てんのよコンチキショー! 痛み止め飲んでるんだから仕方ないじゃない‼」


 ハルは尿瓶をベッドの下へと片付けて清拭の準備へと移った。

 言われた通りボールペンのクリップに束ねたティッシュ数枚を挟み込むと、それを回転しては捩じってとペンに巻き付けていく。

 そうしてティッシュの棒を作り出すや、再びハルはそれをシーツの下に差し込んだ。


「絶対に変なところ触らないでよね……拭く以外のことしたら蹴っとばすからね!」

「こんなことさせといて今さら何が『変なこと』だよ……」


 エチカの右脇につけたハルは手探りでティッシュペンを旋回させる。

 シーツ越しに着地点を想像しながらエチカの股間と思しき部分へ下降していくと、その切っ先が弾力の感触と共に着地したのが分かった。


 そこから左右に接地面をなぞらせて探るハルの手先に、こそばゆさを感じて息を震わせるエチカ。

 そうこう弄っていると、やがてペン先はストンと窪みへと落ち込んだ。

 その感触に「ここだ!」と確信してはティッシュペンで突き穿つハルの頭を、


「うひゃああああぁぁッ!? どアホ! ヘソよそこは‼」


 エチカのギプス越しのツッコミがハルの頭を直撃する。

『んぎゃあッ!』

 同時に痛みの声を発する二人。


「もうちょっと下だってば。ラインはそのままでいいから、そこからゆっくり下に行って」


 気を取り直してハルのティッシュペンが動き出すと、そのゆっくりと焦らすような動きにエチカも胸の奥が疼く感触に見舞われる。


──なんかドキドキする……


 すぐ目の前で真剣なまなざしでシーツ越しの局部を凝視している男子(ハル)の姿に、エチカは『羞恥』とはまたの別の感情もまた湧き出していることに気付く。


 一方でゆっくりと進んでいたハルのティッシュペンは、突然に平地から落ちて手応えを失った。

 その感覚にもしかし、そこが目指すべき到達点であることを知っていたハルはすぐさまそこの断崖へとペンの筒身を押し付ける。

 予想通りにティッシュペンが隆起の溝に埋まる感触にハルも安堵のため息をつく。


「今度は正解?」

「ん……うん。じゃあ上下に動かして」


 芸に成功した子犬のように期待の視線を投げかけてくるハルの微笑みに耐えかねてエチカも視軸をずらす。


 かくしてハルは清拭を開始する。デリケートな部分に触れていることの認識もあってか、ハルの動きはどこまでも小刻みで、そして優しかった。

 派手に接地面を擦りつけるような真似はせず、棒の表面積を大きく使って押し付けてくるそんな動きに……


──あ……なんか、変な感じ……


 エチカは別な感覚もまた胸の内に生じるのを感じていた。

 その矢先、


「こんなもんかな? エチカ、もう大丈夫?」


 ふいに掛けられるハルの言葉に両肩を跳ね上がらせる。

 しかし即座に、


「ま……まだよ。まだ拭き切れてないってば」


 エチカは反射的に行為の続行を指示する。

 今行われていることは恥ずべき行為であり、早急に済まさなければならないものであるにも関わず──エチカはさらにこれを続けてほしいを欲していた。


「もっと……もっと上下(うえした)に動かして。強くこすっていいから」

「そうなの? じゃあ痛かったら言ってね」


 一方でそんなエチカの変化に気付かないハルは健気にも奉仕の続行に頷く。 

 言うとおりにハルがティッシュペンを繰ると、今度は明らかに違った感覚がそこに生まれていた。


──な、なにこれ……ッ? 自分で拭いてた時にはこんなのならなかったのに……!


 ハルの動きへ呼応するように心音は高鳴り、さらには行為の行われている一点に感覚が集中していくのが分かる。

 未知のそれに僅かばかりの恐怖も覚えたが、むしろそれは更なる好奇心を湧きたてる呼び水──未知の感覚はさらにエチカを昂らせた。


「もっと……ハル、もっと押し付けて! 上の方にぐりぐりってして……!」

「……エチカ、大丈夫? なんか具合悪そうだよ?」

「大丈夫だから……! だから、もっと強くして……!」


 斯様に息を荒げながらの指示に不安を覚えつつもハルはペンの角度を変える。エチカの胸寄りに倒して角度を鋭くすると、ティッシュペンはスリットの上端部一点に接地を集中させる形となった。


「んひぃッ♡ ……あ、ああぁ……あぁッ!」


 今やそこにて感じる全ては、『快感』としてエチカの脳内を駆け巡っている。よりそれを強く貪ろうと、自ずから腰を浮き上がらせては好みの強さと角度を得ようと躍起になる。

 やがてその時が来た。


──なにこれ……おかしくなる……頭おかしくなっちゃう……!


 突き抜けるような高揚感への予感が胸の内に沸いた。そして期待するそれを得ようと、ハルの施しへ意識を集中させると、さらにエチカは感覚を研ぎ澄ませていく。


「ハル……ハルぅ……あぁ、ハル……!」


 そして肉体の高まりが頂点へと達した瞬間──


「はんぅぅ………ッ♡」


 エチカは一際強く身を硬直させた。

 隆起のなだらかな胸を仰け反らし、顎も突き上げては幾度となく痙攣すると──やがては脱力してベッドに沈み込む。


「……本当に大丈夫? トイレの時っていつもこうなの?」


 短距離を走り抜けたかのように小さく息を弾ませるエチカを尻目に、ハルもおずおずとシーツの中から手を抜く。

 摘み上げては目の前に晒したティッシュペンは、滴るほどに水分を吸収してすっかりやせ細っていた。


「拭けた……のかな? じゃあ、ズボン上げるよ」

「…………」


 再びシーツの中に両腕を差し込んでは元通りにズボンと下着を上げてくるハルを、事後のエチカはだた茫然と見守るばかり。

 やがて、


「……ハル、明日も来なさいよね」


 そう告げると、それに反応して顔を上げてくるハルに対してさらにエチカも続ける。


「そもそもアンタと組んでて怪我したんだから、アタシの世話をするのは当然よね」

「アレは調子乗ってバク宙なんかしようとしたエチカが悪いんだろ?」

「シャラップ! ……ともあれ、明日もまた来なさいってば」


 強引に制すると、明日もまたハルに会えることが嬉しくなってエチカには満面の笑みが浮かぶのだった。


「明日はもっとすごいんだから。……覚悟なさいよ♪」

「ウンコ?」

「だアホ!」


 再びエチカはギプスの右腕でハルの頭をどつく。

 そして再び、二人は互いの身に走る痛みへ身悶えるのであった。



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