「紙とペンとギャラクティカサイクロンデッドリーマグナムダイナミックディバイダープロミネンスクラッシュストームブレイクスプラッシュワイルドスマイルインスパイアヴォルテックスデヴァステイトメイルシュトロー

小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ

ムプラトニックラブミスティーレディーメタリックドーンセクシーダイナマイトアーヴァンククロークローゴールデンセレクションプラチナハートダイヤモンド

ウェディングラストダンサーカーテンコールグランドフィナーレバニシュデスフローズンコーッ!!」

 バイド師匠が大魔術の詠唱を終えた。が、それと同時にくずおれてしまった。

「バイド師匠! 大丈夫ですか!」

 師匠はご老体だ。こんな大魔術の詠唱に身体が耐えられるわけがない。酸欠不可避だ。いや、それどころか放っておけば命に関わる!

「今すぐ治癒の魔術を唱えます!」

「そんなもの後回しにせぬかインスルー! まずは結果だけを正確に伝えるんじゃ!」

 ご自身の命よりも結果を気にされるというのか。なんという……!

 俺はバイド師匠の心意気に敬意を表しながら、大魔術の結果をありのまま、正確に伝えた。

「報告いたします! 紙とペンとギャラクティカサイクロンデッドリーマグナムダイナミックディバイダープロミネンスクラッシュストームブレイクスプラッシュワイルドスマイルインスパイアヴォルテックスデヴァステイトメイルシュトロームスパークバニシングリッパースラッシュディメンジョンハイペリオンアローヘッドデルタレディラヴウェーブマスターモーニンググローリーエスコートタイムプリンスダムキングスマインドウォーヘッドサンデーストライクボマーラグナロックデリカテッセンディナーベルレオプリンシパリティーズドミニオンズワイズマンハッピーデイズスウィートメモリーズディザスターレポートストライダーステイヤースレイプニルシューティングスターモーニングスターグレースノートホットコンダクターコンサートマスターティアーズシャワーノーザンライツハクサンアサノガワケンロクエンミッドナイトアイアウルライトスウィートルナパワードサイレンスアンチェインドサイレンスアンドロマリウスアルバトロスフューチャーワールドピースメーカートロピカルエンジェルノーチェイサーエクリプスダイダロスワルキュリアガルーダソンゴクウカグヤダックビルキウイベリィスコープダックパウアーマーミスターヘリサイバーノヴァフロッグマンケイロンイアソンアスクレピオスアキレウスネオプトレモスヘラクレスヒュロスクロスザルビコンエキドナケルベロスハーデスカロンダンタリオンジギタリウスマッドフォレストアンフィビアンバイドシステムプラトニックラブミスティーレディーメタリックドーンセクシーダイナマイトアーヴァンククロークローゴールデンセレクションプラチナハートダイヤモンドウェディングラストダンサーカーテンコールグランドフィナーレバニシュデスフローズンコーは、成功しました!」

 言われたとおり、一字一句間違わず正式名で伝えた。これだけで五分ほどかかっただろうか。

 バイド師匠の生み出した大魔術。これは間違いなく成功と見ていいだろう。魔術の実験台として生け捕りにしておいたミノタウロスが、跡形もなく姿を消していたのだから。

「やりましたよバイド師匠! 紙とペンとギャラクティカサイクロンデッドリーマグナムダイナミックディバイダープロミネンスクラッシュストームブレイクスプラッシュワイルドスマイルインスパイアヴォルテックスデヴァステイトメイルシュトロームスパークバニシングリッパースラッシュディメンジョンハイペリオンアローヘッドデルタレディラヴウェーブマスターモーニンググローリーエスコートタイムプリンスダムキングスマインドウォーヘッドサンデーストライクボマーラグナロックデリカテッセンディナーベルレオプリンシパリティーズドミニオンズワイズマンハッピーデイズスウィートメモリーズディザスターレポートストライダーステイヤースレイプニルシューティングスターモーニングスターグレースノートホットコンダクターコンサートマスターティアーズシャワーノーザンライツハクサンアサノガワケンロクエンミッドナイトアイアウルライトスウィートルナパワードサイレンスアンチェインドサイレンスアンドロマリウスアルバトロスフューチャーワールドピースメーカートロピカルエンジェルノーチェイサーエクリプスダイダロスワルキュリアガルーダソンゴクウカグヤダックビルキウイベリィスコープダックパウアーマーミスターヘリサイバーノヴァフロッグマンケイロンイアソンアスクレピオスアキレウスネオプトレモスヘラクレスヒュロスクロスザルビコンエキドナケルベロスハーデスカロンダンタリオンジギタリウスマッドフォレストアンフィビアンバイドシステムプラトニックラブミスティーレディーメタリックドーンセクシーダイナマイトアーヴァンククロークローゴールデンセレクションプラチナハートダイヤモンドウェディングラストダンサーカーテンコールグランドフィナーレバニシュデスフローズンコーは素晴らしいです!」

 感極まり、大魔術の正式名を再び読み上げた。淀みなく間違えずに言えたことで優越感に満たされる。気が大きくなった俺は、さらにもう一度その名を叫んだ。

「紙とペンとギャラク(中略)ズンコーは最強なんだ!」

 バイド師匠の身体はすでに冷たくなっていた。




 師匠が非業の最期を遂げてから十年が経った。

 師匠亡き後も修行を重ねた俺は、例の大魔術を習得することに成功した。それは一度発動さえしてしまえばどんな敵だろうとこの世から消滅させられる、空前絶後にして驚天動地の大魔術だ。

 しかし、発動条件があまりに厳しいのだ。

 まず、そのあまりに長い魔術をすべて間違いなく唱えなければならない。それと同時に、特殊な魔術書に呪文の正式名をペンで記入する必要がある。無論、これも誤字脱字があれば失敗に終わってしまう。そのうえ有効範囲は著しく狭い。

 この十年、俺は高速詠唱の修行と筆記の勉強にいそしんだ。だがあれだけ長大で手間のかかる大魔術だ、発動までにはどうあがいても二分間は無防備を晒す必要があった。そしてその間、敵は見過ごしてくれるわけもない。

 だから実戦で使うのは不可能……と思われていた。

 しかし、この十年あらゆる可能性を試していた俺は、ついに弱点を克服する方法を見出したのだ。

 バイド師匠が遺してくれた大魔術。この力で世界平和を成し遂げてみせる!




「インスルーよお、緊張しねえのか? もうすぐ魔王とご対面なんだぜ?」

 俺はあらゆるツテを頼り、どうにか魔王討伐のパーティに混じることが出来た。

「ねえ貴方。いい加減喋ったら?」

 仲間の一人に促されるも、俺は無言を貫いた。

「チッ、まただんまりかよ。大魔術師バイド唯一の弟子と聞いて仲間にしてやったが、愛想の欠片もねえでやんの」

 俺はこのパーティーに属してから一度も言葉を発していない。戦いの場では無詠唱魔術のみで戦っている。おかげで仲間からの評判はすこぶる悪かった。しかし、それももう少しの辛抱だ。

「みんな! やつが、来るぞ……!」

 パーティーの大黒柱である勇者が警告を発した。

 ほどなくして現れたのは、この世の転覆を図る悪の存在。すなわち魔王だった。

「待ちくたびれたぞ、ニンゲンど」

 俺は魔王の前口上を完全無視し、一瞬で間合いに飛び込んだ。

「インスルーなにやってんだ!? 死にたいのか!」

 仲間の声すら気にせずに、俺は魔術書を開いた。そしてすぐさまペンで「残りの四文字」を記入した。

 その直後、俺は万感の思いを込めて叫んだ。

「ズゥゥゥウウウウウウウンコォォォオオオオオオオオ!」

 これこそが、俺が見出した解決策。

 呪文の長さが問題ならば、敵と戦う前にあらかじめ唱えておけばいい。だから俺は、このパーティに入る前に呪文の大部分を詠唱し終え、魔術書の記入も済ませた。この「仕込み」さえ終えていれば、あとは残りの数文字だけを記入しつつ詠唱すれば大魔術が発動するという寸法だ。おかげでパーティに所属している間は一言も喋れなかったが。

 しかしその苦労が実を結び、大魔術は成功した。魔王は驚く間もなく、その場から消え去ったのだ。

 やった、やったぞ! バイド師匠が遺してくれた大魔術で、世界は救われたんだ!

 パーティのみんなは最初、何が起こったのか分からない様子だったが、俺が「終わったよ、みんな」と声をかけるとようやく笑顔になった。

「おまえ、喋れたのか……? いやそんなことよりも! やったんだな! あの魔術で!」

「ああ。今まで無愛想な真似をしてすまなかった」

「いいさ、終わりよければすべてよしってことよ! にしてもすげえ魔術だったな。あのウンコォォオオオってやつ」

「いやウンコではない。正確には紙とペンと」

「本当、格好良かったよインスルー! あとあのウンコ魔術も!」

「いやだから、ウンコではなくって」

 俺が言い残しておいた四文字が「ズンコー」だったせいか、みな聞き間違えてしまったのか? ウンコウンコと連呼している。

「ばんざい! ウンコばんざい!」

 ……まあ、世界に平和が訪れたのならいいか。




 それから数百年の月日が経った。

 時代が変わり、国がいくつ滅びようとも、その英雄譚だけは色褪せることなく人々に脈々と伝わっていた。

 大魔術師インスルー。彼を知らない者は居ないだろう。

 何故なら、現代の子供たちはインスルーごっこを通じて大きくなるのが習わしとなっているからだ。

「食らええええ! ウンコー!」

「なんの! 俺もウンコー!」

 大魔術師バイドが生み出し、インスルーが実用にこぎつけた魔術も、今では喪われてしまった。

 残ったのは、あの四文字。

「ウンコー!」

 子供たちは今日も、インスルーの勇姿を頭に思い浮かべながらウンコウンコと叫ぶのだった。

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