紙とペンとで作るもの

鈴木怜

紙とペンとで作るもの

 気がついたら、ハゲが進行していた。

 自分だって信じたくはなかった。でもこればっかりは仕方ない。朝起きて顔を洗うと、そこには妙にのっぺりした頭があったのだ。

 これはちょっといけなかった。ステルスでハゲが進行していたのだから。これこそステルスハゲだ。

 しかし現実は無情なもので、一度気付いてみればもうそれが気になって気になって仕方がなくなる。どうすればいいのだろうか。

 一人で借りた部屋の中でのたうち回る。こんなことをするために借りたわけでもないのに、のたうち回る。

 とりあえず今日はフード被って外出することにしようか。そんなことを思いながら着替えようとする。

 しかしちょっと待て。それだけではいけないだろう。ただの問題の先送りにしかなっていない。ステルスで減った髪は明日起きてもステルスで帰ってきたりはしないのだ。もしかしたら明日は今日気付いたストレスでまた減っているかもしれない。ストレスハゲとはこのことか。

 困った。どうすればいいのだろうか。今この部屋にあるもので役に立ちそうなのはワカメと黒いマーカーペンくらいか。

 とりあえず鏡の前でワカメを頭に置いてみる。するとあら不思議、するすると髪の毛が生えてくる~なんてことはなく、ただただ頭にワカメが置いてあるだけの惨めな人間がそこにいた。むなしくなる。またストレスでハゲが進行しかねない。

 となると黒いペンか、と置いてみたはいいものの、さっきよりは幾分かマシになった間抜けな人間がそこにいた。マシなところは妙にてらてら光っていないことぐらいだが。訂正しよう。気持ち悪さではむしろ増しているかもしれない。

 しかしそこで髪の神はどうやら自分のことを見捨てなかったらしい。コピー用紙が目に入った。

 とっさに一枚めくってマーカーペンで塗りつぶす。それがちょうど終わったところで柵状に切り刻む。ついでに丸めて細巻きの寿司みたいな形状になるようにした。

 それらを繰り返して束にする。片方だけを輪ゴムで縛って即席ヅラを作ってみた。

 できたところでまず頭に付けてみる。鏡を覗いてみた。


「……リ〇ップ買うか」


 どうやら紙とペンとで作るものはまったくハゲには効かないらしい。冷静になれば当たり前だが急いでいたためかまったく気付かなかった。


 ☆☆☆☆☆


 翌日、朝起きてみて鏡を見てみると幸いなことに髪の毛が減っている様子は見受けられなかった。買い漁ったリ〇ップの効果が分かるようになるのはまだ先のようだとは分かっていても心は早く生えてこないか早く生えてこないかと早鐘を鳴らしている。

 はやる心を抑えていると、ごみ箱の中にある昨日作ったお手製のヅラが目に入った。あのときは最高の策だと思ったもののこうしてみると子供がお遊びで作ったようなおもちゃみたいで、どうしてこれが最高の策だと思ったのか昨日の自分に小一時間程問い詰めたい。

 今日の朝はワカメを使ってみようか。昨日の愚行を忘れたいのもあったので手早く料理を済ませようと台所に立った。

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紙とペンとで作るもの 鈴木怜 @Day_of_Pleasure

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