紙とペンとラテ
しゅりぐるま
紙とペンとカフェラテ
私の好きな飲み物はカフェラテ。これをお供にカフェでペンを走らせる。カフェにはいろんな人がいるから、私の観察眼が試される。本当はアジトのような所に行きたいけれど、少しお洒落なチェーン店の方が人が入れ替わり立ち替わりで人がたくさん訪れる。
私の仕事は多岐にわたる。ヨガインストラクター、会社でのアルバイト、そして”売れない”小説家。小説家は売れないどころか、一冊だって本を出したことなどない。ただなりたいから、そう名乗っているだけだ。
小説自体はノートパソコンを使って書いているが、アイディアをまとめるのはノートの方がやりやすい。私は散文を書いているうちに、次に書きたいもの、書きたい文章が浮かんでくるタイプなのだ。
私がこんな働き方をしだしたのは、10年間会社に勤めた末に、つくづく組織に属することに向いてない、と自分で思ったからだ。最初は自分は社会不適合者なのかと思い悩んだものだが、そんなことをウダウダ考えていたって仕方がない。合わないものは合わないと素直に認め、その上で何ができるか考えたほうがいい。そして一刻も早く出した自分の答えが現実になるように動くべきだ。
人は、誰かの役に立ちたい、誰かに認められたい。そう思いながら働いているだけで、自分を追い詰め簡単に精神を病むことができる。
私は、与えられた仕事に対して常にプラスアルファで返したいと考えている、ただの平社員だった。だからこそ、私の働き方は周りの環境次第で忙しくなったり、暇になったりした。私が変わらなくても周囲が変わるだけで、振り回され、酷使され、搾取され、次第に空っぽになっていった。
毎日のように悪夢を見た。そのうちに眠れなくなった。自分が病気だと気がついたのは、随分経ってからだった。長期間の休みをもらい、見つめ直している中で、組織に属する働き方に嫌気がさしたのだ。
組織に振り回されないよう主体的に働くようになればいい、人は簡単にそう言うが、人はそんなに簡単に変われるものじゃない。だったらいっそ、働き方を変えてみようと思った。
この時代の特徴でもあるのか、私の周りにも起業家が何人かいるが、私は人に使われることはもちろん、人を使うことにも向いていない。それに起業家なんて大層なものよりも、自営業の方が向いている気がした。
そして自分の好きなことを考えてみた。遠い昔に数回やってやめたヨガを思い出した。インストラクターになるよりもなによりも、まずはヨガを始めなければと調べてみたら、家の近くにヨガスタジオがあった。通いだした次の瞬間には、先生からインド行きを勧められ、そのスタジオの第二期生としてヨガインストラクターのライセンスをいただいたのだ。ここまでの流れには何か運命めいたものを感じてしまう。だがここから仕事にするのが大変で、まずはスタジオのアシスタントができるようにと、会社の雇用形態をアルバイトに変えてもらった。
話はすんなりと通り、17時で会社を終え、19時半からヨガレッスンをする毎日を送っている。そして休日には、こうして小説を書くのだ。
ヨガスタジオなんて、土日にやるものじゃないのかと思うかもしれないが、そんなの誰が決めたんだ。平日だけやっていたって、どうにかこうにか暮らしていけるものだ。
とにかく、もっと自由に生きていい。私は本気でそう思う。
そして、一発小説で当てることを夢見て、私は今日もカフェラテを頼み、行き交う人を眺めながら、ノートにペンを走らせる。
紙とペンとラテ しゅりぐるま @syuriguruma
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