紙とペンと願い事

余記

願い事が叶うノート

「きぃちゃん、これって、一体なぁに?」


僕のお誕生日に、と、きぃちゃんがプレゼントしてくれたのは、ペンと・・・

どう見ても、そこらへんのノートを破った、紙の切れ端だった。


「そ・・・それはね、そのペンで、お願いしたい事を書くと、叶うんだから。」

普段、つんつんしているきぃちゃんが、そんな事を言った。

気のせいか、顔が少し赤い。


「えー?どう見ても、その辺のノートを破った切れ端だよね?」

「そ・・・それはちょっと間に合わな、じゃなくて、デ○ノートだって、切れ端でも効果あったでしょ?

もともとあった、願い事の叶うノート一冊まるごとは貰ってこれなかったから、切れ端になっちゃったの。」

「ふーん?」



なんか、いちいち言っている事が胡散臭うさんくさい。



「じゃぁ、とりあえず・・・」

と、書こうとした時、いきなりきぃちゃんに止められた。

「だ・・・ダメ!それ、一回しか叶わないんだよ?」

「そうなんだ?」

「だから、よく考えて?ほんとうに願っている事を書いて欲しいの。」

「欲しいの?」

「うん。。。じゃなくて、よーっく考えて?これって、一生に一度のチャンスだと思わない?」



一生に一度かぁ・・・それじゃぁ


「5000兆円欲しい!と・・・」

「ばかぁ!」


書こうとしたら、突き飛ばされた。


「な・・・なにするんだよっ!」

「ばかばかばかっ!そんなにお金貰っても使いきれないでしょ!それに、せっかくだから、お金では買えないような願い事にしてよっ!」


なぜか、注文をつけられる。

見ると、少し涙ぐんでいるようにも見えた。


「うーん。確かに、5000兆円なんて使いきれないけど・・・でも、お金あったら安心だよね?」

「それでも、お金はダメなのっ!」


すごく納得がいかないが、次の願い事を書く事にした。


「それじゃぁ、給料のいい、大企業に就職出来ますようにっと。」

「ばかぁっ!」


ふたたびのダメ出し。

見ると、なぜか泣き出してしまっている。


「ばかばかっ!ほんとにばかっ!そんな大きい所だとお仕事大変でしょっ!」

「え?そっ、そうなの?」

「このあいだ、電○とか、お仕事忙しすぎて自殺しちゃった人もいたじゃない!

それに、お仕事忙しすぎて、け・・・結婚出来ない人もいるんだからねっ!」

「うーん。それじゃ、どういう願い事にしよっかなぁ。」



なんで、自分のお願いを紙に書くだけなのに彼女に止められるんだろうか?

僕は、途方に暮れて涙にまみれた彼女の顔を眺めていた。



すると、不意に答えが思い浮かんだのだ。


「それじゃぁ、こんな願い事はどうかな?」

と、彼女に言って、こんな言葉を書き込んだ。



きぃちゃんと恋人になりたいです。



***



十年経った今でも、あの時の事は語り草になっている。


「なんで、素直に言わなかったのさ?」

「あの頃は、そういうのが恥ずかしかったから・・・」

彼女の言う事によると、要するに子供だったらしい。



そんな事を話していると、今年、5歳になる娘の有希が、


びりっ!


と、そこにあったノートのページを破いて、とことこと外に歩いて行った。



え?



「ちょ、ちょっと有希!どこ行くのっ?!」

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紙とペンと願い事 余記 @yookee

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