◇第二百十九話◇
ガラッと職員室の扉を開けた瑞穂は、中の様子に愕然とした。
「何ですか、この騒ぎは」
何故か教師陣はわいわいと子どものようにはしゃいでいたのだ。
近くにいた誠に理由を聞くが、こちらはいつも通り欠伸をしながら、気だるげに答える。
「ん〜、よく分かんないんスけどねぇ。何か文化祭で出し物しないかーって話が校長から出たみたいっすよ」
「出し物って……。そんな暇無いんですが」
「そんなこと俺に言われても困るよ瑞穂ちゃん」
「だから……もー」
またもちゃん付けされ、はぁ、ともうただ呆れるしかない瑞穂を気にすることはなく、出し物かぁと小さく呟いた。
「というわけで、誰か良い案ある人いるー?」
教師の一人が案を求めると、口々に飛び交うあれやりたい、これやりたいの嵐。
当然纏められるわけがなく、頭を悩ませる教師たち。
「あーあ、収拾つかなくなってきたぞこれ〜」
「あの、仕事を……したいのですが……」
席までの道を塞がれ、どうにも身動きが取れない。
これはもう待つしかないと、誠と一緒に壁際で待機する。
「まぁ、これも立派なお仕事なんじゃない?生徒を楽しませるっていうさ。文化祭は楽しんでナンボよ」
「そう、ですかね。私は必要無いと思うんですが。文化祭自体」
「え〜!?冷めてるよ瑞穂ちゃん!生徒たちのあんな楽しそうな顔、他じゃ見れないよ!?」
「とか言って、どうせ堂々とサボれるって思ってるんでしょう」
「あ、分かっちゃいます?」
ハハッと笑う誠に、本当に何故この人が教師をやっているのか、不思議でしかたなくなる。
「白鳥先生は、教師になりたくてなったんですか?」
「え?何々、俺の事気になっちゃった〜?」
「茶化さないで下さい!」
何処をどう汲み取ったらそうなるのか抗議する。そんな瑞穂を横に、教師を目指し始めたきっかけは何だったか、などと思い出そうとする。
「最初は何だったかな。ただ数学が好きで、この世界の良さを誰かに知って欲しいって思ったんだったかな」
「へぇ、だから数学の教師に?」
「まぁ、それだけじゃ無いんだけどさ。多分俺は――」
そこまで言うと、教師たちに混ざって口論していた鳴海が二人の元に寄ってきた。
「こんな隅っこで話してないで、こっち来なよー!今やっと纏まり始めて来たんだから!」
「あ、はい」
言われるがまま、壁から数歩歩いたところで、先程の言葉の続きが気になり、何となく後ろを振り向いた。
「さっきの、何を言おうとしたんですか?」
「ちょっ、もー!瑞穂ちゃん俺に興味津々すぎ!」
「もう良いですってそのノリ!!」
改めて聞かれると、さすがの誠も少し照れ臭かったらしい。
数秒間を置いた後、頬をポリポリと掻きながら、らしくもない照れ顔で、しかしながら嬉しそうに答えた。
「いやさ、生徒って……超可愛い……と、思ってんだろうなって……」
そんな言葉に、不意にも可愛いと思ってしまった自分に驚く。
「し、白鳥先生……可愛いですね……」
「だあぁあ!!やめて本当!!見ないで下さい!!」
言った後、相当恥ずかしくなったのだろう。見えないように手で顔を覆う様子を見て、何だかんだ生徒が好きなんだな、と少し微笑んでしまった。
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