◇第二百二十話◇

そして着々と月日は流れていき、学校中が文化祭に向けて準備が進められていく。


「はーい、というわけで文化祭委員よろぴく〜」


「やる気ないなー」


そんなこんなで、文化祭委員によって話が進められていく。


「文化祭の出し物、何か案ある人ー!」


「メイド喫茶!!」


「お化け屋敷〜」


「カフェかなぁ」


「待って待って、順番によろしく!!」


黒板に言われた物を書いていくと、中々に膨大な量になった。


「よく分かんない物は全部排除!ヘアサロンって何これ!!出来るわけないでしょ!!」


「でも書いたんだ」


「流れで……」


そして順に消してくと、何とか纏められそうな量へと変わっていった。


生徒たちのやり取りを見ていると、「教師よりまともだ」と誠は心の中で呟いた。


そして結局、演劇に決定してしまったようだ。


「演劇……」


「何だ、雨夜主役やりたいのか?」


「逆だ。絶対にやりたくない」


「だろうな」


黙っていれば大丈夫だろうが、裏方だとしても面倒なものは面倒。出来ればサボりたい、と大きな溜め息を吐いたが、教室中が騒がしかったために薫以外には聞こえなかったようだ。


その後は勿論通常授業。この時期の生徒にとっては、文化祭準備が一番の救いだった。


そしてそれは軽音楽部の部室でも。


「んで、この曲とか良いんじゃねーかと思ってんだけど」


「ほうほう。難易度的にも良い感じスっね」


部員たちは司紗のスマホを取り囲み、良さげな曲を選んでいた。


「二人は何か無い?お気に入りの曲とか」


「俺は……あんま曲は聞かないんで分かんないです」


「わ、わた、私……は……。結構バラードとかが好きなので合わないかと……」


「えええ、良いよ良いよ!たまにはそういう曲も組み込んでいかないと!」


「うぅ……」


自分の趣味を他人に伝える、なんてことを今までしたことがなく、何だか照れ臭いような気がした。


「今日は鳴海っちも何か練習するって言ってたなぁ」


「鳴海センセーが?文化祭で何かやんのか?」


「さぁ?だとしたらマジ超面白そうだけどな!」


部活そっちのけでワイワイと文化祭の話で盛り上がる。

あまり実感が湧かない。文化祭といえば、ずっと蓮が隣にいたから。


ただ一度、去年の文化祭以外。


「文化祭……」


去年はどう過ごしていたか。確か、裏庭のベンチで時間まで一人読書をしていた気がする。と、過去を振り返る。


「稜くん?どうかしたんスか?」


「……いや、今年は忙しそうだなと」


「そりゃそうっスよ!なんたって二人は高校初めての文化祭!!盛大に楽しむっスよ!!」


相も変わらず喧しい先輩だ、なんて思ったことは黙っておくことにした。

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