◇第二百十八話◇

雪からの圧が強いおかげで、渋々教室の隅を箒で掃く。


「ったく、朝霧の方がよっぽど俺らに近い気がするぜ」


「朝霧……あぁ、隣のクラスの」


「学年一位のバケモンだよ。オマケに運動神経抜群、短所はあの阿呆な性格くらいじゃねーの?」


「紅槻くん、悪口は駄目だよ?」


「褒めてんだよ」


褒めているのか貶しているのか判別しにくいが、確かに体育祭のことを思い出しても同意せざるを得ない。


中間テストも期末テストも学年一位。それも、全教科満点で、だ。とても同じ人間だとは思えないが、話してみるとやはり人間なのだ。


「アンタも惜しかったな、二連続三位だろ?」


「そうですね。梅宮さんも毎回高得点ですし。尊敬します」


「……伝わってこねぇな」


全て同じ温度で言われると、本当なのかテキトーなのか判別出来ない。


雪がチリトリを床に付けると、サッサッと冬織はゴミを箒で掃く。

傍から見ても異様な組み合わせだなと、凪が心の中でワクワクしていたことは、本人以外誰も知らない。


「んじゃ、俺雨夜くんたちに合流してくるわー!」


「へいへい。行ってらー」


タタタッと駆け足で寄って行くと、軽く稜の肩をポンッと叩いた。


「ね、それ俺も手伝うよ。綺麗な雑巾持ってきたから!」


「お、意外な助っ人誕生だな」


「……俺は一人になりたいんだが」


何故減るどころか増えるのだろうか。それは学生なら避けられないことだから仕方ないのだが、こんなことなら通常授業にして欲しいと切に願う。


黒板の高さを調節し、一番下に下げる。


「結杞、意外と小さいんだな」


「おぅ……。男の子にそれはナンセンスだよ、梅宮さん……」


「あ、すまない」


隣に立つと、二人の身長は数センチ程度の違いしか無かった。


目線の高さがほぼほぼ一緒だからなのか、あまり高低差を感じない。


「そう思うと、雨夜は結構高いんだな。180あるのか?」


「いや、178だ。伸びてなければ」


「そんなあるの!?俺に少し分けてよ!」


「譲渡制度は無いから諦めろ」


懇願するようにしがみついてくる凪を払い除け、薫の後ろに逃げる。


「おい、私を盾にするなよ」


「そこにいたお前が悪い」


「何て理不尽なんだ……」


悲しそうな凪を気にする者はおらず、薫はただただ溜め息を漏らすことしか出来なかった。


そんなこんなで掃除の時間もあっという間に終わり、校舎はピカピカになっていた。


「いやぁ、どうにかなるもんだね〜。皆お疲れ〜」


ふにゃけている担任を気にする者もいなく、各々綺麗になった教室を満足そうに眺める。


「これが俺たちの教室……元がどんだけ汚かったか分かるな」


冬織の嘆きにクラス皆頷いた。

担任がこれでは、片付けられる物も片付ける気が起こらない。必然と言っても過言では無いだろう。

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