◇第二百十六話◇
教室に戻ると、相も変わらずぐでっとしながら、必須事項を確認した。
「夏休みの宿題、教科別にして此処持ってきて〜」
トントンと指で教卓を軽く叩く。言われた通り、各々の宿題を持って行く。
だが、やはり中には終わっていない者もいたようで、何一つ反省していないであろう素振りで、「すんませーん」と平謝りをする者も数名いた。
「んもー、ちゃんとやって来ないと後が面倒臭いじゃーん。俺が〜」
「先生がかよ」
思わず突っ込んでしまう生徒もいた。少しでも仕事時間を減らしたいのは高校生ながらに何となく分からなくもなかったが、やはり教師として大丈夫なのかと再度思ってしまう。
「とりあえず皆分集まったかなー。んじゃ、えーっと……あー、大掃除するから皆机と椅子後ろに下げて〜」
メモを見ながらシッシッと手で払う素振りをする。
大掃除、とはいっても、よく分からないことだらけである。
机の上に椅子を上げ、各々後ろに下げると、各自清掃用具入れからチリトリや箒、雑巾などを取り出してテキパキと働き始める。
中には例外もあるが、委員長の雪に冷たい口調であしらわれ、ピシッと働き始める者もしばしば。
「雨夜、一緒にやろうな」
「何でだよ。一人にさせてくれ」
「そう言うなって。掃除も案外、やってみると楽しいぞ?」
人にもよるだろ、と思いつつ、薫に言われるがままテキトーに動く。
とりあえず黒板消しで、黒板に残ったチョークの跡などを消し始める。
「こうやって近くで見ると、案外汚れてるものだな」
「別にこのままでも良い気もするがな。文字が読めれば支障無いだろ」
ブツクサと文句を言っていると、後ろから誠が話しかけてきた。
「そうなんだけどさー、やっぱ何でも綺麗な方が良いじゃん?それに定期的にやっとかないとほら、汚れ溜まっちゃうし」
「そう言うなら先生も何かやって下さい」
「えー、それは面倒臭いかな〜」
何なんだよ、と口に出しそうになったが、すんでで止める。何もしないならせめて教室から出て欲しいとはさすがに言えない。
「あ、その顔『コイツ邪魔だからどっか行って欲しい』って思ってるね?」
「……そこまでは思ってないです」
「ほぼ当たってるって事じゃん」
否定は出来ない。しかし、確かに一人だけ何もしないというのは些か浮いてしまう。面倒臭くはあるが、仕方なく仕事を探すことにした。
すると案外簡単に見つかるもので、女生徒が窓の上の方を拭こうとしても手が届かないらしく、助っ人しに行く。
「皆ちっちゃくて可愛いね〜、牛乳飲んでも身長は伸びないよ?」
「馬鹿にすんなよ!!」
その女生徒の隣にいた、男子生徒も手が届かなかったらしく、馬鹿にされて抗議する。
「あー、でもさすがの俺もこの上の窓には届きそうも無いなぁ」
上の方を見上げながら眉を顰める。確かに誠は高身長ではあるが、一番上の窓はほとんど天井と同じ高さ。これが届く人物は中々いない。
「届く範囲でも良いんじゃないっすか?」
「んま、それもそうだね〜。肩車したら怒られそうだし」
万が一倒れでもしたら大惨事である。
給料が増えるわけでもあるまいし、大掃除、という名の授業時間をテキトーに窓掃除で潰すことにしたようだ。
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