◇第二百十五話◇
「夏休み明けだからって気ぃ抜いてんじゃないぞ〜」
教室に響くのは、気だるげな声。何とも説得力に欠ける言葉にガクッと生徒たちは転けかける。
「先生がやる気無くてどうすんすか……」
「あるって、あるある。…………帰りたいなぁ」
「心の声、漏れてますけど」
教師に夏休みなんて無いはずなのだが、誠は終始溜息を吐く。
教卓に突っ伏しながら夏休み明け用のプリントを手に持つが、配ることすら面倒臭いのか、顔も上げずに廊下側に座っている稜に向けてプリントを差し出した。
「雨夜〜……配って〜……」
まるで子どものような仕草に、最早何も言えない。
仕方なく受け取り、いつも通りプリントを回していく。心做しか、前よりもやる気が削がれている気がする。
「せんせー、配り終わりましたー」
窓側の一番後ろの席に座っている生徒がそう声を上げると、のそのそと起き上がったかと思えば、教卓にほとんど全体重を預ける形でこの後の予定を話し始めた。
「んーと……?あー、体育館集合だって。皆廊下出て〜」
中々従い辛い指示通り、三組の生徒たちは廊下に出る。
これが教師で本当に大丈夫なのかと問いたくなるが、慣れてきたのか呆れつつもいつも通りだな、と納得するようになり始めた。
そして体育館に着き、興味の無い校長の長話が延々と続いた。
体育館の壁際には教師が並んでおり、勿論その中には誠もいたのだが、眠そうにウトウトしたかと思えば、大きな欠伸をしたりと、忙しそうである。
「ちょっと白鳥先生、そういった事は謹んでください……!!」
「あらぁ、瑞穂ちゃん先生はいつも真面目ですね〜」
「その呼び方はやめて下さい……。というか、白鳥先生が不真面目過ぎるんですよ……」
ヒソヒソと小さな声で言い合う。主に一方的ではあったが。
そんな二人のやり取りを見て、笑いを堪えているのは鳴海だった。
「まこっちゃんはこういう時、見ててハラハラするよねぇ」
「本当ですよ……。教師たるもの、もっと真面目にですね」
「えー?俺もしかして説教されんの?拒否しまーす」
「あのねぇ……」
仲が悪いわけでは無いのだが、真面目な瑞穂と不真面目な誠はとてつもなく相性が悪いのだろう。
いつまで経っても分かり合えることは無さそうだ。
そうこうしているうちに、いつの間にか校長の話が終わっていたようで、何故か生徒に混ざって伸びをした。
「全く……。まるで子どもみたいですね……」
「お、若いってことですか」
「全然違いますけど」
何を言っても自分の都合のいい方にばかり持って行かれ、もう何も言わないのが一番良いのではと思い始めた。
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