◇第二百九話◇
「……あのさ」
「ん?」
トントン、と包丁で野菜を切っていた手を止め、蓮の方へ振り向くと、少し言い辛そうに口を開く。
「もし、もしだよ?友だちだと思ってた子に告白されたら、蓮兄どうする?」
「はぁ?」
突拍子も無い問いに困惑することしか出来ない。
友人に告白されたら、なんてそんなの考えたこともなかった。
「稜に告られたらー?んー……駄目だ、照れちゃうわ。後稜の照れ顔とか気になるから全然アリかも」
「うっわ……。そこですぐ稜くんの名前出る辺りマジでキモい……」
「お前が聞いたんだろうが!!何で引いてんだよ!!」
理不尽過ぎるだろと文句を言ってはみたものの、何だか妹の様子がおかしい。
再び野菜を切り始める姿を見て、数秒の間を置き、段々と汗が出始めてきた。
「ちょ、あの、俺部屋戻るから出来たら呼んで」
「え?う、うん。分かった」
そう伝えると、足早に自分の部屋へと入り、LIMEの通話ボタンを押した。
数回のコール音が鳴った後、出たのはさっき話題に挙がっていた稜である。
『何なんだ、今忙しいんだが』
不服そうな声はいつも通り。気にする余裕なんて無い蓮は、焦りながら何とか思ってることを言葉にしようと頑張った。
「あ、あのな、あのな、桜がヤバいかもしんない……!変なこと聞いてきたんだよさっき……!」
『変なこと?』
あまり興味無さそうな声色だったが、蓮にとってはそれどころじゃなかった。
焦りに焦る脳を取り敢えず落ち着けながら、簡潔に伝えようと試みる。
「もし友だちだと思ってた奴に告られたらどうするって聞いてきてよ……まぁ、俺は稜に告られたら断らないから安心してくれ」
『意味分かんねーし有り得ないから大丈夫だ。んで、それがどうしたんだ』
事情を知っている稜からすれば、何か二人に進展があったのだろうとすぐ見当が付いたが、蓮はまだ何も知らない。
いきなりそんな可能性を突き付けられて、冷静でいられる方が珍しい。
「茅鶴って子、いただろ?花火大会の日桜と一緒にいた」
『……あぁ、いたな』
「その子の家に今日行ってきたらしいんだけど、帰って来て早々そんな質問してくるかって思って……。大好きなアニメも全然観てねぇし」
仲直りしてきたのならもっと楽しそうにするはずだ。そんな様子は一ミリも無い上、変な質問をしてきたわけだから、心配しないわけがない。
『それは一大事だな』
「だろ!?」
『アニメはリアタイで観るのが一番面白いのに勿体ない。すぐ説得しろ』
「この話の重点はアニメじゃねぇから!!」
ここでオタクを発揮するなと言いたくなる口を寸でで止める。
いつもコイツはこうだったなと、呆れたように肩を竦めた。
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