◇第二百八話◇
空は変わらず青く染っている。しかし、スマホの画面を付けると、六時を優に超えていた。
「ただいまー……」
やってしまった。してはいけないことをしてしまった。
そんな罪悪感で押し潰されそうになりながらも、悟られないようにいつも通りを装う。
「おけーり、お前の好きなアニメ始まってんぞー」
「えっ、うそ!」
そういえば、今日は楽しみにしていたアニメの放送日。そんなこと、いつもなら絶対に忘れない。
(色々考えてたからな……)
頭がキャパオーバーを起こしてしまったのだろう。取り敢えずゆっくり休むべきだと判断し、リビングのソファに横になった。
「ね、今月の生活費って幾ら入ってたの?」
ゴロゴロとしながら、蓮に質問を投げかける。
この家の両親は共働きで、今はどちらも海外出張中。
一応二人の姉は大学生であるため、両親から家のことを任されてはいたのだが、自分がいなくても家事は出来るからとほとんど家に帰ってくることは無かった。
「今月は確か……二十万ちょいくらいだったかなー」
「ホント!?じゃあ漫画買ってよ漫画!」
「駄目に決まってんだろ!!後半分以上八月残ってんだから!!」
えー、と駄々をこねる妹に喝を入れる。一人分ならまだしも、三人で一ヶ月二十万は少し心許なくはある。
蓮は成長期の高校生ということもあり、食事の量もそこそこ多い。漫画なんて買ってしまったら、月末までに餓死してしまう未来しか見えない。
「つーか、姉貴も人任せで困るわー。ずっと彼氏の家に入り浸ってんだろ?ちょっとくらい手伝えっつーの」
「蓮兄、料理下手だもんね」
「んなことねぇだろ!?もうふりかけご飯作ってやんねーぞ!!」
「いいよ、そんくらい自分で出来るし」
「うぐっ……」
失敗せずに出来る範囲は、カップ麺かご飯に乗せる系のみである。
前に作ったおにぎりは、形も歪で水分も多く、そして塩と砂糖を間違えるという、料理下手なら誰もが通るであろう失敗を重ねに重ね、姉妹からは「体壊しそう」とまで言われた地獄のような物が出来上がった。
「作っておいたやつももう無くなるだろうし、何か作るよ。カレーで良い?一週間カレーにしよ」
「面倒なだけだろオイ……」
別に文句を言うつもりは無いが、七日続けてはさすがに飽きるだろう。文句を言うつもりは無いのだが。
自分では料理なんて出来ないため、仕方なく桜の案に賛成する。
唐揚げ食いてーな、などと思いながら、料理をする桜の後ろ姿を見る。
「……桜、そういえばどうだった?友だちと仲直り出来たのか?」
気になったことを口にすると、桜はピクッと肩を震わせる。
気のせいであれば良いのだが、どこか様子がおかしいような気がした。
大好きなアニメも横目に料理を始めて、いつもと変わらないように見える中にどこか気まずそうな雰囲気を纏う。
何かあったんじゃないかと心配になってしまう。余計に拗れてなければ良いのだが、なんて少し兄らしいことも思ってみたりした。
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