◇第二百五話◇
時の流れはとても速い。いつの間にか夏休みは中盤を迎えていた。
「蓮兄」
「んー」
「ねぇ蓮兄ってば!!!」
「何だよ耳元で!!叫ばないでくれます!?!?」
本日も平和な朝霧家に、妹の怒声が響き渡る。
鼓膜が破けたのではないかという心配で耳を抑える蓮であったが、どうやら大丈夫そうだった。
「もー、どうしよー!!茅鶴から連絡帰って来ないー!!」
「あー。旅行でも行ってんじゃね?それか嫌われたか」
「なんて残酷なこと言うの!?蓮兄こそ稜くんに嫌われちゃえば良いのに!!」
「待て待て待て冗談で言って良いことと悪いことがあるだろ!?」
わーぎゃーと何の需要も無い言い争いを繰り広げる。結局喧嘩両成敗ということで、仕方なく相談に乗ってあげることにした。
「それでねー?この間ウチに遊びに来たでしょー?何かあったとしたら多分あの時だと思うんだよねぇ」
「ひでぇこと言ったんじゃねーの?」
「言ってないよ!!……多分」
「自信ねぇのかよ」
はぁ、と一つ溜め息を吐き出した。
この人に相談した自分が馬鹿だったかもしれないと、妹は項垂れる。
「あーあー、日頃から稜くんに貶されてる蓮兄じゃ頼りになるわけ無いよねぇ」
「おーいアイツはツンデレなだけなのー」
「アンタが言うと気持ち悪いよ」
うぅっと鳥肌を立てる。そんな様子にまたわーわーと反論されるが、このままじゃ埒が明かないと喧しい兄を放って茅鶴の家へ向かうことに決めた。
そこまで遠くないため、いつの間にか家の目の前に着いていた。
ピンポンとチャイムを鳴らし、数秒待ってから出たのは茅鶴の声だった。
『はい……』
心做しか声に元気が無い。
「あ、茅鶴?私、桜だけど」
『……桜?』
今度は少し嬉しそうな声。なのに、その中には戸惑いも感じられた。
少し待ってガチャりと扉が開かれると、まだ寝巻きのままの茅鶴が出てきた。
「今日、私しかいないけど……」
「あ、ごめん。LIMEの既読付かなかったから心配で。ちょっと話さない?」
「……うん、ちょっとなら」
そのままリビングへと案内される。
「麦茶しか無いけど良い?」
「ありがと、大丈夫」
ストンとソファに座る。
茅鶴の匂いが家中から感じられた。落ち着く匂いだ。
テーブルの上には、二人分の麦茶と簡単なお菓子が並べられた。
桜の隣に腰をかける。どこか緊張しているようだった。
「茅鶴、私のこと避けてた?」
「……そんなことないよ」
「あったよね、だっていつもはもっと返信速かったもん」
「ないって」
頑なに否定し続ける茅鶴に、桜はムッと頬を膨らませる。
「じゃあ何で無視したの?面倒臭かったんじゃないの?私のこと嫌いになっちゃったんじゃないの?」
こんな言い方、もっと面倒臭いと思われるに決まってる。分かってはいても、聞かずにはいられなかった。
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