◇第百九十七話◇
「ん?」
学校の校門前まで来てみると、丁度そこから項垂れた女生徒が出てきたところだった。
「春!今帰りか?」
「あっ、薫?と、桜ちゃん!」
意外な組み合わせに驚きつつ、友人の顔を見て少し元気が戻ったのか、いつもの笑顔を取り戻したようだ。
「聞いてよー、補講テスト全然点数上がらない!!先生も諦めちゃって、今日は自習しろって帰らされたよ!!」
「はは、春にとっては苦行だろうな。六十点以上が合格点だったか?」
「そう!答え渡されて、問題文がちょっと変わったり順番が入れ替わったりしててもう分かんない!!嫌がらせ!?だって馬鹿なんだもん!!」
相当溜まっていたのだろう、いつもより数倍饒舌である。
このままではいつまで経っても合格する気がしない。もしかしたら、夏休みが終わるまで……いや、終わってからも受からないのではないか、そんな不安が春を襲っていた。
「春ちゃん、赤点取っちゃったんだ」
「ご覧下さい、こちらが反面教師です」
「やめて!!掌向けて紹介しないで!!」
嫌がる春を気にすることはなく、まるで観光バスのアナウンスのように薫はオーバーキルを続ける。
壁に手を付きながらガックリと肩を落とす春の背中を、そっと撫でてあげる桜。そんな可愛らしい姿に、春の心は癒されたようだった。
「うう、桜ちゃんやざじい……」
「甘やかすんじゃないぞ。とことん厳しくしてやらないと勉強しないからな」
「す、するよ!?するつもりだもん!!十中八九!!」
「残りの一、二も持ってこい」
これは一人にしたらやらないだろう。そんな気がした。
スーパーへ行く予定ではあったが、自業自得とはいえ補講を頑張ってきた春を放っておくのも可哀想だと思い、息抜きにでも誘ってみるかと思い至る。
「これから私のバイト先のスーパーへ行く予定なんだが、気晴らしに一緒に来るか?」
「え、良いの!?」
先程までわんわか喚いていたというのに、急に目を輝かせた。
余程補講が苦痛だったのだろう。
「春ちゃんも来てくれるの!?」
「まぁ、このまま勉強だけ続けてても効率悪いしな。少しは良いだろう」
「「やったー!!」」
万歳と両手を勢いよく上げて喜ぶ桜と一緒にはしゃぐ春。
脳内年齢は同じなのかもしれない。
学校からスーパーまでは徒歩で約十分ほど。とても近く、帰りに少し寄っていく学生も少なくなかった。
薰にとっては何の新鮮味も無い、何なら商品の場所もほとんど覚えているスーパー。夏休みだからか、普段の数倍人がごった返していた。
「わー、何かの祭りみたい!」
普通のスーパーで何故かテンションを上げる二人。そんな彼女らのことは、何歩譲っても理解出来なかった。
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