◇第百九十六話◇
そしてあっという間に日は傾き、気付いた時にはすっかり夕暮れになってしまっていた。
「おっと、話しすぎてしまったな。そろそろ帰るか」
「あ、うん!ごちそーさまです!」
「気にするな気にするな。この間給料日だったからな」
と言いながら、レジへと向かう後ろ姿は、何だか大人に見えた。
(薫ちゃん、働いてるんだ。偉いな……)
まだ中学生の自分には真似出来ない生活に、羨ましくなった。
自分も早く大人になりたい。そんな漠然としたことを思っていた間に、会計が済まされていた。
店の外に出ると、昼間と比べて少しだけ涼しくなっていた。
「……ねぇ、薫ちゃんは何で働こうと思ったの?まだ高一だよね?」
「ん?あー、まぁ色々あってな」
「色々?」
財布を鞄の中にしまうと、少し遅れて「色々だ」と答えた。
何だかはぐらされた気もするが、話したくない理由があるのだろう。何となくそんな気がした。
「早く一人暮らしがしたくて。……それと」
そこまで話すと、数秒言葉を詰まらせた。
催促するつもりは無い。薫が話を続けるまで、静かに待った。
「あまり、家にいたくないから……かな」
「え?帰りたくないってこと?」
「まぁ、そうなるな」
自分に全く興味を示さない両親。娘を道具としてしか見ていない両親。出来る限り、顔も見たくなかった。
「バイトは良いぞ。夜中まで帰らなくて済む。金も稼げる。これぞ一石二鳥!ハッハッハ」
「い、一石二鳥?っていうかお姉ちゃん、もっとクールな人かと思ってたよ」
「ん?クールだろう?」
「いや全然」
初めて会った時は、立ち姿さえも格好良く見えたのに。いざ話してみると、やはり類は友を呼ぶのだなと一人納得してしまった。
帰り道を辿りながら、先程の話の続きをする。
「薫ちゃんって何のバイトしてるの?裏方?接客?あ、頭も良いんだっけ」
「接客だ。普通のスーパー。ほら、あそこの……
頭の中で周辺の土地を地図化させ、情報を整理しながら場所の説明をする。
赤帝高校とは、青京学園とご近所の学校であった。
そして、桜も同じように高校の周りの地形を思い浮かべ、その特徴に合うスーパーの外観を思い出した。
「あ!あそこ!私もたまに行く!けど、最近寄り道の規制厳しくて行けてないんだよねぇ……」
「中学の方が厳しいらしいな。こっちは自由だぞ?ま、私は極力校則は守ってるがな。バイト以外」
「いーなー。あ、じゃあこれから行っちゃおうかな。薫ちゃんも行こーよ!」
「え、私もか?バイト先に休みの日顔出すの、結構勇気いるんだぞ……」
「大丈夫!私もいるもん!」
そんなこんなで来た道を引き返し、休みだというのに半ば強制的にバイト先へ行くことになってしまった。
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