◇第百九十四話◇

気がついた頃には喫茶店の扉を開けていたのである。


「いらっしゃいませー」


カランカランという、心地よい鈴の音を鳴らせながら店内へと入る。


中は自分たちと同じ夏休み中の学生で賑わっており、丁度昼時ということもあってか、他にも会社員たちが座っていたりと、パッと見で席が空いているかどうかも判別が難しいほど混んでいた。


だが運良く、一つだけ二人席が空いていたようで、店員に案内して貰うと、軽い飲み物と、スイーツを注文した。


桜はパンケーキ、薫はいちごパフェと、中々可愛らしい食べ物を選んだようだ。


待っている中、他愛のない話で盛り上がっていたが、桜には一つ気になることがあった。


「てかさ、お姉ちゃん。私には桜ってちゃんとした名前があるの!朝霧妹じゃないの!」


そう、薫が桜を、毎回「朝霧妹」と呼ぶことに不満を抱いていたのだ。


「あぁ、悪い。分かりやすいかと思っていたんだが。これからは桜と呼ぶことにするな」


「よし!」


やっと自分の名前を呼んでくれたことに半ばはしゃぐ。

そんな彼女に、次は薫が提案をした。


「それじゃ、私のことも名前で呼んでくれないか?」


「え?」


そういえば、とここまでの会話を思い返す。

ひょっとすると、まだ薫のことを名前どころか愛称ですら呼んでいなかったのではないか?と気付いた。


「薫、お姉ちゃん?」


少し悩んだ挙句、これが一番呼びやすいのではないか、という思いで呼んでみる。


「お姉ちゃんじゃなくても良いぞ?そうだなー……」


と、もう一つ何かが足りない様子の薫の言葉をただ黙って待った。


二、三秒ほど間を空け、パチンと指を鳴らすと、自信ありげにこう告げる。


「私と桜は友だちだ」


友人を呼ぶ時と同じようにしてみろ、と付け加える。

この、人類皆友人というぶっ飛び星人にとっては、面識が無いなど関係が無いようだ。


ポカンと内容を理解するのに少し時間を有したらしい桜は、また口を開けた。


「友だち、かぁ。……じゃあ、薫ちゃんって呼んでも良い?」


さすがに生意気だろうか。と心配になりつつも、薫の様子を伺う。

すると、それだ!とでも言いそうな勢いでパンッと手を叩いた。


「良いな!何だか友だちっぽいぞ!」


嬉々として桜の案に乗っかった。


喜んで貰えて良かった、という思いの中で、桜は今更ながら重大なことに気付いてしまった。

目の前の彼女が変人だという事を。


「薫ちゃん、よく変わってるって言われない?」


「ん?んー、言われるな!自分では分からないが、私は個性的なのだろうか」


「う、うん……。結構変わり者かもね……」


ははは、と乾いた笑いを浮かべる。


兄も大概だが、薫も相当だな。と、桜はふと「類は友を呼ぶ」という言葉を思い出したのであった。

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