◇第百九十二話◇

そして回想は終わり現在。

何だか気まずい空気が流れている。


「あーははは……。ま、四科目頑張れよ!寝んなよ!」


「寝る気しかしないよ……。何で皆そんなに点数取れるの……?あんな科目多いのに何で……?皆が凄過ぎるだけで、私は普通なんじゃない……?」


「おい、焦点が合ってないぞ」


何処を見ているのか分からない。目の前で手を振ってみせるが、それに全く反応することは無かった。


「あははは……馬鹿ですよー、仕方ないじゃないですか……馬鹿なんだからー……はははー……」


「駄目だ。もう見捨てるしか無い」


「慈悲も何もねーな!!」


フラフラと教室の方へ向かって行く彼女の背中を、心配そうに見送る蓮。


曲がり角を曲がるまで見ていたが、壁にぶつかったり、廊下にある椅子に足を引っ掛けて転んだりと散々だった。


「だ、大丈夫か月野の奴……」


「少なくとも校内にいる限りは死にはしないだろうな」


「帰り道で車に轢かれたらどうしよ……誰か一緒にいてあげられないかな……」


「まぁ無理だな」


諦めろと言わんばかりに肩を落とす。

とはいえ、あの状態で再試をクリア出来るのか甚だ疑問である。


一方、その頃桜は、目的など無くフラフラと町を歩いていた。


「あっ」


顔を上げると、いつの間にか青京学園の前に来ていたようだった。


「おー、朝霧妹じゃないか!」


「え?」


自分の名前を呼ぶ声に驚き振り向くと、フェンス越しに見えたのは水着姿の女生徒だった。


「えーっと……」


誰か分からず頭を傾げると、その女生徒は察したらしく、ポンッと手を叩く。


「あぁ、これじゃ分からないよな」


水泳帽を外し、髪を結んでいたゴムを外してみせた。

その姿でやっと見覚えのある人物だと確信した。


「あっ!蓮兄の友だちの人!」


一度花火大会の日に見たことのある顔だと分かり、安心したのか近くに駆け寄った。


「ははは、まだ名乗ってなかったな。私は梅宮薫だ。こう見えて結構頭良いんだぞ?」


「へー!蓮兄より頭良いの?」


「うっ……。アイツは規格外過ぎる……」


「ま、だよねー」


兄を越えられるわけが無い。とでも言いたそうに胸を張る。


アイツがいる限り、一生自分は一位など無理だろうと知ってしまった。だが、もう絶望感などは全くない。


「朝霧妹の兄は、選ばれた人間なんだな」


「選ばれた、人間?そうなの?」


「あぁ。自慢の家族がいて、羨ましいぞ?」


「そっか!やっぱ凄いんだ、蓮兄って!」


えへへ、と嬉しそうに頬を赤らめる。

こんな妹がいたら、愛おしくて堪らないだろう。


何となく、自分に兄妹がいたらこんな感じだったのだろうか、などと考えてしまった。

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